恋せし乙女の物語(第27話)不自然な合コン

 妙な合コンに呼ばれた。誘われたと言うより引っ張り込みやがったのは取引先の担当の女。つうか、あそこまで強引だとパワハラだぞ。気乗りしないなんてものじゃなかったけど断れなかった。そりゃ、相手は取引先の担当者だからだ。

 取引としてはこっちが買ってもらう立場の上にかなりの大口だ。下請けまでいかないけど、お願いする立場だもの。たかが合コンへの参加で機嫌を損ねるのは良くないぐらいはビジネスのイロハだものな。

 だけどさぁ、合コンしたいのならメンバーはてめえの会社で調達しろよな。わざわざ取引先の会社のアラサー女の明日菜を引っ張り込むって訳がわからない。その上だよ、合コンに引っ張り込んでおきながらその張本人はドタキャンってなんなんだ。

 そんな嫌々気分が拙かったのか、家を出るのがギリギリになり、こんな日に限ってJRが事故かなんかで遅延しやがった。これで遅刻は決定。悪いことは重なるもので合コン会場が見つからなかったのよね。

 マップでは近くには来ているはずなのに、聞かされていた店が見つからないってやつ。連絡を取りながらようやく合コン会場の店に入ったけど、ビルの七階で、あんな上品すぎる看板しか出してないのは堪忍してくれの世界だった。

 だから明日菜が着いた頃には自己紹介が終わっていて、遅れた明日菜の紹介だけになっている。ふへぇ、五体五か。年齢層は明日菜も呼ばれるぐらいだから高めで二十代後半から三十歳代前半ってとこだ。

 まず驚かされたのが男性軍だ。なんとだよどこかの病院の医者軍団なんだよ。それも五人とも医者で良さそうだ。明日菜は知らされてなかったけど、他の四人の女は相手が医者だと知っていたはず。

 そりゃ、合コンだからそれなりに着飾って来るだろうけど、明日菜の目から見ても気合が入りまくりなのは丸わかり。相手が医者軍団ならそうなるか。この面子なら参加したい女はいくらでもいるはずだ。社会人の、しかもこの歳での合コンとなればガチで結婚相手を捕まえる気だものね。

 その中で人気があるのがエリートだ。名の通った一流会社勤めとか、そこでの出世の状態なんかも注目される。ぶっちゃけカネと将来性、将来性もカネと言えるよね。これは必ずしも批判しているわけじゃない。

 結婚を考える相手に将来設計も考えるのは当然だもの。将来設計にいくらあっても困らないのがカネだ。あんまりカネ、カネって言い過ぎると引かれるけど、本音ではしっかり計算してるのが女でもある。

 もっともどれぐらい欲しいのかはかなり温度差がある。ピカピカの玉の輿狙いから、そこそこは最低限は欲しいまでだ。フリーターとかましてやニートは頭から却下と言うか、合コンにそもそも呼ばれない・・・なぜかたまに混じってる事もあるけど、あれは数合わせとか引き立て役だろうな。

 だからエリートのイケメンなんていたら人気殺到だ。そういうエリートでも別格の人気を誇るのが医者と弁護士。わかるところもある。医者は理系のエリート中のエリートだし、弁護士は文系の最高峰のエリートだものな。

 だから医者や弁護士が参加する合コンは女が群がるぐらいだよ。今日はそれが五人だから、女性軍のテンションも高いなんてものじゃない。そうなると明日菜も数合わせ要員かもしくは引き立て役かも。そういう要員も呼び出されるのが合コンでもあるからね。

 女性軍もレベル高いな。かなりの粒よりだけど、その中でも真ん中に座っているのが主役になりそうだ。この歳で縦ロールとすれば失礼かもしれないけど、それにまったく違和感がないものな。男が群がるのはまずこの女になると思う。頭一つ抜けてる感じがある。

 というのも、合コンはどういう組み合わせにするのかの駆け引きがメインなんだ。そう誰が誰を狙い、また男が誰を狙っているのかの心理戦のところがある。こうやって談笑しながらお互いが品定めをするのだけど、被らないように調整も行われるってこと。

 だから席替えも駆け引きの場。単純には前に座れば好意があるのサインになる。もっとも狙って座ったのか、単に変わっただけの見分けも必要だけど、それはトークでアピールし判断するぐらいかな。

 席替えは女性軍から仕掛けても、男性軍から仕掛けても良いのだけど、たとえば女性軍から仕掛けて、男が次の席替えでいなくなったら脈無しぐらいに見ても良い。もちろんその逆もありだ。

 さすがに今日の合コンの女性軍の気合は入ってるよ。どうしたって一番人気、二番人気と格付けされるけど、三番人気、四番人気でも手を挙げそうな勢いだものね。歳も歳だからこのチャンスをものにしたい熱気が明日菜にもわかる。

 この席替えだけど、今夜は女性軍からのみ仕掛けてるな。そういうのもありだけど、どうも妙だ。明日菜の前の男が動かないんだよ。それも言い方が間違ってるな。女性軍が誰も明日菜の席と変わろうとしないんだよ。

 それがたとえ医者でもブサイクなら理解できる。女だって医者でさえあれば飛びつくものじゃないし、ましてや今日は五人とも医者だから、ブサイクを避けて他を狙うのは十分にありだ。

