アングマール戦記:コトリの休日

 メイスも最初は緊張してた。相手は女神だし、メイスは童貞みたいだったから、果たしてコトリを満足させるか不安もあったんだと思うわ。そのうえ裸のコトリを抱いて三日間もお預けにしちゃったから、最初はアッと言う間だったの。それこそ先っぽが入っただけで我慢できなくなったのよ。

    「もうしわけありません」
    「イイの、イイの、気にしないで」
 もう顔を真っ赤にしてた。でも本当に気にしなくても良いのよ、誰でも最初はそんなものなの。三回目ぐらいになってやっとメイスも余裕が出てきたみたいなの。余裕というか、時間が楽しめるようになった感じかな。すっごく申し訳なさそうな顔をしてたけど、コトリは全然気にならないの。

 コトリはね、愛する男ならなんだって許せるし、コトリが満足できようになるまでいくらでも待てるし、そう出来るようにしてあげられるの。ここでね、女神の力を使うと簡単なんだけど、ベッドでは使ったことはないわ。あくまでもコトリの人の能力でそうするのが楽しみなの。

 四日目ぐらいからメイスもだいぶ慣れてくれた。コトリもメイスがわかったの。ちなみにコトリは時間が長い方が好きなの。コトリの感度は長い長い記憶の中で不必要なぐらい高くなってるから、激しいのより、ユックリでも長い方が好みなの。そうしたらね、じわじわ、じわじわ、コトリは高いところに昇って行けるの。

 そうやって昇って行って、最後は飛ぶんだけど、ユックリの方がより高いところに昇れるの。激しいとコトリも我慢できずに飛んじゃうんだよね。メイスもわかってくれたみたいで、ユックリ、ユックリ高いところに連れて行ってくれた。

 アレって飛ぶ時がもちろん一番なんだけど、昇る時もコトリは大好きなんだ。あれも肌が合ってくると、男の方がコトリを飛ばさないように慎重に丁寧に昇らせてくれるようになるの。その時にあんまり高くなりすぎると、コトリの体が震えて来るの。こんなに高いところから飛んだらどうなっちゃうんだろうって。

 そんなコトリの体を意識の中でしっかり抱きしめてくれて、すうって感じでより高いところに連れてってくれる感じになったら、もう最高って喜びでなんにも他に考えられなくなっちゃうの。メイスも相当頑張ってくれて、かなりの高さまで連れて行ってくれたの。

 この、すうっと連れてくのがなかなか覚えきれない男は多いんだけど、メイスは覚えてくれるのが早くて嬉しかったわ。メイスと極めて行ったら、きっとこれまでより、もっともっと高いところに行ける気がするわ。今まで昇ったこともない高みから飛んだらどんな気分になるんだろう。

 そうそう飛ぶ時もね、コトリだけ飛んじゃうことも多いの。でもね、コトリは飛んでもまた昇れるの。男が、いや愛する男が入ってる限り何度でも昇れるの。まあ、そういう体になっちゃったのはアラッタの女官の時にレズで責め上げられた後に、男に回され尽くした時だったけど、今となったら愛おしい男に無限に感じさせてもらってるみたいで役に立ってる。

 でもね、昇り直す時は、さすがに悶えちゃうの。『ま、また昇っちゃう』みたいな反応。でもあれは昇りたいの、また昇って飛びたいの。はっきりいうと、ずっと昇って、飛んでを繰り返していたい感じ。でも、たぶんだけど一番好きなのは飛ぶ前かもしれない。

 飛んじゃうと、体に強烈すぎる刺激が走り回るんだけど、あれは飛ぶことによってそこまで高められたエネルギーが一挙に爆発する感じと言えば良いのかな。これがエクスタシーでイイと思うんだけど、飛ぶ寸前のエネルギーがパンパンになった状態もすっごく気持ちいいの。

 それと飛ぶ時に一番最高なのは、同時に受け止めた時。飛ぶって自分だけで飛んだ時には踏み切るって感じだけど、受け止めて飛んだら、飛び立つって感じになるの。天空高く飛び出していくってしてもイイ。このタイミングを合すのも結構大変なんだけど、メイスは才能あると思ってる。コトリの様子でわかるみたい。

