アングマール戦記:アングマール軍襲来

 エルグ平原に侵入したアングマール軍がどう動くかは、あれこれシミュレーション考えてた。まずはハマからリューオン、さらにベラテと順番に落としてエレギオンに襲いかかるパターン。そうなれば文字通りエレギオンが最後の砦になっちゃうんだけど、

    「コトリ、時間がかなりかかると思うの」
    「そうよねぇ、エレギオンが健在なら包囲網の背後を攻撃されるリスクもあるし」
 ほんじゃあ、いきなりエレギオンの包囲になるかだけど、
    「やっぱり背後が危なくない。補給路をさらしてるようなものだし」
    「そうよねぇ、そうなった時の打ち合わせはしてるけど、エレギオン単独包囲はないと思う」
 アングマールは五個軍団いるから一遍に四つとも包囲するパターンだけど、
    「だったらエレギオンを攻めるのは二個軍団ね。魔王が指揮してなかったら叩き潰してやる」
 一番可能性が高そうなのはまずハマを全軍で攻めるんじゃないかって予測。アングマールはハムノン高原を制圧してるけど、エルグ平原に出るにはシャウスの道を通るしかないから、エルグ平原にも戦略拠点になる都市がまず欲しいだろうって考えると思うの。ハマはシャウスの道のエルグ平原側にあるから、ここを奪っておけばシャウの道の確保はより万全になるものね。
    「ハマは落ちて欲しくないけど、五個軍団に攻められると苦しいかもね」
    「なんとか援護したいけど、五個軍団が総出で囲まれると厳しいよね」
    「じゃあ、そうなったら例の作戦やる?」
 例の作戦とは騎馬隊単独での襲撃作戦です。歩兵部隊で援護に赴けば、待ってましたとばかりに会戦に持ち込まれそうやし、やれば勝てるかどうかに不安がテンコモリ。そこで騎馬隊の優速を利用してのかく乱戦術なの。
    「準備はしてるけど、効果はどうだろ。そりゃ、ある程度は混乱してくれると思うけど、アングマール全軍を崩すのは無理だと思うの」
 とにもかくにも出方を見ようとなったんだ。アングマール軍は予想通りハマを囲んだわ。ハマは本格的に防備を強化していて、城壁は十五メートル以上もあるの。これを動く塔で攻略するには二十メートル級のものが必要になるんだけど、木材調達はどうするかは注目してた。

 そしたらアングマール軍にも知恵者がいたの。コトリもユッキーもシャウスの道を使って運び込んで来ると思っていたら、キボン川に木を流したのよ。ラウスの瀑布があるからロスも少なからず出たとは思ってるけど、やられたと思ったわ。

 騎馬隊襲撃もやらせたけど、最初は効果があったと思う。とくに初回の時は兵糧部隊の襲撃に成功して存分な成果と言えるものだったけど。後は警戒がドンドン厳重になって、思わしい戦果があがらず、むしろ損害が気になるようになっていったの。とにかく騎馬隊は貴重だから、無理できないのよね。

 でもハマは三ヶ月経っても落ちなかった。激戦は展開されているらしいの情報は入って来たけど落ちなかった。ここで動いたの。コトリは二個軍団を率いてハマに向かったの。ここまでの情報で『どうやら』ハマを囲んでいるのはアングマールの前衛部隊で、魔王の主力軍はまだ来ていないと読んだのよ。

 でもコトリの動きは読まれてた。ドーベル将軍にリューオンの郊外で迎え撃たれ、負けはしなかったけど痛み分けでエレギオンに戻らざるを得なくなちゃったの。やはりアングマール軍は強いわ。痛み分けと言ったけど、客観的に見るとエレギオン軍は劣勢やった。大敗しなかったのは、ドーベル将軍が深追いしなかっただけだった。

