毎日.jp閉鎖報道に毎日新聞が抗議

3日続きで毎日ネタで食傷気味かもしれませんが、ニュースも夏枯れ状態ですから、我慢してお付き合いください。そこそこはおもしろい話です。まずですが、とりあえず背景は毎日変態記事問題があり、そのうえでtechnobahnが8/12付で、

毎日新聞がオンライン版毎日新聞となる「毎日jp」の閉鎖を検討していることが12日、関係者の証言により明らかとなった。

 オンライン版毎日新聞の英語版コーナー「WaiWai」で事実には反する低俗的な記事を長年に渡って掲載していたことに関連して、ネットを中心とする幅広い層からの反発が生じていることを受けてのもので、毎日新聞の営業関係者は匿名を条件にインタビュ−に応じて「来春になっても事態が沈静化しない場合は『毎日jp』そのものを閉鎖することも検討課題に上っている」と述べた。

 ここにきて毎日新聞がオンライン版の閉鎖を検討する状況となったのは、「WaiWai」における低俗記事掲載問題の余波が一向に解消する見通しとなっていないことが背景。ネット上の掲示板には「毎日jp」の時事解説や一般記事が多数、無断で転載されると同時に「毎日新聞が書いても説得力ゼロ」「お前が言うな」といった書き込みが連なる状況が続いており、ネット上の反毎日的世論を沈静化させるためには「毎日jp」の閉鎖もやむを得ないという声が社内からは上がってきているとしている。

 大した収益を上げていないオンライン事業の不祥事のため、肝心の紙媒体の広告営業にまで大きな影響が生じる事態となっていることなども「毎日jp」の閉鎖論が浮上してきた背景となっているようだ。

 毎日新聞の営業関係者によると、事態が一向に沈静化しないことに関して、ここにきて上層部の間においても問題の余波を懸念する動きが拡大。しかし、6月28日には社として正式な謝罪を行い、関係者の処分を含む対応策の発表は行ったということもあり、この上、何ができるのか対応策には苦慮しているとしている。

 同じ関係者は「WaiWai」の一コーナーの問題がここまで大問題化した背景には反毎日的世論を形成しようとする敵対勢力の存在があるといった陰謀説も社内ではまことしやかに噂されているとも述べた。

 毎日新聞は2004年までは自社サイト上でニュース記事の提供を行ってきたが、黒字化が困難な状況となったことから、2004年4月からはマイクロソフトと提携することによって「msn」のサイト上で、「MSN毎日インタラクティブ」という名称でニュース記事の提供を行う方向に切り替えた。しかし、マイクロソフトとの蜜月関係もマイクロソフト産経新聞社との提携に乗り換えたために破綻。昨年、10月からは改めて独自のサイト(毎日jp)を立ち上げてオンライン事業の再展開を進めていた最中の問題発覚ともなる。

この記事に関しての反応は「姑息な尻尾きり対策」であり、「この程度で鎮静するかどうかの観測気球」だろうと言われ、「どうせ毎日.jpを閉鎖しても、すぐに新たなウェブサイトを立ち上げるだけ」のミエミエの行為として冷笑されています。そんな事は今日のエントリーの主題ではないので注目しておきたいのは、

この記事の情報源は匿名です。そりゃそうで毎日新聞社員が実名でこんな発言をすれば、毎日以外の会社なら懲戒処分、毎日なら懲罰的昇進を食らってしまいます。情報源を明示せずに報道する手法は決してルール違反ではなく、明示する事により情報提供者に迷惑がかかるときには、「情報筋」とか「関係者筋」みたいに取材源をぼかします。これはある程度確立した報道手法であり、もちろん毎日新聞も常用しています。格好よく言えば「取材源の秘匿」になります。

この毎日.jp閉鎖については変態記事問題への対策の一環であり、報道記事もあくまでも選択枝の一つとして検討されているとしています。客観的に見てもそういう選択が検討されてもおかしくない情勢であり、本当に閉鎖するかどうかの決定は別としても、毎日新聞社員の中にそういう考えを持つ者がいてもなんら不思議ありません。むしろ誰一人いないほうが不自然とさえ言えます。techonobahnは毎日.jp閉鎖を毎日新聞が決定したと報じたわけではなく、

    毎日jp」の閉鎖論が浮上してきた
閉鎖も検討した方が良いのではないかの意見があると報じているだけです。閉鎖の意味するものは毎日がWebから完全撤退するとも解釈できないことはありませんが、ネット時代にそんな事をするのは新聞社として狂気の沙汰であり、むしろリニューアル、すなわち看板を付け替えて再出発を検討していると考えるのが妥当です。こういう批判かわしの手法も常套手段であり、検討だけならやって当然ですし、そういう事をまったく考慮していないと言う方が、むしろ怠慢と言うか不自然になります。

