恋せし乙女の物語(第35話)アラサー女の呟き

 合コンからの一連の騒動はなんとか終わったはず。結城君と花屋敷さんがどうなったかは気にはなるけど、連絡はないし、こっちから連絡もしにくいから不明だ。宜しくやってるんじゃないのかな。

 渡米までに結婚式を挙げるのじゃないかと思ってるけど、明日菜はまず呼ばれない。あれこれあるにせよ花屋敷さんとは知り合い程度、つうか二回しか話したことはないし、結城君だって元カノもどきを呼ばないだろ。ややこしいもんね。

 それにしても、あれだけ骨を折って収穫なしか。これだったら、あの合コンで誰か捕まえとけば良かった。五人の医者軍団との合コンなんて二度とないチャンスかもしれなかったのに。

 それなのに策略みたいな状況に置かれて、結城君以外の四人とは隔離状態だったもの。お蔭で連絡先の交換どころか、お話も出来ていないし、名前すら聞いていない。今から思うともったいなかったな。

 それでも無理やり良い方に考えれば、また男が欲しくなったて来た。もとい、彼氏が欲しくなってきた。あれだけ刺激を受ければそうなるでしょうが。彼氏と言うより、歳からして真剣な結婚相手を見つけないとね。

 別に明日菜は男嫌いでも、独身主義者でもない。平凡と言われようが、恋して結婚して家庭を持ちたい夢は人並みに持ってる。だけどお母ちゃんのお見合い攻勢はウザイ。今どきだからお見合いだって出合いの場の一つに過ぎないし、会ったからには断れない見合いなんて無い。そもそもそんな政略結婚とは無縁の平凡すぎる家だものね。

 でもさぁ、やっぱり結婚相手は見合いでは見つけたくないのはある。そりゃ、出会い系サイトとか、婚活パーティとどう違うとかと言われたら説明に困るところはあるし、結婚相談所なんて有料お見合いだと言われればそれまでだもの。

 明日菜の同僚とか先輩も婚活パーティに参加したり、結婚相談所に登録してる人もいる。なんだかんだと言ってアラサーの足音が聞こえると焦る気持ちはわかる。まだアラサーなのはわかってるし、もっと年上での結婚は幾らでもある。

 これはデータでもある。現代の平均初婚年齢は女で二十九・四歳だそうなんだ。そう、明日菜でも平均より若いってこと。データ上ならこれから結婚適齢期の旬になるものね。だけどこれはあくまでもデータの上の話。

 まずだよ、明日菜がこれから結婚するにしても、まず彼氏を見つけ出さないといけない。さらに彼氏が出来ても即結婚にはならない。当たり前だけど、交際が深まって、二人が結ばれ、同棲に雪崩れ込み、プロポーズされて、親への挨拶をして、結婚式の準備・・・

 早くても一年ぐらいはかかるはず。そりゃ、出会ってすぐの電撃結婚ってケースもあるだろうけど、そっちの方が珍しいし、そんな結婚は明日菜も嫌だ。ついでに言えば出来ちゃった婚もしたくない。

 アラサー女でも結婚を念頭に置いた彼氏がいれば、それこそ平均初婚年齢を目指せるスケジュールが組める。ところが彼氏さえいない状況では、確実に平均初婚年齢を越えてしまうってこと。

 じゃあ、トットと彼氏を見つけろって話になるのだけど、社会人になれば出会いが減る。それも歳を重ねるほど減っていく。社会人でポピュラーなのは同僚との社内結婚か取引先の人。あれも入社して早い方が有利な事実は厳然としてある。

 ドライな話になるけど、女は入社時点が最高だ。それこそ社内の未婚男性をすべてターゲットに出来る。だけど年数を重ねるほど状況は悪くなっていく。まずだけど新顔の供給が減るのよ。

 これは女だからは確実にある。女のターゲットの基本は年上なんだよ。年下だってありだけど、男に較べたら許容範囲がどうしたって狭くなる。明日菜だって六つも年下の新入社員にトキメクのはどうしたって無理が出てくる。

