現場からの改善案

奈良死産報道は私の予想を遥かに超えて続いています。どういう意図がマスコミにあるのか分かりませんし、意図なんてものがあるのかないのかもわかりませんが、飛び火しながら続いています。ただ論調は微妙に変化しているところがあり、当初のヒステリーのような医師への精神論は徐々に薄まり、産科だけではない、救急医療のシステムが崩壊しつつある事を憂うものが増えつつあるようにも感じます。

現在のところの私の見解は「藪をつついたら蛇が出た」です。「たらい回し」が奈良でメジャーになったので、「うちの県は大丈夫」と少し調べてみたら、「うちも危ない」。当初の報道予定は「当県は大丈夫」の予定が「当県も奈良状態」となり、ふと見回すと、どこもかしこも奈良状態。周産期搬送だけではなく、他の救急搬送も実態は奈良状態、愕然としてどこに「敵役」を持っていこうか迷走状態のように見えます。はっきり言って「周回遅れ」の狼狽に見えます。

ではトップランナーはどこまで考えているかです。今日紹介するのはBermuda先生、産婦人科残酷物語という大人気ブログを書かれている先生です。ご存じない方は過去ログも目を通して頂ければ幸いですが、簡潔な文体で鋭い観察をいつも行なわれています。それだけでなく、苦しい産科の実情を、前向きに明るく切り開こうとされている姿勢は尊敬に値します。

Bermuda先生の勤務されているのはどうやら東京の産科。よく地方と都市と言う表現がされますが、東京は都市の代表にして筆頭、極論すれば日本では都市が東京だけで、残りは地方とまで言える大都市です。厚生労働省の見解でも、初歩段階の医療崩壊ウォッチャーでも「最後まで大丈夫なところ」である東京の産科に御勤務です。

そのBermuda先生が奈良の死産騒動の産科サイドから考えられる現実的な改善案を提案されています。もう一度、念を押しておきますが、Bermuda先生は私なんかと違い、遥かに医療に対し、産科に対し前向きな先生です。

あらゆる妊婦さんを
単純に
病状だけでトリアージして
必要なら三角搬送も辞さない…。
そんなら上手くいくよ。ぜってー。

ちなみに
三角搬送とは
母体搬送で受けて
赤ちゃんが生まれたら
赤ちゃんだけ他の施設に送る…だとか

重症の母体搬送を受けて
より軽症で安定している母体を
更に他の施設に移動させるってこと。

全員が覚悟すればできるよ。

Bermuda先生は現場の最前線で奮闘されていますから、産科の実情を骨身に沁みてご存知です。東京であってもマスコミ用語の「たらい回し」は頻発しています。医師への精神論で解決しない事は常識以前にご存知ですし、産科の戦力が10年単位でパワーアップするどころか、やせ細るだろう事も十分御承知です。それでも「たらい回し」は医師の倫理から起してはならないことですし、医師なら現実的かつ具体的なな改善防止策を持たねばならないともされております。

Bermuda先生の改善案の前提は「産科医の数の充実はない」が前提と考えています。現状の戦力のままで、産科需要を満たすなければ仕方が無いとの現実的判断です。いくら政府が「産科医を増やす」と約束しても、数年で増えることはありえない。産科医よりほんの少しだけ「不足」が表面化した小児科医も、スローガンとして「増やす」は何度も何度も行なわれましたが、確実にやせ細っているだけです。

現状の戦力でさらに戦力を搾り出すためには、システムの根本的な改善が必要と言う事です。基本的に医療機関ごとに独立しているシステムを根本的に改め、産科施設全体で極限の「ネットワーク化」するしか無いというものです。出産にあたっては「かかりつけ医」の枠さえ取り払い、純粋に医学的重症度でトリアージを行い、トリアージに従って振り分ければ、もう少し余力がでるんじゃないかという事です。

そのためには妊婦や産婦を重症度に応じて、ドライに医療機関を移すことが必要です。リスクの低い妊婦や産婦は、リスクの高い妊産婦が出現すれば容赦なく押し出され、他の医療機関に転送されます。生まれた子供も同様で、重症度トリアージに応じて生まれた病院から他の病院にトットと搬送されていく事になります。

こうする事により現在のシステムで無駄になっている部分が活用され、そこから搾り出せる力を利用すれば、「たらい回し」騒動への改善が出来るはずだということです。その代償と言うわけではありませんが、

搬送不可になる可能性は低くなるでしょう。

その代わり
もし
自分が
例えば妊娠中に入院していたとしたら
より重症の患者さんのために
ベッドを空けなければいけなくなるかもしれない。

更に
自分が予定帝王切開で産んでも
すぐに
赤ちゃんだけ
他の病院へ搬送されてしまうかもしれない。
より重症の赤ちゃんのために
ベッドを空けてあげなきゃだから。

Bermuda先生の改善策が実現しても「たらい回し」を「ゼロ」にする事は出来ないかもしれませんが、現状よりはかなり改善されるだろうと考えます。これに広域連携を組み合わせればさらに効率的になります。

この改善策の内容も衝撃的ですが、これが実現してもまだ足りないんじゃないかも不安を抱いています。東京なら可能でも、もっと産科医不足が深刻な地方では、この改善策も行なう余地が残っていないんじゃないかと言う不安です。三角搬送がBermuda先生の改善策の基本ですが、地方に行けば三角すら形成できない状態への懸念です。

現実はどこまで厳しいか、医療関係者でさえすべてを把握しきれていないと思っています。