結果としての毎日.jp

天漢日乗様のところで見つけた7/8付の日経BPのITProの記事からです。

毎日新聞社のニュースサイト「毎日.jp」で、先週末以降、広告スペースの大半が自社広告で埋め尽くされる事態が続いている。

 毎日新聞社は英文サイト「毎日デイリーニューズ」(Mainichi Daily News)上のコーナー「WaiWai」で、「日本の女子高生はファーストフードで性的狂乱状態」など低俗な記事を長年にわたって配信し、ネット上で批判の声が上がっていた。同社は6月23日、同コーナーを中止・削除し、監督責任者や担当者らを処分すると発表したが、25日の株主総会で、それまでの常務デジタルメディア担当が社長に、同デジタルメディア局長も取締役に昇格する人事を可決・承認(27日に役員報酬の一部返上を発表)。これがネット上の炎上に油を注ぐ格好となり、毎日新聞社のほか、毎日新聞および毎日jpに広告を載せている大口の広告主へも抗議、問い合わせが電話やメールで寄せられることとなった。

 毎日jpは、ヤフーのアド・ネットワークに加入して広告を配信している。アド・ネットワークとは、複数のメディアサイトをネットワークして広告受注を請け負い、広告を配信するサービスのこと。多数のアクセスを集めるメディアサイトをネットワーク化することで広告媒体としての価値を高めることができ、広告主にとっても、一つのアド・ネットワークに広告を発注するだけで多数のメディアサイトに広告を配信できるため、手続きがラクになるメリットがある。ヤフーのアド・ネットワークには、毎日.jpのほか、「YOMIURI ONLINE」(読売新聞社)、「ORICON STYLE」(オリコンDD)など、ニュース系、エンタテインメント系を中心に約50社のメディアが加入している。

 ヤフー広報は「個別のパートナー企業の広告配信状況について公にはコメントできない」と回答を避けたが、広告主企業がネットユーザーから抗議を受けていることをヤフーやメディアレップに伝えたことで、毎日jpへの広告配信を一時的に停止する判断を下したもようだ。

 影響はアド・ネットワーク経由の広告だけにとどまらない。これからピークを迎えるお中元商戦に向けて企画していた「お中元特集」ページは、出店企業が次々と撤収したことで、商戦本番前の7月4日に閉鎖に追い込まれた。

 また、ポータルサイト「goo」の子供向けポータル「キッズgoo」では「全国版の新聞」のディレクトリから、毎日jpが一時的に削除された。gooを運営するNTTレゾナントの広報は、「キッズgooは子供向けのページのため、(不適切な記事の配信元にリンクを張ることは)相応しくないと判断した」と説明する。

 こうした“騒ぎ”になった経緯や追加処分の可能性について毎日新聞社に尋ねたところ、「7月中旬に調査結果を公表する予定」(広報)との回答だった。

 だがネット上で既に流れた悪評のつめ跡は大きい。ヤフーで「毎日新聞」と検索すると、「毎日新聞」とともに頻繁に入力された同時検索語が表示される。そこには、「侮辱記事」「低俗」「悪行」など、ネガティブなキーワードが並ぶ。グーグルの同時検索語は反映されるまでやや時間がかかるため、ほとぼりが冷めるころになって同様のキーワードが並ぶ可能性がある。

 大半のユーザーが検索エンジン経由でWebサイトに訪れる中、ユーザーと企業ブランドの最初の接点となる検索結果ページに悪評が残ることは、ブランド力を低下させかねない。不祥事対応を誤ると、その傷は長くネット上に残る。ネットの影響力の大きさを改めて実感させる結果となった。

(小林 直樹=日経ネットマーケティング

この記事を読んで改めて毎日.jpを確認すると、綺麗サッパリと言うか、どこを開いても広告は毎日だらけになっており、まさに結果としての毎日.jpを見る事が出来ます。唯一企業広告的なところは、「PR」という通販のページで、7/10時点では「夏を快適に過ごす爽やかファッション」の特集だけです。考えてみればこのページも唯一残っているだけに、スポンサーへの運動の標的にいつなるかわかりません。既に着々と地道な運動が行われている可能性があります。なんと言っても

    これからピークを迎えるお中元商戦に向けて企画していた「お中元特集」ページは、出店企業が次々と撤収したことで、商戦本番前の7月4日に閉鎖に追い込まれた。
「PR」ページだけがいつまでも見逃されるとは思いにくいところです。日経記事ではこの影響はあくまでも、
    一時的
つまり「そうは続かない」の観測をしています。この観測の背景はネットの熱しやすく醒めやすい特性を踏まえたものかと思います。たしかにネットの特性としてそういう面はありますが、もう一つ、ネットの特性を忘れているように思います。ネットでの騒ぎはしばしば「祭り」という表現がなされます。「祭り」とはどこからともなく参加者が湧いてきて「ワッショイ、ワッショイ」と盛り上がっていくことです。

