待遇改善

伊関友伸氏のブログは情報収集が手早くよく参照にさせて頂いています。スタイルとしては一つの記事を掘り下げるというより、埋もれそうになる記事を出来るだけ発掘しておこうという風に受け取っています。本当は掘り下げたいのかもしれませんが、あれだけ扱うと手が回らないのが本音かもしれません。ですので普段はそんなに激論になる事は珍しいのですが、宿直明け医師原則休み 神戸市立病院など 待遇改善「引き留めたい」では珍しくといったら失礼なのですが相当な議論が展開されています。

エントリー自体は9割が元記事の引用ですが、冒頭に批評としてssd氏のブログが使われています。ssd氏は斜に構えた姿勢から鋭い切り口のエントリーをいつも読ませていただくのですが、普段読みなれていない人間なら相当辛口の批評に受け取ったかもしれません。もっともネット医師から見ると「切り口はシャープだけれど、言っている事は当たり前」なんですが。

伊関氏のこの日のエントリーが盛り上がったのはラン様という方からのコメントからです。おそらく書き込んだ御本人はここまでの反発があるとは思ってなかったかもしれませんし、予期して書いたのであればある意味アッパレです。それも一発書き込んだだけではなく非常に頑張って反論していますから、伊関氏のブログのようなメジャーなところでは議論がいやが上にも活性化します。

知ったかぶりで書いていますが、コメント数が200を超えていますので、とても全部読みきれてはいませんが、平行線を辿った議論の根っ子はほぼ冒頭部分に言い尽くされていると思います。論点を整理するためにまず記事内容をまとめてみます。

  • 宿直勤務翌日を原則休みとする。
  • 翌日も勤務を続けた場合は、その分を時間外勤務として手当を支給する。
  • 宿直手当も、これまでは一律2万3900円だったが、実働時間に応じて時間外勤務手当を支給する方法に変更。徹夜勤務の場合、1回当たり最大約1万円の増額となる。
神戸市としては空前絶後の大盤振舞をしたつもりでしょうが、ネット医師から見れば出来の悪い冗談のような制度です。少なくともこの制度が出来るまでは、
  • 宿直勤務翌日は当然のように勤務であった。
  • 翌日も勤務を続けた場合は、当たり前の日勤であった。
  • 宿直手当23900円で徹夜「勤務」も当直扱いをしていた。
よくこれだけの事を臆面もなく発表できるものだと感心するぐらいです。腐るほど引用している平成14年3月19日付基発第0319007号「医療機関における 休日及び夜間勤務の適正化について」に完全に違反しているのは言うまでもない状態です。平成14年に出された通達を完全無視して、これまで労務管理を行ってきた事をここまで堂々と公表する神経に驚かされます。神戸市の医師の労務管理には、労働基準法厚生労働省通達も他所の国の話である事が良くわかります。

付け加えれば神戸市自慢の「待遇改善」を行なっても違法状態は改善されていません。

  • 宿直勤務翌日を原則休みとする。


      宿直業務である建前を崩していませんので、宿直は勤務日には相当しません。宿直明けに休めば扱いは欠勤になるかと思います。欠勤はあんまりなので休日の振り替えになります。休日の振り替えとなれば、今度は休日に出勤しないと帳尻が合いません。月に4回平日に当直を行なえば翌日が休みになる代わりに休日に4回出勤しなければなりません。


  • 実働時間に応じて時間外勤務手当を支給する方法に変更。徹夜勤務の場合、1回当たり最大約1万円の増額となる。


      時間外勤務を従業員に課す場合、三六協定の締結が必要で、協定の内容は事業所ごとに細かい内容は異なるとされますが、原則は「労働基準法第37条において、時間外に勤務させた使用者は、労働者に2割5分以上(休日労働の場合は3割5分以上)の割増賃金を支払わなければならない」となっています。

      ここで徹夜勤務とは約16時間の勤務になり、10000(円)÷16=625(円/時間)すなわち時給625円の計算になります。625円に2割5分の割増を含むとすれば、神戸市の医師の時給は500円になります。1ヶ月の正規の労働時間を1週間40時間とすればおおよそ170時間程度となり、1ヶ月の給与は170×500=85000(円)です。

      最低賃金の規定は地域ごと、産業ごとに異なりますが、ちなみに兵庫県最低賃金は683円でであり、へそで茶を沸かす待遇改善といえます。また当直中に勤務が発生した場合は当直料とは別に時間外勤務を支払うものであり、時間外勤務の分だけ当直料が相殺される事はありません。さらに言えば徹夜勤務があることを想定する業務は当直業務として認められず交代性勤務にする事が求められ、違反するところは当直業務の許可が取り消されます
これぐらいの事はネット医師にとって常識レベルのお話ですし、すべて法律に準拠したゴチゴチの正論です。ところが神戸市関係者ではないかと推測されるラン氏の反論が壮絶です。

神戸市が支払っているのはあくまで「宿直手当」であって、「時間外手当」ではないですよ。

神戸市は公立病院の勤務実態を判断して、通常勤務よりは密度が低い、どちらかといえば時間的拘束に近いと考えて宿直手当で対応しているのでしょう。皆さんは神戸市の公立病院の実態を実際にご覧になられて批判されているのでしょうか。