    「ユッキー、あかんかった」
    「ドーベル将軍って、そんなに強いの?」
 ドーベル将軍の用兵は鮮やかやった。ベッサスでのエレギオン軍の戦法を十分に検討していたみたいで、散兵部隊にも丈夫な大きな盾を持たせていた。それだけやなくて、盾を並べてあっという間に歩兵戦列組んじゃったのよ。盾は前だけでなく後列は頭の上に担ぎ上げてたから、上から矢を降らせる作戦も効果が乏しかったの。矢の効果が落ちた散兵戦は苦戦になってしまい。しかたがないから虎の子の騎兵隊に頑張らせて、なんとか総崩れを防いだぐらいかな。

 リューオン郊外でエレギオン軍が撃退され戦局は動くことになったわ。ついに魔王の主力軍がハマに進出して一ヶ月でついに落城しちゃったの。そこから魔王がどう動くかに注目していたんだけど、リューオンもベラテも囲んだだけで積極的には攻めようとせず、エレギオンを目指して来るのがわかった。

    「ところでコトリ、使わなかったの」
    「うん、ドーベルってなかなか男前やったし。もちろん最後は使って逃げ延びたけど」
    「それは今回限りにしてね。これは試合じゃなくて戦争だから」
    「わかった」
 これは災厄の呪いのことだけど、ハマを守り切れなかったのもこれだと思う。魔王がハマに来てから災厄の呪いが通じにくくなってるの。
    「コトリが言ってた、エロ魔王の力ってこんな感じなんだ。これは手強いわ」
    「そうでしょ」
    「二人が組んでも厳しいかもしれない」
    「でも、負けるもんか」
    「あたりまえよ、あんな歩くチンポコ変質者なんか・・・」
 ここで二人は声を合わせて、
    「海の藻屑に変えてやる」
 そしてついにエレギオン郊外にアングマール軍が姿を現したの。リューオンやベラテに包囲部隊を置いているはずだけど、それでもとても三~四個軍団程度に見えへんかった。
    「ユッキー、どんだけおるねん」
    「う~ん、たぶんだけどあれって高原都市の兵よ。根こそぎぐらい連れて来てる気がする」
 城外に布陣を進める大軍団を眺めながら、いよいよ追い詰められた感覚が湧いてきたわ。ここで負けたらホントに後がないのよ。エレギオン住民は虐殺されるし、コトリだって魔王の御馳走にされてしまう。

アングマール戦記:ホウキとチリ取り(4)

 クソ魔王のやり方は女がエクスタシーに達した瞬間を狙うのやけど、ひょっとしたら、そこにカギがあるんやないかと最初は考えてん。そやから、毎日必死こいてマスターベーションに励んだ時期もあったぐらい。もちろんこれは、あくまでも軍事研究のためだよ。

 でも無駄やった。あの瞬間を自分で冷静に観察するんは無理やったんよ。それと、よく考えたら、たとえこの方法で成功しても魔王攻撃の前にマスかかなアカンのは変やし、イヤやんか。それも果てるまでやで。たとえ上手くいきそうでも、実戦では絶対に使いたくないから断固として中止にした。

 方針転換して、体の中のエネルギーの効率利用のコントロールをあれこれやってみたの。今まで考えた事もなかってんけど、外に自在に力が使えるようになると、体内のエネルギーコントロールも出来ることがわかってんよ。ここが突破口やった。体内のエネルギーコントロールが出来ると、体内の好きな場所にエネルギーを集中できるようになってきてん。

 結構どころやない集中力がいるんやけど、とりあえず手に集めてみた。そこからが日数かかってんけど、極度に高めたら噴出しそうな感じに段々なってきてん。でも、これを部屋でやるとやばそうな感じがプンプンしてた。庭でも拙そうやったから、やっぱり演習場でやることにした。

 演習場の隅っこで極度に集中力を高めたら、どういうたらエエんやろ。ちょうど出来物がプチンと潰れる感じで、一挙にエネルギーが噴出したんよ。

    『ドッカーン』
 とりあえず前に何かが飛び出し、前の岩に当たってんけど、それこそ粉微塵になって吹き飛んでもた。それだけやなく、どうも斜め下に噴き出たみたいで、地面がドバっと掘れてた。同時にコトリはフラフラになっちゃった。全身のエネルギーが一挙に抜け落ちたって感じやった。