この「祭り」がどれだけ盛り上がるか、いつまで続くは「燃料」補給の問題が大きく関ります。燃料とは、新たな話題が提供されて、さらなる関心を引き寄せる事です。その辺は毎日新聞も心得ているみたいで、同業他社は要請されたのか「身内の庇いあい」意識なのかはわかりませんが、不自然なほどの静寂を保っています。ネットに関しても工作員の出没は愛嬌ですが、大手ポータルサイトにニュース供給を盾に脅迫している噂が流れています。もちろんあくまでも噂です。そのため今回の日経記事などはむしろ例外的存在で、同業他社についての工作はほぼ完璧のように思われます。

同業他社への工作は見事に成功しているようですが、肝心の毎日新聞は燃料の補給に関してかなり無神経のように思われます。決定的に火を燃え上がらせた「厳重な処分」による社長や重役昇進もそうですし、社員に対する誹謗中傷への法的対抗手段の宣言もそうです。ネットの祭りを早く終わらせたいのなら、もう少し賢明な手段もあったと思うのですが、「これでもか」と感心するぐらいの燃料補給を行ない続けています。

さらに毎日新聞社は新たな燃料補給を計画しているようです。

    こうした“騒ぎ”になった経緯や追加処分の可能性について毎日新聞社に尋ねたところ、「7月中旬に調査結果を公表する予定」(広報)との回答だった。
この調査結果とは謝罪広告有識者による第3者機関云々の話に出てきたところで、具体的には「開かれた新聞委員会」の事を指します。ネットで探すとキャッシュをわざわざ示しているのは既に削除されているからです。新聞社サイトでは記事削除がかなり早いのですが、特集記事はわりと長いことが通常多いものです。特集記事は6/7付の記事のようですから、異常に早い印象です。もうこの程度の事は燃料にもならないかもしれませんが、「開かれた新聞」委員会の座談会 その2の文末にこんな記載があります。

■開かれた新聞委員会■

 ◇三つの役割

 毎日新聞の第三者機関「開かれた新聞」委員会は(1)人権侵害の苦情への対応をチェック=記事によって当事者から人権侵害の苦情や意見が寄せられた際、社の対応に対する見解を示し公表する(2)紙面への提言=報道に問題があると考えた場合、意見を表明する(3)メディアの在り方への提言=よりよい報道を目指すための課題について提言する−−という三つの役割を担っています。今回は(2)と(3)で意見を聞きました。記事による人権侵害の苦情や意見は各部門のほか、委員会事務局(ファクス03・3212・0825)でも受け付けます。

座談会は2回まで行なわれていますが、どうやら基本的に3回までの予定だったようです。3回の理由は「三つの役割」なるものがあり、それぞれについて1回づつ行うと考えられるからです。そして予定されていた第3回のテーマが、

    人権侵害の苦情への対応をチェック=記事によって当事者から人権侵害の苦情や意見が寄せられた際、社の対応に対する見解を示し公表する
ありゃまあ、タイムリーと言うかブラックジョークのようなテーマであった事が分かります。おそらくですが、3回の特集の予定であったのに前2回の特集を削除してしまったのは、第3回が出来なくなった事情によるものと考えられます。別にそのままやっても良さそうなものですが、中止になったのはやはり新代表取締役社長の指示でしょうか。もちろん真相は分かりません。

この「開かれた新聞」委員会の委員ですが、

    柳田邦男委員(作家)
    玉木明委員(フリージャーナリスト)
    田島泰彦委員(上智大教授)
    吉永みち子委員(ノンフィクション作家)
こうなっています。ちなみに毎日新聞側の出席者ですが、

朝比奈豊主筆菊池哲郎取締役▽伊藤芳明東京本社編集局長▽倉重篤郎同編集局次長▽河野俊史同編集局次長▽磯野彰彦同デジタルメディア局次長▽小松浩政治部長▽逸見義行経済部長▽小川一社会部長▽広田勝己地方部長▽渡部聡写真部長▽吉田弘之外信部長▽岩松城西部本社報道部長▽冠木雅夫「開かれた新聞」委員会事務局長

ちゃんと朝比奈豊氏、磯野彰彦氏が名を連ねていますが、長谷川篤氏は参加されていないか欠席されています。人事異動があったので毎日新聞側の出席者の面子はやや変わるかもしれませんが、基本的にこういうメンバーで行なう第3者機関による「追加処分」は良質の燃料になる可能性は十二分にあります。間違っても代表取締役社長を懲戒免職勧告にするみたいな適正な処分は出てくるはずもありませんから、非常に楽しみです。


