記事分析を少し

3/28付共同通信(47NEWS版)なんですが、魚拓をチェックすると初版と改訂版があるのが確認されます。魚拓取得時刻でみると、

三訂版として写真が入ったものもありますが、textベースでは同じなので省略します。この初版と改訂版の違いを対照表にしてみると、

初版 改訂版
炉心溶融を震災当日予測 応急措置まで半日も 炉心溶融を震災当日予測 応急措置まで半日も
 経済産業省原子力安全・保安院が、震災当日の11日夜、東京電力福島第1原発事故に関して、3時間以内の「炉心溶融」を予測していたことが27日、分かった。また翌12日未明には放射性ヨウ素や高いレベルの放射線を検出、原子炉の圧力を低下させる応急措置をとる方針が決まったが、実現するまでに半日も要した。政府文書や複数の政府当局者の話で判明した。  経済産業省原子力安全・保安院が、震災当日の11日夜、東京電力福島第1原発事故に関して、3時間以内の「炉心溶融」を予測していたことが27日、分かった。また翌12日未明には放射性ヨウ素や高いレベルの放射線を検出、原子炉の圧力を低下させる応急措置をとる方針が決まったが、実現するまでに半日も要した。政府文書や複数の政府当局者の話で判明した。
 溶融の前段である「炉心損傷」を示すヨウ素検出で、政府内専門家の間では危機感が高まり、応急措置の即時実施が迫られる局面だった。

 しかし菅直人首相は12日早朝、原子力安全委員会の班目春樹委員長と予定通り現地を視察。政府与党内からは、溶融の兆候が表れた非常時の視察敢行で、応急措置の実施を含めた政策決定に遅れが生じたとの見方も出ている。初動判断のミスで事態深刻化を招いた可能性があり、首相と班目氏の責任が問われそうだ。
 政府原子力災害対策本部の文書によると、保安院は11日午後10時に「福島第1(原発)2号機の今後のプラント状況の評価結果」を策定。炉内への注水機能停止で50分後に「炉心露出」が起き、12日午前0時50分には炉心溶融である「燃料溶融」に至るとの予測を示し、午前3時20分には放射性物質を含んだ蒸気を排出する応急措置「ベント」を行うとしている。  政府原子力災害対策本部の文書によると、保安院は11日午後10時に「福島第1(原発)2号機の今後のプラント状況の評価結果」を策定。炉内への注水機能停止で50分後に「炉心露出」が起き、12日午前0時50分には炉心溶融である「燃料溶融」に至るとの予測を示し、午前3時20分には放射性物質を含んだ蒸気を排出する応急措置「ベント」を行うとしている。
 保安院当局者は「最悪の事態を予測したもの」としている。評価結果は11日午後10時半、首相に説明されていた。


 この後、2号機の原子炉圧力容器内の水位が安定したが、12日午前1時前には1号機の原子炉格納容器内の圧力が異常上昇。4時ごろには1号機の中央制御室で150マイクロシーベルトガンマ線、5時ごろには原発正門付近でヨウ素も検出された。


 事態悪化を受け、東電幹部と班目氏らが協議し、1、2号機の炉内圧力を下げるため、ベントの必要性を確認、4時には保安院に実施を相談した。また菅首相は5時44分、原発の半径10キロ圏内からの退避を指示した。


 だが東電がベント実施を政府に通報したのは、首相の視察終了後の8時半で、作業着手は9時4分。排出には二つの弁を開く必要があるが、備え付けの空気圧縮ボンベの不調で一つが開かなかった上、代替用の空気圧縮機の調達に約4時間を費やし、排出が行われたのは午後2時半だった。
 保安院当局者は「最悪の事態を予測したもの」としている。評価結果は11日午後10時半、首相に説明されていた。


 この後、2号機の原子炉圧力容器内の水位が安定したが、12日午前1時前には1号機の原子炉格納容器内の圧力が異常上昇。4時ごろには1号機の中央制御室で150マイクロシーベルトガンマ線、5時ごろには原発正門付近でヨウ素も検出された。


 事態悪化を受け、東電幹部と班目氏らが協議し、1、2号機の炉内圧力を下げるため、ベントの必要性を確認、4時には保安院に実施を相談した。また菅首相は5時44分、原発の半径10キロ圏内からの退避を指示した。


 だが東電がベント実施を政府に通報したのは、首相の視察終了後の8時半で、作業着手は9時4分。排出には二つの弁を開く必要があるが、備え付けの空気圧縮ボンベの不調で一つが開かなかった上、代替用の空気圧縮機の調達に約4時間を費やし、排出が行われたのは午後2時半だった。
 与党関係者は「首相の視察でベント実施の手続きが遅れた」と言明。政府当局者は「ベントで現場の首相を被ばくさせられない」との判断が働き、現場作業にも影響が出たとの見方を示した。


 政府に近い専門家は「時間的ロスが大きい」とし、ベントの遅れが海水注入の遅延も招いたと解説。1号機では排出開始から約1時間後、水素爆発で同機建屋の外壁が吹き飛んだ。


