アングマール戦記:第二次包囲戦(1)

 魔王は秋にシャウスの道を下ってきた。ハマに入ったんだけど、リューオン、ベラテをパスしてキボン川をいきなり渡り、セラの野を横切ってエレギオンに迫って来たんだ。どうも魔王はリューオンやベラテには街を守る程度の戦力はあっても、ハマを襲うほどの力はないと読んだみたい。実際のところそうなんだけどね。そしたらまた出て来やがったんだ、

    「慈悲深きアングマール王より、エレギオン国民に告げる。我の目標はエレギオンにあらず五女神なり、速やかに差し出せ」
 今度はコトリが答えたった。
    「恵み深き主女神の命を受けたる次座の女神が告す。そちの欲望が満たされることはない。速やかに故郷に戻られよ」
    「おお、知恵の女神か。ゲラス以来で懐かしい。そちも体を清めて待っておるが良い。とくに念入りに可愛がってやろう」
 コトリの横にメイスが立ってたんだけど、怒りで顔が真っ赤になってて、手がプルプル震えてた。そういえば、あれから結局休日取れなかったから、あの続き出来てないんだぁ。メイスだってやりたいだろうし、コトリもそうなの。

 さて籠城準備なんだけど、前回の経験を活かして対策はあれこれやっていた。巨大石弓はより強化したし、巨大投石機も倍増の二十台設置した。さらに城壁の上にすべて屋根を巡らしたの。木製で土台を作り、さらに屋根には日干し煉瓦を敷き詰めたの。日干し煉瓦の屋根にしたのは敵の火矢対策。

 強度はそれほどじゃないけど、アングマール軍の投石器では城壁の上まで大きな石を投げ込む力はないだろうって見方。とにかく前回はあの巨大な塔の高さにかなりやられたから、ここはしっかり対策しておく必要があると思ったの。

 梯子対策はせこい手を編み出した。梯子は立てかけるんだけど、これを棒で押し出す対策。敵だって根元をしっかり押さえるだろうけど、そこはテコの原理で、上を押す方が力比べなら有利なの。そうやって城壁から離してしまえば、いくら登って来ても狙い撃ちできるってところ。

 城門はまた落とし穴掘っといた。それだけやなく、掘り出した土で城門ごと埋めといた。これで敵は落とし穴を埋めて、門の前の土砂を取り除かない限り破城槌は使えないって対策。まあこれが破られたら、城門の内側を前みたいに石詰めにして塞ぐつもり。

 アングマール軍はざっと見たところ前回より少なそう。高原徴収兵はかなりの損害を出したので、前回ほどには集められなかったのかもしれない。その辺もあってリューオンやベラテも囲まなかったのかもしれない。食糧不足も応えた可能性はある。

 さて何をしてくるかと思ったんだけど、驚かされたのはアングマールも巨大投石機を設置し始めたこと。これを見たエレギオン軍は最初から全開で巨大投石機を撃ちだした。あんなものを撃ちこまれたら大変やから。巨大投石機は命中精度に問題があるというか、そもそも『だいたいこのへん』ぐらいの代物やねんけど、それでも目標が見えてるかどうかの差は大きいねん。

 さらにいえば、エレギオンの追加巨大投石機はさらに大きくしてあったの。その上で土台をもう五メートルかさ上げしといたから、撃ちあいはエレギオン有利に進んだの。アングマール軍も地面からじゃ届きにくいので、土台を作り始めたんだけど、目標が大きくなって当たる数が増えるし、一発当たると土台がかなり傷むのよ。

 巨大投石機の数が増えたのでアングマールの巨大な塔攻撃も有効になってん。あの巨大な塔はとにかく敵前で組み立てるから、巨大投石機だけでなく、巨大石弓、その他の飛び道具の的になるの。もちろん、それを作るだろうと予測して強化してあるから、アングマール軍は巨大な塔を作るだけでかなりの損害を出してるはずよ。

