夢の年収による美しい国

経済財政諮問会議なるものが前政権時代から幅を利かしているの周知の通りです。何をするところかと言えば、民間メンバーと称する財界代表と、政府の政策に忠実な御用学者が集まって論議するところです。その論議の結果は行政府に大きな影響をもたらします。日本は三権分立はいえ、立法府の多数派が行政府を握るため、行政府>立法府の関係があります。そのうえ現在の与党は衆議院で2/3を越える圧倒的多数派を占めています。そういう中での経済財政諮問会議の重みは相当なものです。

先日御用学者の御高見として政府の経済聖典である新自由主義経済を盲信する御用学者の意見をエントリーしました。その中での一節を再掲します。

規制緩和は弱者に厳しいと批判されるが。

「真の弱者が誰であるかを見極めなければなりません。改革への批判は弱者の仮面を被った強者の論理である事が多い。例えば今、労働市場で規制を強めて、労働条件を正規雇用者にそろえようとうい動きがある。これを単純にやれば企業にとってコスト上昇の要因となり、結果として非正規雇用者の雇用機会を狭める恐れがあります。長期雇用で守られている正規労働者という強者だけではなく、若者や女性への影響も十分に考えて制度の議論を進めるべきでしょう。」

非正規雇用者の賃金は正規雇用者に対し低く、同じ量と質の労働をしても待遇が不平等であるの意見はあり、これをなんとかしなければの議論はあります。この議論はあくまでも正規雇用者の賃金が標準で、非正規雇用者の賃金をそれに近づけようとするものだったはずです。またこの議論では長期にわたり非正規雇用者に正規雇用者同等の労働を課し、実質正規雇用者と仕事上では同じ扱いのものを正規雇用者と扱うようにすべしのものだったと記憶しています。

ところが御用学者は正規雇用者を増やす、ないしは賃金を正規雇用者なみに引き揚げると「非正規雇用者の雇用機会を狭める恐れがあります」と論じ、「長期雇用で守られている正規労働者」を雇用問題の強者とし、これを規制緩和により弱体化させるのが正論だと主張しています。なにかどう読んでも口の中がジャリジャリするような意見です。

774様から頂いた情報に経済財政諮問会議の正式民間メンバーの意見が12月18日付の毎日新聞に掲載されています。全文を引用します。

労働市場改革:正社員待遇を非正規社員水準へ 八代氏示す

 経済財政諮問会議の民間メンバーの八代尚宏国際基督教大教授は18日、内閣府労働市場改革などに関するシンポジウムで、正社員と非正規社員格差是正のため正社員の待遇を非正規社員の水準に合わせる方向での検討も必要との認識を示した。

 八代氏は、低成長のうえ、国際競争にさらされた企業が総人件費を抑制している中、非正規社員の待遇を正社員に合わせるだけでは、「同一労働・同一賃金」の達成は困難と指摘。正規、非正規の待遇を双方からすり寄せることが必要との考えを示した。

 また、八代氏は現在の格差問題が規制緩和の結果生じた、との見方を否定し「既得権を持っている大企業の労働者が、(下請け企業の労働者や非正規社員など)弱者をだしにしている面がかなりある」と述べた。

 八代氏は、労働市場流動化のための制度改革「労働ビッグバン」を提唱しており、近く諮問会議の労働市場改革の専門調査会の会長に就任する予定。【尾村洋介】

毎日新聞 2006年12月18日 20時31分

御用学者の主張を先に聞いていたので卒倒はしませんでしたが、相当驚かされたことは確かです。

経済財政諮問会議の方針は明瞭に賃金水準を非正規社員なみに引き下げる事で、正規社員と非正規社員の待遇の格差を無くそうと言う事が分かります。さらに御用学者の意見とあわせると、この民間メンバーだけの個人的主張ではないのははっきり分かります。つまり公然たる賃下げです。非正規社員ワーキングプアとか身分の不安定さとかの問題も賃金が一緒になればすべて解決と理解すれば良いのでしょうか。

これに労働側の強硬な反対があっても実現させるのを既定路線にしているホワイトカラー・エキザンプション(WE)が組み合されれば、経営者たる財界人は実に素晴らしい果実を手に入れることになります。WEの対象年収が最終的に幾らになるかは不透明ですが、経営者側の主張は400万でした。400万でなにがホワイトカラーだとは誰でも感じますが、正規社員の賃金を非正規社員まで引き下げるのならば理屈は分かります。これからの会社員は年収400万円が夢の年収になると言う事です。夢の年収を手に入れる代償は無制限の残業、無制限の長時間労働でもって報いられ、賃金評価は成果主義ですからこういう時に頻用される簡単な物指しである「前年度比」一つで成果の評価はいくらでも抑えられます。

400万が夢の年収になるのですが、夢の年収で夢の生活が送れる社会になるのでしょうか。400万で夢の生活をおくるためには物価が大幅に下がる必要があります。ところが政府は巨額の財政赤字の解消や景気振興のために、物価を上げる方向に誘導する事に必死です。つまり経済政策はインフレ路線です。簡単に言えば物価は上げる方針です。

400万がサラリーマンの夢の年収になり、物価は上げる方針、また税金も企業は下げる方針が目白押しですが、個人に関しては消費税まで含めて増税路線まっしぐらです。もちろん社会保障費はどんなに政府がケチろうとも団塊の世代の高齢化で着実に増えます。私たち日本人は実に素晴らしい「美しい国」を約束してくれる政府を戴いている事を忘れずにいるべきでしょう。