世間の認識

もう一年以上前のエントリーですが士気と題して書いた事があります。たった1年前とは思えないぐらい牧歌的な内容で、私も去年の今頃はそんな事を真剣に主張していましたし、それこそ正論だと信じ込んでいました。当時は今なんかと較べるのがおかしいほど辺境ブログでしたが、珍しくコメント欄が盛り上がっています。当時のヒットエントリーかと懐かしく思っています。

内容はお読みなればそれだけの内容で、今時に書いたら周回遅れと嘲笑されるだけですが、こんな古い話を引っ張り出してきたのはネタが無いからが本音ですが、寄せられたコメントをふと思い出したからです。医療関係者でない方からの反論と受け取ればよいと思いますが、引用してみます。

医師でない職業に従事する人も、過酷な条件下でなおかつ士気を失なわずに働いている人がたくさんいます。現実に医師のかたがたは過酷な条件下で大変なお仕事をされているということは理解できます。医師は金の亡者、みたいな俗説のために、現場の大変さがなかなか一般に理解されない苛立ちも理解できます。

しかし、上にかかれている「過酷な労働条件」は、医療現場以外の社会のあちこちに見られることで、書いてある内容を読むかぎり、医者だけが特別にたいへんだというふうには思えないのです。

一番即効性があるのは労働環境を「世間並」にすることだと書かれていますが、世間並ってどういうことでしょうか。私の知っている世間では、サービス残業はあたりまえ、納期が近づけば休日返上、会社にとまりこみが普通、それを拒否したら職場にいられなくなる、という状況です。

文面から、とても誠実なお人がらがうかがえるだけに、世間の(医者でない)労働者はのほほんと暮しているに違いない、それに比べ聖職である医者はたいへんである、という無意識のエリート意識が透けてみえます。現実には、のほほんとしている医者だって、たくさんいますよね。

いずれにせよ、ご自身の中に、医者は特別、医者は他の職業より偉い、という意識はないですか? 私は技術者ですが、自分の中に「技術者は営業より偉い」という意識が少からずあります。そのような意識は、自分のプライドとして持っている分にはいいですが、外に向くとろくなことがありません。

このブログを読んでいて奇妙に思えることのひとつに、医療現場の厳しい現状を訴えられるなかで、看護師や技師がたいへんだ、という記述がほとんどないことがあります。そういうところからも、このブログに対して医師以外の人が抱くであろう感想は「たいへんなのはわかるけど、やっぱり自己中心的だよね、この人」という以上にはならないのでは?

これに対する反論はもう良いでしょう。最近ではこの程度の事では反応が極端に鈍くなりましたからね。当時はそれでも頑張ってやっていたのが微笑ましく思ったりします。わざわざこんなステレオタイプの反論コメントを引用したかですが、こういう反論自体は今でも普通にありうるということです。再反論する医師の意識は1年で大きく変わりましたが、反論する方はここから殆んど進歩していないと感じています。

もちろん個人としては大きく意識が変わられた方もおられます。ただ医療が危機にあるそうだと聞いて、議論に参入される方はまずこの段階を通られるように思います。ある程度仕方が無いとは思うのですが、スッと通り抜けられたら良いのですが、結構執着される方も少なくありません。また通り抜けられる方より、新規参入される方が多くて、現在でも大きな意見として頑とそびえています。

1年経って世間はようやく「医療がどうも危ないらしい」とほのかに感じるぐらいまで意識がユックリ進みました。感じ始めたので医療問題の情報収集を行ない、意見を表明します。ただし多くの方が入口で上記のコメントのような反応をされる事になります。その数は日々急増しており、急増するが故にそういう意見が多数意見であるから「正しい」と認識される方がどうも多いように感じています。

1年前は関心すら低くて意見を寄せる一般の方はまだ少なく、医師サイドも危機感に意気軒昂でしたので、これを説得しようと言う動きが盛んでしたが、医師のそういう啓蒙意識が低下するのと反比例するように、入口でのステレオタイプの主張が急増しているのは困った現象です。困ったとは言うもののなす術が無いというところです。1年前なら燃料として十分通用した上記コメントですが、現在となっては煽りや釣りとしてスルー対象に成り下がっています。医師サイドの考えと世間サイドの考えの意識のズレが大きくなりすぎて、接点すら無くなってきたのではないかと最近考え込んでいます。

これは考えすぎで世間はそんなに愚かではなく「わかる人」が確実に増えて、上記のステレオコメントの主張は少数意見になりつつあるのでしょうか。私にはそれが楽観的過ぎるような気がしてならないのですが、世間の認識の方向がどのように動きつつあるのか、私には少し見えにくくなっています。