アングマール戦記:ドーベル将軍(2)

 エレギオンに戻ってから、

    「ユッキー、やっぱりドーベル将軍は手強いよ。まともにやったら勝てそうな気がせえへん」
    「あら知恵の女神が弱気ねぇ。でも、今回のコトリの判断は支持するわ。ドーベル将軍と決戦するならエレギオン全軍が動員できる体制でやるべきだもの」
 ここからもうちょっと頑張ってドーベル将軍の情報をかき集めたの。出自は王族なんだけど、セリム一世の先代の孫ってところ。アングマールでは魔王がセリム一世に入り込んでから、セリム一世系の王族以外は冷遇されちゃったんだけど、ドーベル将軍はその手腕と才能であの地位に就いたで良さそう。

 ここでなんだけど、ドーベル将軍はアングマール軍の兵士からも信望厚い名将だけど、超が付くぐらいの独裁国家なのよね。そりゃ、王が魔王だから。武神は覇権を目指すのがサガみたいなもんだけど、同時に嫉妬深いのよ。別に武神じゃなくてもそうなることが多いんだけど、自分の地を脅かしそうな人物はすぐに疑うし、すぐに殺しちゃうところがあるの。

 そういう風な目で見れば、前の包囲戦でたったアングマール直属軍を十個大隊しか与えられず、リューオンとベラテの担当に回されたのは、魔王がドーベル将軍を疑ってるところがあるんじゃないかと思うのよ。

    「ユッキー、やっぱりドーベル将軍とはまともに戦わない方が良いと思うの。今なら災厄の呪いも使えると思うから、女神の戦術で戦うべきだと考えるわ」
    「とりあえず二人でやってみようか」
 災厄呪いの効果は微妙やった。どうも魔王も女神がその手を使うと予想していたからアングマールまで戻らず、マウサルムにいるぐらいかもしれない。マウサルムからハマぐらいまでなら、魔王は災厄の呪いを封じる力がありそうと判断せざるを得なかったの。
    「クソ魔王も読んでたみたいね」
    「そうね。しっかし、あれだけエロなのに、どうしてこんなところまで頭が回るのか不思議で仕方がないわ」
 そこでユッキーと知恵を絞って、次なる手段に出たの。ドーベル将軍は一度は動いたものの、以後は動かなくなったの。あれはたぶんコトリがあっさり決戦を回避しちゃったから、やっても無駄って判断したからじゃないかと見ている。でも、それだけじゃないとも読んでるの。

 あの時の動きはドーベル将軍の独断じゃないかって。だって、魔王の指示ならその後も継続して動くはずじゃない。おそらく魔王の指示は次の攻勢に出るまで、ハマをしっかり確保することに違いないって。つまりは魔王とドーベル将軍の間には、ちょっとした齟齬があるに違いないって観測。

 さてなんだけど、緊張が残っていても自然休戦状態になると人は動き出すの。商人たちはハマまで行って商売するのよね。あれにはいつもながら感心するわ。なかにはマウサルムまで行ったのまでいるんだもの。だから情報が入るってのもあるけど、なんにも協定が無い状態だからもちろんトラブルも起る訳よ。

 だから仮初めでも臨時休戦協定を結ぼうとドーベル将軍に提案したの。どっちも本気で休戦する気なんてないんだけど、商人が動けば物が手に入りやすくなるし、相手の動静の情報も手に入るし、スパイだって送り込みやすくなるってところ。その辺の損得勘定を計算したのか、ドーベル将軍も応じてくれたわ。

 そうしておいて、ドーベル将軍にちょこちょこと御機嫌伺いの使者を出すようにしたの。表向きは、臨時休戦協定を結んでも起るトラブルの相談みたいな感じ。ひたすた下手に出てプレゼントとかも贈ったし、幕僚にも賄賂をたんまりと。えへへへ、やったのはそれだけ。結果から言えばバッチリ効果はあったみたい。