 これがコトリの最初に放った一撃やった。そうそう一撃の名前の由来やけど、あれ一発撃つと、次は撃てるもんじゃなかったのよ。一発しか撃てへんから一撃ってところ。最初の時なんて結局ぶっ倒れて演習場が大騒ぎになってもてん。大慌てで施療院に担ぎ込まれて、気が付いた時には三座の女神が、

    「次座の女神様、いったいどうやったらこんな事になってしまわれるのですか」
 そのまま三日間の入院。一か月ぐらい体がだるかったもの。入院中にもあれこれ考えとってんけど、クソエロ魔王の変態行為の意味がなんとなく見えてきたの。クソエロ魔王が女をエクスタシーにさせるのは、女をそれに集中させるためだろうって。そりゃ、あの瞬間に女は他のことを考えることが出来へんぐらい集中していると言えるからな。

 とくに女神の場合は自分でやってわかったんやけど、集中したところにエネルギーも集まる傾向があるねん。考えることに集中したら頭にエネルギーが集まるし、手仕事に集中したら手に集まってくる感じと言えば良いのかな。だったらエクスタシーに達する時はアソコにエネルギーが集まっているはずだって。それをあの汚らわしいチンポコ経由で吸い取りやがるんだ。

 よくまあ、そんないやらしいことを考えつくんだって思いっきり軽蔑したわ。それにいくら軍事研究のためとはいえ、マスかきまくったのに赤面してしもた。あれも全部クソエロ魔王が残部悪い。コトリはマスかくより、ちゃんとやるのが好きなのよ。それなのに、それなのに、研究のためにマスかいたから・・・コンチクショウ覚えてやがれ、

    「海の藻屑に変えてやる」
 でもそうとわかれば、土壇場勝負のベッドでの搾り尽くし合戦になった時の戦術の目途が立ったわ。体内のエネルギーをコントロールして、あそこにいかなようにすれば勝機があると思うの。そうなればコトリも気持ち良くなれないかもしれないけど、魔王のチンポコから思う存分搾り取れるじゃない。その時には目に物見せてやるから。

 一撃の二発目を試してみたのは、一か月後になったわ。一発目の時は全力を入れ過ぎてエライ目にあったから、その辺のコントロールを意識してやったら、まあまあの出来やった。そこで四座の女神に来てもらったの。だって一撃って一発しか撃てへんし、撃てばフラフラになっちゃうじゃない。だから、もう一人ぐらい撃てるのがいた方が嬉しいじゃない。ユッキーに教えようと思ったけど、前の大喧嘩からロクすっぽ口利いてないし。

 夜にコトリの家に来てもらって、やり方のコツをレクチャーしたの。体内エネルギーのコントロールをまず覚えてもらって、次の段階の任意のところに集中させる段階に入れたわ。庭でやってたのだけど、

