情報公開の範囲は?

かなり微妙な話題ですので、皆様もお取扱いには十分御注意お願いします。尼崎の事件に際し病院側のHP

今後第三者の専門家を含めた検討の場を持つことにしております。真摯に検討し、今回の教訓を今後の診療に活かしていく所存です。

こういう声明があり、京都の小児科医様から広く公開すべきであるとの意見を頂きました。それに対し個人情報であることはもとより医療情報でもあり、詳細な内容は公開されないのではないかとコメントを返したところ、情報公開の範囲が話題の一つの焦点となりました。自分のブログでありながらどこに行ったかわからないのですが、以前に類似の議論があり、この時の結論として、

  1. 患者側は入手している情報を自由に公開できる
  2. 病院側は訴訟になって初めて、訴訟の範囲で情報公開できる
これは確か弁護士の意見であったかと思います。当時も「反論も出来ないのか」の意見はあったと思いますが、現行法上の運用の解釈ではそうなるで「そんなものか」として終わったと記憶しています。これを踏まえて京都の小児科医様とさらに幾つかの意見交換を行なったのですが、新たな疑問が提出されました。

    マスコミや遺族は自由に調査記録を公開可能で、病院側は
    遺族の許可がなければ公開不可能という法的な根拠は何でしょうか

    一旦、マスコミに記録が公開された段階(公的な記録)で、これを元に
    調査記録は公開可能なように思うのですが。。。

    今回のHP上の宛て先は
    >尼崎医療生協病院での医療事故報道について
    >患者様、組合員様、地域の皆様へ

    となっています。調査記録が公開されて、本件が医療事故ではない(ある?)
    と公示しないと組合員や、地域の住人は尼崎医療生協病院に対して不審感を
    もつのではないでしょうか。

    内容によりけりで微妙な問題ですが、遺族の許可が必要であるとの法的根拠を
    しりたいです。

    逆に遺族は病院の許可がなくても情報をマスコミに流すことは法律的に
    問題ないのでしょうか

ポイントをまとめますと

  1. 病院側が情報公開できない法的根拠は
  2. さらにマスコミに情報が公開されても病院側が公開できない法的根拠は
  3. 遺族側が病院側の許可なく公開できる法的根拠は
誠にごもっともな質問だったのですが、法律の素人では法的根拠について満足のいく回答など出来なかった次第です。ただ具体的な法的根拠は存じませんが、何らかの法的根拠があることだけは間違いないと言えます。具体例として奈良大淀病院事件があります。この事件では医療の過誤の有無だけではなく、カルテの情報公開についても大きな話題があった事件です。

まず奈良大淀病院事件で遺族がカルテを入手した日付です。これは裁判記録で明らかになっており、もっとも傍聴記録が詳細なお決まりの日々?様の第一回口頭弁論メモ(5)(大淀事件22-6) ※とりあえず完成から引用します。

被1 「先ほどこれを書くにあたり大淀病院のカルテを参照したと言われましたけれど、それはまちがいないですか?」
T氏 「はい」
被1 「カルテはいつ頃入手されましたか? 誰から?」
T氏 「9月21日の一回目の話し合いの時に、事務長から」
被1 「裁判になって、大淀の方から乙A−2号証まで出しているけれど、 これは間違いないですか?」
(※乙A−1号証:大淀病院カルテ、乙A−2号証:大淀病院外来カルテ)
T氏 「はい」


ここで「被1」とは被告側弁護人であり、T氏とは原告の高崎晋輔氏です。非常に分かりやすいですが、9/21に入院カルテも外来カルテも病院事務長から入手したとはっきり答えています。事件は2006年に起こっていますが、この時期の出来事を裁判記録と報道記事で拾っておくと、


月日 事柄
2006.8.8 事件発生
2006.8.16 産婦死亡
2006.9.2 被告産科医師、病棟師長弔問
2006.9.21 第1回話し合い
2006.10.10 第2回話し合い
2006.10.13 タブロイド紙記者第1回取材
2006.10.16 タブロイド紙記者第2回取材
2006.10.17 事件報道 → 病院側記者会見
2006.11月下旬 原告側弁護士紹介


この後の続報記事でマスコミからカルテ情報が報道されます。全部挙げればキリが無いのですが、象徴的なものをあげておけば2006.10.31付読売新聞大阪朝刊情報には「診療記録」からと明記された詳細な症状経過が掲載され、画像には
    高崎実香さんのカルテ(家族提供)。上から5行目に「意識消失」、2枚目に「強直性ケイレン?」「eclampsia(子癇)?」と書かれている
このカルテ画像は間違い無く医師による診療記録2号用紙のものです。もちろん読売だけではなく他のマスコミもカルテ記録を基にした診療経過や、カルテ画像を報道に多数使用しています。その他に目ぼしいのを挙げておけば、

日付 報道機関 カルテ画像
2006.10.21 TBS 4枚組カルテ右側カルテのアップ医師記録の断片画像
2006.10.22 関西テレビ カルテ画像
2006.10.22 朝日放送 カルテ画像そのアップ
2006.11.2 毎日放送 多数のカルテ画像医師記録の断片


手許にはこれぐらいしかありませんが、京都の小児科医様が指摘した、

    一旦、マスコミに記録が公開された段階(公的な記録)で、これを元に
    調査記録は公開可能なように思うのですが。。。

これに近い状況が出現したわけですが、その後にどんな騒ぎが巻き起こったかは周知の通りです。看護記録を含むカルテが病院記者会見時にマスコミに配布されていたと言う情報も当時からあり、これについては残念ながら裏付け情報が私も無いのでなんとも言えませんが、マスコミに広範囲に流布されている事だけは事実関係から確認できます。

ここでm3事件についての時系列をまとめておくと、

Date
内容の概略
2006.10.17毎日がスクープとして報道、同日病院が記者会見
2006.10.18m3にカルテ情報第1報(これは単発だった様子)
2006.10.19m3にカルテ情報第2報(これが本命となったカルテ情報)
2006.10.21m3にカルテ情報第3報。これは第2報の修正版
2006.10.23m3に医師の対応の伝聞情報
2006.10.25m3にカルテ情報第4報。情報不足を嘆く
2006.10.26m3にカルテ情報第5報。これが決定版として流布、この時にカルテを基にして書いたと明記。


なにぶん2年前の事件なので、m3情報の出現時期とマスコミが詳細に診療経過を報じた時期の連動性が十分に確認できません。これはうろ覚えなのですが、マスコミ各社が追随した報道でm3情報の正確さを評価するブログ記事もあったかと思いますから、文字情報はm3情報が先行した可能性はあります。また10/21のTBS報道前に他社がカルテ画像を報道したかどうかの確認も今朝時点ではできていません。ですから上で述べた「近い状況」は同じではなく、あくまでも近いだけであることは考える上で注意は必要です。

ただマスコミ報道が行なわれた後でも、マスコミ情報以外のカルテ情報について遺族側が問題視したのは事実として良く、現時点の法解釈では、どうも遺族の意図を超えた部分が公開されただけで問題になる事だけは確認できるかと思います。それでは具体的にどの範囲までなら、マスコミ報道時点で病院側が遺族側の了承なしに情報公開できるかについては、どうにも明確な基準が無いように思います。この点についての根拠になりそうな情報もしくは、補足情報があればお寄せ頂ければ幸いです。それと冒頭でも触れましたが、微妙な話題ですので、とくに例として示したm3事件について触れられる時には十分な御配慮を頂ければ幸いです。