 ユッキーには十日間の休暇をもらったけど、最後の夜にはコトリのリードもほぼいらなくなってた。メイスはコトリを自在に高みに昇らせ、高みをコトリに十分に堪能させ、そして思い切り飛ばせてくれた。最後に昇った高みなんて、今までのベスト・テンに入るぐらいじゃないかと思ってる。

 三日間はコトリが眠ってたから、七日しかなかったのが恨めしい。一ヶ月もあれば、コトリは今までにない高みとメイスと昇れたはずなのに。いや後十日でも出来たかもしれない。最後に飛ぶ時にしっかり受け止めたんだけど、これで休暇が終わってしまうは耐えられない感じだったの。きっとメイスなら、今まで最高のコトリの男になれるって体が感じてる。

    「次座の女神様」
    「やだ、ベッドの上ではコトリって呼ぶって約束してくれたじゃないの」
    「そうなんですが、公務に戻る時間がやって参りました」
    「そうねぇ、次の時に続きをしようね」
    「楽しみにしております。次回は目指せベスト・ファイブで」
    「ダメよ、次の時は絶対に最高記録を作って」
    「御意のままに」
 メイスの休暇もコトリと同じ十日間。コトリも朝の祭祀に出かけなきゃ。メイスがフラフラしてるわ。まあ、あれだけやれば人なら耐えられないか。コトリは男には女神の力は使わないけど、自分には使ってるの。ちょっとずるいと思ってるけど、こんな戦時下ではやれる日は限られるから、自分で許してる。ホントはコトリも女神の力なしにしたいけど、今はちょっと無理。

 去っていくメイスの後姿を見送りながら、本当に言いたかったことが心で高鳴ってる。メイス、死なないで。何があっても生き残って。メイスは女神の男じゃないの、コトリの男なの。死んでコトリを悲しませたりしないで、コトリのお願い。

アングマール戦記:女神の男(2)

 ほうほうの態でユッキーの前から退出してコトリの家に、

    「メイス、寛いでね。メイスの家でもあるからね」
 エレギオンで女神の男になるのはエレギオンの男にとって最高の栄誉になってるねんけど、ほんじゃ女神の夫であるかといえば少し違うんよ。位置づけとしては愛人に近いものやねん。女神はねぇ、正式の結婚はしないのよ。たしか最初は神だからって理由やったはずやけど、とにかくそうなってもた。

 ほんじゃ、愛人だから引っ付いたり、離れたりが頻繁にあるかと言えば、まずあらへんねん。まず女神の男が浮気した事例はタダの一つもないのよ、ホンマに。これは女神の女としての魅力が高いのもあったけど、どんなエエ女でもそのうちあきるやん。もちろん、その逆も普通に成立する。

 女神の男ってプライドが異常なほど高いのよ。これはプライドというより矜持ってした方が合ってる気がする。女神に選ばれた意味を極限まで重く受け取るってしてもエエかもしれへん。そやから最高の男じゃなくちゃならないみたいな規範が出来ちゃってたのよね。

 具体的には考えられへんほど高潔で、典雅で、礼儀正しくて、豊かな教養が自然に滲み出るってのが最低条件。教養だってあくまでも『滲み出る』やねん。間違ってもひけらかしたらアカンねん。そんな奴、普通はおらへんやんか。だからそうなるように死に物狂いで努力するんよ。例外なしでみなそうしてた。

 それだけやないねん。女神の男になったからには、その証を立てることも『当たり前』のものとして求められてた。具体的にはユッキーの男には勇敢さ、コトリの男には勇気、三座の女神の男には信念、四座の女神の男には意気ってされたけど、実質は全部一緒で、女神のためなら笑って命を捧げることが最高の美徳になってたんよ。

 これも平穏な時代なら口先だけで済むんやけど、戦争が起ると大変なことになっちゃうの。その証を立てるのに一番相応しい場所は一番の激戦地帯とされたし、そこに進んでやないで、当たり前のように行くのが女神の男となっててん。リュースやイッサみたいな感じよ。そこまでなった男に浮気なんて起る余地さえなかってん。

 女神の方はどうかやけど、ユッキーは言うまでもなく一途タイプやから浮気なんてまず考えられへんねん。三座や四座もキャラ的に誠実で真面目やからだいたい同じ。じゃあ、コトリはどうかというと、絶対せえへんかってん。

