アングマール戦記:第二次包囲戦(1)

 魔王は秋にシャウスの道を下ってきた。ハマに入ったんだけど、リューオン、ベラテをパスしてキボン川をいきなり渡り、セラの野を横切ってエレギオンに迫って来たんだ。どうも魔王はリューオンやベラテには街を守る程度の戦力はあっても、ハマを襲うほどの力はないと読んだみたい。実際のところそうなんだけどね。そしたらまた出て来やがったんだ、

    「慈悲深きアングマール王より、エレギオン国民に告げる。我の目標はエレギオンにあらず五女神なり、速やかに差し出せ」
 今度はコトリが答えたった。
    「恵み深き主女神の命を受けたる次座の女神が告す。そちの欲望が満たされることはない。速やかに故郷に戻られよ」
    「おお、知恵の女神か。ゲラス以来で懐かしい。そちも体を清めて待っておるが良い。とくに念入りに可愛がってやろう」
 コトリの横にメイスが立ってたんだけど、怒りで顔が真っ赤になってて、手がプルプル震えてた。そういえば、あれから結局休日取れなかったから、あの続き出来てないんだぁ。メイスだってやりたいだろうし、コトリもそうなの。

 さて籠城準備なんだけど、前回の経験を活かして対策はあれこれやっていた。巨大石弓はより強化したし、巨大投石機も倍増の二十台設置した。さらに城壁の上にすべて屋根を巡らしたの。木製で土台を作り、さらに屋根には日干し煉瓦を敷き詰めたの。日干し煉瓦の屋根にしたのは敵の火矢対策。

 強度はそれほどじゃないけど、アングマール軍の投石器では城壁の上まで大きな石を投げ込む力はないだろうって見方。とにかく前回はあの巨大な塔の高さにかなりやられたから、ここはしっかり対策しておく必要があると思ったの。

 梯子対策はせこい手を編み出した。梯子は立てかけるんだけど、これを棒で押し出す対策。敵だって根元をしっかり押さえるだろうけど、そこはテコの原理で、上を押す方が力比べなら有利なの。そうやって城壁から離してしまえば、いくら登って来ても狙い撃ちできるってところ。

 城門はまた落とし穴掘っといた。それだけやなく、掘り出した土で城門ごと埋めといた。これで敵は落とし穴を埋めて、門の前の土砂を取り除かない限り破城槌は使えないって対策。まあこれが破られたら、城門の内側を前みたいに石詰めにして塞ぐつもり。

 アングマール軍はざっと見たところ前回より少なそう。高原徴収兵はかなりの損害を出したので、前回ほどには集められなかったのかもしれない。その辺もあってリューオンやベラテも囲まなかったのかもしれない。食糧不足も応えた可能性はある。

 さて何をしてくるかと思ったんだけど、驚かされたのはアングマールも巨大投石機を設置し始めたこと。これを見たエレギオン軍は最初から全開で巨大投石機を撃ちだした。あんなものを撃ちこまれたら大変やから。巨大投石機は命中精度に問題があるというか、そもそも『だいたいこのへん』ぐらいの代物やねんけど、それでも目標が見えてるかどうかの差は大きいねん。

 さらにいえば、エレギオンの追加巨大投石機はさらに大きくしてあったの。その上で土台をもう五メートルかさ上げしといたから、撃ちあいはエレギオン有利に進んだの。アングマール軍も地面からじゃ届きにくいので、土台を作り始めたんだけど、目標が大きくなって当たる数が増えるし、一発当たると土台がかなり傷むのよ。

 巨大投石機の数が増えたのでアングマールの巨大な塔攻撃も有効になってん。あの巨大な塔はとにかく敵前で組み立てるから、巨大投石機だけでなく、巨大石弓、その他の飛び道具の的になるの。もちろん、それを作るだろうと予測して強化してあるから、アングマール軍は巨大な塔を作るだけでかなりの損害を出してるはずよ。