厚労省のパンフレット

厚労省東日本大震災関連情報(水道・食品関係)の中に、

    妊娠中の女性や育児中の母親向けに放射線への心配に答えるパンフレットを作成しました
これが少し話題になっているようですが、パンフレット作成に対する報道発表から紹介しておきます。

 厚生労働省では、今回の福島第一原子力発電所事故を受け、放射線の影響に関して妊娠中の女性や育児中の母親が持つような不安に答えるためのパンフレットを作成しました。

 水、空気、食べものの安全について、現時点でお伝えしたいことをまとめており、誰にでも理解しやすいことを前提に、イラストも交え平易な言葉遣いとシンプルな表現を心がけています。

 本パンフレットは、関東地方を主たるエリアとして、妊婦健診を行う医療機関母子手帳の交付窓口、お子さんの通う幼稚園、保育所、協力をいただける子ども用品販売店などを通じて、4月中旬から順次配布します。また、厚生労働省のホームページからもダウンロードして閲覧、印刷が可能です。

福島原発問題は、言ったら悪いですが日替わりメニューの様に様々な情報が国から発信され、発信された情報に関する分析情報や関連情報が雲霞の如く湧き出ている現状があると感じています。原発問題で前に情報整理をやろうとして見事に挫折した事があります。あまりにも多様な情報が、様々な思惑も込められて乱舞している状態では手の付けようがなかったからです。

そういう状況で国が「信頼できる」「正しい情報」を提供するのは良い事です。ただし、不安心理が強い状況ですから内容は吟味する必要があります。最低限、パンフレットで不安を増幅させてはならないと言うことです。パンフレットは全部で8ページもあるのですが、文字量は大した事無いので逐次紹介してみます。

まず表紙部分ですが、

妊娠中の方、小さなお子さんをもったお母さんの放射線へのご心配にお答えします。~水と空気と食べものの安心のために~

水に関しては国からの情報の影響で、関西からもミネラル・ウォーターの類が瞬時に枯渇したのを覚えています。続いて「はじめに」です。

 福島第一原子力発電所の事故をきっかけとした、様々なニュースを見聞して、みなさん放射能について、心配されているでしょう。

 なかでも、妊娠中の方や、小さなお子さんをもつお母さんは、とても不安な思いをお持ちでしょう。

 国は、国民のみなさんの健康を考えた安全な基準をもうけて対応しています。

 このパンフレットでは、みなさんが気にかけている「水」や「空気」や「食べもの」の安全について、現時点でみなさんにお伝えしたいことをわかりやすくまとめたものです。

 日々の暮らしの安心のため、どうかお役立てください。

ここは原発事故による「放射能」が「水」「空気」「食べもの」に与える影響、とくに妊婦や子どもに対する厚労省の見解を述べると宣言してると解釈しても悪くなさそうです。次から本文になるのですが、基本的にはQ&A方式になっています。ですからそれに沿って編集し直してみます。

Q A
第1章:「胎児」や「赤ちゃん」への影響について
現在、妊娠していて、毎日がとても不安です。 避難指示や屋内待選指示が出ているエリア外で放射線がおなかの中の赤ちゃんに影響をおよぼすことは、まず、考えられません。また、国や自治体から指示がない限りは、妊娠中だからという理由で特別な対処が必要、ということはありません。生まれてくる赤ちゃんのためにも、ご自身のためにも、過度なご心配はなさらず、いつもどおりの健康管理につとめてください。
赤ちゃんの、食べものや飲みものが心配です。 水道水や、お店にならぶ食べものは「影響を受けやすい乳児がロにしても安全であること」考えた基準によって管理されています。赤ちゃんはもちろん、小さなお子さんに対しても特別なご心配はいりません。母乳への影響も同様です。母乳育児には、赤ちゃんの栄養面などで多くの利点がありますので、母乳を飲ませていた方は、今までどおり、飲ませてあげてください。
第2章:「水道水」について
水道水は、本当に安全なの? 日本の水道水は、影響を受けやすい乳児でも安心して飲めるよう、安全を考えて管理されています。国や自治体から指示がない限り、水道水は、妊娠中の方や授乳中の方、小さなお子さんにとって安全です。飲み水としてはもちろん、お風呂や洗濯、食器洗いなどにも安心してお使いください。
第3章:「空気」について
子どもを、外で遊ばせても大丈夫なの? 避難指示や屋内待避指示が出ている地域以外でこれまでに認められた放射線量は、わずかな値です。お子さんを外で遊ばせることについて、心配しすぎる必要はありません。お子さんにとっては、外で遊べないことは、ストレスにもつながります。
雨については、心配ないですか? 雨についても、心配しすぎる必要はありません。自然界にもともと存在する放射線量より高い数値が雨水の中から検出されるとともありますが、傘をさす、雨ガッパを羽織るなどいつもどおりに対応してください。
第4章:「食べもの」について
野菜や牛乳などの食べものは、安全なの? 食べものに含まれる放射性物質については安全のための規制が行われています。この規制に基いた検査が行われ、結果が公表されています。規制値を上回った食べものは、お店にならぶことのないよう、国や自治体が対応しています。お店にならんでいる商品は、いつも通り買っていただいて大丈夫です。万が一、規制値を上回った食べものをロにしてしまったからといって、健康への影響が出ることはありません。


