ツーリング日和8(第12話)別行動

 メシ食いながら午後の打ち合わせや。しまなみ海道はマスツー出来んからな。まず結衣の意思を再確認や。これからも一緒にマスツーするんか。

「もちろんです。地の果てまでも付いて行きます」

 付いて来んでもエエわ。それはともかく、しまなみ海道を渡るんやが、コトリらは原付道やから尾道まで三時間と見とる。混んではあらへんはずやけど、島を抜けていくのはどうしたって時間がかかるからな。

 結衣は走り抜けるだけやったら一時間ぐらいで行ける。もちろんそんな愛想ないことをする必要はあらへん。途中下車して島巡りやったり、尾道で聖地巡礼するのも自由や。どのみち宿のチェックインは午後の三時やから、急いで行っても時間だけ余るからな。

「落ち合うのは宿ですか?」

 そうや。そやけど尾道やけど市内やのうて向島や。尾道の対岸の島になる。場所やけど、向島のICを下りてやな・・・

「あれ、コトリ」
「こんなんもおもろいで」

 コトリも初めて使うタイプの宿や。

「ライハですか?」

 似たようなもんやけど民泊や。民泊ってなんやになるが、シンプルには家の部屋を貸してくれる宿泊施設みたいなもんや。たぶんやけど小豆島のライハも分類やったら民泊になる気がする。帳場がなかったからな。

「料金は?」

 一人三千五百円や。小豆島のライハより高いけど、あのライハより安いとこになると、

「西成の五百円ぐらいしかないよ」

 やろな。規模も小そうて四人しか泊まれん。これは寝室が二つでベッドが四つの関係や。どうも二階の部屋に泊まるみたいで家の住人は一階に住んどるようやけど、ベランダがあって見晴らしは悪くないみたいや。

 メシは出えへんけど二階にもキッチンがあるらしいから自炊も可能みたいや。それとやが、小豆島のライハより嬉しいのは風呂に入れるこっちゃ。ツーリングの後はやっぱり風呂に入りたいわ。

「シャワーじゃどうしてもね」

 後は、

「結衣は犬はだいじょうぶか」
「好きなぐらいですが」

 家でトイプードル飼っとるらしい。

「おもしろそうですね」

 バイク乗りのツーリングに向いてるかもしれん。とくにコトリみたいな可愛いライダーにはな。

「起きてるように見えるけど寝言なの?」

 うるさいわ。自炊はさすがにメンドウやから外に食いにいくから、五時までに宿に来て欲しいな。これぐらいの打ち合わせを済ませて重松飯店から今治ICまで一緒に行って、

「気を付けて行きや」
「安全第一よ」

 颯爽と走って行きよった。高松からだいぶ下道を我慢させたから、しまなみ海道を楽しんでくれたら嬉しいな。コトリらは、さらに北上して自転車バイク用の入り口や。

「ボチボチ行こか」
「こっちも安全運転ね」

 高速と違って登ったり下りたりが原付のしまなみ海道ツーリングやからな。しまなみ海道は寄り道しながらのツーリングもおもろいけど、走るだけでも気持ちのエエとこでもある。そりゃ、どこを走っても海と島や。高速走る結衣でも景色はエエはずやねん。

「島の中はバイクと言うより、原付に合ってるものね」

 そういうこっちゃ。生口島まで来たから半分ぐらいやな。ちょっとお茶でもしょうか。

「少しだけ寄り道しようよ」

 北回りするんか。たいした寄り道やあらへん。へぇ、ここか、ジェラートが専門みたいやな。メニューはこれやな、

「プレミアムジェラートのトリプル」

 へぇ、三杯もあるんか。一杯目は、

「レモンとデコポンも良いけど伯方の塩がおもしろいね」

 スイカに塩かける応用やな。次があちゃ、もろスイカやんか。組み合わされてるんがチョコチップなんか。ほいでもって最後はピスタチオか。なかなかのボリュームやし、コスパもエエやん。

「結衣はおもしろいね」

 ああ、何者やろ。ダーツのハッタリ勝負も鮮やかやったけど、今日のツーリング中も見事に尻尾出さんな。ありゃ、相当なキツネでエエやろ。

「コトリがそういうぐらいだから相当ね」

 昨日も偶然やないやろ。

「そりゃそうよ。全部計算に入れてたじゃない」

 こういう時は敵か味方になるけど、

「どっちでも良いんじゃない。肝心なのは楽しめるか、楽しめないかだもの」

 そういうこっちゃ。今治の焼豚玉子飯を食べれただけでも、楽しめたもんな。なにか企みがあったとしても、気になるようなもんやあらへんやろ。

「人相手ならそうなんだけど、どう見てる」

 その線か。そんなことやるやろうか。平和共存しとるのにチョッカイ出すとは思えへんけど。そやけどタッグで来られたら少々厄介そうやけど、あいつら組むか。

「もし組まれたら、ちょっとシンドイかな」

 そうなったら時の運や。互角の時は、ちょっとした油断や偶然が生死を分けるからな。ユッキーと組んで負けるのがそうそうはおると思わんけど、あいつらがタッグを組んでになると紙一重やろ。

