小泉 vs 岡田

「草の根たたき上げ」菅直人、「華麗なる一族鳩山由紀夫、そして「ジャスコ」岡田。言うまでもなく歴代民主党代表です。ちなみに現代表の岡田氏の名前は「克也」というのですが、どうしても思い出せず民主党のHPまで検索する羽目になりました。

この3人の真の政治的力量の差はわかりません。ここで言う「真」の力量とは、実際に政権を担当し、政策を立案し、それを遂行する能力を指します。しかし広い意味の政治的力量として、与党から政権を奪取する手練手管もまたこの範疇に当然含まれていると考えます。

そういう意味ではもっとも力量があったのは菅直人であり、もっとも手ぬるかったのは鳩山由紀夫でしょう。鳩山は代表時代、「失言宰相」森喜朗のたび重なる失言をとがめきれず、ノラリクラリとかわされ続け、結局総選挙でも追及しきれず代表の座を追われています。

一方の菅直人は別名「イラ菅」の異名どおり、火の出るような追求を行ないましたが、年金未納問題で自らの足許をすくわれ、これもまた代表の座を明け渡さざるを得なくなっています。小泉首相が「人生イロイロ」と煙に巻いたのとはえらい違いです。

現代表の岡田氏はどうでしょうか。どこまでも「まじめ」が身上らしい岡田代表はいかにも存在感が薄いのが特徴です。代表になってそれなりに日数が経っているのに未だに名前が覚えられていないのも存在感の薄さの証明といえます。

今回の郵政選挙でもその存在の薄さは際立っています。通常首相が解散総選挙に打って出る時には、政治的課題で与野党双方の対立激化で国会運営が行き詰まり、その是非を国民の意思に問う時に行われるものです。しかし今回はあくまでも与党内の対立激化による解散です。

もちろん前例はありますが、これまではそういう与党内の権力闘争は一方で野党の存在を際立たせ、「腐敗の与党」 vs「清新な野党」の構図に自然となり、そんなシチュエーションで与党が勝ったのは大平首相が急死した時のみだった記憶しています。

与党にとってはそれだけ不利な解散ですが、小泉首相の政局における手腕は驚くべきものがあります。自民党はこれまでも党内闘争の激化のために分裂選挙を行った事は幾度もありますが、反対派に対してここまで徹底的に報復した事は無かったと記憶しています。せいぜい公認を与えない、党としての応援をしないぐらいが関の山だったのですが、今回は反主流派のすべてに対立候補をたてて追い落としにかかっています。

選挙制度小選挙区時代になっているのに、与党が対立候補を立てれば野党を利するに決まってますし、その数も半端じゃありません。一見与党不利に見えますが、小泉首相のしたたかな計算がここまで来れば良く見えます。

対立候補の擁立方法も巧妙を極めています。「スター」小池百合子を刺客として送り込んで話題をまず盛り上げ、順次発表する事で常に世間の関心を引き続けています。真打というべき反対派の領袖とも言える綿貫、亀井両氏への擁立はジワジワと引き伸ばし、おそらく最後の最後のサプライズとしていると見えます。

これだけ郵政問題がマスコミの紙面を賑わうと野党民主党も郵政問題の土俵に上がらざるを得ず、上がってしまうとさして郵政問題には意見の無い民主党はかなり不利となります。岡田代表はできるだけ郵政問題を争点にしたくなかったようですが、小泉首相の巧妙かつ強引な戦略の前にイヤでも今回の総選挙は郵政民営化の是非を争う選挙になってしまっています。

まあ民主党も郵政問題について国会でひたすら「なんでも反対」路線しかしてこなかった報いが来たと言えます。記憶に間違いなければあそこの党も郵政民営化には基本的に賛成だったはずで、それが郵政問題で解散風が吹き始めると急に反対派の尻馬に乗ったというわかりにくさがあります。

郵政民営化問題のわかりにくさは、

  1. なぜ今の時期に政治的最重要課題として、解散総選挙までして成立しなければならないのか。
  2. 与野党とも郵政民営化は基本方針として必要と考えているのに、解散総選挙までして争う必要があるのか。
このふたつに尽きると思います。民主党が与党に対抗して提出したマニュフェストにも最後は郵政民営化する方針であると明記しているのですから、わかりにくさは相当なものです。つまり国会で郵政民営化に反対した民主党が勝利してもやはり郵政民営化をすると党の方針に掲げているのです。

岡田民主党の腰が定まらないのは今に始まった事ではありませんが、小泉首相の単純でわかりやすい選挙戦略に較べて非常に曖昧な印象を振りまいています。首相の「郵政問題での国民の意思を問う」との断定的な絶叫に対し、岡田代表の「他にも大事な事はある」ではインパクトは全然違います。「他にも」には年金や社会補償問題、中国や韓国との外交問題と言いたいのでしょうが、総花式の問題展開ではインパクトは放散してしまっています。

選挙なんて短期決戦です。選挙中に個々の候補の政治信条や人柄なんてわかりっこなく、所属する政党が何を目指しているかで有権者は判断します。争点が明確なほど有権者の判断は鮮明に分かれ、郵政問題が争点として浮き彫りになればなるほど小泉首相が有利です。なぜなら与党内でも反逆するほど問題のある法案ではないからです。つまり解散総選挙しなければならないほどの欠陥法案では無いからです。

思うのですが岡田代表とそのブレインの選挙戦略には知恵がないと考えます。あれだけ小泉首相が「郵政選挙」をワンフレーズで絶叫しているのに、正体不明の「他にも大事な事がある」路線で勝負に持ち込もうとは計算が甘すぎると言えます。

まあ選挙の風なんて1週間で変わりますから、まだ間に合うでしょうが、なにかそれこそ小泉流のサプライズでもしないと民主党は選挙で埋没してしまいそうなんですが。