    「単純だけど、やっぱり引っかかったね」
    「あの手の国なら起ると思ってた」
 アングマールってコチコチの軍事国家じゃない。言い換えれば軍人が支配する国になるの。でなんだけど、これは軍人じゃなくてもそうなるんだけど、人って組織内の出世が好きなんだよね。これはエレギオンの王位争いや、大臣争いでも起るぐらい。軍事国家なら軍人の階級争いになるかな。

 階級争いも下の方ならモチベーションになるけど、将軍クラスになると足の引っ張り合いになりやすいの。将軍クラスになると上の席が空かないと出世できないし。だから何かスキャンダルが起れば、必ず焚きつける奴が出てくるの。讒言ってやつ。これもトップがちゃんとした目を持ってればよいのだけど、魔王もその辺の猜疑心が強いに違いないから、これまでの経緯や、妙に厚すぎる人望に疑念を抱くと思ったの。

    「更迭されちゃったね」
    「できたら会戦で決着つけたかったけど、これは全面戦争だからね」
 手強い、手強いドーベル将軍はこれでいなくなってくれた。

アングマール戦記:ドーベル将軍(1)

 エレギオンはユッキーの言う通り、やることはヤマほどあったの。アングマール軍は退却してくれたけど、アングマールは滅んだわけじゃないし、魔王だってピンピンしてるのよ。ごく簡単にはまたエレギオンが包囲されるのは予想されちゃうわけ。次の包囲戦に備える準備を早くしなきゃいけないのよ。

 魔王はエルグ平原からは退却したけど、アングマールまで帰らずにマウサルムにいるみたい。これも伝聞だけど、またエロ処刑やってるみたい。ホンマにあいつの楽しみはアレしかないんかと言いたいわ。

 それとハマにしっかり橋頭保残してる。守っているのはドーベル将軍。ドーベル将軍は包囲戦の時にはリューオンとベラテの担当だったみたいだけど、アングマール直属軍は十個大隊ぐらいしか与えられなかったみたい。後は高原徴収兵で囲んでたぐらい。そうなるとエレギオンにはアングマール直属軍が五個軍団近くが襲いかかっていたことになる。

 ドーベル将軍の情報もかなり集まっているんだけど、アングマールの将軍の中でもちょっと毛色が違うみたい。アングマールの将軍の典型的なのはコトリがベッサスの河原で討ち取ったバルド将軍みたいな感じ。猛将ではあるけど残虐みたいな感じ。レッサウで苦戦したマハム将軍も似た感じで、レッサウでは大虐殺やってるもんね。

 圧政と強奪はアングマール軍の基本戦略だからドーベル将軍も例外じゃないんだけど、どうも本音ではあんまり好きじゃないみたい。バルド将軍やマハム将軍は楽しんでやってる気がするけど、ドーベル将軍は命令に従ってやってるだけの印象があるわ。だから命令分以外は極力やらないみたい。

 それとアングマール軍の捕虜から聞いた話だけど、アングマール軍兵士の信望は絶大みたい。常勝将軍とか、不敗の名将として崇められてるの。たしかに戦は上手い。エレギオン包囲戦前にリューオンの郊外でコトリも戦ったけど、軽くあしらわれちゃって、なんとか大敗を免れるのがやっとだったもの。

