15人のユダ書・医師繁忙理由編

今日こそホノボノ系を久しぶりに書くのだと心に決めていたのですが、いざ書こうと思ったらあんまり書いてなかったのでギコチなくて筆が滑らず、仕方がないのでユダ書でお茶を濁します。

何日か空いたので15人のユダ書(医師の需給に関する検討会報告書)の位置付けと基本構図をまとめておきます。

おおよそ上記のような見解がまとめられており、この見解は聖典として厚生労働省の医療危機対策のすべてを縛り付けています。それがどれほどの影響力を示すかの一つの例が新医師確保総合対策に現れています。なんと言っても医師は過剰に向かいつつあるのですから、医療の更なる充実と、地方僻地の医師不足は調整機関を作りさえすれば速やかに解消する結論となります。
  • 都道府県が地域医療対策協議会を設置さえすれば、医師が過剰な病院から足りない病院に配置転換して医師不足は解消。
  • 医師は余りつつあるから24時間コンビニ小児科救急を実現できて当たり前。
各項目についての論評は重複するので簡単に言えば、医師は余剰に向かいつつあるのに医師不足が問題化したり、24時間の小児救急ごときが出来ないのが不思議であるから論理展開が為され、すべての厚生労働省見解の聖典となっているということです。

それでも現実に医師の繁忙感が強くなっているの実情には完全に目を瞑れなかった様で、その事について一部だけ触れています。病院での状況について書かれている部分を見ていきます。

病院に従事する医師数を、平成14年及び平成16年医師・歯科医師・薬剤師調査で比較すると、平成14年159,131 人、平成16年163,683 人と2年間に約4,600 人が増加している。

この書のお約束ですが、まず「増えている」と強調する部分から始まります。これは各種分析の筆頭に必ず書かれる枕詞のようなものです。それでも繁忙感が強くなった理由として、

このように病院における医師数が増加しているにもかかわらず、一方、病院における勤務の繁忙感が経年的に強まっていることが医療現場から強く指摘されている。医師の勤務状況調査の結果によれば、3年以上同一の施設に常勤で勤務している医師に3年前と比較した勤務負担を尋ねたところ、67.7%が「勤務負担が増えている」と回答している。その理由(複数回答)としては、

  1. 病院内の診療外業務(院内委員会活動・会議など)(62.3%)
  2. 教育・指導(49.4%)
  3. 外来患者数の増加(または減少)(32.7%)
  4. 外来患者1人に費やす時間(28.9%)
が挙げられている。

ここでも微妙な味付けが為されており、理由の3番目の括弧のなかの「または減少」がどういう意図で書き込まれているかに悪意を感じます。次は少数意見として書かかれているものです。

その他、以下のような理由があることも指摘されている。

  1. 患者の入院期間の短縮及び患者の高齢化による診療密度の上昇
  2. インフォームドコンセント、医療安全に対する配慮の強化
  3. 医療技術の向上と複雑化、多様化
  4. 1年365日24時間どんな時間でも専門医に診てもらいたい等、患者側の要望の拡大
  5. 医師が作成する文書量の増大
  6. 医師の専門性の細分化による医師相互での診療依頼(コンサルテーション)の増加等

おそらくアンケート調査の項目設定に問題があると思うのですが、項目だけはある程度実相を映していますが、比重の置き方にかなり操作的な側面があると感じざるを得ません。

ところで上記項目で肝心なものが抜けているのに気がつかれた方も多いかと思います。言うまでもなく医療訴訟の重圧です。これもさすがに黙殺する事は出来なかったようですが、触れ方に周到な工夫を凝らしています。繁忙感の理由の主なもの、少数意見と列挙し、その後はこんな項目が唐突に書かれています。

入院患者に占める65 歳以上の割合は平成2年には32.5%であったが、平成14 年には45.2%となるなど、入院医療における高齢者の割合が増加している。

その後に医療訴訟についても触れる「まとめ」的な項目に入ります。

また、上記のような病院における繁忙感に加え、勤務に見合う処遇が与えられていないこと、さらに訴訟のリスクにさらされていることも含めて社会からの評価も低下しつつあるという感覚が病院診療の中核を担う中堅層に広がり、病院での勤務に燃え尽きるような形で、病院を退職する医師が増加しているとの指摘がある。

この項目を「まとめ」と取るか、ユダ書作成議論での異論への妥協、配慮のための追加項目と取るかは微妙ですが、あくまでもこの最後の項目に挙げられた

  • 繁忙感の増加
  • 勤務に見合う処遇の不足
  • 訴訟リスク
この3つの理由で退職する医師が増えていると聞いているの「伝聞形」である事に注目してもらいたいと考えます。

もう一度構成を見直すと

  1. 勤務医は医師需給計画に従って計算通り増加中である。
  2. それでも医師は繁忙感が増えたと文句を言っている。
  3. 繁忙感、処遇不足、訴訟リスクを理由に逃散する医師があると聞いている。
この書がどんな代物かは付き合ってきてわかってきたつもりですが、これを聖典として医療問題の解決を考える限り、何も解決しない事だけは良くわかります。解説するのも虚しくなってきていますし、この程度の書にもさほど驚かなくなった自分が少し怖くなっています。事態は来年度に向けてなんの救いもなく驀進していくという事です。