例の朝日記事検証

えらく乗り遅れてしまいしたが、比較検証するのは基本的に、

ここからのもので考えてみます。朝日記事自体も少々長めで、MRICによる反論となると猛烈に長いので、これを手際よくまとめるのは至難の業です。ある程度の分量になるのは御容赦下さい。


朝日記事検証

 東京大学医科学研究所(東京都港区)が開発したがんペプチドワクチン臨床試験をめぐり、医科研付属病院で2008年、被験者に起きた消化管出血が「重篤な有害事象」と院内で報告されたのに、医科研が同種のペプチドを提供する他の病院に知らせていなかったことがわかった。医科研病院は消化管出血の恐れのある患者を被験者から外したが、他施設の被験者は知らされていなかった。

 このペプチドは医薬品としては未承認で、医科研病院での臨床試験は主に安全性を確かめるためのものだった。こうした臨床試験では、被験者の安全や人権保護のため、予想されるリスクの十分な説明が必要だ。他施設の研究者は「患者に知らせるべき情報だ」と指摘している。

ここは記事の冒頭部なのですが、記事の趣旨はがんペプチドワクチンの治験中に消化管出血があった事を東大医科学研が報告しなかった事を問題視しています。あからさまに言えば「隠蔽」の疑いがあると印象付けさせる内容としても過言ではありません。駄目押しのように

    他施設の研究者は「患者に知らせるべき情報だ」と指摘している
これだけでも東大医科研が「何か悪い事をしているんじゃないか」と思わせるのに十分な内容です。記事は続きます。

 医科研ヒトゲノム解析センター長の中村祐輔教授(4月から国立がん研究センター研究所長を兼任)がペプチドを開発し、臨床試験は08年4月に医科研病院の治験審査委員会の承認を受け始まった。

 朝日新聞の情報公開請求に対し開示された医科研病院の審査委の議事要旨などによると、開始から約半年後、膵臓(すいぞう)がんの被験者が消化管から出血、輸血治療を受けた。医科研病院はペプチドと出血との因果関係を否定できないとして、08年12月に同種のペプチドを使う9件の臨床試験で被験者を選ぶ基準を変更、消化管の大量出血の恐れがある患者を除くことにした。被験者の同意を得るための説明文書にも消化管出血が起きたことを追加したが、しばらくして臨床試験をすべて中止した。

がんペプチドワクチン投与により膵臓がん患者から消化管出血の報告があり、それにより消化管出血の可能性の高い患者への投与が中止され、さらに臨床試験そのものが中止されたとなっています。ここも素直に読めばワクチンにより予期せぬ消化管出血が起こり、臨床試験が中止に追い込まれた印象を十分に持たせます。冒頭部の「報告しなかった」とあわせて疑惑は深まる感じです。

 開示資料などによると、同種のペプチドを使う臨床試験が少なくとも11の大学病院で行われ、そのすべてに医科研病院での消化管出血は伝えられていなかった。うち六つの国公立大学病院の試験計画書で、中村教授は研究協力者や共同研究者とされていたが、医科研病院の被験者選択基準変更後に始まった複数の試験でも計画書などに消化管出血に関する記載はなかった。

さらに資料による補足が行われています。ワクチンの治験は11の大学で行なわれていたのに、東大医科研の消化管出血は他の大学に伝えられていなかった上に、治験の計画書に消化管出血に関する記載がなかったとしています。う〜ん、ますます隠蔽疑惑が濃くなっていきます。

 厚生労働省の「臨床研究に関する倫理指針」は「共同で臨床研究をする場合の他施設への重篤な有害事象の報告義務」を定めている。朝日新聞が今年5月下旬から中村教授と臨床試験実施時の山下直秀医科研病院長に取材を申し込んだところ、清木元治医科研所長名の文書(6月30日付と9月14日付)で「当該臨床試験は付属病院のみの単一施設で実施した臨床試験なので、指針で規定する『他の臨床研究機関と共同で臨床研究を実施する場合』には該当せず、他の臨床試験機関への報告義務を負いません」と答えた。

ここは東大医科研の主張を取り上げています。東大側の主張は、臨床試験は東大のみで単独で行なわれたものであり、他の施設との共同研究でなかったと回答しています。つまり厚労省の倫理指針に反しないと反論している事になります。