 戦争なんていつ起こるかわからへんやんか。女神の男は戦場こそが証を立てる場所って思い込んでるから、戦死率が高いのよね。コトリの男も若くしていっぱい死んでる。コトリだけやない、他の女神の男もそうやねん。そんな男を相手に浮気なんてする気も起らんかった。それこそ、格好良すぎるかもしれんけど、持てる愛のすべてを捧げ尽くしてた。そんな女神の男が戦死した時の女神の態度も実は決まっててん。できるだけ毅然と、

    「○○は女神の男に相応しい証を立てた」
 こう言わなあかんかってん。そりゃ、身も世も無いほど泣きわめきたい気持ちで一杯やねんけど、戦争中やんか。女神の男だけやなく、いっぱい人は死ぬんよ。女神は国家指導者やから、自分の男の死を人前で嘆き悲しむのは良くないってされてたの。ホンマに因果な商売といっつも思てた。

 なんで死ななアカンねんよ。生きていてこそのものやんか。そりゃ、人の命は短いんけど、そんな短い命をさらに短くてどうするのよ。なんであんなに殺し合いが好きか今でもようわからん。女神の男の証を立てた男はエレギオンで賞賛され語り継がれたけど、それより生きていて欲しかった。


 今回のメイスにはちょっと悪いことしたと思てるの。もちろんイイ男だから選んだんだけど、なかなか本当の女神の男にしてあげられなかったの。さすがに魔王の心理攻撃の防戦中にやる訳にはいかへんかったもの。コトリも凄い心配してて、もしコトリと結ばれる前に死んじゃったら、どんなお詫びをしたら良いかわかんないぐらいだったの。

 メイスは生き残ってくれた。あのアングマール軍の梯子攻撃の時なんて三回とも城壁の上で剣を揮っていたけど、なんとか生き残ってくれたの。だからこれから、この宿主になって初めてのものをメイスにもらってもらうわ。コトリも久しぶりだからすっごく楽しみ。でもその前に、

    「メイス。ずっと待たせちゃったけど、ゴメン、もうちょっとだけ待ってくれたら嬉しいな」
    「次座の女神様の御命令なら御意のままに」
    「堅苦しいな。メイスは女神の男なのよ。だから、ベッドの上ではコトリって呼んで」
    「えっ、それは、その、あの・・・」
    「メイスは女神の男じゃないの」
    「は、はい、コトリ様」
    「だから、『様』はいらない」
    「コ、ト、リ」
    「良く出来ました。だったら一つお願いを聞いてくれる。やっぱり眠たいの。コトリを抱いて眠ってくれたら嬉しい」
    「喜んで」
 コトリはサラサラッと服を脱いじゃたけど、メイスの目が真ん丸になってた。
    「さあ、メイスも脱いで。コトリだけ裸じゃ恥しいじゃない。そしてお姫様抱っこで運んでくれたら嬉しい」
    「ぎょ、御意」
 メイスも服を脱いでコトリを力強い腕で抱きあげてくベッドまで運んでくれたの。メイスの胸に顔を埋めながら、
    「メイスが我慢できなかったら、コトリが眠っている間でも構わないけど、出来たら目覚めてからにしてくれたら嬉しい」
    「もちろん、その通りに」
 ごめんねメイス。三日ぐらいは目が覚めへんと思う。でも、どうしても今は眠らなきゃいけないの。起きたら、いっぱい、いっぱい、やろうね。そして目一杯ラブラブしようね。でも束の間になるだろうなぁ。アングマール軍がこれで二度と来ないなんて思えないもの。もうダメ、これ以上は考えられない。メイスの胸で眠れるだけでコトリは幸せ。

アングマール戦記:女神の男(1)

 偵察部隊の報告は次々に入ってきた。まずアングマール軍の退却は本当で、魔王はシャウスの道を越えてしまったみたい。さすがにアングマールまで帰ってしまったかどうかの確認は現時点では無理やったけど、城門の再開通作業と付け替え修理には着手させた。