    「とにかく手に思いっきり集中させてごらん」
 四座の女神は真面目だから全身を輝かせながら集中しているのはよくわかったの。ただ、これ以上やれば飛び出てしまいそうだったから、
    「この辺で今夜はオシマイにしよう」
 こう言ったんだけど、手遅れやった。四座の女神は極度の集中でコトリの言葉が耳に入らなくなっていたの。アッと思ったら、
    『ドッカーン』
 天に向かって飛んでった。そのまま四座の女神は白目を剥いて失神。コトリは急いで施療院に運んでいったの。三座の女神も出て来てくれて、
    「次座の女神様。四座の女神様に何をなされたのですか」
 このことがユッキーの耳に入り呼び出されちゃった。
    「コトリ、何やってるの! コトリだけじゃなく四座の女神まであんな状態にしてしまって。今は非常体制なのよ。四座の女神にもやってもらわなければならないことがヤマほどあるのに。どうしてくれるのよ」
 しゃあないから事情を話したんよ。あの大喧嘩から久しぶりに口利いたんだけど、
    「それって役に立つの? だって撃ったらあのザマじゃない」
    「そこは辛いところだけど、威力はあるで」
    「でも神に効果はホントにあるの?」
    「やってへんからわからへん」
 一撃による瞬間燃焼理論も聞いてもらったんやけど、
    「わたしもそんな感じはあるけど、あくまでも感じだけだし」
    「でも神相手にテストできへんやんか」
    「そこなのよね。たとえ効果があるとしても、エロ魔王に効くかどうかは未知数よ」
 冷静に考えればそうなんだけど、
    「最後の手段ぐらいの価値はあるか・・・」
    「でしょ、でしょ、一番のメリットはクソ魔王に触れずに使える点よ」
    「その価値は認めるわ。とにかくエロ魔王は・・・」
 なんとか三十分ぐらいで悪口は終らせて、
    「コトリ、ちょっと来てくれる」
 連れて行かれたのは、神殿の庭。
    「さっき言ってたの、こんな感じかなぁ」
 そこの岩にスパッと小さな穴が開いちゃったの。
    「これを最大出力でやる感じでイイのかな」
    「ちょっとユッキー、前から出来たの?」
    「ううん、コトリの話を聞いてたら、こんな感じだと思ったから」
 それにしても、なんでユッキーはあんなに器用やねん。
    「コトリ、その一撃だけど、もう練習もしないでね。そろそろシャウスの道は突破されそうなの」
 いよいよ魔王が来るみたい。

アングマール戦記:ホウキとチリ取り(3)

 ヒマがあったら練習しとってんけど、ホウキはだいぶ上手くなった。もっともホウキだけで二十本ぐらい折ってもたから、侍女の嫌味はしっかりあった。

    「次座の女神様。今は戦時体制で、モノは普段以上に大事にしないといけません。これが民のお手本である次座の女神様のなされる事ですか。それと次座の女神様は軍事研究と仰いましたが、ホウキを折る軍事研究など聞いたことがありません」
 うん、コトリも聞いたことがないのは同意やった。でもホウキが使えるようになって力の加減のコツをつかんだ気がするの。でもチリ取りは結構難しかってん。チリ取りもそれだけ操るんやったら出来るんやけど、ホウキとのコンビネーションがいるやんか。チリ取りまた壊したら侍女が怖いから、慎重にやって五個で済んでくれた。

 あれもコツやな。覚えてしまうとなんちゅう便利な能力やと感心したぐらい。ユッキーのやつ、早く教えてくれてたら、どれだけラク出来とったかわからんぐらい。思い出しても腹立つわ。でも、ホウキとチリ取りが自在に扱えるようになって、侍女にリベンジしたってん。例の人を自在にコントロールする実験台になってもろた。

    「軍事研究に協力してくれないなぁ」
    「ホウキとチリ取りですか?」
    「そうよ。あれが軍事研究だって教えてあげたいの」
    「おほほほ、次座の女神様も冗談がお好きで」
    「じゃあ、イイわね」
    「はい・・・」
 なるほどこりゃ、便利やわ。させたんはホウキとチリ取り使った掃除やったけど、初めてにしては結構スムーズにできたんよ。
    「はい、おしまい」
    「はぁ、はぁ、はぁ、これを研究されてたのですか」
    「そうよ」
    「さすがは知恵の女神様」
 コトリが発明したんやないけど、侍女も見直してくれた。
    「でも、ホウキとチリ取りで掃除させるのに軍事的な意味があるのですか?」
    「もちろんよ、そこから先は軍事機密だけど」
 段々わかってきたんは、送り込む力のコントロールみたいなの。岩の加工も上手くなってん。最初にやった時は壊しただけやったけど、イメージ通りに削ったり、切ったり出来るようになってん。ユッキーのとこの庭に鮮やかな切り口の石のベンチやテーブルがあったけど、あれもユッキーが作ったもんやとようわかったもの。

 ユッキーが出来た事はほぼ出来るようにはなってん。もっとも料理は結局出来へんかった。料理も温度調節まで出来たけど、味がね。すっごい繊細なコントロールが必要で、ちょっとミスったらムチャクチャ不味くなって食べられへんようになっちゃうの。それを修正しようとあれこれやっても、まさに泥沼のドツボ。何回かチャレンジしたけど、ついにあきらめた。失敗しときの空腹がたまらへんし、食べ物を粗末にするのは良くないものね。