ここはこの前々段及び前段の記事の指摘がボディーブローの様に効いています。

  • ペプチドワクチンは医科研の中村祐輔教授が開発した
  • ワクチンの治験は11の大学で行なわれていた
  • 六つの国公立大学病院の試験計画書で、中村教授は研究協力者や共同研究者とされていた
つまり実質として共同研究に近く、それを単独治験であるから報告しないと言うのは詭弁であるとのイメージを助長します。その点を次の段落で強調しています。

 しかし、医科研は他施設にペプチドを提供し、中村教授が他施設の臨床試験の研究協力者などを務め、他施設から有害事象の情報を集めていた。国の先端医療開発特区では医科研はペプチドワクチン臨床試験の全体統括を担う。

こりゃ東大医科研が何かを隠しているの感触は決定的になります。最後は記事のまとめ的なところです。

 厚労省朝日新聞の取材に対し「早急に伝えるべきだ」と調査を始め、9月17日に中村教授らに事情を聴いた。医科研は翌日、消化管出血に言及した日本消化器病学会機関誌(電子版)に掲載前の論文のゲラ刷りを他施設に送った。論文は7月2日に投稿、9月25日付で掲載された。厚労省調査は今も続いている。

 清木所長は論文での情報提供について「朝日新聞の取材を受けた施設から説明を求められているため、情報提供した」と東大広報室を通じて答えた。(編集委員・出河雅彦、論説委員・野呂雅之)

要は朝日記事の指摘に基いて厚労省が調査に着手し、書いてはいませんが「近日中に真相が暴露されるであろう」の感触を読者に十分に持たせるものになっています。素直に読めばそうなります。あえて朝日記事のポイントをまとめておけば、

  1. ペプチドワクチンは東大医科研の中村教授が開発した
  2. ペプチドワクチンの臨床治験は11の大学で行なわれ、そのうち6つは中村教授が研究協力者や共同研究者となっている
  3. 医科研はペプチドワクチン臨床試験の全体統括を担う立場にある
  4. その医科研で消化管出血が起こり、これが他の施設に報告されていない
付け加えればタダの消化管出血ではなく、ペプチドワクチンによって引き起こされた重大な副反応を報告していない、つまり隠蔽しているイメージを濃厚に植えつける内容です。


東大医科研の反論

MRICの反論は長いので、私がまとめたポイントに副ってまとめてみます。


反論1 ペプチドワクチンは東大医科研の中村教授が開発した

これについてですが、

 2010年10月15日の朝日新聞社会面は、「患者出血「なぜ知らせぬ」ワクチン臨床試験協力の病院、困惑」「薬の開発優先批判免れない」となっています。本文中では、中村祐輔教授が、未承認のペプチドの開発者であること、中村教授を代表者とする研究グループが中心となり、上記ペプチドの製造販売承認を得ようとしていること、中村教授が、上記研究成果の事業化を目的としたオンコセラピー・サイエンス社(大学発ベンチャー)の筆頭株主であること、消化管出血の事実が他の施設に伝えられなかったことを摘示し、「被験者の確保が難しくなって製品化が遅れる事態を避けようとしたのではないかという疑念すら抱かせるもので、被験者の安全よりも薬の開発を優先させたとの批判は免れない」との内容が述べられています。

 しかしながらこの記事の内容も誤っています。中村祐輔教授は、がんペプチドワクチンの開発者ではなく、特許も保有しておらず、医科研病院の臨床試験の責任者ではありません。責任を有する立場でない中村祐輔教授を批判するのは、お門違いであり、重大な人権侵害です。

今日紹介した朝日記事ではないのですが、別の記事で中村教授とベンチャー企業の関係も含めての批判記事もあったようです。ところがなんですが、肝心の中村教授は、

あれれれ、てなところです。他のMRIC記事ですが、

 本記事を朝刊のトップに持ってくるためのキーワードとして、人体実験的な医療(臨床試験)、東京大学、医科学研究所、ペプチドワクチン、消化管出血、重篤な有害事象、情報提供をしない医科研、中村祐輔教授名などはインパクトがあります。特に中村教授については当該ワクチンの開発者であり、それを製品化するオンコセラピー社との間で金銭的な私利私欲でつながっているとの想像を誘導しようとする意図が事実誤認に基づいた記事のいたるところに感じられます。