「負けたってかまわないようなものだけど。ミサキちゃんや、シノブちゃんを残すのは気になるところなの」

 戦うんやったら、その前に記憶の継承を封印してまいたいけど、それだけのヒマがないかもしれん。それやったら勝たなアカンか。

「シオリは放っておいてもだいじょうぶだけどね」

 フォトグラファーやらせといたら勝手にやりよるからな。

「ところで宿を変えたのはわかるとして、前のところと変えたのは」

 そんなもんメシの関係や。前の時は尾道ラーメン食べに行ったけど、今日は昼に食べてもたやないか。

「そうだった。ついでに焼き飯もだよね。さすがに連チャンは避けたい」

 ついでに言うたら、向島には焼き肉屋が多いみたいやが、これもパスや。これも昨日の晩にオリーブ牛を食い過ぎた。さらに言うたら明日の宿は、

「しまなみ海道に来て食べなきゃウソだよ」

 そういうこっちゃ。

「コトリもちゃんと考えてるんだ」

 当たり前やろが。それを考えもなしにKATANAに乗っとる結衣を道連れにしやがって、予定の修正が大変なんやぞ。

「そんなアクシデントも旅の楽しみでしょ」

ツーリング日和8(第11話)今治へ

 今日はとにかく走るツーリングや。観光もクソもあらへん、ひたすら走る。今回の予定やけど昔やったしまなみ海道ツーリングに近いとこがある。小豆島から高松に渡ってどこが似とるんやと言われそうやけど、基本は西に向かうツーリングやねん。

 しまなみ海道の時に懲りたんは尾道までの下道や。あの頃はエンジンの過熱問題があったにせよ、延々と九時間もかかったもんな。

「時間もそうだけど、それより道がウンザリさせられた」

 未だに残るトラウマみたいなもんや。そやから西に下道で向かうのにその次は山陰に回ったぐらいや。マイと出会ったツーリングや。それをやっても良かってんけど、ユッキーが北四国を走ったらどうやと言い出したんや。

 それやったらオレンジフェリーを使う手もあってんけど、北四国を走るんやったら、小豆島に寄ろうって話が出てきてしもてん。コトリもユッキーも行ったことなかったからな。そやけど小豆島に立ち寄った関係で、高松から今治まで走り抜けなあかん羽目になってもとる。

 とにかく計画立てとるうちにグシャグシャになっとるとこがあって、今日なんかは移動しか予定があらへんぐらいやねん。そやから結衣を道連れにしとうなかったんよ。

「それもツーリングじゃない」
「楽しいじゃありませんか」

 今日の移動が新たなトラウマにならんように祈ってるわ。とにもかくにも今治目指すで、まずは高松市内を抜けながら県道三十二号に入る。

「今治までどれぐらい」

 ナビで百四十キロやから四時間か四時間半ぐらいと踏んどる。県道三十二号は国道三十七号に続くんや。そこから観音寺市内を抜けたら今度は国道十一号や。観音寺の次は四国中央市やねんけど、

「それってどこなのよ」

 ユッキーが言いたい気持ちはわかる。大雑把には西が川之江、東が伊予三島や。

「適当な地名つけやがって。四国の中央と言えば白地でしょうが」

 四国中央市はせいぜい讃岐と伊予の間ぐらいやもんな。ほいでも四国中央市を抜けると、

「三島を抜けたと言え」

 へいへい、

「新居浜だ♪」

 高松から九十キロぐらいやけど、ちょっとホッとするな。別子銅山見に行ったもんな。ここから先は前に走った道になる。十時ぐらいやからだいたい予定通りや。新居浜から西条もすぐや。

「結衣、せめて石鎚神社の本社ぐらいお参りしとく」
「予定にないのなら結構です」

 エエんかいな。今日は移動距離こそ長いけど、時間は余裕あるし、ここまでも順調やから寄れるで。

「ついて行かせてもらっていますから」

 ここら辺も懐かしいで。湯之谷温泉に泊まって、石鎚スカイラインからUFOラインまで走ったもんな。言うとる間にあそこやな。

「国道一九六号に入るで」
「らじゃだけど、腹減った」

 たく餓鬼か。

「私もです」

 餓鬼2か。そやけどコトリも餓鬼3や。予定は順調やから昼は今治やな。

「しまなみ海道に入ってからにしないの?」

 なにを寝ぼけたことを。そやから結衣を道連れにするのをあれだけ渋ったんやろうが。しまなみ海道は原付でも自転車でも渡れるのが魅力や。

「クルマでも大型バイクでも渡れるじゃない」

 中型バイクでもな。そやけどコトリらの小型と結衣の大型は走るとこが違うやろうが。コトリらは高速が走られへん。

「結衣のKATANAでもなんとか走れるんじゃない」

 だからそれは禁止や。しまなみ海道はマスツー出来へんのや。そやから今治で昼飯食わんとアカンねん。もちろん今治も美味しいもんはある。基本は海鮮やな。来島海峡で釣れた鯛は明石や鳴門に負けへんはずや。