 さて、問題の対魔王対策やねんけど、やってる途中に閃いてん。力は外に送り込めるやん。ここがポイントだって。ホウキやチリ取りだって力を送り込んだ結果のものやんか。だったら、女神のエネルギーを一点に集中して絞り出すことも可能なはずだって。でも、理屈はそうでも、そうは簡単にはいかへんかってん。

 でも絶対できるはずやと思てんよ。思った根拠がクソッ腹が立つけどクソ魔王。あの野郎は女神のエネルギーを搾り取るって言いふらしてるやんか。クソ魔王にできることが、この知恵の女神に出来へんはずないのよ。あんなエロ性獣に出来て女神に出来へんはずがあらへんもん。

アングマール戦記:ホウキとチリ取り(2)

 あれこれ考えたけど、ユッキーが言ってた小技は便利そうやからちょっと使ってみようかな。とりあえずホウキとチリ取りやってみよか。力の使い方はこんなもので、えっと、えっと、あれっ、アカンて、そんなんしたら、

    『ボキッ』
 しもた、力加減が難しいなぁ。チリ取りも練習だけ、
    『グシャ』
 微妙なもんやなぁ。でもどっちも壊してもたから明日は侍女に怒られるやろなぁ。でも、なんとなくわかった気がする。もうちょっと他のもので試してみるか。
    『バキッ』
 ありゃ、また壊れてもた。じゃあ、こっちは、
    『メキメキメキ、グシャ』
    『バリバリバリ、グシャ』
 どうにも力加減が難しいわ。部屋の中がグシャグシャになってもた。こりゃ、拙い。朝になってから侍女がやってきて、
    「次座の女神様、どういうおつもりですか。部屋中の物をこんなにしてしまって。そもそも女神の生活は国民のお手本。それをわかってやってらっしゃるのですか!」
    「ゴメン、でもこれ軍事研究なの」
    「それだったら部屋でやらないで下さい。ついでにいうと庭でもやらないで下さい」
 言う通りやと思た。この調子でやってたら、家ごと潰してしまいそうやもんね。演習場に行って練習しようっと。
    「これはこれは次座の女神様、御視察ですか」
    「う、うん。他にもちょっと・・・」
なんにしようかな。とりあえずあのデッカイ岩にしよう。あれやったら壊しても文句でえへんやろ。
    『ボロッ』
 岩って脆いなぁ。というかユッキーの言っていた岩を自由に加工できるって、この延長線上のものやろな。じゃあ運んだりはどうかだけど、
    『ヒュウッ』
 うわぁ、飛んでってもた。まずい、あそこまで飛んだら演習中のまん中やんか。
    『ドッカーン』
 四座の女神が飛んで来て、
    「次座の女神様、お戯れは、ほどほどにお願いします」
    「ゴメン」
 ユッキーのやつ、なんちゅう器用やねん。どうもコトリがやると操るというより、ぶっ壊すになってまうし、運ぶというより放り投げるになってまうやんか。他もやってみたけどエライ目に遭った。水を湧かせてみたら三十メートルぐらいの噴水みたいなものになってもてずぶ濡れになったし、食事の温度調節も少し熱くしようとしたら煮えたぎり、少し醒まそうと思ったら凍ってもた。

 部屋の温度調節もそうやった。灼熱と極寒の二段調節にしかならへんのよ。火をつけるのもそうで、危うくコトリが焼け死にそうになったもの。そやから人を自在にコントロールするとか、気候にまで手を出すのは今はまだやめてる。そんなんしたら、相手を殺しかねへんし、気候かってどうなってしまうのか想像するのも怖いぐらい。

アングマール戦記:ホウキとチリ取り(1)

 アングマール戦は人同士の戦争でもあるけど、神同士の戦争でもあるのよね。究極的には魔王を殺さないと決着が付かないってところなの。でもって神を殺せるのは神だけだから、コトリかユッキーが対決しなきゃならないんだけど、魔王は強い。ゲラスで見た魔王に勝てる気がせんかったのは白状しとく。