 中村教授はペプチドワクチン開発の全国的な中心人物の一人であり、一面に記事を出すにも十分なネームバリューであります。しかし、本件のペプチド開発者は実は別人であり、特許にも中村教授は関与していません。

中村教授はペプチドワクチン開発の中心的な人物ではあるようですが、今回使われたペプチドワクチンは別の開発者であるとしています。こんなところでMRICが虚偽の主張をしても始まらないので信用はできるかと考えます。

考えられる事は、朝日の認識として、

    ペプチドワクチンと言えば中村教授
この思い込みから今回のペプチドワクチンも当然の様に中村教授が開発したに違いないと考えたと思われます。医科研発のワクチンですから、確認するまでもなく開発者は中村教授であり、中村教授の関連からベンチャー企業の関連性を連想し、利権癒着の話に花が咲いたと考えられます。しかし残念ながら開発者は中村教授でなかったようです。


反論2 ペプチドワクチンの臨床治験は11の大学で行なわれ、そのうち6つは中村教授が研究協力者や共同研究者となっている

ここに関してはとくに反論はありません。もっともこの部分が重要になるのは、中村教授が今回のワクチンの開発者であってこそですから、開発者でないとなった時点で反論するほどの重要性は低下します。それとペプチドワクチンの開発は中村教授でなくとも医科研によるものですから、11の大学は医科研からワクチンの供給を受ける必要があり、治験段階で供給者の責任者であり、ペプチドワクチンの権威である中村教授が名を連ねてもさほど不思議とは言えないとは思います。


反論3 医科研はペプチドワクチン臨床試験の全体統括を担う立場にある

臨床試験に必要な品質でペプチドを作成することは非常に高価であるために、特区としてペプチド供給元となる責任者の立場です。これらの情報も、取材過程で明らかにしてきたにもかかわらず、敢えて事実誤認するのには、何か事情があるのでしょうか。

朝日記事と微妙にニュアンスが違うのはお判り頂けるでしょうか。ペプチドワクチンに対する医療特区における医科研の立場です。

朝日記事 MRIC
国の先端医療開発特区では医科研はペプチドワクチン臨床試験の全体統括を担う 特区としてペプチド供給元となる責任者の立場


医科研はペプチドワクチンの安定供給の責任を負うとはしていますが、総括責任を負うとは一言も朝日に説明していないようです。もちろん供給元ですから、治験に協力はするでしょうが、べつに前提として総括責任を負う立場を義務づけられているわけではないようです。求められれば治験のためにペプチドワクチンを供給し、さらにアドバイスを求められれば積極的に協力するとぐらいに理解すれば良いでしょうか。

もちろん治験症例を増やすために他の大学に協力を求めても差し支えはなく、協力姿勢の度合いが11の大学のうち6つに中村教授が名を連ねる結果になったとも考えられます。良く知りませんが、研究費との兼ね合いもあるようには思います。


反論4 その医科研で消化管出血が起こり、これが他の施設に報告されていない

ここが少々複雑なんですが、朝日が非情に重視したワクチン投与による消化管出血が医学的にどの程度の位置付けになるかです。朝日記事の印象では、ワクチンによって引き起こされた重大な副反応にしか読めません。専門的に表現するとワクチンによる「有害な重篤事象」です。これに対してMRICは、

 医科学研究所は朝日新聞社からの取材に対して、「今回のような出血は末期のすい臓がんの場合にはその経過の中で自然に起こりうることであること」を繰り返し説明してきました。それと関連して、和歌山医大で以前に類似の出血について報告があったことも取材への対応のなかで述べています。

 これらは、今回の出血がワクチン投与とは関係なく原疾患の経過の中で起こりうる事象であることを読者が理解するためには必須の情報です。しかし、今回の記事ではまったく無視されています。この情報を提供しない限り、出血がワクチン投与による重大な副作用であると読者は誤解しますし、そのように読者に思わせることにより、「それほど重要なことを医科学研究所は他施設に伝えていない」と批判させる根拠を意図的に作っていという印象を与えざるを得ません。

これは医師として「そうである」以外の説明をもたないのですが、膵臓がんの末期で消化管出血が起こることはありふれた事象です。誤解を怖れずに言えば、「熱がでる」とか、「体が痛む」とさして変わらない事象であると言う事です。消化管出血が膵臓がん末期に「ありふれた」症状であると言うのは重要な前提です。