 リューオンもベラテも落ちてなかった。よく落ちなかったものだと感心したけど、アングマール軍も木材調達には苦労してたみたい。エレギオン包囲戦であれだけ消費したら、リューオンやベラテに回すほどの余裕はなかったぐらいで良さそう。だからアングマール軍も無理攻めをせず、包囲してただけみたい。それでも三年は長かったと言ってた。

 エレギオン軍の損害は概算でほぼ一個軍団がまるまる消えるぐらいやった。あの大城壁と、あれだけの各種武器と対策を行っていても、ここまでの損害があったことに心が暗くなってた。もちろんエレギオンが落ちてたら、こんなものじゃ済まなかったんだけど、やっぱり戦争は嫌だ。

    「次座の女神様、調査結果の報告です」
 報告に来たのはメイス上席士官。包囲戦が始まった時には次席士官だったけど、上の士官が次々に亡くなって三年で繰り上がりってところ。でもタナボタやないぐらい優秀で、包囲戦中にコトリが見初めて女神の男になってもらった。
    「どうしても概算になりますが、アングマール軍の損害は当方の四倍はあると見て良いかと思われます」
    「じゃあ、四個軍団ぐらい消えちゃったってこと」
    「いえ、損害の多くは高原都市からの徴発兵で、アングマール直属軍に限って言えば、軍団にして一個半ぐらいではないかと」
    「やっぱり最後の梯子攻撃」
    「最後の二回は凄まじかったですから、あれがアングマール軍の真の力であったと見ています」
 魔王はおそらく偵察攻撃の時には高原都市の徴収兵を使い、エレギオンの戦法を見極めてから直属軍を使ったと見て良さそうだわ。
    「残されていた武器はどうだった」
    「敵ながら天晴れで、ほとんど何も残されていません」
 まあ、余裕を持って退却したものね。おそらく城門が城壁化しているのを見抜いていた気がする。追い討ちがないのなら、そういうものを回収したり処分する時間は十分あるものね。
    「それにしても、アングマールもよくあれだけ食糧が保ったね」
    「それなんですが、どうも途中から足りなくなったようです」
    「やっぱり、でどうしてたの」
    「これもおそらくなのですが、食い扶持を減らしていたみたいなのです」
    「それって・・・」
    「そうしか考えられません」
 時々、アングマール軍は無理攻めしてきたことがあるのよ。あの大城壁をよじ登ろうとしたのよ。とにかくあの高さだし、垂直に近い角度だし、上に行くほど継ぎ目なんて殆どなくなるのだけど、それでもよじ登ろうとするの。横の塔からの矢や、上から落とす石で余裕で撃退できたけど、あれって攻撃と言うより、食い扶持減らしが目的だったんだ。ついでで、それでエレギオンの矢が一本でも減ってくれたら十分みたいな。
    「ところで次座の女神様。そろそろお休みなられませんか」
    「そうだね、首座の女神は起きてきた?」
 すると後ろから、
    「起きてるわよ。トットとメイスとお休みに行ってらっしゃい」
    「ユッキー、その前に報告を」
    「もう聞いたわ。これから、やらなくちゃならない事がテンコモリあるけど、コトリの仕事はまず休むこと。メイスだってずっとお預けだったんだから、早く行ってあげなさい」
 メイスが顔を真っ赤にして、
    「お預けとは・・・」
    「だってそうじゃない。コトリはメイスを選んだけど、女神は魔王の心理攻撃への対応で目一杯で、寝る時間もなかったんだから。あのさなかに、やれるほど勇気はないでしょ」
    「その勇気と次座の女神様に対する勇気は違います」
    「ユッキー、からかうのはそれぐらいにしてあげて」
    「ほんじゃコトリ、初夜を楽しんで来てね。それとメイス、コトリが燃えだしたらアングマール軍より手強いからね」
    「ちょっとユッキー、それは言い過ぎよ」

アングマール戦記:エレギオン包囲戦(2)

 エレギオン包囲戦が始まってから一年。ついに来たの。エレギオンをすべて包み込むような巨大な力が押し寄せてきたの。それはまさに圧倒的な力だった。人の心から希望が消えていき、ひたすら虚しさと、絶望感に満たされるあの心理攻撃が。