「だったら鯛めし」

 それも名物ってなっとった。串に刺さへん今治スタイルの焼き鳥もあるそうやが、昼飯やからな。結衣の意見はどうや。

「今治と言えば焼豚玉子飯でキメ」

 なんじゃそれ。聞くとご飯の上に焼豚を敷いて目玉焼きを乗せたもんやそうや。いわゆる焼き豚丼とはちゃうんか。

「基本はそうですが、目玉焼きとタレとの取り合わせが絶品です」

 B1グランプリでも上位に入賞したとかで、わざわざ食べに来るのも多いそうやねん。

「鯛めしなんか神戸でも食べられるじゃない」

 焼き豚丼もそうやけど、ツーリングのメシやったら、

「焼豚玉子飯」

 ハモるな。まあエエわ、コトリも食べとうなってきた。

「結衣、おすすめの店は」
「重松飯店、白楽天、大黒屋飯店」

 即答やな。もともとは中華料理屋のまかないから出て来たメニューなんか。それやったら間違いないかもな。どうせやったら一番の店がエエけど、

「どこが一番かは好みが別れると思いますが、パイオニアとされてるのが重松飯店です」

 元祖か、そこしかないやろ。結衣には四国観光を我慢してもうてるようなもんやから、昼飯ぐらいは希望を叶えなあかんやろ。問題はどこにあるかやけど、えっと、えっと、今治城の北側の方やな。

 西条からは国道一九六号、通称今治バイパスを走って行くんやが、とりあえず国道三一七号を曲がったら良さそうや。今治バイパスは快走や。そろそろ今治に入って来たんやけど、あれやな。

「今治市役所の方でイイの」
「そや」

 こりゃ市街地の道やな。市役所に向かうんやったら、そうなるか。しばらく直進したら突き当りやな。

「左や」
「らじゃ」
「了解です」

 さて問題はここからや。重松飯店なんて案内看板はあらへんやろうからな。どっかで右に入るんやろうけど、こりゃわからんな。たしか神社があったはずやが、宗忠神社はまだ近いからちゃうやろ。また神社かいな。

「ちょっとストップ」
「また迷ったの」

 迷う以前の話や。もうすぐはもうすぐやねんけど、どの角を曲がるかの確認や。

「これわかりにくそうだけど、BIGって衣料品店の次の角ぐらいが目安になりそう」

 そやな。問題はそんなにわかりやすい店かどうかや。行ってみるか。

「コトリ、これがBIGだ」

 そやったらあの信号を右やな。あちゃ、ただの住宅地やんか。こんなとこにホンマにあるんかいな。

「あったぁ!」

 へぇ、いかにも町の中華屋さんでございやな。

「こういう小汚い店が美味しいのよ」

 いつの時代の基準やねん。ほいでもピカピカの新築の中華屋はなぜか不味そうに思えてまうとこがある。なんでやろ。店の中は小上がりの座敷とテーブルか。テーブルが空いとるから座らせてもうて。ここやったら、

「満腹セット」
「わたしも」
「私はCセットでお願いします」

 満腹セットは焼豚玉子飯にラーメンに焼き飯にサラダ。結衣が頼んだCセットは焼き飯が抜きや。

「結衣、このラーメンは今治ラーメンか」
「たぶん違うと思います」

 今治ラーメンはイリコだしらしい。津軽ラーメンに似とるんかな。そこのとこだけ残念やけどこのラーメンもあっさりして美味いやんか。さて目的の丼やけど、なるほどご飯の上に焼豚って言いたいけど、ダブルの目玉焼きで見えへんやんか。

「これは焼豚玉子飯の小だからダブルみたいだよ」

 ホンマやトリプルのもあるやんか。これを崩しながら食べるんやな。焼豚もビッシリ敷いてあってご飯が見えへんやん。

「タレが決め手だね」

 継ぎ足し継ぎ足しの秘伝のタレやろな。これが目玉焼きと焼豚にからまってたまらんな。こういうグルメもツーリングならではで楽しいし、美味しいわ。結衣を道連れにして正解やったかもな。

ツーリング日和8(第10話)勝負師

 バーベキューが済んだらトットと寝た。つうのも朝がまた早いんよ。まず高松に渡るんやが、始発を目指してるねん。これが六時三十六分発。フェリー恒例の就航の三十分前があるから六時には土庄港に着きたいんよ。

「宿に無理があったね」
「ライハおもしろかったやんか」

 つうのもいくら小豆島が小さい言うても土庄港まで十五キロぐらいあるねん。ナビやったら四十分になっとる。早朝やからもうちょっと早くなると思うけど、五時半までには宿を立たんと間に合わん。