 それと年上の未婚男性は減っていく。そりゃ、結婚するからだ。それもイイ男の減る率が高い。アラサーになってターゲットにしてるような年齢の未婚男性は、言い切ってしまえば訳あり、難ありの売れ残り物件の比率が嫌でも高くなる。

 さらに言えば、年上の良い物件がいても、今度は手強いライバルが増えてくる。そうなんだよ、男のターゲットは年下なんだよな。それも許容範囲が無制限に近いほど広い。極端な話、ピチピチの新入社員とアラサー女の明日菜が同じ土俵で競わないければならない状況だって出てくる。

 女にとって若さは大きな武器だ。これに勝つには若さ以外の条件で勝つしかないけど、若さに勝つのは正直言って手強いなんてものじゃない。そりゃ、売れ残り、しかも男嫌いで知られてしまった明日菜と、普通に結婚願望がある若い女と競って勝とうなんてシンドイなんてものじゃない。

 社会人でも横のつながりはある。他の会社との合コンだ。だけどあれだって、幹事が大学のサークルとか同級、ゼミつながりが多い。そう学生時代の乗りの延長線。それを悪いとは言わないけど、歳を重ねるごとに呼ばれる機会が減っていく。

 これは仕事が忙しくなるのもあるけど、合コンを企画したり、参加したりするメンバーが欠け落ちて行くんだよね。そりゃ、結婚したり、結婚を真剣に考える相手が出来れば参加しなくなるよ。そして売れ残ってアラサーが迫ると、若い世代の合コン企画のお呼びじゃなくなる。

 どうしてもコンチクショウと思うのだけど、明日菜が結婚相手を見つける旬の時期は、あのロリコンのペドフィルの変態野郎に食い潰されてしまったんだよ。これは付き合っていた時期はもちろんそうだけど、別れたショックで男性不信の時期のオマケまであったもの。気が付けば結婚を焦るアラサー女になってたってこと。

 明日菜の回りのアラサー族も二つに分かれてるかな。一つは婚活に血道を挙げて、なんとか結婚に持ち込もうとしているのと、独身オーライ、仕事と趣味に生きるってしてるグループ。まあ独身オーライ派だって完全にあきらめているのは少なくて、チャンスがあれば食らいつくのもいるから、

「まさか・・・」

 なんて結婚劇はしばしば起こる。そういうカップルの馴れ初めを聞いたら、そんなところに出会いが転がっているのかと感心させられることはあるのよね。もちろんだけど、それを聞いて柳の下の二匹目のドジョウを狙っても大概は失敗するけどね。

 アラサー女の結婚が難しくなるのは、出会いの場の減少も大きいし、アラサーという年齢のネックもある。でもそれだけじゃない。アラサーまで生きて来てるから、良い意味でも、悪い意味でも、男を見る目が肥えて来てるのは案外大きいと思う。

 直感でビビッと来て、脇目もふらずに一直線みたいな恋が出来にくくなる。相手を気に入り、恋愛感情が湧くのが恋の始まりだけど、相手のその他の条件を重視するようになるってこと。それこそ年収とか、将来性だとかだ。そういう条件が結婚後に重くなるのは知ってるから、その点で気に入らないと恋にならない。

 そんな考えになるのは明日菜にもわかる。若い時はそんな事より目の前にいる男ととにかく一緒になりたいしか考えずに突進しがちなんだよね。それこそ恋だとは思うけど、結婚後は現実が訪れてしまう。

 結婚後の夫婦の本当の心情なんて未婚の明日菜にわかるはずもないけど、そういう夫婦の結果だけは見ている。そう離婚だ。あれだけの勢いで結婚したのに二年どころか一年もしないうちに離婚する夫婦も良く聞かされる。

 そりゃ、離婚理由は夫婦で千差万別で、浮気とかもあるし、それこその性格の不一致だってある。結婚したらモラハラ男だったり、謎ルール男だったり、マザコンとクソ姑の悪魔合体であったりもある。

