取材同意書は面白そうな

NZ地震報道を受けてのrisyu様のコメントです。

各種業界に説明義務を義務づけて、医療界にとどまらず、不動産だの金融だの何かをしようとするとその度に書類を書かされたり、ハンコをつかされたり、長々と説明を聞かされ、やっと本題に入れる時代になってます。

報道だけがそれからfreeというのはどういう事でしょう。逮捕された人間だって「あなたには黙秘の自由があり、弁護士をつける自由があり〜」ってやるんじゃないんですか?

何の罪も無い人になら尚更「あなたには取材を受けない自由があり〜、」って説明して同意書をとらなきゃ取材できないって、義務づけなさいよ。

これはなかなか面白いと思いました。取材を受け、これを「編集権」とか「高度の創作性」で記事にされた時に、大きな被害を受ける事が決して珍しくも無いのは説明の必要もないでしょう。現在のマスコミに抱いている大きな不信感は、どう説明しようが「何を書かれるかわかったものじゃない」があるからです。極論すれば、取材を受けてしまえば生殺与奪の権利はマスコミに無責で握られる恐怖心です。

完全に無責ではないのですが、一旦報道されてしまった後に、それで傷つけられた分を取り戻すには本当に多大な努力が必要で、多大な努力を傾けても回復が殆んど困難みたいな実情が確実に存在します。BPO名誉毀損訴訟もマスコミにとっては必要経費ぐらいの対応をなされてしまうと言う事です。

言論の自由報道の自由は尊重する必要がありますが、これの延長線上に取材の自由なる者が並列に並ぶかと言われると確かに疑問です。いや、言論の自由報道の自由も無制限の自由ではありません。あくまでも公序良俗に反しない限りが大前提であり、法の制限の下まで言えば大層ですが、社会規範、社会常識で許される範囲と言うのが原則になります。根拠なき誹謗中傷が言論の自由報道の自由とは言わないのは当たり前と考えています。

取材の自由もその拘束から逃れられるものではないのは当然です。取材者が誰にでも取材を行う事は許されますが、被取材者が取材を受けるかどうかも、被取材者の自由意志に委ねられます。「取材をする自由」があっても同等の存在で「取材を受けない自由」もあるのは当然以前の話です。


この取材を受けない自由ですが、マスコミ側の解釈はなかなかのものです。時と場合による部分が多大にあるとは思いますが、取材を申し込み、それが断られる過程さえも報道の自由の範疇に含まれています。当然の事ですが、取材を断った事に対する憶測を付け加えても報道の自由です。ですから場合によっては、断る事により取材を受けた時と変わらないぐらいの悪印象を植え付けられるケースもあります。

もちろんですが、取材申し込みを断っても突撃取材とやらで強引に取材を強行されますし、その時に不機嫌そうに取材を断る風景も報道の自由とされています。つまり一度ターゲットにされると、マスコミと接触した部分はすべて報道の自由として自在に報道されてしまいます。そういう部分が必要か否かの問題の切り分けは単純ではありませんが、無制限にマスコミに「取材の自由」「報道の自由」として付与される権利かと言われれば考え込むところです。


さてなんですが、一つ素朴な疑問があります。マスコミ取材であっても被取材者に了解は取り付けているはずです。あれにはどんな意味があるのだろうかと言う事です。大した疑問ではなくマスコミが求める了解が、

  1. 社交儀礼程度のもの
  2. 了解が取れない限り取材できない厳密なルール
これどっちなんでしょう。考えてみると何とも言えない部分があるような気がしています。上記した取材を断る部分の報道はとても了解を得ているとは思えませんが、一方で取材相手によっては取材許可条件をやたらと厳密に守る事もあります。そうかと思えば隠し撮りでの決定的なシーンなんてのも平然と報道されます。

いわゆる無断取材が是か非ですか、これも判断は完全に時と場合と相手によりで変わるようです。そうなると社交儀礼より重く、厳密なルールより軽い程度のものとするのが宜しくなります。つうか、無断取材が即なんらかの法に抵触する場合を除けば、後は無断取材された相手による自主的な制裁ぐらいしか無さそうな感じがします。

つまり無断取材を行ったときに相手が不興を感じ、報道したマスコミに行う自主的な制裁が重いと感じれば、限りなく厳格なルールに近づき、逆に大した事がないと判断されれば、今度は社交儀礼どころか時候の挨拶程度の位置付けになるという感じでしょうか。

これも報道の目的が俗に言う巨悪に立ち向かう時は許容される社会的合意はあると思います。また芸能人などのマスコミと持ちつ持たれつ関係である者も許容される範囲は広いと解釈されています。政治家なんてのも微妙な立ち位置にいるように感じます。ここは単純化して考えて、マスコミから何らかのメリットを享受できる人々と考えても悪くなさそうです。冒頭で引用したrisyu様はドライな表現をされており、