なるほどなんですが、これに補足説明が続きます。

  • 放射性物質とは


      放射性物質」とは、放射線を出す物質です。もともと身のまわりのどこにでもあり、少ない量ならば、放射線を受けても体への影響はありません。もちろん、たくさんの量の放射線を受けてしまうと、病気になる可能性も出てきます。


  • 「ベクレル」、「シーベルト」とは


      「ベクレル(Bq)」は、食べものに付いていたり、水などに入っている放射性物質が『放射線」を出す能力を表す単位です。「シーベルト(SV)」は、『放射線』を受けたときの人体への影響を表す単位です。

ここは報道で頻繁に使われるベクレル、シーベルトの用語説明です。最後は「おわりに」に当たる部分と考えますが、

原子力発電所の状況については、政府から、今後もきめ細かく情報をお伝えしていきます。状況によっては、健康に関する必要な情報も、改めてお伝えいたします。

ここは「健康に関する必要な情報」も「状況によって」「改めて」ではなく「きめ細かく」伝えて頂きたいところです。なぜなら最後の補足部分に、

このパンフレットは、平成23年4月1日時点の情報や考え方をもとに作成しています。状況に変化があった場合は、適切にお知らせいたしますので、報道などの情報にもご注意ください。

国やお住まいの自治体から指示があった場合には、その指示にしたがってください。

事態はまだまだ流動的な部分がある事を認められていますから、「健康に関する必要な情報」も「きめ細かく」とした方が、表現として適切なような気がします。



このパンフレットののポイントをあえて挙げると、

  1. 国が指示している避難地域や屋内退避指示が出ているところ以外は心配御無用
  2. 水も、食品も。空気も国が規制値を作り管理しているから心配御無用
これは安全と安心の話になるような気がします。パンフの目的は原発問題(放射能問題)に対する不安心理への対策です。ごく簡単に言えば、「そんなに心配しなくて良いよ♪」とPRしているものです。そしてパンフの論法は非常に単純には「安全だから安心である」の組み立てになっています。

この安全と安心ですが、似た言葉ですがちょっとニュアンスが違う言葉になります。安全は理屈(理)による説明として良いでしょう。理の理解はそれぞれであっても、理屈の上では安全と頭で理解する作業と考えています。安心は感情(情)による受容としても良いと考えています。これは感覚的でも構いませんが、「とにかく大丈夫」と納得する作業の様に考えます。

一概には言えませんが、私ならまず理で納得し、納得した上で情で受容する行程を取ります。ではその逆があるかと言えば、無いとは言えませんが案外少ない様に思います。情から入るという人も、まず理での納得作業が先に行われると思っています。情からの人は理での納得の比重が少ないだけで、順番としてはまず理の様な気がします。

情が主体の人であっても、わからないなりにもっともらしい理に納得し、それから情の受容に移行するのが殆んどで、理を完全に素っ飛ばして情のみで受容してから理を考える、もしくは理を無視する人はそんなに多くないと考えています。これは私の勝手な思い込みかもしれませんが、それでもまず理から入る人が多いのだけは間違いないと思っています。