もちろん病院ですから緊急事態の発生もあるでしょう。その場合、実態が通常勤務であれば、「時間外手当」や「深夜手当」を支給すべきですが、その分、「宿直手当て」は減額されます。しかし、これを細かく行うと事務処理が大変煩雑です。そこで、一般職員に比べてかなり高額の宿直手当を支払うことで折り合いをつけているのだと思います。

こんなことは、日本国中、どこの官庁、民間企業でも行われていることだと思います。失礼ですが、医師の方は社会経験に乏しくご存知ないのでしょう。市の会計課だって、こんな計算に一々つきあうほど暇じゃありません。皆さんのおっしゃっているのは、子供がゴネているように聞こえますよ。日本中の職場がみんなこれでやっているんです。皆さんの言う通りにしていたら、国そのものが成り立たなくなってしまいます。世間で医師に対する同情が薄いのはこの辺に原因があるんじゃないでしょうか。伊関さん、あなたは元自治体職員だったんでしょう。どう考えておられるんですか。

それに、神戸市の医師を間抜け呼ばわりして退職をそそのかすssdさん、それにヨイショする伊関さん、このブログは医療崩壊を食い止めるために立ち上げたブログでしょ?公立病院の医師を小バカにしてやめさせようとするのは趣旨に反しませんか?

ネット医師を説き伏せたいのであればもう少し勉強からされてから発言されるべきでしょう。ネット医師は本来の当直業務がどんなものであるかの厚生労働省通達を熟知しています。さらにラン氏の100万倍ぐらい現実の当直業務の実態を骨身に沁みるぐらい知っていますし。日々染み込まされています。その上で、

    神戸市が支払っているのはあくまで「宿直手当」であって、「時間外手当」ではないですよ。 神戸市は公立病院の勤務実態を判断して、通常勤務よりは密度が低い、どちらかといえば時間的拘束に近いと考えて宿直手当で対応しているのでしょう。皆さんは神戸市の公立病院の実態を実際にご覧になられて批判されているのでしょうか。
申し訳ありません。ラン氏よりも良く知っていますし、御不足とあれば現場レポートを募集させていただいても構いません。集めれば凄まじいのがテンコモリご覧いただけると思います。
    実態が通常勤務であれば、「時間外手当」や「深夜手当」を支給すべきですが、その分、「宿直手当て」は減額されます。しかし、これを細かく行うと事務処理が大変煩雑です。そこで、一般職員に比べてかなり高額の宿直手当を支払うことで折り合いをつけているのだと思います。

    こんなことは、日本国中、どこの官庁、民間企業でも行われていることだと思います。失礼ですが、医師の方は社会経験に乏しくご存知ないのでしょう。市の会計課だって、こんな計算に一々つきあうほど暇じゃありません。
「事務処理が大変煩雑」はこの後のコメントにも出てくるのですが、「事務処理が大変煩雑」という理由でどんぶり勘定で賃金を支払う事が免責されるルールが神戸市にはあるようです。また「一般職員に比べてかなり高額」も物凄い理由で、当直料も労働基準法に明記されており、当直する該当職種で従事する者の平均の日割り賃金の1/3です。一般職員を比較に持ち出す事がそもそも詭弁であり、この論法を持ち出したいのなら、前提が一般職員と医師が同じ給与でなければなりません。そんなに神戸市の一般職員の給与は高いのですかね〜、そりゃ神戸市の財政も傾くはずです。

『実態が通常勤務であれば、「時間外手当」や「深夜手当」を支給すべきですが、その分、「宿直手当て」は減額されます。』もある種の脅迫ですが、通常勤務であれば当然ですが交代勤務となり、交代勤務に必要な医師を確保しなければなりません。そうなる事は医師にとって宿直手当が減ることよりも望ましい事であり、本来そうあらねばならない事です。

    皆さんの言う通りにしていたら、国そのものが成り立たなくなってしまいます。世間で医師に対する同情が薄いのはこの辺に原因があるんじゃないでしょうか。
どうでも良い事ですが、いくら匿名の本音だと言ってもここまで言い切られたら、神戸の公立病院に勤めている医師がよほどの間抜けという事になります。またラン氏の主張が公務員一般の認識であるなら、全国の公立病院に勤務する医師全員もまた間抜けになります。この論理で頑張られたら論議が盛り上がるのはよく理解できます。

当直を夜勤ではないと強弁したら論議は本当は終わりです。また当直明けを休日にするのなら、その分の人員の穴埋めを補充しないと意味はありません。

最後にこの制度に対する論評として

    日本医療労働組合連合会の池田寛副委員長は「勤務医の過酷な長時間労働は、医療の安全を揺るがしかねない問題。神戸市の制度見直しは先駆的で、ほかの病院も見習ってほしい」としている。
この程度が「先駆的」と絶賛するとは、日本医療労働組合連合会も医師として当てにならない団体である事を全国に発信しています。先駆的でも違法状態が解消されないとは楽しい待遇改善です。