 まともに組み合ったら勝てそうにあらへん上に、ユッキーもそうやけどコトリも魔王には触れたくもないのよ。誰があんな変態チンポコ・エロ野郎と組みたいっていうのよ。触れただけでエロエロが感染してまいそうやんか。だいたいやね・・・

 悪口はこれぐらいにしとこ。これをやりだすと一時間ぐらいかかってまうからね。ユッキーに相談した時も、相談の大部分が悪口になってもて、なんにも話が出来へんかったもの。ホンマ、あのクソ野郎のことを考えるだけでムカッとするわ。あれだけエロしか頭にないのに、どこで戦争のことを考えてるんやろ。絶対頭やあらへん。チンポコで考えてるんやで。いやキンタマで考えてるに違いない。チンポコ以外でマシなとこ言うたら、キンタマぐらいしかあらへんやないか。

 チンポコ脳のキンタマ頭の歩くエロ人間・・・アカン、アカン、悪口ばっかりナンボでも浮かんでくる。これじゃ、考えが全然まとまらへんやんか。考えがまとまらへんのはキンタマ野郎が全部悪い。なんであんなエロしか頭にない奴があんなに強いねん。世の中、間違ってると思うでホンマ。

 ハア、ハア、ハア。今度こそ冷静に考えよ。とにかく女の敵、あんな楽しいことを使い捨てにしやがる感覚が信じられへん。あんなものん、何回も出来るから楽しいんやんか。それを一回ポッキリで使い捨てにしやがるんよ。毎晩一人ずつでも、一年したら三百六十人以上やん。

 アレはコトリも好きやけど、何回も肌を合わせて高めていくのがイイんじゃないの。そうやってお互いに感じるところが段々にわかっていって、どっちも満足していくものよ。まあ、コトリの場合は体が既に出来上がってるようなもんやから、一回目でも乱れちゃうけど、それでも一回目より二回目、二回目より三回目の方が楽しくなるんだよ。

 童貞相手の時だって面白いんだよ・・・アカン、アカン、また脱線してしもた。とりあえず問題点は、まともに組み合っても勝てへんのんと、クソ魔王を殺さんとコトリも餌食になってまう点やな。どっちもよく考えたら不利すぎる話ばっかりやけど、こればっかりは負けられへん。

 なんかエエ手はないかな。いっそのこと開き直って、ベッドでクソ魔王を搾り上げてまうってのどうやろ。神いうても人やから、一日に五十発ぐらい搾り上げたら倒せるんちゃうやろか。その間にコトリもエクスタシーに何回も達するだろうけど、どっちが最後まで生き残っているかみたいなサバイバル勝負。そんなんを一週間ぐらい続けたら、クソ魔王でも耐えられへんと思うけど、それをするのにコトリが耐えられへんわ。

 アレをやり続けるのはまだエエとしても、クソ魔王相手にやるのは虫酸が走り過ぎるもんな。やっぱりアレは愛する男とワクワクしてやるもので、商売でやるのはさすがに懲りた。この手はベッドまで追い込まれた時の奥の手にしとこ。まあ、最後の最後の土壇場勝負なった時に頑張るぐらいかな。

 そうなると神として戦わなしゃあないんやけど、条件厳しいな。何回も神と戦ったことあるけど、たしかにエネルギーの消耗戦やけど、感覚としてエネルギーの燃やしあいみたいなところがあるねんよ。神同士の戦いはシンプル過ぎるけど、あえてテクニック的なところは、相手のエネルギーをより効率よく燃やすはあると感じてるのよね。

 今までエレギオンに来やがった神は殆ど雑魚やったけど、雑魚相手に戦ったら、相手は瞬間に燃え上がる感覚は確かにあるのよ。これが雑魚よりマシのクラスになると、なんか燃えにくい感じがしてる。うん、ポイントはその辺にありそうな気がする。

