医療危機の基礎知識1

福島の事件以来、医者のブログらしく医療ネタでおおかた続けているのですが、初めからそうであったわけでなく、むしろ医者のブログなのに医療ネタが少ないことに困っていました。医療ネタが少ない故に一般の方の読者もおられるのですが、私が血道を挙げて書きなぐっている医療危機の内容がわかり難いとの声なき声があるようです。たしかに医療と言う別世界の常識を踏まえて私は書いているのですが、一般の方には常識をお知りになるはずも無く、そこを理解してもらわないと危機の真相が良く分からないでしょうし、医療の危機も医者ばかりに訴えても実りは乏しいですから、基礎知識の解説をしてみようと思います。

今日のテーマは医者の人事システムです。医療関係者の皆様には、あまりにも大雑把過ぎると思われるでしょうが、理解してもらうために話を単純化しています。ただしそれでも時に話が複雑化するかもしれませんし、理解を超えることもあるかもしれませんが、できるだけ簡明に話を進めます。

なんと言ってもわかり難いのは医局人事システムだと思います。このシステムは一般の方の理解を頂くにはかなり手強いのですが、これをまず御理解いただけないと地域医療で始まっている医療危機が説明できません。従来の医局人事システムを説明します。

病院の医者の人事構成は一般企業とまったく毛色の異なるものです。一般企業であればその企業に就職するのですが、医者は違います。一般企業でも最近派遣社員というものが増えていますが、医者の病院での地位は派遣社員と考えてもらえれば一番近いかと思います。一般企業では派遣社員は一部に留まりますが、病院では院長以下全員が派遣社員で構成されていると考えれば分かりやすいかと思います。

派遣会社は大学病院の○○科教室です。この○○科教室が派遣会社の親玉であり、俗に医局と言われています。医局はいくつもの病院の医師派遣を請け負っています。派遣社員と考えた方が分かりやすいのは、医局は医師の意思での転属を基本的に認めず、派遣会社である医局の意思で医師の所属する病院を決めます。さらに定期的に移動させます。

医局が請け負ってる病院は国立病院、県立病院、公立病院、市立病院、私立病院など様々です。医局システムでは私立、公立の区別をせず、請け負った派遣先として病院を見ますから、医者は公立→私立、国立→市立という経営母体が違う病院を平気で移動していくのです。

このシステムが有力病院のほとんどに浸透していたため、医者は有力病院に勤務しようとすれば必然的に医局に属する必要があり、医局に忠誠を尽くす事により、有力病院のポストに派遣されるという事になります。また病院側は独自で医者を雇うと派遣会社である医局の逆鱗に触れますし、そんな逆鱗に触れるよりも、医局に医者の供給を丸投げしておけば、自分で医者を探したり、待遇交渉をする必要もありません。さらに言えば数年で医者が移動すれば退職金もほとんど払う必要も無く、人件費の節約にもなります。

このシステムは種々の問題を含みますが、それなりに実情にマッチして存在していました。国は医者不足の解消を目指すために各県一医大で医学部を作り、さらに私立の新設医学部も次々と作られたため、派遣会社たる医局は派遣先を懸命になって探し、また各地域にも病院が設立され、そこもまた医局による人事による医者を受け取る事によって診療体制を整備していきました。

医局と病院の関係は供給と需要が安定していればそれなりに機能します。弊害はもちろんありましたが、どんなシステムでも欠点の無いものは無く、システムに従っている医者も病院もこの不思議な慣習をさして疑問も無く、せいぜい必要悪とぐらいしか考えずに利用していたと思います。

皆様、医局人事システムがどんなものか少しは理解できましたか?つづきは明日。