それと謝罪広告にも

ご意見は、「開かれた新聞」委員会事務局(電子メールt.media@mbx.mainichi.co.jp、ファクス・03・3212・0825)へ。

こう謳われているのですが、剣呑な噂が流れています。これは実際にご意見をメイルで送られたさぼり記様のエントリーからです。

この電子メールアドレス宛にメールを送ったら、SPAMが来るようになった、という指摘があった。

それはいくらなんでもないだろう、と思ったのだが、念のため試してみることにした。

ここまでの文中にあるような、「なぜ、子供の親達は怒っているのか、何を危惧しているのか、毎日新聞の今後の対応はどうしていくべきか」について、「開かれた新聞」委員会への提言という形で、罵倒や中傷なしに丁寧にまとめたものを書き、普段休眠させてある(つまり、SPAMなどによる汚染が一切ない)メールアドレスから、送信してみた。

ところが、そのメールを送信したその当日から、夥しい量のSPAMメールが、そのメールアドレス宛に送信されてくるようになった。

この記事をどれほど信用されるかは各自の御判断にお任せしますが、さぼり記様の話は「そういう噂を聞いて実行したら、その通りになった」の体験談ですから、信憑性はある程度以上あると考えています。


毎日新聞サイドとしては「開かれた新聞」委員会の結論でこの騒動に終止符を打つ積もりだと考えています。この後は何を言われても「最終判断が下された」として知らぬ存ぜぬで押し通す算段とも考えています。根回しどころか、最終報告書をすべて手前味噌で書いて用意していても不思議無い機関ですから、調査結果自体には毎日新聞は一片の不安も抱いていないはずです。

ただし「一時的」に広告を差し止めているスポンサーは相当注目しているはずです。毎日の調査結果が変態記事騒動を終息に向かわせる内容であるかどうかです。スポンサー企業の苦情受付と言うかお客様相談室も相当悲鳴を上げています。広告を出すだけで苦情が押し寄せるだけではなく、不買運動の可能性さえ起こしかねない情勢ですから、またも毎日が火に油を注ぐ調査報告を出せば広告出稿の判断について慎重にならざるを得なくなります。

毎日が調査報告でネットにまたもやガソリンをぶちこむ結果になろうものなら、「一時的」が必然的に長期化します。長期化すればどうなるかですが、ネットの祭りが鎮静化した頃を見計らって広告を出すだけで、その事が新たな燃料補給になってしまいます。では、完全に忘れ去られるぐらい長期に広告出稿を見合わせれば、今度は毎日に広告を出さないが固定してしまいます。そういう風にネット広告自体がシステムが組まれてしまうからです。

私は毎日新聞を購読していませんので、紙媒体の広告がどうなっているかは存じません。ただネット広告への出稿停止はボディーブローのように紙媒体の広告にも影響してくるでしょう。ネットは熱しやすく醒めやすいのは間違いではありませんが、ときに異常に執着して祭りが続く事があります。結果としての毎日.jpが、結果としての毎日新聞になるかどうかの試金石がもうすぐ出てくるので非常に楽しみです。


しかし5回も毎日変態記事事件を書いて思うのは毎日新聞の危機管理の拙さです。毎日新聞も他社の不祥事の記事を多々書き、対応の不手際をコテンパンに叩きのめしていたはずです。根本的には情勢判断の甘さ、そこからくる初期対応の拙さ、説明不足、姑息な隠蔽工作、開き直り姿勢・・・毎日新聞が不祥事を起した企業に対して「やってはいけない」と指摘した行為のオンパレードです。

その中でとくに致命的なのは「厳重な処分」をすると発表しておきながら、ほんの数日後に昇進人事を平然と行なった無神経さです。昇進人事をせめて1年遅らせ、対外的には例の甘い処分にしておけば、ここまで祭りは盛り上がらなかったのは毎日新聞関係者以外の衆目の一致するところです。毎日.jp上で内定を発表していた新役員人事記事を削除した時点でそうなる事を殆んどの人間が予想していたにも関らず、「まさか」の昇進人事を行なったのですから、この結果はその時点で約束されていたと考えられます。

たかが英文web記事のコラムと取るか、大新聞社の大不祥事と取るかは人により変わると思いますが、大不祥事と取る人間がここまで多い事を毎日新聞は少しは認識すべきかと思っています。新聞は情報を売る商売であり、商品の価値は掲載されている言説で評価され、その言説の価値は新聞社ではなく読者が判断すると言うことです。