    「コトリ、これね」
    「そう、この感じ。でも、ゲラスの時とは比べ物にならないぐらい強力だわ」
 これにまともに対抗する手段はなかったの。でも放っておくと、兵士は戦意を失い、職人たちはやる気を失い何も作ってくれなくなるの。それだけじゃないの。料理人はご飯を作らなくなるし、とにかく誰もが無気力状態にされてしまうの。

 ユッキーと二人で押し返そうと頑張ったけど無駄だった。魔王の心理攻撃は女神の災厄の呪いを封じ込めるだけでなく、女神の能力をかなり封じ込めてしまうの。それぐらい力の差があるとしか言いようがなかったわ。

    「ユッキー、こうなったら主女神を起こそう。そうでもしないと対抗できないよ」
    「いや、それは最終手段よ。わたしの見るところ、女神の力は見える範囲では通用するわ。走り回って対抗しよう」
 ユッキーの言う通り、二人が訪れたところの士気は回復してくれるのだけど、しばらくしたら逆戻りになっちゃうの。最初はユッキーと二人で走り回っていたのだけど、
    『ズシン』
 ある時期からさらに圧力が強まったの。女神の回復効果の及ぶ範囲、持続時間がさらに短くなっちゃった。三座や四座の女神もフル動員してひたすら走り回ったの。もう眠る時間もなくなってた。三座の女神は、
    「次座の女神様、いつまでこんなことを続ければ良いのですか」
    「そんなもの終わるまでに決まってるじゃない」
 城壁守備の指揮は四座の女神が貼りつきになっていた。そうでもしないと守り切れない感じやった。もちろん戦いが激しくなればユッキーやコトリも駆けつけるんだけど、それ以外でも煌々と光る輝く女神が不眠不休でいる必要があったのよ。包囲戦が三年目に入った時に、
    『ズシン』
 また強くなったの。その頃にはアングマール軍は何カ所かで空堀を埋め尽くし城壁に取り付けるようになっていた。城門前の落とし穴も既に埋め尽くされ、破城槌攻撃も何度も行われたの。

 破城槌に対してはロープでひっくり返す戦術を取ってたけど、それへの対策もあれこれされてたし、城門前には巨大な塔が四つも建てられてしまい、そこから城壁の上や、塔の中に向かっても攻撃してくるの。もちろん、こっちだって反撃するんだけど、巨大投石機も巨大石弓も二年を越える攻防戦でかなり傷んじゃってるのよね。

 城門の強化は思い切った手段に切り替えた。城門は内側に蝶番が付いていて、門に閂が掛けられてるんだけど、あの破城槌の攻撃を受け続けたら、閂がへし折られるか、蝶番が潰れるのは間違いなかったし、ここまでの包囲戦でもかなり傷んでいたの。

 まずコトリがやったのは蝶番の強化で上から下までビッシリ付けたった。それと閂だって二十本ぐらい追加したの。それでもあの破城槌はさらに強力なのよ。そこで、城門の後ろにビッシリと石を積み上げた。つまりは城門の後ろは事実上の城壁にしてもてん。こっちから打って出るのは出来なくなるけど、この心理攻撃下で打って出るなんて無理だからそうした。

 包囲戦が二年半を越えた時にアングマール軍は新たな戦術で攻勢に出てきた。エレギオンの大城壁に届く巨大な梯子を無数に用意して突撃してきたの。残っている兵器を総動員して戦ったわ。梯子を次々と登ってくるアングマール軍を次々と射落としたけど、いくらでも登って来るの。

 城壁の上から石を落として撃退しようとしたけど、今度は楯をもって登って来るの。その楯をぶち壊すような大きな石を落としたら、さらに頑丈な楯を持ちだしてくるみたいな。城壁の上は修羅場で、登ってくるアングマール軍に対する攻撃もあるけど、城壁上はアングマール軍の塔からの攻撃の的にもなるの。

 アングマール軍の梯子攻撃は三日間続いた。城壁の下にはアングマール軍兵士の死体が積み重なっていたし、守備側のエレギオン軍の損害も少なくなかった。そうしたら、一週間後に再び梯子攻撃が行われたの。アングマール軍も対策してた。梯子の幅が広がり、二人がかりで持つ頑丈な楯を先頭に登って来たの。さらに兵は重装歩兵だった。矢による攻撃の効果がどうしても落ちちゃうの。