 もっともこのライハの朝も早いんよ。近くに日の出が綺麗なスポットがあって案内してくれるんが恒例らしいんや。日の出は五時ぐらいやから行ってきた。どうも昔はカフェとかレストランみたいなものやった気がするけど、そこの屋上に上がったらさすがの絶景やった。

 そこから本来は宿に戻って朝食やねんけど、そのまま出発にさせてもうた。時間に余裕を持たせたいからな。マスターは昨日の不手際を詫びてくれたけど、マスターのせいやないもんな。客なんか来てみんとどんな奴かわからんやん。

「行くで」
「あいよ」
「今日はよろしく」

 土庄港まで距離こそ十五キロぐらいやけど、このワインディングはさすがに飛ばせんな。これが土庄まで半分ぐらいあるもんな。

「自転車であがった人が悲鳴をあげてたよね」

 ああそうやった。もっともその前に寒霞渓を上がっとったからしゃ~ないやろ。結衣のバイクの腕は、ほぉ、なかなかやんか。KATANAも重量級やから下りは怖いはずやけど、鮮やかに切り返しよるわ。

 なんとか事故もなく下りて来れたから土庄までちょっと飛ばすで。さすがにポリさんもこの時刻やったら寝てるやろ。土庄の街に入って来たけど、道路案内がしっかりしとるから助かるわ、おっ、次の信号を左になっとる。

「見えて来たね」

 あそこを右に入るってなっとるな。パラソル立てて係員の人がおるから、

「どちらですか」
「高松や」
「それやったら・・・」

 あそこのレーンに並んでバイクを停めてから乗船券を買いに行ったっらエエんやな。切符売り場はあそこやけど、

「車検証はいるのかな」
「持って行った方が無難やろ」

 これやけど中型以上やったら車検証やねんけど小型やったら標識交付証明書になるねん。待ち時間に朝食にしたいとこやけどさすがに開いとらへん。まだ六時やもんな。言うとる間に乗り込みが始まってくれた。腹減ったからうどんにしよ。

「コトリ、高松に着いてからにしたら」
「まだ開いとらへんやろ」

 一時間で着くからな。さすがにフェリーのうどんコーナーは営業してくれてるわ。結衣はひと眠りしたい言うからユッキーと海見ながら昨夜の話や。

「勝負師やな」
「あそこまで出来るのは少ないよ。感心した」

 まずあの連中はダーツ勝負は逃げられへん状況やった。そりゃ、あれだけ自慢しまくった後やからな。

「でもダーツで勝負する気はなかったね」
「単に勝負の場に引っ張り出しただけやもんな」

 狙いは賭け勝負に持ち込んで引き下がらせるこっちゃ。そのためには勝負を大きくすのがキモや。あの勝負は座興やんか。座興の気分のままで勝負に持ち込んでもタダのダーツの試合や。それをのっぴきならない状況に追い込んでしまうための心理戦やな。

「そのためには場の空気を自分のフィールドに手早く染め上げるのが必要だけど。結衣はやるね」

 男連中の目的は結衣との旅先でのアバンチュールや。ぶっちゃけ一発やりたいんや。そやから結衣は賭けの商品に自分の体を差し出しよった。男連中の表情は、

「ベッドへの誘いだと思ったんじゃない」

 ヨダレ流しそうやったもんな。あの瞬間に賭け勝負を受けたようなもんや。そこまで浮かれさせといてカウンターをぶち込みよった。

「損得勘定が出来なくなったんじゃない」
「それもあるし、他の物への賭け金の変更を交渉する余裕を奪い取ってるわ」

 ここでも結衣は罠を張り巡らし取る。ユッキーが損得勘定としたが、ホンマは結衣の体なんかに値段は付けられん。そやけどそれは建前や。男連中にしたら、一夜のアバンチュール代にバイクは割りに合わんと計算するはずや。それが体ごと売り飛ばしても良いとされたら、計算が変わってくる。

「バイクなら安いぐらいになるね」

 というかそんな妙な損得勘定の世界に叩き込んでもとるわ。勝負方法は自分の得意分野で、賭け金の設定は自分に有利みたいな感じや。つまりは勝負は逃げたら笑われるし、条件交渉もやりようがないみたいな心理状況や。

「だからバイクじゃなくて、体にしたんだろうね」

 ほぼ対等の賭け金にするんやったらバイクもあってんよ。結衣だってKATANAやからな。そやけどバイクって値段がはっきりしてるもんや。バイク乗りやったら新車やったらこれぐらい、年式が落ちてきたらこれぐらいは出てくる。結衣はそれを避けたかったんやろ。

「そうなればあの連中かって、やろうとしている勝負のアホらしさに気づいたよ」

 結衣とやり放題が出来て、その体を売り飛ばせる条件に錯乱させられたってことや。そうなると、

「負ければバイクを失う勝負として受けざるを得ない心理状態に追い込まれる」

 わかるかな。座興の勝負が真剣勝負にさせられてもたんよ。こんなものが受けられる奴はそうはおらん。受けたって絶対に勝てへんのよ。ダーツも心理状況がモロに出る競技や。そりゃ、指先の感覚一つでコントロールしてるようなもんやんか。