    「ユッキー、ハマは奪回しときたいところだよね」
    「出来ればね。でも、コトリで勝てる」
    「やってみなけりゃ、わかんない程度。それぐらいドーベル将軍は手強い」
 とりあえず今のエレギオンの戦力じゃ、ハマを奪回したところで、そこからシャウスに進めるほどの力は無く、次に魔王が来た時に守り切れそうにないから、保留にした。
    「ユッキー、農園の復旧はしないの?」
    「三年も放置していたからね。これを復旧するのも大変なんだけど、もう一つ心配もあるの」
    「なに? とりあえず食糧作らへんかったら飢え死にしてまうやん」
    「そうなんだけど、次にアングマール軍が来襲するとしたら、秋の収穫期の可能性が高いと思ってるの。エレギオンを囲んどいて、収穫物を横取りする作戦」
    「ありそうやな」
    「だから、あえて今は復旧しないでおこうと思うの」
 ユッキーも苦しそうな判断やった。食糧は後二年は持ちそうといっても、補充が無ければいつかは尽きるんよ。
    「でも、これから二年間魔王が動かなかったらエレギオンが飢え死にして終わっちゃうよ」
    「だけど作れば、待ってましたとばかりに来る気がするの」
    「だったら作った方がイイよ。来るなら食糧があるうちに戦った方が望みがあるやんか。このまま終りはあらへんねんから」
 結局のところ、ユッキーが折れて農園の復旧も着手する事になったの。籠城の再準備、農園復旧を進めていた時にドーベル将軍が動いたとの情報が飛び込んできたの。ハマからなら通常はリューオン、ベラテを通ってエレギオンを目指すんやけど、なんとドーベル将軍はキボン川を渡ってエレギオンの北部に侵入したって話なのよ。
    「コトリ、今の状態でエレギオンが包囲されるのは拙いわ。なんとか追い返してきて」
 コトリは第一軍団と第二軍団を率いて出発したの。もっとも包囲戦で両軍団とも消耗していて合わせて通常の一・五個軍団ぐらいの規模やったけど。コトリが動いたらドーベル将軍もハマに退いてくれる期待もあったんやけど、ドーベル将軍はコトリが動くのを読んでいたかのようにセラの野に進んできた。

 セラの野は羊の放牧地でもあり、馬の放牧地として使われているところ。つまりは起伏はあるけどだだっ広いところ。会戦をやるならうってつけのところやってんけど、コトリはどうにも嫌な感じがしてた。これはリューオン郊外で敗れた手痛い記憶もあるんやけど、どうにもドーベル将軍に誘われての会戦になる点が気になった。

 幕僚たちは決戦を主張したわ。偵察ではドーベル将軍が率いているのは一個軍団ぐらいみたいだからエレギオン軍の方が多いし、騎馬隊だって包囲戦ではほぼ無傷で生き残っていたの。ここでドーベル将軍を撃破すればハマ奪還がセットに付いてくるって感じかな。

 でもね、コトリは必死になって考えたの。今の大事な点は何かって。ユッキーはエレギオンが現段階で包囲される危険性を心配しとったけど、ハマにいるアングマール軍は多くて二個軍団程度。だからドーベル将軍がセラの野に進めてきたのが一個軍団程度ってのはわかる。でも、ハマにいるアングマール軍が総出でエレギオンを包囲したって二個軍団じゃないかって。

 そうなるとドーベル将軍の狙いはエレギオン包囲じゃなくて、エレギオン軍の兵力削減を狙った作戦じゃないかと判断したの。それでも圧勝できれば文句ないんだけど、負ければ大変なことになっちゃうのよ。ここは退くべきだって。もしドーベル将軍がエレギオンまで進んできたら、その時は第三軍団も、ハムノン軍団も総動員して決戦したらイイじゃない。

    「全軍、ただちにエレギオンに戻る。敵の追撃を警戒して・・・」
 さっと退却した。それなりに伏兵も置いといたけど、ドーベル将軍は追撃して来なかった。やっぱり狙いはエレギオン軍の兵力削減だったと思ったわ。

アングマール戦記:コトリの休日

 メイスも最初は緊張してた。相手は女神だし、メイスは童貞みたいだったから、果たしてコトリを満足させるか不安もあったんだと思うわ。そのうえ裸のコトリを抱いて三日間もお預けにしちゃったから、最初はアッと言う間だったの。それこそ先っぽが入っただけで我慢できなくなったのよ。