 だけど明日菜が見てもイイ男だ。細身だけど引き締まってる感じがするし、ルックスだって悪くない。悪くないどころかかなりのイケメンで良いと思う。それに性格に難がありそうにも思えない。

 お調子者みたいに座を盛り上げるわけじゃないけど、話せば話題は豊富だし、さすがは医者でインテリジェンスがあるし、ウィットにも富んでるんだよね。ファッションだって派手さはないけどセンスの良さが感じられる。

 この辺は好みがあるにせよ、明日菜の目から見て今日の男性メンバーの一番人気じゃないかと思うぐらい。なのにずっと明日菜の席は変わらないし、作戦会議の化粧室でも誰一人名前を挙げないんだよ。

 名前が上がらないから席替えでも動かないんだけど、どうなってるんだ。明日菜の男性の好みってそんなに歪んでたっけ。アラサーともなればそれなりに好みが強く出るとは思うけどブサ専ではないはず。

 その傍証ってわけじゃないけど、女たちの一番人気も、二番人気も明日菜から見てもイケメンだ。なのにどうして明日菜の前の男に女性軍があれだけ無関心なんだよ。それともう一つ気づいた。男性軍は多かれ、少なかれ縦ロール女に興味がある。

 興味があるからチラチラどころかはっきり見てる。これは合コンだから失礼とは言えない。品定めが許されてるのがこの会のルールだ。言うまでもないけど女たちだってお目当ての男を見てるからね。

 なのに前の男はまったく視線を縦ロール女に向ける素振りもない。まるで縦ロール女がそこに存在しないかのよう。さらに気づいた事がある、縦ロール女は社交的で如才ないようで、とくに最初の頃は男性軍全員にそれなりに声をかけて座持ちもしていた。たとえば、

「皆様のご専門は?」

 これで明日菜も相手が医者軍団とわかったのだけど、前の男には聞かずに話題を変えちゃったんだよ。その後もずっとそんな感じ。これは縦ロール女だけではなく、他の女もそう。まるでそこにいないかのようなんだ。

 これにさらにが加わる。明日菜まで無視されてる。これだって、最初は数合わせとか、引き立て役だからと思ってたけど、そうじゃなくてまるで最初から合コンに存在しないかのように扱われている。

 じゃあ、シカトされてるかと言えば違うと思う。明日菜と前の男は合コンでありながら、最初っから加わっていないように扱われているみたいだ。これじゃ、わかりにくいか、合コンが始まった時、いや合コンが企画された時から、明日菜と前の男はセットにされてしまってると感じるようになっていた。

 経過的にはそうなんだけど、明日菜の頭にはクエッションマークしか浮かばないよ。理由がわからないもの。強いて思い当たるのは、女性側の幹事の取引先の女の誘い方があまりにも強引だったこと。

 それがこういうシチュエーションにするための説明は可能だけど、明日菜は前の男を知らない。すると前の男が明日菜を気に入り、こういうセッティングを企んだことになるけど、医者なんかに明日菜は接点はないぞ。

 奇妙な空気の中で合コンは進んで行き、二組ぐらいは出来てそうな感じかな。それはそれで良かったぐらいの感想だけど、時刻的に一次会は終わりになるはずだ。この後だけど、そのまま二次会はある。

 他には出来上がったカップルで飲みに行くのもありだし、売れ残りで延長戦もある。どれになるかは一次会からの場の流れになるけど、明日菜は帰らせてもらう。誰かをゲット出来たわけじゃないし、ぶっちゃけ合コンの間に曲がりなりにも話が出来たのは前の男だけ。どうにも居心地が悪かったのよね。そうやって帰りかけたら、

「もう少し飲みませんか」

 声をかけて来たのは縦ロール女。モテてたはずだけど、気に入るのがいなかったのか彼氏をゲットしていないみたいだ。合コンで残り物同士が飲みに行くのはありだけど、知りもしないし、親しくもない縦ロール女と飲む義理はない。

「いえ風吹さんには来て頂きます」

 どうして行かなきゃならないんだよ。

「知らぬ仲ではないではありませんか」

 明日菜はこんな女を知らないぞ。

「せっかく久しぶりに縦ロールで来ましたのに、思い出して頂けませんでしたか」

 縦ロールにするのはてめえの勝手だろ。明日菜はこんなすかした縦ロール女に知り合いなんているはずが・・・一人だけいる。それも縦ロールが異常に似合う女をだ。ウソだろ、ひょっとして、

「高校以来ですね」

 花屋敷さんだと言うの!

「やっと思い出して頂いて光栄です」

 高校の時もナンバーワン美少女だったけど、今はすっかり大人の魅力に溢れてると言えば良いのかな。それでもその気で見れば、当時の面影は残っている。だけど、だけどだよ、そりゃ花屋敷さんとは同じ高校で同学年だったけど、話した事なんか一度しかない。

「もう一度お話したかったのですが、機会が無くて」

 明日菜は同窓会に顔を出してないものな。成人式も住んでる街が違うから顔を合せなかったし。もっとも顔を合わせたって話をするような仲でもない。

「積もる話もありますし」

 そんなものは無いはずだ。

「わたしには御座います」

 なんだよ、しつこいぞ