マスゴミと関わるのはそれを利用したい人達だけ、がもう常識だと思ってました。

変な言い方ですが、マスコミからメリットを引き出したい人間は、一方でマスコミからのデメリットを甘んじなければならない関係としても良さそうです。マスコミもメリットも供与できるという取引関係があるが故に、強烈なデメリットである無断取材も行えるみたいな関係でしょうか。

この取引関係は拡大解釈されている部分があると思います。たとえば巨悪に立ち向かう時には無断取材であっても社会的に許容できるとしましたが、巨悪自身にはメリットが生じません。メリットが生じるのは巨悪によりデメリットを蒙った人々になります。この関係はまだ問題は少ないのですが、これがもう一歩進んで、広い意味の一般国民にメリットがあれば、被取材者がデメリットを蒙っても問題が無いになっているような気がします。

もう一歩進んでも問題は大きくなっていないようにも思えますが、この程度でも弊害は確実に生じます。この時点の弊害は今日は置いておくとして、さらに進めば広い意味の一般国民とマスコミが考える人に興味がある情報なら、被取材者はデメリットを蒙っても無問題としているように感じます。

似たような話を3つ重ねましたが、ここでのポイントはメリットを享受できる人の判定がマスコミの独断であり、さらにデメリットを蒙って然るべしの判断もマスコミの独断であると言う事です。誰かが判断しなければならないので、報道者であるマスコミが判断しても基本的に問題は無いのですが、その判断が的外れであれば被取材者にのみデメリットは降り注ぎます。

最悪の場合、マスコミがデメリットを蒙っても構わないとの判断を間違い、広い意味の一般国民とマスコミが考える人にメリットを生じない場合も出てきます。つまり叩かれてはならない人が叩かれ、叩く姿をみて喜ぶはずの人が強い不快感情を抱く状態です。もちろん人が行う判断ですから無謬と言う事はありえないにしろ、可能な限り避けなければならない事態であるのは誰でもわかります。


問題は不可避な事ですから、発生する事自体はどうしようもありません。問題は起こってからの対応です。誰でも思いつく最低限の対応は、二度と同じシチュエーションで同じミスを起こさない様にするです。マスコミが今問われているのは、それが出来ているかどうかではないでしょうか。出来ているかどうかを判断する材料は、表面的な姿勢と、実質の反映です。

この2つの材料を確認することにより、マスコミの裁量権、自主運用による自浄作用を認められる事になるかと思います。しかし残念ながら2つの材料が不十分だと言う意見が日を追って増えている様に感じてなりません。不十分であるどころか、一向に改善せず同じ過ちを繰り返すだけではなく、どんどん悪化しているんじゃないかの意見も決して珍しいとは私は思いません。

少なくとも年々改善されて、素晴らしく質が向上しているなんて意見は聞いた事がありません。あるかもしれませんが、残念ながら私の目に付くほどの客観的な情報として上っていません。



ふぅ、これでも半分ぐらいに削ったのですが、やっとこさ冒頭のrisyu様の意見に戻れます。risyu様が提案された

    同意書をとらなきゃ取材できないって、義務づけなさいよ
法的な義務づけは憲法21条との関連もあって実際には難しいとは思います。それでも扱いの平等性は求めても差し支えないと思います。現実にマスコミは非常に気を使う相手には鄭重に取材許可を求めた上で、厳密に取材条件を守ります。この取材姿勢を相手によって変えるのではなく、いかなる取材対象であっても同じ様に鄭重に取材許可を求め、取材条件を厳守すると言う要求は可能かと思います。

日本では、法的に身分を制限されているごく一部の方を除いて平等である事は、たとえば憲法14条に、

すべて国民は、法の下に平等であつて、人種、信条、性別、社会的身分又は門地により、政治的、経済的又は社会的関係において、差別されない。

マスコミが取材対象によって取材姿勢を変えない様に求めるのは、おかしな要求とは思えません。そうする事によるデメリットも生じるかもしれませんが、現状ではこれを遥かに上回るメリットがあると考えられます。


本音のところと言うか本来は、現状の方法を無理なく国民に理解許容してもらう努力を、マスコミは不断の努力により続けていなければならなかったはずです。現状の方法の鍵はマスコミへの信頼度に依存する部分が大だからです。現在問題になっているのは、信頼度が揺らいでいる事が問題で、今からでも取り戻す努力に務めるべきと考えます。そうあるべきなのが本来の姿のはずです。