この話は福島原発問題の初期にネットで話題になり、それなりに騒がれたものです。今日のところはこの話が本当かどうかは置いておきます。理由は単純でこの記事を確認するソースが見つからないからです。

並べてみると判りやすいのですが、初版はほぼ事実関係のみを記事にしています。妙に時刻が詳しいので、なんらかの資料を参考にしながら記事にしたと考えられます。なんらかの文書と言っても記事には明示されているのですが、

3/29時点で確認してみると首相官邸災害対策ページ平成23年(2011年)福島第一・第二原子力発電所事故についてとして公表されています。また経済産業省原子力安全・保安院にも様々な情報が公開されてはいます。しかし記事にあるような情報は見当りません。何らかの未公開資料に基いて記事が書かかれた資料記事と見れます。

改訂版に加筆された部分は主に関係者取材に基づくものと見れます。2ヵ所の加筆部分があるのですが、このうち後半部分が関係者取材に基づくもので、前半部分は変則なんですが、初版の資料記事と関係者取材からの結論部分と解釈するのが妥当だと考えます。

もう少し細かくみるとソース元は記事に、

    政府文書や複数の政府当局者の話
このうち政府文書はこれがネタ元のように思えます。では複数の政府当局者は誰かになりますが、初版段階では改訂版にある「与党関係者」とか「政府に近い専門家」は登場していないので、こう考えても必ずしも間違いでないと思われます。そうなると共同通信の取材は二段階で行われていたと考えられそうです。まず3/27の段階で複数の政府当局者(保安院関係者)から未公開資料(政府原子力災害対策本部の文書)の提供を受けて書かれたのが初版分です。一方でこの資料に基いての追加取材ないし補充取材を行ったグループがあり、これが改訂版で加筆されたと思われます。

期待していなかったのですが魚拓を見るとタイムスタンプの更新がありました。

    初版・・・02:02
    改訂版・・・08:08
初版から6時間後に加筆が行われている事が確認できます。


ネット記事なので新たな情報が入れば改訂しても差し支えないのですが、後から見れば改訂版が出来るまで記事にするのは待っても良かったような気がしないでもありません。シチュエーションとして追加取材組の取材が遅れたために、先行して資料記事のみ先に掲載し、遅れて作成された追加取材組の記事を挿入しただけとの解釈はもちろん可能です。それが6時間の差であると言う事です。

この辺は入手した未公開資料が共同通信にのみもたらされたものなのか、それとも他の報道機関にももたらされているのか確信が持てず、他社に抜かれない様にとりあえず資料記事を先行させたのは十分考えられる事です。そう考えてもとくに不自然ではありません。

ここももう少し考えると、初版時に改訂版の前半の加筆部を加えていたものが既に出来上がっていた可能性はあります。ここで後半の加筆部である「与党関係者」「政府に近い専門家」のコメント入手が遅れたために、初版時点ではあえて見送ったのはありえそうな内容です。もう一つの可能性として、初版時点で改訂版も出来上がっており、なんらかの追加確認のためにまず初版を掲載し、方針が決定したために改訂版に差し替えたもありえるかもしれません。

読めばわかるように、改訂版の加筆部分により記事の性質は大きく変わっています。初版では政府の「なんとなく不手際」を示唆しているだけですが、改訂版では明瞭な批判になっています。なんとなく「与党関係者」なり「政府に近い専門家」のコメントで政府の不手際を確信したストーリーが妥当そうな気がしますが、ちょっと面白いところでした。


全然関係ない事をこれを書きながら感じていたのですが、記事はラクで良いなと思ってしまいました。もし私がこういう未公開資料の類を入手し、エントリーに書こうと思えば、未公開資料や関係者のコメントの実在の信憑性を確保するのにかなりの工夫が必要になります。私がそういう資料を持っていると言っても、それだけではなかなか信用してもらえないからです。

実物がどんなものかによるのですが、記事の実在の証明のために未公開資料そのものを公開する工夫を重ねたと思います。未公開資料を公開する意味は、資料の実在の証明と、資料から恣意的に引用していない証明の二つの意味があります。もちろん引用個所を選ぶ時点で、私の恣意は必ず入るのですが、原資料を確認してもらう事で、私の考え方を理解してもらい、また元の資料から違う見解の議論を期待する意味も期待してです。

どうも政府のその後の対応を見ると、共同通信がソースに使った未公開資料は実在すると考えられそうです。官房長官首相はもちろん共同記事の批判を否定しています。ここでおかしいのはソースになっている未公開資料を共同通信も政府も公開しないことです。未公開の資料を間において、「そうである」「いや違う」の議論は歯がゆいところがあります。

ネット記事だから差し替えは問題ないとしましたが、もう一方でネット記事は字数の制約からも解放される特長があるはずです。「そうである」「いや違う」の議論の前に、未公開資料をまず公表するのが必要な気が私はしています。共同記事以上の情報がないので「わからない」訳ですから、その他の部分を公表して判定を委ねる手法論はあっても良さそうなものです。

今のところ官房副長官も「機密漏洩だ!」と騒いでおられないようですから、公開しても差し支えないようにも思うのですが、実在する未公開資料の解釈を論議するのも、なかなか面白いところのように感じました。