 そこに負けたら、巨額の損失が出る重圧なんか加わったっらまともに投げれるかいな。こんな勝負を出来るのは、それこそ鉄火場の修羅場を潜り抜けんと無理や。純粋に勝ち負けだけを競うゲームと、真剣勝負の賭け事は形だけは似とるけど、完全に別物やってことや。

 そんなん話しとるうちに高松のフェリーターミナルが見えてきた。結衣も起きて来たから聞いてみたんや。コトリの見方が合うとったら、

「ダーツですが? 映画で見ただけでやったことはありません」

 やっぱりな。でも場の流れのコントロールに失敗してダーツ勝負に持ち込まれたら。

「そこまでの根性はないと見切ったつもりです。まあ、もし負けたらコトリさんたちが助けてくれるでしょ」

 そこまで見切っとったか。言われるまでもないが、結衣がオモチャにされるのを指をくわえて見とる気はあらへんかったがな。

「それに女を売り飛ばすのは簡単じゃありません」

 あははは、そりゃそうだ。女を売り飛ばす話はポピュラーやし、実際に売り飛ばされた女もおる。そやけど素人がヤフオクやメルカリで売れるようなもんやない。そりゃ、人身売買は犯罪もエエとこやからな。

 あれは裏社会の商売で、そこを取り仕切るヤーさんの縄張りや。そやから小説でも、映画でもそうなってるやろ。怖いおっさんに連行されるあれや。あいつらはあいつらでリスク背負って商売してるぐらいは言える。そんなとこに素人が踏み込んだりしたら、尻の毛まで全部むしられるわ。

「マグロ漁船と根本的に違うからね」

 マグロ漁船は立派な職業や。働いてる連中も漁業のプロやし、ちゃんとした契約書を交わして報酬も誰に恥じるものもいない正当なものや。あれが比喩に使われるのは、人手不足で素人の助けも欲しい状況になっとるんと、素人が乗り込んだら地獄になるだけの話や。

「短期で報酬が良いし、航海中は逃げ出しようがないし、使いようもないから借金返済のニーズに合ってるのもあるものね。マグロの前は捕鯨船もあったものね」

 蟹工船もそうやったかもしれん。船に放り込んどいて、帰港したところで取り立ててもエエし、

「契約でピンハネにしてるケースもあるよね」

 それに比べると女を売買する商売ははるかに仕組みが難しいってことや。ソープに売るって言うても、まともに行っても、

「たんに雇うだけ」

 別に体ごと買ってくれる訳やない。ソープかって許可受けた合法の商売やからな。女を売るためには怪しいところに大きな借金を作らせて、闇ルートが動かんと無理や、

「闇金だって、そんなに大きな額を貸してくれないよ」

 闇金経由で売り飛ばすのもあるけど、闇金かって女を買うために貸してんのやない。高利で貸した金の回収が狙いや。まあ返されんようになって売られるケースは生じるやろうけど、闇金もそこでヤーさんが絡むと面倒になる。

「関りが出来ると、しゃぶり尽くしに来るのがヤーさんなのもよく知ってるもの」

 そこら辺のリスクマネージメントはしっかりしとるわ。そんな事はともかく結衣はなかなかの勝負師や。

「下りるで」
「らじゃ」
「がんばるぞ」

ツーリング日和8(第9話)ダーツ勝負

 相変わらず男二人組に絡まれとる結衣やがマスターに、

「ここのダーツは本格的ですね」

 リビングと言うか談話室にダーツボードがある。

「ちゃんとスローイングラインもありますね」

 ダーツも世界大会まであるしプロもおるから、ルールもちゃんとあるねん。投げるとこを決めてるのがスローイングラインや。ダーツボードを部屋のインテリアにするのはあるけど、スローイングラインまであるのは珍しい気がする。マスターも好きなんかもしれん。

「それにハードなのが素晴らしい」

 ダーツもソフトとハードがある。ソフトはプラスチック製でボードに小さな穴がビッシリ空いてるねん。そこにダーツが刺さるというより嵌ったらOKや。ダーツバーやったらソフトを置いてるとこが多いわ。

 これはソフトのボードは機械化されてるのはある。穴に刺さったのが感知すると自動的に得点計算をしてくれるし、刺さった時の電飾のイルミネーションや音響も凝ってるのが多い。言うたら悪いけどパチスロのノリや。そやけどソフトも舐めたらあかん。ソフト用の大会もちゃんとあるねん。

「ハードより安全性が高いし、やっていて楽しそうだものね」

 そやけど本格派はハードや。麻で出来たボードにダーツが突き刺さる昔からのやり方や。ホンマのプロの大会になるとハードになるからな。ソフトとハードは微妙にルールが異なるとこがある。単純にはハードの方が的が小さくて、その代わりに距離が少し短い。差し引きしたら的が小さいハードの方が難度が高いそうや。