 このままでは梯子は登られちゃうから、こっちも重装歩兵戦列を城壁の上に並べてん。これで登ってきたアングマール軍に対抗したんやけど、城壁の上自体が矢による攻撃にさらされていたから、こっちの損害もドンドンでた。それでも城壁に登ってきたアングマール軍兵には強力な対抗策になってくれた。そりゃ、梯子で登ったアングマール軍に戦列を組む余裕はなかったものね。それでも執拗にアングマール軍は攻撃を続け、これが一週間続いた。

 一ヶ月の間隔を空けて第三波がきた。城壁の上も城壁の下も地獄のような状態になる激戦が展開された。城門では破城槌が物凄い音を立ててたし、これを妨害する余裕は既に失われてた。アングマール軍はついに城壁上のエレギオン軍の一部を破り城壁の階段を下りて来たけど、コトリは重装歩兵部隊だけでなく騎馬隊も展開させといた。そしてついに押し返したの。

 三波にわたる梯子攻撃はエレギオン軍の被害も多かったけど、アングマール軍はより被害が大きかったと思うの。さすがのアングマール軍も第四波は仕掛けてこなかった。それでね、その頃から魔王の心理攻撃は弱まってきたの。そうなの、エレギオン軍があそこまで苦戦した理由の一つに魔王の心理攻撃で士気がなかなか奮わなかったのもあったのよ。

 もういつから寝てないかわからない状態のコトリとユッキーだったけど、アングマール軍の動きが妙なのよね、

    「コトリ、あれって退却してるんじゃない」
    「いや、誘ってるだけかも」
 まあ追撃するにも城門は塞いでしまってるから、指をくわえて見てるしかなかったけど、ついにアングマール軍は退却してくれた。もう包囲戦が始まって三年になっていたけど、なんとか守り切ったみたいなの。勝ったというよりも凌ぎきっただけかもしれないけど、エレギオンは落ちなかった。
    「コトリ、悪いけど今夜の当番は任せたわ」
    「何するの」
    「寝不足はお肌に良くないから、今夜は寝させていただくわ」
 寝不足って・・・もう二年だよ。でもユッキーには寝てもらったし、三座や四座の女神にも寝てもらった。コトリはマシュダ将軍に指示、
    「城門の再開通作業は偵察部隊を出してからにする。今晩中に城壁から騎馬隊を吊り降ろせる装置を作っておいてくれる。とにかくエレギオン以外がどうなってるかの情報がないからね」
    「かしこまりました。ところで次座の女神様はお休みにならないですか」
    「首座の女神が起きてきたら寝るわ」

アングマール戦記:エレギオン包囲戦(1)

 アングマール軍の布陣が完了したところで城門の前に真っ黒の大きな馬に乗り、黒づくめの魔王が側近を連れて現われた。そこから大音声で、

    「慈悲深きアングマール王より、エレギオン国民に告げる。王の目標はエレギオンにあらず、五女神なり。素直に差し出せばこのまま帰ることを約束する」
 なにが『慈悲深き』じゃ、厚かましいほどにも程があるわ。コトリが答えたろうと思たらユッキーが答えよった。
    「恵みの主女神の命を受けたるエレギオンの首座の女神より告す。聖なるエレギオンの地を踏みにじった罪は軽からず、必ずその報いを与えん」
    「おお、お前が首座の女神か。ワシの手の中で悶える姿が見えるぞ」
    「アングマール王よ、そちの願いは永遠に叶うことはあらん」
 さっと魔王は馬を返すと、巨大な破城槌が前進してきたの。マシュダ将軍に、
    「シャウスの破城槌もあれぐらいだった?」
    「いえ、半分もなかったです」
 アングマールの軍事技術の水準は高い。あれほど巨大な破城槌を作り、これを動かしているのにビックリしてもた。あれをひっくり返すのは難しいかもしんない。エレギオンの大城壁の周りには深い空堀が巡らされてるけど、城門前はないの。その代り、城門は高い二つの塔に挟まれるように出来ていて、近づいてきたら、雨あられのように矢や石が降り注ぐことが出来るようになってるの。