 たぶんやけど、相手の神のエネルギーは、エネルギーの差があるほど早く燃え尽きるんちゃうやろか。相手より強いと言うのは、エネルギーの差やねんけど、エネルギーの差が大きいほど、自分のエネルギーの消耗が少なくて、相手が燃えやすいみたいな。でも、そうであってもコトリの不利は変わらないのよね。クソ魔王の方がどう見たってエネルギーは上だもの。

 なんかヒントはあらへんかな。弱い方が強い方のエネルギーを効率よく燃やす方法を考え出したら勝てるはず。まあ、そんなうまい手があれば誰でも使うんやろうけど、今回はそれを見つけ出さへんかったら、ベッドでの土壇場勝負に持ち込まれてまうやん。やっぱり魔王とアレするのは生理的に嫌やし。

 う~ん、う~ん、エネルギーの強弱を付けるには・・・こう考えたらどうやろ、エネルギーの強弱は持ってる分の差でもあるけど、出す時の差でもあるんちゃうやろか。どういうたらエエのかな、神のエネルギーいうても溜めてる分と使う分に違いがあるって感じ。もうちょっと言い換えれば、エネルギーからパワーは生まれるんだけど、エネルギーとパワーはちょっと違うって考え方。

 神同士の戦いってエネルギーの消耗戦ってなってるけど、本当はエネルギーを変換したパワーの対抗戦で、相手に対抗できるだけのパワーが出せなくなったら負けるぐらい。もうちょっと言い換えると、パワーはバリアみたいなもんで、これが突き破られれば持っているエネルギーも燃やされてオシマイになっちゃうぐらいかな。

 出せるパワーは持っているエネルギー量に比例するのだけど、ここで瞬間最大風速みたいな強力パワーを浴びせかければ、相手のパワーを吹き飛ばすだけじゃなく、蓄えているエネルギーも燃やせちゃうぐらいの戦術は成立するんじゃないかって。

 雑魚よりマシのクラスの神と戦ってる時にそんな感じがあってんよ。神同士の対決は純消耗戦やけど、それでも力の出し合いでの駆け引きは多少あるねん。これまでは相手がよりパワー懸けてきたら、こっちもパワーアップして対抗してただけやけど、だいぶ前に魔王より一万倍マシやったけど気色悪いのがいて、

    「コイツ好かん」
 と思って、ドカンとパワー懸けたら瞬間で燃えたことがあるねん。あの感じの拡大版やったらクソ魔王にも通じる可能性があるかもしんない。そうなると問題はどうやってそんな瞬間最大風速みたいなパワーをかけれるかになってくるのよね。

 『コイツ好かん』程度じゃあかんやろな。それも出来たら、離れて当てたいところ。だってクソ魔王に触れたくあらへんし。でも出来そうな気がするのよ。女神は色んな能力が使えるけど、離れてても使えるの。災厄呪いなんてそうやんか、あれなんか隣の国でも効くのよ。

 ユッキーは色んな小技が使えるみたいだけど、コトリだって近いものは使えるの。ユッキーと大喧嘩したら神殿も壊れることがあるんだけど、あの喧嘩って物の投げ合いなのよ。だからエライ事になっちゃうのだけど、最初は手で投げ合うのだけど、ヒートアップしたら神の能力で投げつけあうの。

 備品がブンブン飛び交う世界になっちゃうんだけど、神殿まで壊れる時には、壁石や床石、さらには天井の梁まで投げつけあうから神殿が壊れちゃうの。ひどい時には完全に瓦礫の山になっちゃうから、侍女だって、女官だって喧嘩になれば絶対に近づかず逃げちゃうのよ。まともに当たれば死んじゃうものね。

 もっとも喧嘩したら女官長にごっつい怒られるの。これは思いっきり怒って良い事になってるの。首座や次座や女神でも一切逆らってはならないことになってて、延々と半日ぐらい説教されちゃうの。そして罰として一ヶ月ぐらいビールも取り上げられちゃうのよ。神殿ぶっ壊した時には一年間禁酒させられた。まあ、それぐらいのブレーキを作っとかなきゃ、エレギオンの街ごとぶっ壊す大喧嘩をやりかねないし。