経団連の提案

4/21付タブロイド紙(Yahoo !版)より、

<節電>消防法や労基法、柔軟に 経団連規制緩和要望案

 今夏に予想される東日本の電力不足に対応するため、日本経団連は20日、企業の節電を後押しするために必要な規制緩和の要望案をまとめた。自家発電や勤務の夜間シフトをしやすくするための規制緩和が軸。来週初めにも公表し、月末に政府がまとめる今夏の電力需給総合対策に反映させたい考えだ。

 電力不足でガソリンなどを燃料とする自家発電の利用が増えれば、大気汚染などの規制に抵触する可能性がある。このため経団連は、ばい煙の排出規制を定めた大気汚染防止法や、一定量以上の自家発電用燃料を貯蔵する際に市町村長の許可を必要とする消防法の一時的な緩和を要請する。敷地内に自家発電設備を新増設する場合などに備え、敷地面積の一定以上の緑地を求める工場立地法の緩和も求める。

 また、工場などの稼働を電力消費の多い昼間から夜間にシフトさせるため、夜間の割増賃金を抑えるなど労働基準法の弾力化を求める。昼間の水力発電所の稼働率を高めるため、河川法を緩和して河川からの取水を機動的に実施できるようにすることも盛り込む。いずれも今夏限定の時限措置との位置づけだ。

 経団連は会員企業や業界団体に対して、自主的な節電対策とともに、節電対策を進めるうえで必要になる規制緩和案を募集していた。【宮崎泰宏】

経団連の提案の根拠は、夏の停電防止対策であるのは言うまでもありません。この記事からは2つの具体的な要望を行っており、

  1. 自家発電装置に対する規制緩和
  2. 労基法に対する規制緩和
自家発電装置に対しては、
  1. 自家発電装置の長時間稼動により生じる、ばい煙の排出規制を定めた大気汚染防止法の緩和
  2. 自家発電用の燃料の貯蔵に関する消防法の緩和
  3. 自家発電装置新説に関する工場立地法の緩和
これらは夏季に備えて自家発電装置の稼動による節電を行うなら、これらの規制を一時的に緩和しないと有効な節電にはつながらないとしているかと思われます。自家発電については、経団連がどれほどの発電量を見込んでいるのかが記事だけではよくわからないのと、燃料の貯蔵に対して、どれぐらいの規模と設備を望んでいるのかが不明なので保留とさせて頂きます。


労基法については、まず4月13付経団連「本年夏の電力需給対策に関する懇談会」夏期の電力需給対策の骨格としてを引用しますが、

(1)東京電力の今夏の需給バランス

  1. 東京電力の供給力は、震災直後に約3,100万kWまで低下した後、3月末には 3,600万kW程度まで回復。今後、発電所の追加的な復旧及び定期検査からの復帰等により供給力は徐々に増加。現時点では、需要のピークを迎える夏までには、4,500万kW前後の供給力を見込む。
  2. 今夏のピーク時需要は、節電意識の浸透等により減尐が見込まれるものの、現時点では、最大ピークとして約5,500万kWを想定。(昨年夏は、気温が著しく高かったこともあり、最大ピークは約6,000万kW)
  3. この先当分の間、計画停電が発動される可能性は低くなっているが、夏には需給ギャップは再び拡大。現時点での需給見通しでは、最大ピーク時に1,000万kW程度、昨年並みのピーク(約6,000万kW)を想定した場合には1,500万kW程度の供給力不足の恐れ。

要点は

  1. 今夏の東電の最大供給電力は4500万キロワットを想定
  2. 電力需要として5500万キロワットを想定
  3. ちなみに昨夏は6000万キロワットであった
差し引きで1000万キロワットがピーク時に不足する予測に対する対応策です。具体的なイメージは、経団連資料の夏期の電力需給対策についてにあり、
青線が昨年度実績で、緑線が端境期(昨年5月)の実績です。イメージを見れば判る様に、昼間の操業を夜間・早朝にシフトできるものはシフトしようの案です。イメージを良く見て欲しいのですが、
  1. 6000万キロワット想定なら、午後11時から午前9時にシフトが必要
  2. 5000万キロワット想定なら、午後9時から午前10時にシフトが必要
唐突に5000万キロワット想定が出ているのですが、これはその他の節電対策により夏のピーク時の需要を5500万キロワットから5000万キロワットに抑制出来る事をある程度前提にしていると考えられます。電力供給に余力のある夜間に操業シフトさせると言うのは、経営者側にすれば生産能力を落とさずに節電に協力できるメリットがあります。

