地域医療支援中央会議

この会議は安倍総理が医師確保対策に投入すると宣言した100億円のうち18億円の巨費が投じられる新規事業です。予算は来年度予算ですが、先行して会議は行なわれています。まずメンバーです。

内田健夫社団法人日本医師会常任理事
大橋俊夫全国医学部長病院長会議会長
梶井英治学校法人自治医科大学 卒後指導委員長(兼)地域医療学センター教授
小山田惠社団法人全国自治体病院協議会会長
近藤俊之千葉県病院局長(病院事業管理者)
武田弘道全国厚生農業協同組合連合会 経営管理委員会会長
久道茂宮城県病院事業管理者
松原了社会福祉法人恩賜財団済生会常任理事
矢崎義雄独立行政法人国立病院機構理事長
山田史日本赤十字社事業局長

この会議の位置付けは今年4月1日付で改正される医療法にあります。この中央会議の開催に辺り委員に配布された資料のうち医療法改正及び医師確保対策について の中に地域医療確保のための都道府県による「医療対策協議会」と項目を立てて解説されています。医療対策協議会の法的根拠として、

  • 地域について必要とされる医療の確保に関する事項に対し必要な施策を定めるために、都道府県が中心となって地域の医療関係者と協議を行う場
  • 実体上都道府県に設置されていた協議会を法定化。平成19年4月1日施行。
中央会議とは都道府県の協議会の国レベルの統括組織のようなものと考えれば良いかと思います。もちろん新医師確保総合対策の目玉商品の一つで、そこに単純に根拠を求める解釈も成立します。

何をするところも具体的に書かれています。

  • どの地域にどれだけの医師がいるか、どの地域にどれだけの医療に対するニーズがあるかについて、現状分析。
  • 地域の医療に対するニーズの把握と、ニーズに応じた短期及び中・長期的な効率的な医療供給体制のあり方についてのコンセンサスの形成。
  • 上記の医療供給体制に応じた医師の配置。これを実現するため、医師の多い医療機関と医師の少ない医療機関との間で、都道府県が主体となって医師派遣の調整を実施。
  • 僻地等への医師派遣についてのシステムの検討。
皆様ご存知の通り、こういう官製会議は結論ありきの会議です。具体的な項目のさらに具体的な内容について、第1回議事録で医政局指導課医療計画推進指導官 針田哲氏が基調講演と言える発言を行なっています。これも会議にあたり配布された新医師確保総合対策に書いてある事が中心となっています。まず短期及び中・長期的な効率的な医療供給体制ですが、

短期的対応として、

  • 医局に代わって、都道府県が中心となった医師派遣体制の構築
  • 国レベルでの病院関係者からなる中央会議設置により都道府県の医師派遣などの取組をサポート
  • 小児救急電話相談事業(短縮ダイヤル「♯8000」)の普及と充実
  • 小児科・産科をはじめ急性期の医療をチームで担う拠点病院づくり
  • 開業医の役割の明確化と評価
  • 分娩時に医療事故に遭った患者に対する救済制度の検討
長期的対応として医学部卒業生の地域定着のため
  • 都道府県による地域定着を条件とした奨学金の積極的活用(医学部における地域枠)
  • 医師不足深刻県における暫定的な定員増(対象10県で最大10人を10年間。 医師養成の前倒しという趣旨から、地域定着が図られない場合の見直しを条件)
  • 医師不足都道府県への自治医科大学の暫定的な定員増(最大10人を10年間)
おそらく勤務医の皆様がもっとも目を引くのは短期的対応の「医局に代わって、都道府県が中心となった医師派遣体制の構築」であるかと思います。これもさらに具体的に書かれていまして、都道府県における地域医療対策協議会の活性化のタイトルでまとめられています。
  • 地域医療対策協議会を活用し、大学を含む地域内の医療機関や関係者が参加して、地域に必要な医師の確保の調整や、医師のキャリア形成を行うシステムを構築する。
  • 都道府県のこのような取組を推進するため、


    • 大学や異なる開設者との調整を通じて地域医療の在り方を助言するアドバイザーの派遣
    • 国からのアドバイザー派遣とあいまった地方厚生局による実地指導等


  • 都道府県の先駆的な取組に対する支援(再掲)を行う。
  • 地域医療対策協議会を通じた都道府県の取組について、医師配置の状況等に関する調査分析、医師派遣等の需給調整システムの構築のための取組等についての支援を検討する。
  • 都道府県の取組の好事例の収集・紹介、手順の明確化等技術的助言を行う。
ちなみに地域医療評議会のメンバーもほぼ決まっていまして、
法定事項として、その他の例として、
  • 都道府県の医政担当部局
  • 民間も含めた地域の中核的な病院や僻地等の病院の院長
  • 医療を受ける立場にある住民
またおそらくこれも関連すると思いますが地域医療提供体制の再編・ネットワーク化等と題してのものも書かれています。
  • 地域医療の望ましい在り方を検討するに当たり、国として、都道府県が官と民の役割分担を含めた地域の医療提供体制の在り方を検討するためのガイドラインを整備する。また、公立病院の在り方や民間医療機関等との連携を念頭に置いた地域の公立病院等の再編・ネットワーク化についても、先進事例を踏まえつつ検討方向を示す。
  • 上記とともに、小児救急医療や周産期医療など地域に必要な医療を確保する観点から、医療資源の集約化・重点化に資する措置について検討する。
どうやら柳沢答弁で全国の医師の失笑を買ったネットワーク化の淵源がこれのような気がします。

今日もまとまりが悪いのですが、去年の今頃に都道府県知事の命令で医師派遣を云々の焼き直しと言うか現実化の施策のような気がしています。どうも資料を読んだだけでは判然としない部分があるのですが、法制化された地域医療協議会の人事権にどれだけの法的強制力が伴うかになります。おそらく明記していないのは「強制」とすると憲法問題まで発展するため、「強力な勧告」という形にし、強制力はないが事実上従わざるを得ないような方策を摸索しているような感じがします。

実質こんな協議会で医師が動くとは思えませんが、思い通りに動かなかったら、保険報酬へのリンクとかなんとかの第二弾を来年以降に盛り込むような算段です。強制ではないが限りなく強制に近いようなメリット、デメリットを散りばめる感じです。ここまで書けば嘆息や憤慨の声を漏らす医師が多いかと思いますが、そんな絵に描いた餅が実現するかとなれば可能性は低いと考えます。

なんと言ってもこのプランの根底は緩やかに医療崩壊が進行する前提で立てられています。少なくとも5年単位ぐらいでは見た目の状態はさして変わらないだろうの認識は濃厚ににじみ出ています。その上、大前提は医師は偏在であり、誰も知らない医師過剰病院、医師過剰地域からの医師の融通が基本計画です。しかし現状はご存知の通り、春人事以降の医療情勢は予断を許さない状態になっています。崩壊が急速に進行すればこんなノンビリした計画は即座に吹き飛びます。

もうすぐ4月、カウントダウンの音は大きくなっています。