    「もうしわけありません」
    「イイの、イイの、気にしないで」
 もう顔を真っ赤にしてた。でも本当に気にしなくても良いのよ、誰でも最初はそんなものなの。三回目ぐらいになってやっとメイスも余裕が出てきたみたいなの。余裕というか、時間が楽しめるようになった感じかな。すっごく申し訳なさそうな顔をしてたけど、コトリは全然気にならないの。

 コトリはね、愛する男ならなんだって許せるし、コトリが満足できようになるまでいくらでも待てるし、そう出来るようにしてあげられるの。ここでね、女神の力を使うと簡単なんだけど、ベッドでは使ったことはないわ。あくまでもコトリの人の能力でそうするのが楽しみなの。

 四日目ぐらいからメイスもだいぶ慣れてくれた。コトリもメイスがわかったの。ちなみにコトリは時間が長い方が好きなの。コトリの感度は長い長い記憶の中で不必要なぐらい高くなってるから、激しいのより、ユックリでも長い方が好みなの。そうしたらね、じわじわ、じわじわ、コトリは高いところに昇って行けるの。

 そうやって昇って行って、最後は飛ぶんだけど、ユックリの方がより高いところに昇れるの。激しいとコトリも我慢できずに飛んじゃうんだよね。メイスもわかってくれたみたいで、ユックリ、ユックリ高いところに連れて行ってくれた。

 アレって飛ぶ時がもちろん一番なんだけど、昇る時もコトリは大好きなんだ。あれも肌が合ってくると、男の方がコトリを飛ばさないように慎重に丁寧に昇らせてくれるようになるの。その時にあんまり高くなりすぎると、コトリの体が震えて来るの。こんなに高いところから飛んだらどうなっちゃうんだろうって。

 そんなコトリの体を意識の中でしっかり抱きしめてくれて、すうって感じでより高いところに連れてってくれる感じになったら、もう最高って喜びでなんにも他に考えられなくなっちゃうの。メイスも相当頑張ってくれて、かなりの高さまで連れて行ってくれたの。

 この、すうっと連れてくのがなかなか覚えきれない男は多いんだけど、メイスは覚えてくれるのが早くて嬉しかったわ。メイスと極めて行ったら、きっとこれまでより、もっともっと高いところに行ける気がするわ。今まで昇ったこともない高みから飛んだらどんな気分になるんだろう。

 そうそう飛ぶ時もね、コトリだけ飛んじゃうことも多いの。でもね、コトリは飛んでもまた昇れるの。男が、いや愛する男が入ってる限り何度でも昇れるの。まあ、そういう体になっちゃったのはアラッタの女官の時にレズで責め上げられた後に、男に回され尽くした時だったけど、今となったら愛おしい男に無限に感じさせてもらってるみたいで役に立ってる。

 でもね、昇り直す時は、さすがに悶えちゃうの。『ま、また昇っちゃう』みたいな反応。でもあれは昇りたいの、また昇って飛びたいの。はっきりいうと、ずっと昇って、飛んでを繰り返していたい感じ。でも、たぶんだけど一番好きなのは飛ぶ前かもしれない。

 飛んじゃうと、体に強烈すぎる刺激が走り回るんだけど、あれは飛ぶことによってそこまで高められたエネルギーが一挙に爆発する感じと言えば良いのかな。これがエクスタシーでイイと思うんだけど、飛ぶ寸前のエネルギーがパンパンになった状態もすっごく気持ちいいの。

 それと飛ぶ時に一番最高なのは、同時に受け止めた時。飛ぶって自分だけで飛んだ時には踏み切るって感じだけど、受け止めて飛んだら、飛び立つって感じになるの。天空高く飛び出していくってしてもイイ。このタイミングを合すのも結構大変なんだけど、メイスは才能あると思ってる。コトリの様子でわかるみたい。

 ユッキーには十日間の休暇をもらったけど、最後の夜にはコトリのリードもほぼいらなくなってた。メイスはコトリを自在に高みに昇らせ、高みをコトリに十分に堪能させ、そして思い切り飛ばせてくれた。最後に昇った高みなんて、今までのベスト・テンに入るぐらいじゃないかと思ってる。

