帰り道にパンダの話題になったんだけど、
「そりゃ、いるなら見たいよ。珍獣だし、可愛いもの」
親父の子どもの頃に上野動物園に来た時には、社会現象になるぐらいの熱狂的なブームを引き起こしたって聞いたことがある。連日、三時間ぐらいの長蛇の列が出来て、そこまで待ってもガラス越しにチラッと見えただけだったとか。
パンダに関しては関西の方が恵まれていて、神戸にも、白浜にもいて、カノンも子どもの頃に王子動物園で見たもの。もっともカノンが見た頃には三時間の行列なんて無く、ゆっくり見れたけどね。
「ミルもそう」
「わたしもです」
あれがパンダだって、子ども心にも覚えてるけど、見れてすっごく感動したかと言えば微妙だな。なんて言うか、
「そうだね、見たら満足したと言うか」
「友だちに自慢できるものじゃないし」
神戸出身のアオイならとくにそうだろうな。田舎者のカノンですら、パンダを見た人なんていくらでもいたものね。
「見たことがないからバカにされることもないし」
「パンダの話題で盛り上がった事もなかった気がします」
もちろん日本にいてくれて見れる方が有難いけど、見れなくなったから嘆き悲しむ程かと言われたら疑問なのよね。この辺は時代の変化もあるかな。日本に初めて来た頃はパンダを見るには動物図鑑の写真とか、テレビのニュース動画しかなかったと思うけど、
「ネットに画像も動画もいくらでも転がってるものね」
リアルで見る方が価値も高いのは否定しないけど、パンダって動物園にしかいないのも案外なポイントの気がしてきた。パンダが動物園にいるのは当たり前なんだけど、動物園って大人がヒョイと出かけるところと言えないんじゃないかな。
「それは言える。デートでも水族館デートは定番みたいなところはあるけど、動物園デートはマニアックだよ」
「動物園って家族連れで行って、子どもに見せるもののイメージがありますよね」
大人だって動物好きの動物園マニアはいるだろうけど、大人同士がウキウキしながら動物園に出かけるイメージは無いよね。
「動物園好きってオタク趣味に近いかも」
動物園が好きな人を軽蔑する気はサラサラないけど、子どもの時に卒業してる感じかな。大人になっても熱中してもかまわないけど、他人に自慢できない点ではオタク趣味に近い部分はあると思う。
「動物園でスノブな講釈を延々と聞かされても引きそう」
「それがオタク趣味ですが、ちょっと・・・」
相手を選ぶよな。歴史好きだって似たようなところはあるけど、本来は日本にいない動物だから、どうしてもね。
「それだったら、ナショナル・ジオグラフィックみたいに現地で生態を撮影したものの方に興味が湧くかな」
どうしてもね。動物園って展示用の設備だから、野生の精悍さとか、逞しさ、美しさを感じるにはどうしたって落ちる感じ。
「インド象の足かせが可哀そうだった」
「ゲージに閉じ込められてる鳥もそうです」
子どもが動物図鑑でしか知らないのをリアルで見れる価値を否定しないし、カノンも見れて楽しかったけど、あれってどうしても見たら満足してしまう人が多い気がする。
「水族館も似たようなところはあるけど、それでも大水槽の中のジンベイサメは迫力あったよ」
「巨大アクアリウムですし、あれは見てるだけで癒しになると思います」
ジンベイザメは迫力あるものね。あんなにデッカイ魚が実在して悠然と泳いでるもの。まあ、パンダは借り物だし、貸し主が返せって言うのだったら仕方ないぐらいが正直な感想だよ。この辺はもうパンダを見たことがあるのを差し引いても、
「パンダロスは言い過ぎだよね」
「動物園にしたら目玉動物がいなくなるのが痛いのはわかりますが」
神戸は返したのではなく、パンダが天に召されていなくなったのだけど、だからと言ってパンダの葬儀に神戸市民全員が涙したとか、パンダ復活運動が盛り上がったとこはなかったはず。存在価値としてはそれぐらいだったと思うんだ。
「上野とか白浜は知らないけど、神戸はそんな感じだったと思う」
「わたしもそんな感じでした」
だけどパンダロスを事さらにまくし立てる人がいるじゃない。思うんだけど、ああいう人ってパンダ好きの動物園マニアじゃない気がするんだよ。それこそ、子どもの頃に見た事あるレベルじゃないかな。
「そこまでのパンダファンやったら、あんだけポストしてるんだから、パンダ愛の履歴があるはずだよね」
「黒柳徹子さんが言うなら説得力はありますけどね」
あれってやっぱり、
「ゼニでしょ」
「ご苦労様です」
パンダが急遽みたいに返還になったのは政治的理由なのは誰でも知ってること。はっきり言って嫌がらせだ。子どもを悲しませてどうするんだと思わなくもないけど、とにかく政治的な理由だ。
「シナリオに忠実と言うか、命令なんだろうな」
「そうなるはずだの妄想の実現化の一環で良いと思います」
日本からパンダがいなくなれば日本国民はパンダロスに嘆き悲しみ、これが怒りに変わって政府攻撃に動くってやつで良い気がする。
「と言うか、そうなるはずだの目論見が不発だから動員された」
「でしょうね。あんな人が突然パンダに肩入れするのですもの」
昔から宮仕えは辛いって言うけど、そんな感じなんだろ。パンダロスを嘆き悲しむ人だっているだろうけど、
「これも命令で動員されたデモが東京で起こるか、起こらないかが関の山じゃないかな」
「パンダロス特化デモじゃなくて、反政府系のデモのプラカードぐらいに、パンダを戻せが混じるぐらいじゃないですか」
それぐらいだろうな。カノンもパンダは嫌いじゃないけど、血相を変えるほどの問題かと言われたらそうじゃないものね。そしたらアオイが、
「パンダじゃなくて、日本の動物を見せたら良いんじゃないでしょうか」
イノシシぐらいなら神戸なら普通に見れるぞ、山学にだって出て来るぐらいだ。
「クマはどうでしょう」
あんなものアオイは見たいのかよ。クマとか、イノシシとか、シカは田舎なら戦うべき敵なんだよ。小学校の裏山にクマが出た時なんて、警察とか猟友会の人まで出て来る騒ぎになり、何日か休校になったもの。
「そうだよね。イノシシやシカが畑を荒らしに来るのも戦いだもの。一番厄介なのはサルだ」
「サルも出るのですか!」
田舎を舐めてもらったら困る。イノシシやシカなら柵である程度は対策できるけど、サルは柵を攀じ登ってしまうから厄介なんだよ。だから電撃柵がデフォなんだけど、
「あいつら電撃柵を避けて来るんだよ。木を登ったり、納屋を利用したりとかだよ。猿知恵は脅威だもの」
アオイじゃわかんないだろうけど、田舎じゃクマも、イノシシも、シカも、サルもポピュラーだし、それと戦うのが日常だもの。タヌキやキツネだって誰もが見た事あるし、
「イタチやテンもそうだよ」
クマ問題で熊を殺すな、クマと共生しろって人がいるじゃない。あんなの田舎者から見れば、動物園のクマしか知らない人の戯言だよ。共生ってそんな甘ったれたものじゃないんだ。どっちが生き残るかぐらいの争いの末になんとか成り立つ共存だよ。
「人だってそうじゃない。だから現代でもウクライナは起こったじゃない。あそこまで殺し合って、殺し疲れた果てじゃないと和平協定すら結べないじゃないの」
東京に千頭ぐらいのクマを放ったら少しぐらいはわかると思うよ。