休み明け

たった3日しか休んでいないはずなのに、一度休むとエンジンのかかりが悪くて困っています。週末の連休中には大した話題も無いだろうと多寡を括っていたら、思いのほかに多くて驚いたのと、手をつけるにも手間ひまがかかって今朝の時間だけではまとめきれません。そういう弁解をしておいて軽い話題でお茶を濁します。7/22付け読売社説より、

医師不足対策 増員だけでは10年かかる

 医師不足を解決するには、相当に思い切った対策が必要だろう。

 厚生労働省がまとめた「安心と希望の医療確保ビジョン」を具体化するための有識者会議が発足した。

 厚労省は新ビジョンで、医師の養成数をこれまでの「抑制」から「増員」へと方針転換した。

 医学部の入学定員を現在の約7800人から、どこまで増やしていくのか。有識者会議はまず、これを明示する必要がある。

 医師数の抑制方針がとられる以前は、最大で年間8300人の医師を養成していた。ピーク時の水準までは早急に回復させるべきだろう。その上でさらに増員するのか、展望も示さねばなるまい。

 だが、医学部の入学者が一人前の医師になるまでには、10年程度かかる。増員計画と同時に、即効性のある対策も不可欠である。

 喫緊の課題は、新人医師の臨床研修制度の改善だ。

 かつて新人医師の大半は、大学病院の医局で研修していた。しかし、専門分野に偏った医師が育つ弊害が目立ったために、一般病院でも研修できるようになった。

 若い医師に幅広い臨床能力を身につけさせるという、制度の目的は理にかなっている。

 ところが、研修医が予想以上に減って人手不足となった大学病院が、自治体病院などに派遣していた中堅医師を引き揚げた。

 これが急激な医師不足現象の大きな要因である。研修医の多くは都市部の病院を研修先に選び、医師偏在に拍車もかけつつある。

 これを改めるには、研修先の選択方法に工夫が求められる。各都道府県に満遍なく研修医が配属されるような定員調整が必要だ。

 また、これまで大学の医局に医師派遣を頼ってきた自治体病院に対し、必要な医師を配置する仕組みや組織作りも重要である。

 有識者会議は、診療報酬の在り方にも踏み込んでもらいたい。

 今日の医師不足は、言い換えれば「勤務医不足」だ。

 総じて勤務医は、開業医より収入が低く、長時間勤務で医療に従事している。産科や小児科、救急など、昼夜を問わず診察を求められる部門は過酷だ。耐えかねた医師が開業医に転身している。

 現状に歯止めをかけるには、勤務医向けの診療報酬を大胆に手厚くする必要があろう。開業医が交代で病院の夜間診療を応援する、といった取り組みにも、大いに報いるべきだ。

 本当に必要な医療に、財源を集中することが重要である。

大した事を書いているわけではないので私も軽く触れていきます。

医学部の入学定員を現在の約7800人から、どこまで増やしていくのか。有識者会議はまず、これを明示する必要がある。

えらく簡単に「明示」と書いていますが、日本に医師の需給に関する公式の見解は一つしかありません。ネット医師の間ではかの有名なになりますが、医師の需給に関する検討会報告書です。この報告書では執拗なぐらい「余る」と強調され、その余り具合は具体的には、

現状の医学部入学定員で推移すれば、無職や保健医療関係以外の業務に従事している医師を除いた全ての医師数(医療施設以外の従事者を含む医師数)は、平成27年(2015年)には29.9 万人(人口10万対 237人)、平成37 年(2025年)には32.6万人(人口10万対269人)、平成47年(2035年)には33.9万人(人口10万対299人)となると推計される。また、医療施設に従事する医師は、平成27年(2015年)には28.6万人(人口10万対227人)、平成37年(2025年)には31.1万人(人口10万対257人)、平成47年(2035年)には32.4万人(人口10万対285人)となると推計される。

数字だけ並んでいるのでわかりにくいで表にまとめると、

年度 医師総数 人口10万人対医師数 医療施設での人口10万人対医師数
平成27年(2015) 29.9万人 237人 227人
平成37年(2025) 32.6万人 269人 257人
平成47年(2035) 33.9万人 299人 285人


ここで医療施設以外の医師とは厚労省の医療技官も含まれるでしょうが、もっと単純に、結婚により引退したり、高齢や病気によりリタイアした医師もいるはずです。そういう医師の比率ですが、
    平成27年:4.2%
    平成37年:4.5%
    平成47年:4.7%
どこまで行っても5%弱しか臨床を離れないのが計算の大前提になっているのがわかります。この大前提の根拠ですが、

 前回は2010 より定年70歳を設けると推計していたことに対して「医師・歯科医師・薬剤師調査」における現在の回答状況及び就労状況にかんがみ今回は設定していない。

 女性医師の労働量の重み付けについて前回0.7と設定していたことに対し、今回は設定していない。女性医師の就業率は男性医師よりも若年で低めであるが、今回のタイムスタディで就業者については男女共労働時間が殆ど不変で、またパートタイマー割合もほぼ同数であったからという理由による。加えて労働時間の制限などについては需要の側で性別の相違は勘案されるので、供給モデルでは男女同等の扱いとした。

つまり

  1. 医師には定年と言う概念は無い
  2. 男女の労働量に差は全く無い
さらにと言ったら悪いですが、この報告書には医学部定員増による医師数の推計も書かれています。

モデル 定員数 2010 2015 2020 2025 2030 2035 2040
現行定員 7700 282 299 314 326 334 339 340
定員5%増 8085 282 300 317 330 340 347 350
定員10%増 8470 282 301 319 335 346 355 359
70歳定年 7700 275 292 301 305 304 304 304


70歳定年による概算は前回の医師の需給に関する検討委員会の数字ですが、正直なところ、こちらの医師推計数の方が説得力があるように感じます。70歳を越えても第一線で頑張っている医師も多数存じていますが、そうでない医師もまた多数存じています。医師だって歳を取れば体力は衰え、病気になる人が多くなります。働く気はあっても働けなくなる医師は必然的に増えます。本音を言えば70歳定年も結構高年齢の設定であり、ここまで高齢の医師の勤務はあくまでもオマケとして概算すべきかと考えます。

そうなれば現行定員のままでは2025年に医師数の人口あたりの増加は頭打ちになります。医学部定員を5%増やしても10%増やしても効果は見ての程度です。だからどうすると言う議論は今朝は控えますが、医師の必要数を「明示」するには報告書の「医師需給」に対してまず新たな見解が必要です。これが公式見解として鎮座する限り、医師の必要数はこの報告書の数字についての議論に終始し、一歩も踏み出す事が出来ません。

さらに言えば厚労相肝煎りのこの有識者会議ですが、医師の需給に関する検討会で座長を務められた矢崎義雄氏が頑張っておられます。検討会報告書の結論を否定することは矢崎義雄氏の面子をつぶす事になりますし、矢崎義雄氏はあくまでも検討会報告書の数字を根拠に頑張っておられます。検討会報告書の面子を潰さずに方針を立てるとなれば出てくる結論の範囲は自ずから決定します。

これについてネット医師の間では「エエンじゃない」が急速に増えています。こういう対策は2〜3年前にやっていれば非常に効果的だったと思っています。あの時期なら実効性の無いこんな対策でも歓呼の声で迎えられたと思います。ただしあれから医師も学習し、意識も大きく変りました。医学部定員増も無駄な対策とは言いませんが、今や姑息な小手先の方策に過ぎないというのが現在の認識です。医学部定員増の人数に対策の精力を費やす事は無駄であると考えています。

休み明けなので今朝はこの程度で・・・。