 三日間はコトリが眠ってたから、七日しかなかったのが恨めしい。一ヶ月もあれば、コトリは今までにない高みとメイスと昇れたはずなのに。いや後十日でも出来たかもしれない。最後に飛ぶ時にしっかり受け止めたんだけど、これで休暇が終わってしまうは耐えられない感じだったの。きっとメイスなら、今まで最高のコトリの男になれるって体が感じてる。

    「次座の女神様」
    「やだ、ベッドの上ではコトリって呼ぶって約束してくれたじゃないの」
    「そうなんですが、公務に戻る時間がやって参りました」
    「そうねぇ、次の時に続きをしようね」
    「楽しみにしております。次回は目指せベスト・ファイブで」
    「ダメよ、次の時は絶対に最高記録を作って」
    「御意のままに」
 メイスの休暇もコトリと同じ十日間。コトリも朝の祭祀に出かけなきゃ。メイスがフラフラしてるわ。まあ、あれだけやれば人なら耐えられないか。コトリは男には女神の力は使わないけど、自分には使ってるの。ちょっとずるいと思ってるけど、こんな戦時下ではやれる日は限られるから、自分で許してる。ホントはコトリも女神の力なしにしたいけど、今はちょっと無理。

 去っていくメイスの後姿を見送りながら、本当に言いたかったことが心で高鳴ってる。メイス、死なないで。何があっても生き残って。メイスは女神の男じゃないの、コトリの男なの。死んでコトリを悲しませたりしないで、コトリのお願い。

アングマール戦記:女神の男(2)

 ほうほうの態でユッキーの前から退出してコトリの家に、

    「メイス、寛いでね。メイスの家でもあるからね」
 エレギオンで女神の男になるのはエレギオンの男にとって最高の栄誉になってるねんけど、ほんじゃ女神の夫であるかといえば少し違うんよ。位置づけとしては愛人に近いものやねん。女神はねぇ、正式の結婚はしないのよ。たしか最初は神だからって理由やったはずやけど、とにかくそうなってもた。

 ほんじゃ、愛人だから引っ付いたり、離れたりが頻繁にあるかと言えば、まずあらへんねん。まず女神の男が浮気した事例はタダの一つもないのよ、ホンマに。これは女神の女としての魅力が高いのもあったけど、どんなエエ女でもそのうちあきるやん。もちろん、その逆も普通に成立する。

 女神の男ってプライドが異常なほど高いのよ。これはプライドというより矜持ってした方が合ってる気がする。女神に選ばれた意味を極限まで重く受け取るってしてもエエかもしれへん。そやから最高の男じゃなくちゃならないみたいな規範が出来ちゃってたのよね。

 具体的には考えられへんほど高潔で、典雅で、礼儀正しくて、豊かな教養が自然に滲み出るってのが最低条件。教養だってあくまでも『滲み出る』やねん。間違ってもひけらかしたらアカンねん。そんな奴、普通はおらへんやんか。だからそうなるように死に物狂いで努力するんよ。例外なしでみなそうしてた。

 それだけやないねん。女神の男になったからには、その証を立てることも『当たり前』のものとして求められてた。具体的にはユッキーの男には勇敢さ、コトリの男には勇気、三座の女神の男には信念、四座の女神の男には意気ってされたけど、実質は全部一緒で、女神のためなら笑って命を捧げることが最高の美徳になってたんよ。

 これも平穏な時代なら口先だけで済むんやけど、戦争が起ると大変なことになっちゃうの。その証を立てるのに一番相応しい場所は一番の激戦地帯とされたし、そこに進んでやないで、当たり前のように行くのが女神の男となっててん。リュースやイッサみたいな感じよ。そこまでなった男に浮気なんて起る余地さえなかってん。