「鈴木さん、清水さん、勝負しませんか」

 ほぉ、ダーツサークルの連中と勝負するんか。ダーツの競技方法はいくつかあるけど、

「501でダブルイン、ダブルアウト。ただし1レッグでどうですか」

 なんやて! ガチの公式ルールやんか。501は持ち点の五百一点を減らしていくゲームやねん。三本ずつ投げ合って、刺さったところの合計が得点になって、その分が持ち点から引かれていく。

 このゲームで難しいのはちょうどゼロにせなあかんとこや。たとえば残りが十五点やったとする。三本投げてるうちのどこかの時点でゼロになったらエエんやが、越えたらバストいうて、その回の得点は無効になるねん。

「ダブルアウトは厳しいよ」

 ダーツの得点は刺さったところで変わる。まず真ん中がダブルブルで五十点、真ん中の回りの赤いところがブルで二十五点やねん。後はその周りになるんやけど、四分割になってる。

 広いところがシングルリングで、真ん中の細いとこがトリプルリング、外側の細いとこがダブルリングや。得点はリングの上に書いてるもんやが、ダブルリングなら二倍、トリプルリングなら三倍や。

 ダブルアウトとはフィニッシュの時の得点がダブルリングに刺さらんとバストになってまうねん。そやからフィニッシュ直前の持ち点は偶数やないと上がれんことになる。そうなるように得点を調整するアレンジの技術も必要になってくるねんよ。

「そもそもダブルリングを狙える技術も必要なのよ」

 つうか欲しい点のところに投げられる技術や。だからガチの公式ルールやねんけど、そこまでの技術があらへんかったら、

「ダブルインを延々とやることになる」

 ダブルインとはまずダブルリングに刺さらないと得点を勘定されへんルールやねん。他のとこに刺さっても延々と足踏みさせられるってことや。かなりの上級者用のルールってことや。ちなみに1レッグて結衣がしたのは公式競技やったら、3レッグで勝負するからや。三回戦制で先に二勝した方が勝ちってことや。

「まさか受けずに尻尾を巻いて逃げたりはしないでしょうね」

 だいぶダーツの自慢話やってたもんな。ここまで言われたら逃げられへんやろ。

「単に勝ち負けを競ってもおもしろくありません。賭け勝負にしましょう」

 賭博は法で禁止されとるけど、まあこれぐらいは座興やろ。問題は何を賭けるかや。ゴルフとかやったら、夕食代とか、ビールやワイン代がようあるが、この場やったらなんやろ。

「わたしが負けたら、この体を好き放題にしてもらって結構です」

 なんやて。それってエッチもOKどころか、

「好きなだけ楽しんでもらって、売り飛ばされても従います」

 おいおい、いくらなんでも無茶苦茶や。男連中の鼻の下が伸びまくってるやないか。

「その代わり、わたしが勝てばバイクを頂きます」

 ひやぁ、なんちゅう勝負やねん。マスターも焦りまくってるで。

「宜しいですね」

 そう言うて結衣はつかつかとダーツの方に行ってもた。男連中は固まってるわ。こんな勝負ホンマにやるんか。結衣は追い打ちをかけるように、

「さあ、始めましょう」

 マスターも慌てまくってとりなしてるわ。こんな勝負をこんなとこでやらすわけには行かんもんな。どうなるんかと思うとったら、男連中は自分の部屋に逃げ込みよった。勝負を受けんとなったら、この場にはおれんもんな。結衣も戻って来たんやが、

「こんな美味しい肉を食べないなんて変わってますね。小食なんでしょうか」

 こういうユーモアは好きや。まあ、バーベキューより結衣を食べようと必死やったもんな。でもこの肉も小豆島での発見やった。高松でも食べられそうなもんやけど初めてやった。

「オリーブ牛って言うのよね」

 まあ黒毛和牛で讃岐牛やねんけど、餌が変わっとるねん。

「オリーブの実の搾りかすを食べさせてるそうですね」

 結衣もよう知っとるな、

「松阪牛のビールみたいなものですか」

 だいぶちゃう。松坂牛のビールは有名やが、別にビールをいつも飲ませてるわけやないし、ビールを飲ませてへん松坂牛もある。あれは牛の食欲が落ちた時の胃薬みたいな位置づけやねん。

 そやからビールが松坂牛の肉の質を上げとるとは言えん。そりゃ、そうやろ。牛にビールを飲ませたら松坂牛になるんやったっら、日本中どころか、世界中がやっとるわ。そういう意味でオリーブ牛はちょっと違う。

 もともとはオリーブオイルの搾りかすの処理問題やったらしい。そりゃ、仰山出るやろうからな。これまでは肥料にでもしとってやろうけど、オリーブの実かって食い物やから牛に食べさせてみたぐらいと思うねん。