言ったら悪いですが、去年もモメにモメた新型インフルエンザワクチンで消化管出血が起これば飛び切りの「有害な重篤事象」になりえますが、膵臓がん末期患者の症状としてはワクチン接種の有無に関らず日常的に起こりうる症状と言う事になります。

ここも実はストレートに理解が難しい部分があります。膵臓がん末期に消化管出血が日常的な症状である事は大前提なんですが、ワクチン投与と言う前提から見ると、ワクチン投与によって消化管出血が増悪するのか、減少するのかは当然問題になります。ここもあくまでも消化管出血は膵臓がんによるものであって、それがワクチン投与によってどうなるかは検証しないといけない部分とは言えます。

ただ現時点では膵臓がんに純粋によるもなのか、それともワクチンの影響が加味されたものかの判断は困難です。そのあたりについては、

 日常的に原疾患の進行に伴って起こりうるような事象であり、臨床医であれば誰でもそのリスクを認知しているような情報については、その取り扱いの優先順位をよく考慮してしかるべきだと考えます。煩雑で重要度の低い情報が飛び交っていると、本来、監視すべき重要な兆候を見逃す恐れがあります。この点も出河編集委員・野呂論説委員には何度も説明しましたが、具体的な反論もないまま、報告する責務を怠ったかのような論調の記事にされてしまいました。「重篤な有害事象」とは、「薬剤が投与された方に生じたあらゆる好ましくない医療上のできごとであり、当該薬剤との因果関係については問わない」と国際的に定められています。

 また、「重篤な有害事象」には、「治療のため入院または入院期間の延長が必要となるもの」が含まれており、具体的には、風邪をひいて入院期間が延長された場合でも「重篤な有害事象」に該当します。このことも繰り返し説明しましたが、記事には敢えて書かないことにより「重篤な有害事象」という医学用語を一人歩きさせ、一般読者には「重篤な副作用」が発生したかのように思わせる意図があったと判じざるを得ません。実際に、この目論見が当たっていることは多くの人々のネットでの反応を見れば明らかです。

ここもまた説明としては難解に感じる方が多いと存じます。理解の一助になるように話を至極単純化しますが、まず「ワクチン」と言うから話がややこしくなります。今回のペプチドワクチンは一般的な予防ワクチンではなく、治療薬すなわち抗がん剤であると考えてもらえれば良いと思います。新開発された抗がん剤の治験を行ったと言う事です。

抗がん剤の目的はがんを治療する事ですが、治験としては治療効果の判定を行います。判定基準はがんにより様々ですが、今回は末期がんに投与されていますから、延命効果、末期がんに伴う諸症状の緩和効果なんかが調べられるとしても、そんなに間違っていないと思います。消化管出血は膵臓がん末期に当たり前の様に起こる症状である事は上述しましたが、情報として欲しいのはその頻度と程度です。

ペプチドワクチン投与により消化管出血の頻度と程度が減少すれば効果ありですし、変わらなければ無効です。また頻度が増えればむしろ増悪させたになります。さらに言えば、抗がん剤の効果はもっと広く見ます。消化管出血の程度が増悪したとしても、その他の抗がん効果が評価できるもので、延命効果や、ましてや治癒効果があり、増悪した消化管出血もコントロール可能なら「効果あり」と判定する事もあります。

予防のためのワクチンは基本的に健康人に接種しますから、何か起こればすべて有害事象と言う見方ができますが、膵臓がん末期患者の治療に使うワクチンは膵臓がん末期患者の日常の症状を超えるものが出たときに有害事象として報告されるものであると説明していると理解していただければと思います。

消化管出血もまったく無視するものではなく、抗がん剤としてのペプチドワクチンの効果判定には当然のように評価されます。この評価は抗がん剤の効果としての指標であり、一般的な意味でのワクチン投与による有害事象と区別されて扱われると言えばよいでしょうか。膵臓がん末期患者と言う特殊な状態での判定ですから、一般的な予防ワクチンの有害事象と考え方、取扱いが少々異なると言う事です。

有害事象と言う定義をあんまり振り回すと、膵臓がん末期患者では極め付けの有害事象である「死亡」も頻発します。膵臓がん末期患者の治験で死亡が発生するたびに「重篤な有害事象」としてすべてストップしていたら何も進歩しません。患者が向き合っているものの大きさで使われる薬剤は異なり、その副作用の許容度も根本的に違うと言えば良いのでしょうか。

