アングマール戦記:エレギオン包囲戦(1)

 アングマール軍の布陣が完了したところで城門の前に真っ黒の大きな馬に乗り、黒づくめの魔王が側近を連れて現われた。そこから大音声で、

    「慈悲深きアングマール王より、エレギオン国民に告げる。王の目標はエレギオンにあらず、五女神なり。素直に差し出せばこのまま帰ることを約束する」
 なにが『慈悲深き』じゃ、厚かましいほどにも程があるわ。コトリが答えたろうと思たらユッキーが答えよった。
    「恵みの主女神の命を受けたるエレギオンの首座の女神より告す。聖なるエレギオンの地を踏みにじった罪は軽からず、必ずその報いを与えん」
    「おお、お前が首座の女神か。ワシの手の中で悶える姿が見えるぞ」
    「アングマール王よ、そちの願いは永遠に叶うことはあらん」
 さっと魔王は馬を返すと、巨大な破城槌が前進してきたの。マシュダ将軍に、
    「シャウスの破城槌もあれぐらいだった?」
    「いえ、半分もなかったです」
 アングマールの軍事技術の水準は高い。あれほど巨大な破城槌を作り、これを動かしているのにビックリしてもた。あれをひっくり返すのは難しいかもしんない。エレギオンの大城壁の周りには深い空堀が巡らされてるけど、城門前はないの。その代り、城門は高い二つの塔に挟まれるように出来ていて、近づいてきたら、雨あられのように矢や石が降り注ぐことが出来るようになってるの。

 でも破城槌の屋根は頑丈そうだった。石が当たる距離になって落としたんだけど、ビクともしやがらないの。でも破城槌の一回目の攻撃対策だけはしてたのよ。

    『ドッスーン』
 城門前に巨大な落とし穴を掘ってたの。そこはさっきまで魔王が立ってたんだけど、それぐらいじゃビクともしないようになってたけど、破城槌の重量なら当然落っこちるわ。でもって落とし穴はかなり深いのよ。だいたい三十メートルぐらい。破城槌ごと落っこちてくれた。でもって、そのまま城門を守る空堀になるって寸法。

 翌日からはアングマール軍の投石器攻撃が始まった。スプーンの先みたいなところに石を乗せて、弾き飛ばしてくるスタイル。見てると山なりに投げるのは苦手みたいで、城壁崩しが目的みたい。でもね、ユッキーの作った城壁は最上部で十メートルぐらいあって、基部は三十メートルぐらいあるの。基部は土塁を作った上に石垣で固めてあり、上部は石を積み上げて作ってあるの。

 その程度の投石器じゃビクともしないはずだけど、撃たれっぱなしは感じ悪いし、撃たれた石は転がり落ちて空堀を埋めるのよね。だから投石器潰しの反撃を行ったわ。ここはユッキーの指示で、巨大石弓で石を撃ちこんでみた。石弓の命中精度は巨大になっても高いのよね。上から狙い撃ちしたら、投石器兵はたまらず逃げて行ってくれた。

 続いて出てきたのが埋め立て車。屋根付き破城槌に似てるんだけど、中は空っぽで、後ろから土を運び込んで、前から空堀に運ぶの。これにも巨大石弓は効果があったわ。最初に出てきたやつの屋根を次々に撃ち抜いてくれた。でもアングマールもさるもの、次に投入された埋め立て車は屋根が段違いに強化されてた。

 なんと石を跳ね返しちゃうのよね。どれだけ頑丈な屋根やと思たもの。そこでユッキーの指示で矢に代えた。これも巨大な鏃を付けた代物やねんけど、威力は抜群やった。頑丈な屋根をぶち抜いてくれたの。

 そうしたらついに動く塔が出てきた。アングマール軍は三十メートル級の動く塔を作っちゃったのよ。それも一遍に十台並べて城壁に押し寄せてきたの。でも案外脆かった。さすがのアングマールもこれだけ巨大な動く塔に重装甲は施せなかったみたい。巨大石弓でボロボロにできたの。

 そしたらアングマール軍はボロボロになった動く塔を修理するのよ。どうもやけど、最初に装甲を壊されるのは計算内みたいで、そこから固定式の塔にして攻城拠点にする段取りみたいやった。修理工事を阻止するために激しく矢を浴びせたけど、射落としても、射落としても修理兵が送り込まれちゃったの。

 固定式の塔の装甲は頑丈で、巨大石弓でも突き刺さるけどぶち抜くのは困難やったの。そこで矢にロープを付けて特殊鏃で次々に打ち込んで引っ張って倒してやった。三台まで倒したんやけど、アングマール軍もすぐ対策をたて、頑丈なロープをビッシリ張り巡らせて、引っ張っても倒れないようにしたのよ。

 それに対して火矢でロープを焼こうとするエレギオン軍と、火矢を放とうとするエレギオン軍を塔から狙い撃ちするアングマール軍との激しいつばぜり合いになっていったの。もちろん埋め立て車の破壊戦もヒートアップしていったわ。

 ここで、ついにユッキーの指示が出て巨大投石機を動かすことになったの。とにかくデカイんだけど、城壁が二十五メートルもあるものだから、高さが十メートルもある巨大な台座の上に据え付けられてたの。そこからドデカイ岩をビューんと放り込んでいくの。距離は十分飛んでくれるんだけど、精度が大雑把なのが難点。だけど威力は抜群やった。まともにアングマール軍の塔に当たるとぶち壊してくれた。

 こうやって籠城のためにあれこれ準備してものは役に立ってくれて、やがて膠着状態になっていったの。膠着状態と言っても、アングマール軍は次々に装甲強化型埋め立て車を投入して来るし、動く塔ならぬ固定式の塔の新設も続けていたわ。もちろんそれに対する妨害破壊も延々と続いていた。