 女神の方はどうかやけど、ユッキーは言うまでもなく一途タイプやから浮気なんてまず考えられへんねん。三座や四座もキャラ的に誠実で真面目やからだいたい同じ。じゃあ、コトリはどうかというと、絶対せえへんかってん。

 戦争なんていつ起こるかわからへんやんか。女神の男は戦場こそが証を立てる場所って思い込んでるから、戦死率が高いのよね。コトリの男も若くしていっぱい死んでる。コトリだけやない、他の女神の男もそうやねん。そんな男を相手に浮気なんてする気も起らんかった。それこそ、格好良すぎるかもしれんけど、持てる愛のすべてを捧げ尽くしてた。そんな女神の男が戦死した時の女神の態度も実は決まっててん。できるだけ毅然と、

    「○○は女神の男に相応しい証を立てた」
 こう言わなあかんかってん。そりゃ、身も世も無いほど泣きわめきたい気持ちで一杯やねんけど、戦争中やんか。女神の男だけやなく、いっぱい人は死ぬんよ。女神は国家指導者やから、自分の男の死を人前で嘆き悲しむのは良くないってされてたの。ホンマに因果な商売といっつも思てた。

 なんで死ななアカンねんよ。生きていてこそのものやんか。そりゃ、人の命は短いんけど、そんな短い命をさらに短くてどうするのよ。なんであんなに殺し合いが好きか今でもようわからん。女神の男の証を立てた男はエレギオンで賞賛され語り継がれたけど、それより生きていて欲しかった。


 今回のメイスにはちょっと悪いことしたと思てるの。もちろんイイ男だから選んだんだけど、なかなか本当の女神の男にしてあげられなかったの。さすがに魔王の心理攻撃の防戦中にやる訳にはいかへんかったもの。コトリも凄い心配してて、もしコトリと結ばれる前に死んじゃったら、どんなお詫びをしたら良いかわかんないぐらいだったの。

 メイスは生き残ってくれた。あのアングマール軍の梯子攻撃の時なんて三回とも城壁の上で剣を揮っていたけど、なんとか生き残ってくれたの。だからこれから、この宿主になって初めてのものをメイスにもらってもらうわ。コトリも久しぶりだからすっごく楽しみ。でもその前に、

    「メイス。ずっと待たせちゃったけど、ゴメン、もうちょっとだけ待ってくれたら嬉しいな」
    「次座の女神様の御命令なら御意のままに」
    「堅苦しいな。メイスは女神の男なのよ。だから、ベッドの上ではコトリって呼んで」
    「えっ、それは、その、あの・・・」
    「メイスは女神の男じゃないの」
    「は、はい、コトリ様」
    「だから、『様』はいらない」
    「コ、ト、リ」
    「良く出来ました。だったら一つお願いを聞いてくれる。やっぱり眠たいの。コトリを抱いて眠ってくれたら嬉しい」
    「喜んで」
 コトリはサラサラッと服を脱いじゃたけど、メイスの目が真ん丸になってた。
    「さあ、メイスも脱いで。コトリだけ裸じゃ恥しいじゃない。そしてお姫様抱っこで運んでくれたら嬉しい」
    「ぎょ、御意」
 メイスも服を脱いでコトリを力強い腕で抱きあげてくベッドまで運んでくれたの。メイスの胸に顔を埋めながら、
    「メイスが我慢できなかったら、コトリが眠っている間でも構わないけど、出来たら目覚めてからにしてくれたら嬉しい」
    「もちろん、その通りに」
 ごめんねメイス。三日ぐらいは目が覚めへんと思う。でも、どうしても今は眠らなきゃいけないの。起きたら、いっぱい、いっぱい、やろうね。そして目一杯ラブラブしようね。でも束の間になるだろうなぁ。アングマール軍がこれで二度と来ないなんて思えないもの。もうダメ、これ以上は考えられない。メイスの胸で眠れるだけでコトリは幸せ。