 でも破城槌の屋根は頑丈そうだった。石が当たる距離になって落としたんだけど、ビクともしやがらないの。でも破城槌の一回目の攻撃対策だけはしてたのよ。

    『ドッスーン』
 城門前に巨大な落とし穴を掘ってたの。そこはさっきまで魔王が立ってたんだけど、それぐらいじゃビクともしないようになってたけど、破城槌の重量なら当然落っこちるわ。でもって落とし穴はかなり深いのよ。だいたい三十メートルぐらい。破城槌ごと落っこちてくれた。でもって、そのまま城門を守る空堀になるって寸法。

 翌日からはアングマール軍の投石器攻撃が始まった。スプーンの先みたいなところに石を乗せて、弾き飛ばしてくるスタイル。見てると山なりに投げるのは苦手みたいで、城壁崩しが目的みたい。でもね、ユッキーの作った城壁は最上部で十メートルぐらいあって、基部は三十メートルぐらいあるの。基部は土塁を作った上に石垣で固めてあり、上部は石を積み上げて作ってあるの。

 その程度の投石器じゃビクともしないはずだけど、撃たれっぱなしは感じ悪いし、撃たれた石は転がり落ちて空堀を埋めるのよね。だから投石器潰しの反撃を行ったわ。ここはユッキーの指示で、巨大石弓で石を撃ちこんでみた。石弓の命中精度は巨大になっても高いのよね。上から狙い撃ちしたら、投石器兵はたまらず逃げて行ってくれた。

 続いて出てきたのが埋め立て車。屋根付き破城槌に似てるんだけど、中は空っぽで、後ろから土を運び込んで、前から空堀に運ぶの。これにも巨大石弓は効果があったわ。最初に出てきたやつの屋根を次々に撃ち抜いてくれた。でもアングマールもさるもの、次に投入された埋め立て車は屋根が段違いに強化されてた。

 なんと石を跳ね返しちゃうのよね。どれだけ頑丈な屋根やと思たもの。そこでユッキーの指示で矢に代えた。これも巨大な鏃を付けた代物やねんけど、威力は抜群やった。頑丈な屋根をぶち抜いてくれたの。

 そうしたらついに動く塔が出てきた。アングマール軍は三十メートル級の動く塔を作っちゃったのよ。それも一遍に十台並べて城壁に押し寄せてきたの。でも案外脆かった。さすがのアングマールもこれだけ巨大な動く塔に重装甲は施せなかったみたい。巨大石弓でボロボロにできたの。

 そしたらアングマール軍はボロボロになった動く塔を修理するのよ。どうもやけど、最初に装甲を壊されるのは計算内みたいで、そこから固定式の塔にして攻城拠点にする段取りみたいやった。修理工事を阻止するために激しく矢を浴びせたけど、射落としても、射落としても修理兵が送り込まれちゃったの。

 固定式の塔の装甲は頑丈で、巨大石弓でも突き刺さるけどぶち抜くのは困難やったの。そこで矢にロープを付けて特殊鏃で次々に打ち込んで引っ張って倒してやった。三台まで倒したんやけど、アングマール軍もすぐ対策をたて、頑丈なロープをビッシリ張り巡らせて、引っ張っても倒れないようにしたのよ。

 それに対して火矢でロープを焼こうとするエレギオン軍と、火矢を放とうとするエレギオン軍を塔から狙い撃ちするアングマール軍との激しいつばぜり合いになっていったの。もちろん埋め立て車の破壊戦もヒートアップしていったわ。

 ここで、ついにユッキーの指示が出て巨大投石機を動かすことになったの。とにかくデカイんだけど、城壁が二十五メートルもあるものだから、高さが十メートルもある巨大な台座の上に据え付けられてたの。そこからドデカイ岩をビューんと放り込んでいくの。距離は十分飛んでくれるんだけど、精度が大雑把なのが難点。だけど威力は抜群やった。まともにアングマール軍の塔に当たるとぶち壊してくれた。

 こうやって籠城のためにあれこれ準備してものは役に立ってくれて、やがて膠着状態になっていったの。膠着状態と言っても、アングマール軍は次々に装甲強化型埋め立て車を投入して来るし、動く塔ならぬ固定式の塔の新設も続けていたわ。もちろんそれに対する妨害破壊も延々と続いていた。