旧聞ですが予算委員会答弁より

地域医療が危機的である、医師数が足りていないという認識はあるかという問いには、「あくまで総数は足りていて、偏在の問題と認識している」と回答。総数が足りるとする根拠は、以前の厚生労働省内での検討によるとしています。それに対して「外来患者数、入院患者数あたりの単純計算であって、手術、検査、当直の医師数は含まれていない」という私的には「細かな資料はないが、足りていると結論付けた」との回答でした。

 また「偏在の問題の解決のためには、大学に地元出身者枠を設けたり、小児医療などの分野で、センター化、集約化をすすめたい。ただ、地元住民は、自分の住む地域にそのセンターを求めるため、その理解を得ながらすすめたい。全国の人口5-6万規模の自治体全てに、万全の医療設備と医師を確保するのは不可能だ」としています。

3/12に行なわれた政府側の答弁の一節です。一節だけ取り上げて論評するのは問題を生じる事があるのですが、お役人の答弁としてはわりと明快に答えているので大きな問題にはならないと判断しています。

この一節の要旨をまとめると

  • 医者の数は総数として足りているし、足りてるから増やすつもりも無い。
  • 足りているが偏在化で地域医療では不足している。
  • 不足しているから地域医療の整備充実は難しい。
  • 難しいから5-6万人程度の自治体では医療確保は不可能。
もって回った言い方ですが、日本の総人口に対する医者の数は足りているが、地域医療を維持整備するには全然足りていない。足りていないどころか、維持自体が不可能な状態になっている。だから切り捨てる。と解釈すれば乱暴すぎるでしょうか。とくに最後の「人口5-6万規模の自治体全てに、万全の医療設備と医師を確保するのは不可能だ」はかなりの問題を含む発言だと私は感じたのですが、皆様いかがでしょうか。

現実を素直に認めた答弁であるとは思います。現状はそうなりつつあるものも認めます。地域医療の危機は一医師、一病院はおろか、それを抱える市町村、さらには都道府県の努力でも手の及ばない問題になりつつあります。そこまで危機的だということです。都道府県でも対処できない問題となると、問題は国まで遡ります。国がこの危機にどういう姿勢を見せるかが重要となります。

問題に対する回答の選択枝は現状追認か現状是正です。私は国民の健康を預かる厚生労働省であるなら、建前上でも現状是正を表明するものであると考えていました。現状是正は非常な困難を伴いますが、国民に平等な医療を提供すると言う前提から、姿勢としては現状是正を打ち出すのが自然と考えるのですが、答弁は現状追認です。

政府の意思が現状追認という事は大変なことを意味します。産科撤退が象徴的なんですが、内科や外科も地方の中核病院から続々と辞職し、さらにその補充が困難を極め、診療科縮小、病床縮小を余儀なくされているところが続出し始めています。これを食い止めるために、地方自治体は最後の手段として国への陳情を行なっています。ところが国の方針が現状追認であるなら、医師不在による地域医療の崩壊は国公認と言う事になります。

人口5万程度と言えば、平成の大合併で国が目指した最小の自治体規模です。もちろん地域事情でその規模に達しないところもありましたが、なんとか数合わせで無理したところも沢山あります。それでもその程度では国の方針として医療施設の確保は不可能であると言う事です。5万で足りないのならいくらなら整備するかは答弁では示されませんでしたが、憶測すれば10万単位をぐらいが想定されます。

兵庫県の北部に但馬地方と言うのが拡がります。おおよそ兵庫県の1/3ぐらいを占める広い地域です。ここもご多分に漏れず過疎と高齢化に苦しむ地域です。たしか但馬地方の人口は全部あわせて20万人弱程度。そうなれば集約化、センター化して残る病院はわずかに2ヶ所ぐらいになります。但馬地方はご存知かもしれませんが、中国山脈の東の端に連なる山岳地帯であり、隣町に行くにも山を越えて行く必要があり、冬はしばしば豪雪に閉ざされます。しかし国の方針では2ヶ所程度しか病院の必要性は認めないということです。

この辺の事情は長野や東北なんかでも似たような事情になるかと思います。現実は答弁の通りですが、現実を是正せず追認する国の方針に薄ら寒いものを感じたのは私だけでしょうか。地方にお住まいの皆様、自分の住んでいる自治体の人口をよ〜くご確認ください。10万以下ならあなたの通院されている病院はいつ消えてもおかしくありませんし、いくら署名を集めて陳情しても国は切り捨てる方針を明らかにしています。せめて自分のところに集約化してセンター化された病院を誘致する努力に切り替えた方が良さそうですよ。なんと言っても国の方針ですから。