 ビールを飲ませるのと較べたら安全やんか。牛も喜んでかどうかはわからんけど食べてくれたみたいや。

「オリーブオイルの成分が肉の質を良くしたのですね」

 これも相関関係だけで因果関係はわからん。そやけど大事なのは結果や。オリーブの効果もあるかもしれへんし、小豆島の気候風土がそうさせたんかもしれん。

「でも小豆島でしかオリーブ牛は育てられないね」

 ユッキーもエエとこ見てる。牛の餌に使えるほどオリーブが取れるんは日本やったら小豆島だけやろ。それにしても美味いな。

「タレもよく合ってるよ」

 自家製タレって言うとったけど、肉と相性はピッタリや。なんぼでも食えそうや。そんでもってバーベキューならビールや。

「さすがはコトリね」

 小豆島にも地ビールがあるねん。まめまめビールって言うねんけど、醤の郷に行った時に寄り道してん。さすがにビール抱えてのツーリングは無理あるやん。シェークされすぎて泡吹くし、温いビールはコトリは好かん。

「マスター悪いけど、レンタルクラウラー返しといてね」

 貸し出しのビールサーバーも含めて配達を頼み込んだら了承してくれた。このまめまめビールやけど四種類も作ってるんよね。

 あか・・・レッドエール
 しろ・・・ハーブ・スパイスビール
 くろ・・・インペリアルスタウト
 きん・・・ライトエール

 レンタルクラウラーは二台あったから、あかとくろにしといた。結衣も飲める口やな。

「レッドエールは軽くて飲みやすいです。スタウトは甘いですね」

 スタウトもちょっと変わっとって、醤油のもろみが入ってるそうやねん。こんなスタウトもここでしか飲めへんと思うで。あいつらも結衣を口説くのに血道を挙げるんやのうて、素直にバーベキューを楽しんどいたら良かったのにな。

ツーリング日和8(第8話)バーベキュー

 晩飯前にマスターが相談に来よった。

「今夜のバーベキューですが・・・」

 そうするって予約の時に聞いとるから牛肉とビールを差し入れに持ち込んだんやけど、足らんかったか。

「十分すぎるほどです」

 天気も悪ないで。

「そうなんですが、ちょっと予定が狂いまして・・・」

 男の二人連れなんやそうやけど、キャンセルがあって入れ替わったそうなんや。それがコトリらと同様に初めての客らしい。つまりはマスターも知らん連中ってことや。別に誰とでも構わへんようなもんやけど、

「こういう時には・・・」

 こだわりと言うか親切心の気づかいやな。男と女が組み合わされる時は、とくに男は常連さんの気心のしれてるのにしてるのか。男と女やからなにかトラブルが起こって欲しくないぐらいみたいや。

 そう言いながら、ここで出会って結ばれたカップルもおるそうやから、男女交際禁止みたいな固いものやないのやけど、どうも電話で予約を受けた時の印象が良くないぐらいの話みたいやねん。

 せっかくのバイク乗り同士の出会いやし、マスターの信条として一期一会の思い出深いものにしたいぐらいやろかな。別にコトリらはヤーさん相手でも気にもならんけど、問題は結衣やな。

「かまいません」

 なんかあったらコトリらが守ったるわ。時刻が来て行ったのは一階のオープンデッキ。さすがに夜風は冷たいけど、その代わりに炭火焼きとは嬉しいわ。メンバーがそろったところで、

「カンパ~イ」

 そこから自己紹介になってんけど男は学生や。服もエエもん着とるからボンボンやな。

「鈴木で~す」
「清水で~す」

 なるほどノリはエエけどチャラいな。学生やからとしてもエエけど、なんか薄っぺらい感じがするわ。金髪にピアスぐらい今どきの事やから目くじらたてるようなもんやあらへんけど、なんか軽さを強調しとるようにしか見えんわ。

 とにかく初対面やから、話の切り出しはお互いのバイクの話になった。バイク乗りやから相手のバイクが気になるのはサガみたいなもんや。こういう時のマナーもある。当たり前やけど相手のバイクをリスペクトすることや。

 そりゃ、多かれ少なかれ自分のバイクに誇りを持っとる。そこを踏まえた上で話をするのがマナーってことや。男二人組のバイクは見とらへんけど大型みたいや。それはエエねんけど、

「停まってたやっちゃろ。根性やな」
「あんな小型でツーリングってアホみたい」

 神戸から小豆島やからカブでも余裕やろが。

「へぇ、寒霞渓が登れたって冗談やろ」
「小型やったらロープーウェイに乗れるとか」

 原付スクーターでも登れるわい。小型なんを話のタネにするのはかまわへんけど、そこまで言うたら冗談になってへんぞ。大型小型論争をやったろかと思うたけど、それ以上はイジりに来んかったから目を瞑ってやった。

 そこから趣味みたいな話になったんやが、サークルの話に持ち込みよった。学生やからそうなるのはしょうがあらへんけど、ほほぅ、ダーツサークルか。ダーツもちょっとしたブームやもんな。