MRICではさらに反論を重ねています。

 事実、今回の記事では「消化管出血例を他施設に伝えていなかった」ということが最も重要な争点として描かれており、厚生労働省「臨床研究に関する倫理指針」では報告義務がないかもしれないが、報告するのが研究者の良心だろうというのが朝日新聞社の主張です(16日3頁社説)。その為には、今回の出血が「通常ではありえない重大な副作用があった」という読者の誤解が不可欠であったと思われます。このことは「他施設の研究者」なる人物による「患者に知らせるべき情報だ」とのコメントによってもサポートされています。進行性すい臓がん患者の消化管出血のリスクは、本来はワクチン投与にかかわらず主治医から説明されるべきことです。取材過程で得た様々な情報から、出河編集委員にとって都合のよいコメントを選んで載せた言わざるを得ません。

朝日記事は有害事象を「他の施設に伝えなかった」に非常に力点を置いた構成になっているのは読めばわかります。今回の有害事象の判断は医療関係者以外には最後の理解が難しい点があるのはわかります。そのため医科研もその点は丁寧に説明されているのはわかります。それでも取材した記者が「これは怪しい」との先入観を持つことまで否定しません。

「怪しい」と思ったからこそ取材を行い、医科研まで直接「編集委員」「論説委員」が出向いたのも理解できます。言ったら悪いですが、そこで何を聞いてきたんだの感想を持たざるを得ません。朝日新聞の取材に答えたと考えられる清木元治東京大学医科学研究所・教授が憤慨しているのがよくわかります。結局最初に思い描いたストーリーに合う様に事象を拾い上げ、見事な切り貼りによって医科研悪人説を展開している事になります。


最後に

もう一度、念を押しておきますが、医療関係者以外の方は最後のところが本当に理解しくいとは思います。ですからこう考えて頂けたら幸いです。医科研は朝日の取材を受けて、出来上がった記事に逐一反論しています。その内容は医師でなければ難しい面があるのは認めますが、医科研の反論を読んだ医師は医科研を支持しています。

もし医科研の主張にエエ加減なところがあれば、私だけではなく多くの医師が再反論を行なっています。東大の医科研だから言いたい事も言えない部分があるんじゃないかと白い巨塔的な発想をされる方もいるかもしれませんが、そんな事はありません。たとえば私が実名で「医科研なんてトンデモ組織だ!」とネット中に書いて回っても、なんの実害もありません。医科研なり、東大関係者以外には利害関係はまったく存在していないからです。

いや医科研関係者や東大関係者であっても、今回の医科研の反論がトンデモであれば厳しい批判の声が上ります。医療は科学であり、科学の実証にはデータの運用に厳しいルールがあります。医療界も過去に権威によりこのルールが捻じ曲げられた歴史はあり、その結果に厳しい反省を行っています。積み重ねられた反省に上に今があり、いかに東大であろうとも容赦はないと言う事です。


朝日は今回の件で直感的に金鉱をつかんだと考えたのは想像するにやぶさかではありません。金鉱が本当にそうであるかどうかを確認するために治験の情報を入手し、当事者である医科研の責任者にも取材を行っています。しかしいつもの通り、最初の思い込みから一歩も動く事がなかった取材例としてもよいと考えます。ここについて、

 今回の報道では、新しい医療開発に取り組む多くのまじめな研究者・医師が傷つき、多くのがん患者が動揺を感じ、大きな不安を抱えたままとなっている現状を忘れるべきではないでしょう。朝日新聞は10月16日に、「医科学研究所は今回の出血を他施設に伝えるべきであった」という社説をもう一度掲げて、「研究者の良心が問われる」という表題を付けています。良心は自らを振り返りつつ問うべき問題であり、自説を主張するためには手段を選ばない記事を書いた記者の良心はどこに行ったのでしょうか。また、朝日新聞という大組織が今回のような常軌を逸した記事を1面に掲載したことが正しいと判断するのであれば別ですが、そうでなければ社内におけるチェックシステムが機能していないということではないでしょうか。権力を持つ者が自ら作ったストーリーに執着するあまり、大きな過ち犯したケースは大阪地検特捜部であったばかりです。高い専門性の職業にかかわるものとして常に意識すべき問題が改めて提起されたと考えます。

私もそう思います。