「箱一杯のリンゴの中に腐ったリンゴがひとつあったら、早く取り除かないと周りのリンゴも腐っていく」が着々と進行している状態に見えるのは私だけでしょうか。まだ腐っていないリンゴに期待したいところですが、もう腐ったリンゴしか詰まっていないような箱は早く捨てたいものです。

最後に天漢日乗様が紹介してくれているNZ地元紙を引用させて頂きます。

Christchurch quake: Japanese reporter kicked out
(日本のTVレポーターが追い出される)
KEITH LYNCH Last updated 11:43 02/03/2011

A Japanese reporter was kicked out of the Christchurch city centre today after getting ''physically aggressive'' towards a police commander.
(ある日本のレポーターが警察官に対して「肉体的攻撃」を加えようとした廉で、今日、クライストチャーチ市センターから追い出された)

The TV reporter was escorted from the area by police around the art gallery today after his accreditation was removed.
(今日、そのTVレポーターは、取材許可を取り消された後、その地域から、クライストチャーチ・アート・ギャラリーの周りにいた警官に連れ出された。)

Last night, the reporter "got physically aggressive" towards Christchurch police commander Superintendent Dave Cliff and had to be restrained, a police spokesman said.
(警察のスポークスマンによると、昨夜、そのレポーターは、「肉体的攻撃」をクライストチャーチ市警のデイブ・クリフ警視に「与えようとし」て、拘束されていた。)

Concerns have been raised about media behaviour in Christchurch.
(クライストチャーチでは、メディアの振る舞いに関して、懸念が起きている。)

Last week, a Japanese reporter was arrested after trying to gain access to the Christchurch Hospital.
(先週、日本のレポーターがクライストチャーチ病院に侵入をはかって逮捕された。)

Concerns were also raised during the two-minute silence when some photographers continued to take pictures, their camera clicking incessantly as New Zealanders took a moment to remember the fallen.
(地震発生1週間の2分間の黙祷の際に、何人かのカメラマンが写真を撮り続け、ニュージーランド国民が死者を悼んでいる時だというのにひっきりなしにカメラのシャッター音がしていたことについても、懸念が起きている。)

A Christchurch City Council spokesman said a number of journalists have also been trying to get around the cordon to gain access to restricted areas of the city.
(クライストチャーチ市議会のスポークスマンによれば、何人もの記者達が、非常線を越えて、市の制限区域に侵入をはかったという。)

There are about 500 accredited media currently working in Christchurch.
(クライストチャーチでは、およそ500人ほどの、取材許可を得たメディア関係者が現在活動している。)

Mayor Bob Parker urged members of the media to show restraint and respect for the officials.
(ボブ・パーカー市長は、メディア関係者に自制を示し、市の公務員に対し敬意を払うよう、強く主張している。)

  • The Press

Japanese reporter in trouble after barging police chief
(日本のレポーターが警察署長と衝突した後、拘束)

NZPA March 2, 2011, 2:40 pm

A Japanese television reporter's media accreditation within the Christchurch central cordon has been revoked after he shouldered Canterbury police commander Superintendent Dave Cliff this morning.
(今朝、日本のテレビレポーターがカンタベリー市警のデイブ・クリフ警視に肩でぶつかった後、クライストチャーチ中心部への立ち入り制限区域での活動を含む、彼の取材許可証が取り消された。)

The incident happened at the end of an interview and came out of the blue, a police spokeswoman said.
(警察のスポークスマンによると、事件が起きたのは、記者会見の終わりで、突然起きた。)

It was not clear why the reporter was upset. He had not been charged but such behaviour would not be tolerated, she said.
(どうしてレポーターが動転したのかは分かっていない。彼は告発されてはいないが、こうした態度は我慢できない、という。)

The shouldering was definitely not an accident. If it had been he would not have had his accreditation revoked, she said.
(肩でぶつかったのは、明らかに偶発的なものではない。もし、偶発的なものだったならば、彼は取材許可を取り消されたりしなかっただろう。)

There are about 500 accredited media from around the world in Christchurch.
(クライストチャーチには、取材許可を得た世界中から来たメディア関係者がおよそ500人ほどいる。)

Civil Defence manages the accreditations and a spokesman said he was only aware of one reporter having accreditation revoked.
(民間防衛は、取材許可を管理しており、スポークスマンによると、一人のレポーターが取材許可を取り消されたことだけを承知しているという。)

The New Zealand contingent had been exceptional and very respectful, the police spokeswoman said.
(警察のスポークスマンによると、ニュージーランドの取材陣は、優秀であり、たいへん丁寧であった、という。)

病院への不法侵入で2人逮捕、警察の記者会見での素行不良で取材許可を取り消されたのが1人と言うのが、NZ地震の日本人記者団による公式二次被害報告になっているようです。非公式はあえて紹介しませんが、これ以上被害が拡大しない様に祈るばかりです。