お伽噺のような謎

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先に力一杯お断りしておきますが、記事に出られている医師を誹謗中傷する気は毛頭ありません。その志は高く、また夢の実現に向かって努力されている姿勢に素直に敬意を表させて頂きます。


謎なのは、御卒業されたのが帝京なんです。これもまた私立だからとか、医学部のレベル云々を話題にする気はまったくありません。どこの医学部であれ医師免許を取得されれば、後は個人の精進の問題であって、どうのこうのの意見などまったくありません。帝京の何が謎かと言えば学費になります。記事を読む限り今春御卒業のようですから、そうなれば入学は2004年度になります。

2004年度の医学部学費データにこういうものがあります。

    初年度学費:14,207,200円
    6年間学費:49,192,200円

ちなみに2004年度時点で全国一です。つまり5000万円もの学費をどうやって払ったのだろうかの謎です。ちなみに学費免除制度は「無い」となっています。当たり前の話ですが、この学費を払えたから卒業できたわけですが、その医師にそれだけの資産があったかになります。学費の出所について、

学費は○○さんの熱意に応じた旧沢内村などが奨学金を出した。

名前を出すのは今回の趣旨とは関係無いのであえて伏せています。著作権での抗議があれば出させて頂きます。この2004年当時にどれほどの医学部奨学金制度があったかと言えば微妙です。今でこそ多くの県で地方枠とか地域枠がワンサカありますが、あれは2006年頃から制度として整備されたものであり、2004年となれば非常に少なかったと考えられます。

沢内村はその点では先駆者であり、2004年時点でも医学部奨学金は存在していました。そこの受給資格を得たのは確認できますが、それでも5000万円も出してくれるかの疑問は素直に出ます。医師本人は神奈川の出身で東京都に勤務だったようですから、地縁はありません。あるとしたら奥様方にあるのか、父親の代には縁があったかぐらいです。

それでも奨学金の給付は受け取っているのは間違いないのですが、これが5000万円とはちょっと思えません。現在でも相場として高くても1000万円程度です。この辺は言ったら悪いですが、奨学金の目安は国公立をある程度基準にしているからだと考えています。そうなるとまだ4000万円足りません。その他の奨学金を合わせてもらえるかどうかについては詳しくないのですが、4000万円も集めるのはまず不可能でしょう。

帝京大医学部のHPには、帝京大学地域医療医師確保奨学金 (医学部)なるものがあり、これを利用すると現在では1000万円程度の学費で卒業は出来るようです。ただし条件がありまして、

福島県新潟県、千葉県、神奈川県、山梨県岐阜県愛媛県および埼玉県

これらの県のひも付き医師修学資金を受給するのが前提となっています。この医師がもらった奨学金岩手県のものであり、勤務希望病院も岩手県です。そもそもなんですが、2004年当時にこの制度自体があったかと言うと、かなりの高確率で無かったと考えられます。

そうなると自分で残りの学費を払った事になります。それらしい記事もあり、

家族で安アパートに引っ越し

ここもサラッと読むと学費を作るために家を売り払った様にも感じますが、売り払ったのは入学前、それも入学の1年ほど前、つまり入試勉強を始める頃です。持ち家であればそんなに急いで売る必要はありません。持ち家があるのなら、それを担保にして入学金を借りるという選択もありますし、売却するにしても入学後でも良さそうなものです。

常識的に安アパートで勉強するよりも持ち家で勉強する選択を通常は選ぶはずです。もちろんあえて背水の陣を敷いた可能性は否定できませんが、3歳の子どもまでいますから、そんなに可能性は高くないと考えます。そうなると考えられるのは、

  1. 勤務時代は社宅であった
  2. 持ち家(マンション)であったがローンの負担に耐えられなくなった
つまり安アパートに引っ越す事によって支出を減らす事はできたかもしれませんが、資産が形成された可能性は非常に低いと言う事です。奥様も働いてくれたようですが、それだけでは生活費程度と考えるのがこれも妥当です。なんつうても2年以降の納付金も700万円ぐらいですから、2割が奨学金としても560万円ぐらいは必要です。これを奥様が稼ぎ出すのは不可能に近いと考えられます。

医師も在学中にアルバイトをしたかもしれませんが、払う金額が金額ですから、そう簡単には払えない金額です。年間560万円といえば、月にして50万円弱ですから、ちょっとそっとでは稼げない額です。学費は必要経費では落ちませんから、月に100万円程度の稼ぎがどうしても必要になります。収入が増えると税金も上がりますから、それでも足りるかどうかのレベルになってきます。


記事には書かれていない医師個人の資産があった可能性は完全には否定できませんが、仮に無かったとすれば、やはり記事にあるようにこの医師の熱意に打たれて沢内村がポンと5000万円ぐらいの奨学金を提供したと考えられます。お伽噺のようなお話ですが、現実に卒業され医師となられています。世の中には常識では計り知れない事が時に起こるのであっても構わないと言えばそれまでですが、相当なお話です。

一種の美談なんですが、お伽噺なら「後は村人に感謝されながら、幸せに暮らしましたとさ」でハッピーエンドになります。さて現代のお伽噺は、そんな結末で結ばれるのでしょうか。その点だけはなぜか不安がよぎるのが不思議です。ハッピーエンドになるようにだけ祈っておきます。