従業員の方にしてみれば、夏の間、昼夜逆転の生活が強いられるのでお気の毒ですが、節電対策として考慮に入れるのはアリとは思います。実際は共働きの方ならどうなるとか、サマータイムと較べても比較にならない生理的影響があったりしますから、実現までに紆余曲折はあるでしょうが、提案したり考慮するのまではとりあえずヨシとしておきます。


さてなんですが非常に気になるのは、

    夜間の割増賃金を抑えるなど労働基準法の弾力化を求める
ここがちょっと引っかかります。最初は夜間に操業時間をシフトするがために、労働時間のすべてに割増賃金が発生するからの緩和の要求かと思いましたが、良く考えれば変形労働時間制を導入すれば、労務安全情報センターより、

1ヵ月単位の変形労働時間制を採用しているが、どこからが時間外労働となるか

  • 1ヵ月単位の変形労働時間制の時間外労働となる時間はつぎのとおりである。


    • 1日8時間を超え、かつ就業規則で定めた時間を超えた時間
    • 1日8時間を超えていないが、1週40時間を超え、かつ就業規則で定めた時間を超えた時間
    • 1日8時間、1週40時間を超えていないが、法定労働時間の総枠(31日の月は177.1時間、30日の月は171.4時間)を超えた時間


  • 逆にいえば、1日8時間、1週40時間を超えておらず、かつ法定労働時間の総枠内の時間が、法定内労働時間である。
  • なお、1ヵ月単位の変形労働時間制で、変形期間が週単位でない場合の1週間は『暦週』でみることとし、変形期間をまたがる週についてはそれぞれ分けて、40×(端日数÷7)でみるのが原則。ただし、事業場で週の起算日を変形期間の開始日からとらえると定めている場合は、変形期間の最後の端日数については40×(端日数÷7)でみることも差し支えない。(労働省労働基準局編著「労働基準法」上巻)

いろいろ書いてありますが、要は賃金は通常通りで良いと言う事になります(うぅ、法務業の末席様が怖い)。そうなれば経団連が要求する「夜間の割増賃金」とは何かになりますが、夜間シフトにした時の時間外手当の扱いであると考えるのが妥当です。私はてっきり残業をさせれば即夜間割増につながる点を経団連は緩和を求めたものと思ったのですが、よく考えれば、そんな単純なものではないようです。


深夜割増の対象時間は、時刻としては午後10時から午前5時(場合によっては午後11時から午前6時)です。経団連の5000万キロワットのモデルタイムからすると、午後9時頃からの操業にシフトになるはずです。そうなれば午後9時から仕事が始まり、休憩1時間を挟んで8時間働けば午前6時になり、残業が発生しても深夜割増と無関係です。

そうなると、経団連が考えている夜間シフトは完全シフトではなく、変則シフトを考えている可能性が強くなります。つまり昼間の午前10時から夜9時までの何時間かをカットし、その分を早朝なり、夜間にシフトする対策です。通常は午前9時から午後6時ぐらいまでが就業時間になります(8時間労働+休憩1時間)。この時間帯は電力需要抑制タイムになります。根こそぎ昼夜逆転で移動するのも一法ですが、このうち何時間かを早朝ないし、深夜にシフトしたいのではないかと考えます。

ここも変則シフトも早朝にシフトして、終業時刻を繰り上げれば深夜割増に関係ない時間に残業タイムに入ります。しかし早朝シフトだけなら、3時間程度繰り上げても、終業時刻は午後3時ぐらいになり、ピーク時の電力抑制に効果的とは言えません。そうなると、もっと大胆なカットによる勤務時間のシフトが必要になります。つまり午後の3時間とか、午後の5時間を根こそぎ夜間にシフトするような状態です。