ところが毎日新聞はTechnobahnに抗議Faxを送付しています。これについての8/13付けtechnobahn記事ですが、

毎日新聞は13日、本誌12日付け記事「毎日新聞、反発を受けてオンライン版『毎日jp』の閉鎖を検討」と題した記事に関して抗議と訂正を求める書簡をテクノバーンに送付した。

 書簡の中で毎日新聞は「『毎日jp』を閉鎖する予定もなければ、閉鎖を検討した事実もありません。『毎日新聞の営業関係者』が誰を指すかは不明ですが、社内で取材の応じた者はおらず、事実無根の記事で、業務に多大な支障が出ています。記事掲載にあたり、取材もありませんでした。(中略)繰り返しになりますが、昨日以来、事実無根のこの報道のために振り回され、業務に支障がでています」と述べて、「毎日jp」の閉鎖報道を真っ向から否定した。

 テクノバーンは前日12日付けで「毎日新聞がオンライン版毎日新聞となる『毎日jp』の閉鎖を検討していることが12日、関係者の証言により明らかとなった」と報じていた。

毎日新聞による抗議文は弊社、テクノバーン宛てにファックスで(タイムスタンプは8月13日16:00)で送信されてきたものとなります。しかし、実際には抗議文は毎日新聞社側のミスにより弊社とは関係のない他社宛て送信、この他社のご好意により弊社宛に再送されてきたものとなります。毎日新聞社側のミスとはいえ、ファックスの取次ぎをしていただいた他社におかれましてはご迷惑をおかけいたしましたことをここに謹んでお詫びいたします。画像を拡大する

Faxの誤送付の件は愛嬌として、毎日の抗議の趣旨は、

  • 毎日jp』を閉鎖する予定もなければ、閉鎖を検討した事実はない
  • 毎日新聞の営業関係者』が誰を指すかは不明だが、社内で取材の応じた者はいない
  • 記事掲載にあたり、取材もない
毎日新聞はこの抗議を大真面目に行っています。本当に大真面目に行なっています。ここで「閉鎖を検討した事実はない」は表向きの公式見解でしょうからまず置いておくとして、残りの2つは笑わざるを得ません。単純に突っ込んでおきます。
  • 毎日新聞の営業関係者』が誰を指すかは不明だが、社内で取材の応じた者はいない


      technobahn記事が明記したとおり「匿名を条件」の取材です。どこの世界に「匿名を条件」で取材された事を、会社に尋ねられて「実は私が取材に応じました」なんて言うでしょうか。これはマスコミの人間で無くとも会社の尋問にはシラを切ります。そういうシラをきられた調査結果を根拠にする事の愚かしさに、毎日新聞は気が付いていないようです。


  • 記事掲載にあたり、取材もない


      本当に毎日新聞はマスコミかと疑いたくなるような代物です。毎日も含むマスコミが内密に関係者の取材を行なうのは、ごくありふれた取材手法です。これまで「衝撃の証言」とかとして、対象となる会社に断り無く取材活動を星の数ほど行なっています。いや、ここの部分はそう解釈するのではなく、そういう内密の取材活動と別に毎日新聞に直接取材が無かったことを問題視しているのでしょうか。つまり報道対象の会社に直接取材することなく記事を書くのはルール違反であると。
technobahnの記事は一種の観測記事です。客観的情勢から「ありそうな事」についての予測と補足証言で構成されています。こういう記事は不祥事問題では通常乱舞します。相当エエ加減な内容のものから、かなり核心を突くものまで様々です。不祥事を起した会社はそういう観測記事の乱舞への対応に頭を痛め、とくに内容が余りにもエエ加減なものには抗議を行ったり、時に訴訟に及ぶ事があります。ただ抗議したり、訴訟に及ぶ事は稀です。行なうとしても、事がすべて落ち着いて事実関係が明瞭になってからです。騒ぎの渦中に下手にそんな動きに出れば、「開き直り」とか「お前が言えるか」のバッシングの嵐をマスコミが煽りまくるので、ひたすら耐えることになります。

毎日はこの程度の観測記事にも耐えられないようです。もっとも耐える必要は本来ないので抗議しても全然構わないのですが、抗議内容があまりに杜撰です。あの程度の内容で黙らせる事が出来るのであれば、不祥事発生時の企業防衛は格段に容易になります。もっとも今後の毎日新聞は、同様の抗議が報道に対して行なわれたのであれば、すぐさま反省して押し黙る事を表明しています。毎日が変態記事問題を越えて生き残ってもこの事は忘れないようにしましょう。