 そういうマイナス材料をアラサー女は知り過ぎてしまっているから、結婚相手の選択に慎重になるぐらいかな。これもいくら慎重に選んでも、最後のところは結婚するまでわからない事が多いのは事実らしい。だからより慎重になり、ますます結婚できない悪循環になるとか、ならないとか。

 これも若い時、たとえば学生の時との違いだけど、あの頃は結婚も広い意味で意識もするけど、まだまだ先の話って感覚。そうだね、目の前の恋が続き、深まって行けば最後のゴールに漠然と結婚があるぐらい。

 だけどアラサーともなると、歳が歳だから、女もそうだけど、男だって付き合えば結婚を濃厚に意識してるのは多い。男だって女ほどではないけど、年齢のハンデはそれなりに深刻に考えているはず。

 ここも考えてない男が良いって話でもない。アラサーにもなって結婚も考えない男なんて、女を食い散らかしたいだけだよ。そりゃ、アラサーともなればアレへのハードルは低くなるし、中には性欲をとりあえず満たしたいのもいるかもしれないけど、明日菜は嫌だな、食い散らされる経験は一度で十分だ。

 どうも寄り道が多くなるのだけど、恋愛と結婚はリンクもしてるけど、リンクが強すぎると重くなり過ぎる。アラサーだって結婚を決意するのは、恋愛が深まった先のところがあるんだよね。それを最初っから結婚するかしないか状態になってしまうのは正直なところシンドイところもある。


 あれこれ考えても結婚って、最後のところはチャレンジだと思う。それぐらい結婚して夫婦になった後の展開が読めないところがあるもの。相手の本性を知るには夫婦として一緒に暮らしてみないとわからないぐらいで良さそう。

 たとえば五年とか、六年とか、もっと長い春を乗り越えての結婚もある。それだけ長いから同棲もしているし、お互いの知らないところなんて残ってないと思うじゃない。それなのにすぐに喧嘩別れしての離婚もあるのよね。あれって、春が長すぎて既に二人の愛は燃え尽きていたのかも。だったら結婚なんかやらなきゃ良いのに。

 一方で気の乗らない見合いに無理やり連れ出され、さらに見合った相手も見た瞬間にアウトみたいなケースもあるそう。どういう見た目の相手なのかはなんとなく想像できる。それこそ生理的に受け付けないタイプぐらいだろ。

 見合いだから気に入らなければすぐに断れる。相手に直接言うのが面倒なら、親なり、見合い話を持ち込んだ人に言っても良いはず。そうだね、見合いの席の間とか、せいぜいその日にデートもどきの外出に付き合えば角も立てず、後腐れもなく終われるはず。

 そのつもりだったのに、次のデートの誘いを上手く断り切れず、ずるずると付き合っているうちに結婚なんてケースもある。これはお見合いだけじゃなく、結婚相談所なんかでもあるそう。

 そんな結婚が上手く行くものかと思われそうだけど、上手く行ってるのも多いのよね。上手く行ってる理由はそれぞれだろうけど、明日菜が聞いたのなら、どう言えば良いのかな。結婚してから恋愛に燃え始めてる感じのもあった。

 でもね、ここに一つヒントはあるとは思う。結婚に成功したいなら、そういう相手を見つけないといけないぐらいだ。でもそれが最高に難しいのが結婚であり、夫婦生活なのかもしれない。千秋のところは特殊過ぎるから置いとくとして、幸せそうな絢美のところだって、

「結婚すれば色々あるよ」

 どう色々だって問い詰めても、

「あればっかりは夫婦になってみないとわからない」

 なんだよそれ。結局のところ結婚というロシアンルーレットにチャレンジしないとわからないぐらいの話になっちゃうのよね。それだったら、独身のままでも良いじゃない。一人も気楽な気がするけど。

「でも結婚すべきだと思う」

 だから、言ってることが矛盾してるじゃない。結婚とか夫婦ってミステリアス過ぎる。