厚労省パンフの理は、「国が基準を定め、管理している」です。一般的に悪い理とは必ずしも言えませんが、今回の問題に対しては十分かと言われると、少々物足りない様に感じます。放射能問題は先入観として非常に怖ろしいと感じている人が少なくなく、さらにベクレルやシーベルトの話に代表される様に、怖がってる割には知識が乏しい分野です。

国の基準値が本当に正しいかどうかの議論はあえて避けますが、知見が乏しい分野の話を信用するには、基準設定者の信頼が大きく左右すると考えています。信頼と言う意味では基準設定者が国と言うのは申し分が無いと言えば、そう言えますが、現在の状況では国であってさえ十分とは言い難いところがありそうに感じています。

国自体の信頼の話もあえて置いておきますが、とりあえず現時点では基準値(規制値)の実感が乏しいというのがあります。放射能問題への恐怖感は強いですから、基準値があったとしても、基準値内であれば安全かどうかの実感とか、基準値を超えるとどういう影響がでるのかの実感が乏しいとしても良いかと覆います。

放射能の場合、すこしでも被曝したらとか、被曝が積み重なったらどうなるかの恐怖感情が拭いがたくあります。また厚労省パンフの対象は、妊婦や子どもの安心ですが、妊婦や子どもは成人に較べて「弱そうだ」の直感的感情も大きくあると考えています。そういうモロモロの不安感情を安全と言う理で納得させるには、少々説明不足のような気がしてなりません。難しいのはわかりますが、もうちょっとその辺に対して安全を納得させる説明を加えるべきだと感じます。


パンフの構成は安全の理を当然の前提として、安心の情にひたすら訴えかける組み立てになっていると思います。ただ個人的には安全の理に不安が残るために、残りの情に訴える部分が虚しく聞こえる様に思えてなりません。安全の理に不安を覚えたものは、本当に安全かの追加情報を求めにかかると思われます。ところが厚労省パンフの安全の理を否定する情報はテンコモリ転がっています。

前にも書きましたが、不安心理の強い状態では、往々にしてその時の不安心理にマッチした情報に同調しやすい傾向が現れます。ごく簡単には厚労省パンフの安全の理は、やはり怪しそうだに傾きやすいと言う事です。傾きだすと、「国が決めてるから安全」以上の説明が無いことに不安心理を増幅させる事になりかねません。


もっともなんですが、放射能問題の難しさは、これだけ怖いことが喧伝されているにも関らず、一方で「よくわからない」と言うのが現実の部分としてあります。とくに長期被曝の将来的な影響については、おそらく確定的な事を断言できる人間は少ないとも考えています。ちょっとだけ調べた事もあるのですが、線形モデル(これもよく理解していませんが・・・)の解釈一つで、推測値は大きく変わってしまうほどの代物であると言う事です。

つまり国の基準値といえども、放射能被害モデルの推測計算の前提が少し違えば、必ずしも安全とは言い切れないは容易に成立し、そこから「ましてや妊婦や小児は・・・」の主張が、容易には否定しきれない根拠で出てくる状態にあります。容易に否定しきれないは、ある理論・根拠で否定しても、本当はどうなるかの確証を誰も手にしていないところがあるからです。

そういう面から見ると、厚労省パンフで安全の理について極力説明を端折ったのは、下手に説明を詳しくすれば、説明に対する反論が渦巻く危険性を配慮したものだと理解できない事はありません。ただ端折りすぎたがために、当然のように「これでは安全が納得できない」の異論は当然の様に噴き出します。安全が納得できないのに、どうして安心できるのかの主張です。


半分は水掛け論的な部分があります。よくわからないものであっても、現在の状況では基準を作らざるを得ませんし、よくわからないが故に基準値の設定、また基準値からの実際の運用に異論は出続けます。こういう時に安心部門の担当者にはなりたくないですねぇ。不安心理が落ち着くためには、とにもかくにも原発問題が終息させ、人の噂も75日を待つぐらいが本音では有効とは考えてはいます。

原発からの放射能流出が止まり鎮静状態になれば、自然にベクトルが国の基準を重視する方向に向うとは思っています。逆に断続的に放射能流出が続く間は、「本当に大丈夫か?」の不安心理のために、どんなに工夫をしても袋叩きにされそうに思ってしまいます。