もう一つこの抗議書簡で不思議な点があります。

昨日以来、事実無根のこの報道のために振り回され、業務に支障がでています

これは報道機関同士のもめ事ですし、言うまでもなく毎日新聞は巨大マスコミですから、「報道に振り回され」「業務に支障が出ている」のなら、自らがこの事を否定する行動に出ないのが極めて不思議です。不祥事を起した企業は反論したくても反論できない状態に追い込まれて苦悩するのですが、毎日は自前と言うか本業として報道機関です。事実に反する観測記事が流布されたのであれば、真っ向からこれを否定する自社記事を報道するのがもっとも正統的な対応です。そうですね、

    毎日jp」を閉鎖するとの報道が一部マスコミにありましたが、これは事実無根であり、毎日新聞は「毎日jp」をこれからも堅持発展させていきます。
この程度の記事をサッサと流して否定すればよいかと思われます。コソコソとFaxを送ってもみ消し工作なんかをすれば、かえって「やっぱり毎日jpの閉鎖は本当らしいぞ」の憶測が強くなるのは、マスコミ人ならイロハの「イ」のように思うのですが、毎日新聞の常識は異なるようです。


もう一つこれに付け加える興味深い話として、

    毎日新聞の営業関係者』が誰を指すかは不明だが、社内で取材の応じた者はいない
この部分に対する補足情報です。ここの論理は上記したように「調査していなかったから虚偽情報である」です。ところが同じように情報源が特定できない情報に対する行動の証言があります。8/11付けCNET Japan毎日新聞社内で何が起きているのか(下)で取材に当った佐々木俊尚氏は、

実はこの取材を行った数日後から、このインタビューを私が行ったという事実が、外部にあちこちでリークされていることがわかった。それが毎日社内からリークされているのかどうか、またなぜそのような情報が出回っているのかという理由もわからないのだが、「佐々木と毎日が何らかの裏取引をして、インタビュー記事をストップさせることに合意した」というような事実ではない偽の情報が、ひとり歩きしてしまう恐れがある。

この佐々木氏の「実は」とは、

実は私はこの時期、毎日新聞社から内容についての了解を得た上で他媒体に掲載するという約束のもとに、同紙デジタルメディア局幹部に長時間のインタビューを行っている。このインタビューの中で幹部は、実に率直にかつ真摯に、今回の事件の背景や事後対応の内情などについてつぶさに語ってくれた。ただこのインタビュー内容については、残念としか言いようがないのだが、現段階では公表できない。毎日の本当の内情を幹部みずからの言葉で語っており、驚くほどに興味深い内容で、絶対に公表すべき内容だと私は考えているのだが、しかしこのインタビューに関しては、最終的にゴーサインは出なかった。

佐々木氏は毎日新聞幹部に毎日新聞了解の下にインタビューを行い、インタビュー内容については発表しないという約束をしています。もちろん内容の公表だけではなく、インタビューを行った事も公表しない約束であったにも関らず、佐々木氏がインタビューを行い、内容を公表しないことを合意した事がジャジャ漏れになっている事を証言しています。本当に素晴らしい情報管理体制である事が分かります。

さらに

彼らは前回のエントリーに関しても、「佐々木の記事が新たな燃料投下になった」とカンカンに怒っているらしい。実際、私が前回のエントリーを公開し、その中で「現在は毎日jpへの広告が復活している」という趣旨のことを書いたことで、毎日新聞の広告主に対する電凸が再び行われ、広告は再びストップした。だから彼らは「佐々木は毎日を潰そうとしている」「社内の事情も知らないくせに妄想を書きやがって」と私を激しく非難しており、「誰が情報を佐々木に漏らしているのか」という"犯人"探しも行われているようだ。これらをすべて、私は毎日社内からのメールで知った。

興味深いのは、

    「誰が情報を佐々木に漏らしているのか」という"犯人"探し
この「犯人」とやらは社内調査により見つかったのでしょうか。見つからなかったら毎日新聞の論理からすれば「調査していなかったから犯人はいない」になります。犯人調査はTechnobahnの例を参考にすれば、8/12に報道されて8/13には抗議書簡が届くぐらいですから、1日程度で必要にして十分なものが行なえると毎日新聞自ら立証しています。そうなれば、遠の昔に犯人の有無は確認されているかと思われます。

今日のは軽い話ですが、毎日新聞が企業防衛に動くたびに「よりによって」クラスの燃料投下を次々に行なっていくのは感心するぐらいです。誰かが「毎日新聞は攻撃能力は強大だが、防御能力は無残なほど貧弱だ」としていましたが、言い得て妙な気がします。