無過失補償制度と医療機能評価機構

何回か扱った無過失補償制度のお話。この話題は算数が大変で苦手なんですが、我慢して書きます。去年より情報が増えてきたので追補版です。とりあえずの引用記事は1/29付YOMIURI ONLINEです。

まず財源は分娩毎に徴収する事になったようです。当初の案では国庫からの3割程度の支出も書かれていましたが、綺麗サッパリ消え去っています。そうなると徴収料は2〜3万円となっており、年間出生数が110万程度ですから、年間の財源は220億〜330億円、だいたい300億円ぐらいになります。

対象者は脳性麻痺患者(CP)だけでスタートするようです。この制度が出来るときに遡及措置がどうなるかを注目していましたが、保険システムにすることでこれは完全にシャットアウトと解釈してよいようです。発達外来を担当していた小児科医が心配していた「もらえた人」「もらえなかった人」のお母さんが外来で同席する事態はもうすぐ実現しそうです。発達外来の待合室だけではなくその他の施設でも同様の事がもうすぐ起こります。

素直な疑問は年間予算300億円で賄えるかどうかです。CPの発生率は1000人当たり2〜4人とされています。これは前に各種統計を調べたのですが、少なくとも2人以上は確実でなおかつ増加傾向であるのは確実です。そうなると年間2000人以上の対象者が発生する事になります。補償額は2000万〜3000万円となっていましたが、2000万としても400億円が必要となり足りません。

ただ今回参考にしている記事には書いてありませんでしたが、当初の構想ではCP全員に補償となっていたのが、続報では障害2級以上の者を対象に限定するとありました。CPでの2級以上の年間認定数のデータが見つからなかったのですが、おそらく厚生労働省がCP発生率としていた2000人当たり1人が概算になるのではないかと推測できます。そうなると対象者は2000人から500人に減ります。500人に減れば補償額を3000万円としても年間150億円程度で賄えます。あくまでも推測ですが、補償額2000万〜3000万円とは1級が3000万円、2級が2000万だと考えられます。1級と2級の比率のデータも無いのですが、仮に同じ比率としても平均補償額は2500万となります。そうすると年間の補償額は130億円程度に収まる事になります。

年間の財源が300億円、補償総額が130億円となれば差し引きされた170億円はどうなるかですが、補償の運用は民間保険会社に委託するプランのようですから、2割程度のマージンを保険会社が支払額に対して取るとすれば、保険会社への支払いが210億程度になり、支払い額と差し引いて40億円がまず消えます。そうなると残りは130億円となります。

130億円はどこに行くのでしょうか。どう考えても無過失補償機関と無過失補償機関が運用するとされる第3者審査機関の運用費となります。この両機関は医療機能評価機構が中心となり、保険会社、日医、厚生労働省が参加するとなっています。運用費として130億円が十分なのか不十分なのかは即断できませんが、補償額に対して運用費の割合が異様に多いような気がします。補償総額と運用費が同じなのはどう考えても多すぎると考えます。

運用機構が必要なものですが、基本は書類仕事です。そうなると事務や諸々の経費は2割の30億円もあれば十分でしょう。それでも後100億円以上残ります。職員が1000人でも平均年収1000万円となります。500人なら2000万円です。そんなでかい組織が出来るのでしょうか。

たしか医療機能評価機構は病院機能評価事業で年間100件程度の審査を行なっていたはずです。1件の平均が150万として1億5000万円程度の収入がまずあります。これだけなら大した事はありませんが、賛助会員制度も取っています。おそらく認定を受けた病院の殆んどが支払っているでしょうから、この数がおよそ2000。年会費は何をするのか知りませんが40万円。そうなると賛助会費は年間8億円以上はあり、あわせると10億円程度の収入があるわけです。10億円程度で年間100件の病院機能評価の審査を行なえるのですから、単純計算ですがこれが5倍になっても50億円程度で可能なはずです。ところがCPの審査はこの2倍は必要と言う事のようです。

2500万円の補償を決定する審査に2500万円の調査費用が必要な補償制度をどう思いますか。