先ほど完全シフトであっても昼夜逆転で従業員は辛そうとしましたが、変則シフトはさらに辛そうに思います。変則シフトを行う会社は、もともと日勤体制の従業員しかいません。勤務時間が分割されても、分割された両方の時間帯に出勤しなければならなくなります。あくまでも仮定ですが、午前と深夜に2分割されたら、

時刻 勤務状態
午前9時 午前の部が始業
午前12時 午前の部が終業
9時間の空き時間
午後9時 深夜の部が始業
午前2時 深夜の部が終業


かなり厳しいスケジュールです。なおかつ深夜の部の夜間割増の負担の心配を真剣に経営者サイドはしていますから、なかなかのスケジュールになります。さすがに午後の5時間をシフトするのは大変なので、午後を2時間半程度で2分割すればどうかです。これもまたなかなか大変で、

時刻 勤務状態
午前9時 午前の部が始業
午前12時 午前の部が終業
3時間30分の空き時間
午後3時30分 午後の部が始業
午後6時 午後の部が終業
3時間の空き時間
午後9時 深夜の部が始業
午後11時 深夜の部が終業


これも無理があります。もっとまじめに考えないといけないのですが、就業時間を午前4時間、午後4時間として考えてみます。そうなると始業が8時に繰り上がるのですが、そういう仮定です。節電のために午前の部か、午後の部を夜間にシフトしたとすれば、

時刻 午前がシフトした場合 午後がシフトした場合
午前8時 午前の部始業
午前12時 午前の部終業
午後1時 午後の部始業 9時間の空き時間
午後4時 午後の部終業
5時間の空き時間
午後9時 深夜の部始業 深夜の部始業
午前1時 深夜の部終業 深夜の部終業


これも相当辛そうです。何が辛いといって、まず職住がよほど近ければ、勤務時間以外は自宅で休養を取る事も可能ですが、そうでなければ深夜の部までの空き時間をどうやって使うかが大問題になります。もう一つ、深夜の部が終業した後の通勤の足です。これも経団連の要請で電車やバスの終日運行をしてもらうのでしょうか。なんとなく「後はご随意に♪」となりそうな気がしないでもありません。

無理にこんな変則シフトを組むよりも、素直に完全に夜間シフトを組んだほうが、深夜割増や、交通の便を考慮する必要がなくなりそうにも思います。また従業員の健康管理の面からしても、昼夜逆転シフトの方が変則シフトよりマシそうに思えます。もっとも完全と変則のどっちがマシかは業種や事業所で変わるでしょうから、経団連も選択枝として設定しようとしているだけかもしれません。



ここまで昨日の段階で書いていたのですが、4/20付共同通信(47NEWS版)より、

 東京電力の藤本孝副社長は20日、共同通信のインタビューに応じ、夏の電力供給力を最大5500万キロワット程度に引き上げることを目指す意向を表明した。企業の自家発電の余剰電力購入や揚水発電所の稼働率向上を目指し、東日本大震災で被災した福島県広野町広野火力発電所(最大380万キロワット)の一部復旧も急ぐ。

 震災や福島第1原発事故で電力供給力が落ち込んだ東電は、7〜9月の供給計画を最大5200万キロワットとしている。東電は今夏の電力需要を5500万キロワットと想定しており、引き上げが実現すれば、夏の電力不足は緩和する見通し。

展開としてちょっとだけ面白いのは、あくまでも記事情報を信じるとしてですが、

日付 動き
4/13 経団連は夏の電力供給を4500万キロワットとし、電力需要を5000万キロワットと想定した節電対策を発表
4/15 東電が4650万キロワットから5200万キロワットへ1割強、上方修正したと発表
4/20 東電が5200万キロワットから5500万キロワットにさらに上方修正と発表
経団連がシフト操業のための時間外手当の深夜割増の抑制を要望を公表


夏季の節電対策が重要なのは言うまでもありませんが、色んな思惑もまたあるようです。経団連も政府並みかそれ以上で、東電情報を精度高く入手可能とも考えられますからね。