 あれも漫画が原作で実写化された映画やったけど、ヒットしたんよ。ジャンルとしては青春映画になると思うけど、人間ドラマも巧みに織り込まれた秀作やった。なにせ第三部まで作られたからな。

「ちはやふるの感じかな」

 かもしれん。ハスラーとか、ハスラー2の感じにも似とる。そやからダーツバーとかも増えたもんな。聞いてる限りそこそこの腕のようやが、話半分ぐらいに思うとこ。酔いもそろそろ回ってきた感じやけど、男二人組は結衣に目を付けたみたいや。なんでコトリやないんよ。

「年上は女に見えん」
「おばさんは用済み」

 ここから瀬戸内海に放り込んで海水浴させたろか。結衣かって二十代の後半やぞ。コトリのホンマの年齢は棚の上に置いとくが、こいつら女を見る目があらへんのか。結衣が若そうに見えるのは童顔なだけやないか。そやのにコトリをおばさん扱いとは、

「コトリは本当にそうだもの」

 ユッキーもそうされてるんやぞ。

「趣味じゃないから気にならない」

 趣味やないのはコトリもそうやけど、結衣も嫌がってるやんか。あの手のチャラ男は好きやないんやろな。それに年下のガキみたいなもんやろう。あちゃ、結衣の両側に座りよった。口説きたいのはわかるけど、あそこまでやったらセクハラやぞ。

「コトリにもそう見える?」

 モロ見えじゃ。マスターも困ってるやんか。マスターがやりたいのはバイク乗り同士の親睦で合コンやないはずやねん。

「合コンもピンキリだからね」

 なにがピンで、なにがキリかは置いとくけど、基本は彼氏彼女が欲しい会や。それが目的で集まってくる。

「というか、そういう目的を承知でお互いに参加するのがキモじゃない」

 上手いこと言うな。男女の出会いは色んなケースはあるけど、その時に気に入った相手に恋愛の意思があるかどうかは不明や。彼氏彼女持ちどころか、既婚者だっておる。初対面の相手に気乗りしないのも当然ある。

 もっと単純には恋愛をする気分などないってことや。そやけど、そんなもん外から見てもわからんやん。そやけど合コンは参加目的がはっきりしとるから、相手を気に入れば恋愛にもちこんでもらってOK状態が前提や。

「お見合いとか、婚活パーティに近いとこがあるよね」

 そうかもな。口説き口説かれる行為自体を容認と言うか、認めてのものやからな。そやけど合コンも集められるメンバーによって性格はかなり変わる。

「言い切ってしまえば結婚まで考えるかどうかね」

 古臭いと言われるかもしれんがそうや。結婚の言葉が重すぎるなら、真剣な恋愛相手を探してると言い換えても良いと思う。お見合いみたいに即結婚はないにしても、順調に発展すれば結婚もありうるぐらいの相手を求めるかどうかや。

 年齢層が上がるほど真剣さは上がるかな。上がったところに婚活パーティがあるぐらいかもしれん。結婚するのが人生の目的でもあらへんけど、そこに夢を持つのが普通やろ。

「コトリはとくにね」

 ほっとけ。そやけどそんな合コンばかりやない。もっと軽いノリで彼氏彼女を求めるのはある。そこから結婚まで行くのもあるやろうけど、もっと軽い気持ちで恋愛を楽しみたいぐらいや。

「ぶっちゃけセフレが欲しいとか」

 それも含めてや。もっと言えば合コンで口説いてその夜に一発やりたいのもおる。そういう合コンでモテる男のタイプの条件は見た目や場を盛り上げる才覚もあるけど、

「遊ぶカネをもってること」

 恋愛もやりようやが、そういうところに集まって来る女は遊びたいやねん。エエもん食べに行くとか、高価なプレゼントが欲しいとか、リッチなデートとか旅行をやりたいとかや。これも否定はせんけど、

「あの連中は勝ち組かもね」

 そんな気がするわ。遊び相手にするのにちょうど良さそうなノリの軽いキャラ持っとるし、ゼニ持ってそうやもんな。ボンボンみたいやからカネ離れも良さそうに見える。

「でも経験は浅そうね」

 成功体験しかあらへんからやろな。自分らが勝ち組でいられたのは、そういうメンバー限定の話や言うのがわかってへん。今かってそうや。結衣が嫌がってるのがわからへんのかいな。

「嫌よ嫌よも好きのうちって言うじゃない」

 そうは見えんで。そろそろ助け船を出した方がエエんちゃうか。

「もうちょっと見とこうよ」

 本気か。

「結衣とは会ったばかりだよ。これで結衣の本性がわかるかも」

 こういうとこでユッキーはドライやな。もし結衣が口説かれてあいつらと一緒になったら、

「それもまた人生。そういう生き方もあるからね」

 その程度の女やから道連れにするのに値しないってことか。

「結衣は靡かないと見ているけど、どうやってあしらうかを見たいかな。結衣は自分でなんとか出来るタイプと期待してる」