「疾病又は事業ごとの医療体制について」(平成19年7月20日医政指発第0720001号)を読んでも、1/8付のAsahi.comを読んでも思うのですが、救急医療に問題があることだけはどうやら認知しているようです。救急医療の問題へのアプローチの考え方は幾つかあるのですが、厚労省の見解はどうもこんな感じです。
-
前提として充足している
-
急性期を乗り越えたものの、いわゆる植物状態等の重度の後遺症がある場合や、合併する精神疾患によって一般病棟では管理が困難である場合、さらには人工呼吸管理が必要である場合などに、自宅への退院や他の病院等への転院が困難とされている。
-
コーディネーターが調整する
後方病床にいかに余裕があるかは厚労省の政策に如実に表れています。余っている療養病床を38万床から15万床(20万床に修正の情報もあり)に削減し、老健、特養の建設制限も非常に厳しいものがあります。療養病床削減にしても、削減した分を老健、特養に転換するとは口先では唱えていましたが、実際は従来からの計画枠以上のものは認可していないのは周知のとおりです。
一般病床については「過剰」一辺倒の姿勢で、療養病床の次の段階での削減計画があることを隠しもしていません。おおよそ現在90万床あるのですが、これも約半数程度に削減する計画を着々と進めています。とにかく後方病床は2/3から1/2に「余っているから」削減するのが厚労省の既定方針です。
そこまで減らせる後方病床が現時点でも「充足していない」と大変な事になります。過剰分が蛛の巣を張るような状況でなければならない事になります。厚労省の見解で過剰で余っている後方病床ですから、上流のICU等からは「いくらでも」患者を流れ込ませる事は当然可能な事となり、それが目詰まりを起すのはシステムが悪い事になり、目詰まりを解消するにはコーディネーターさえおけばOKになる理屈です。実に完璧な理論です。前提さえ間違っていなければです。
コーディネーター役に誰がなるかですが、ソーシャルワーカー(MSW)が一翼を担うのは間違いないでしょう。そのMSWの本音をもう一度紹介すると、
MSWとして仕事をしているものです。植物状態ならまだしも、人工呼吸器を装着して長期療養が必要な患者を受け入れしてくれる病院なんてほとんど無いですよ。あっても、年単位で待ったり、ものすごく患者側の負担が高かったり。そちらも整備しないで何を言ってるんだという感じがします。
現場を知る医師としては「まさにその通り」と私は思うのですが、私の知見がひょっとしたら狭いのかもしれません。このコメントを頂いたMSWの能力が低いか、勤務している地域柄が特殊である可能性も否定は出来ません。実はMSWの転院仲介なんて右から左にヒョイとヒョイと出来る程度かもしれません。もしそうであれば、かえって良かったと思うのですが、私の実感に近いこのコメントの方が正しければ大変な事が起こるかもしれません。
厚労省の基本見解は後方病床は過剰なぐらい余っており、大幅に減らすことでやっと適正化です。つまりいくらでも後方病院に送れる余地があるというのが公式見解です。いくらでも余地があるはずなのに、そこに患者を送り込むことが出来ずに救急の上流に患者が蓄積し、機能不全が起これば調整役たるコーディネーターが無能であるとの烙印が押されます。出来て当たり前なのに出来ないとは信じられないとの理由からです。
三次救急などは「必ず受け入れる」と通達されていますから、担当するコーディネーターはそれこそ365日24時間、新たな救急を「必ず受け入れる」ように患者を下流の医療機関に流し続けなければなりません。一瞬でも滞留して機能不全を起せば責任問題に発展しかねません。なんと言っても下流の医療機関は過剰なぐらい余っていると公式には見なされているからです。
う〜ん、私はコーディネーターなんて引き受けたくないですね。コーディネーターが怠慢だから救急治療に支障を来たし、治療が手遅れになったなんて訴えられるのは御免蒙りたいからです。それでも救急問題はコーディネーターがすべてを救う方針で地域医療計画は建てられますから、それこそ頑張って下さいと声援だけは贈っておきます。