ツーリング日和7(第4話)小説家デビュー秘話

 お母ちゃんはエロだけど人気小説家だ。ユリが生まれた頃にはすでに売れっ子になってたはず。つうかお母ちゃんはエロ小説家として自立していたからシングル・マザーを選べたんだよな。

「ユリは絶対産む気だったよ」

 さすがはエロ小説家でも母親だ。

「だって、このチャンスを逃したら白人とのハーフを産めるチャンスがないじゃない」

 そこかよ。ああ言いながらも、ユリを愛情込めて育ててくれたことは感謝してる。母親としては余裕で合格点なのは間違いない。少々、いや過剰なぐらい物わかりが良すぎる点を除くだけど。とにかく男女関係は無頓着なんてものじゃなかった。

「クレカ話の参考になるかもしれないから・・・」

 お母ちゃんの小説家デビューの時の話だ。小説家の世界も厳しい。芸能界も厳しいと言うけど小説家の方がもっと厳しいかもしれない。だってだよ芸能界なら二世俳優とか女優はいるけど、小説家で聞いたことがないものな。

「小説家になる必要条件・絶対条件は才能だけど、それだけじゃデビューできないのよね」

 才能とか実力を見てもらい評価してもらうには、大昔は出版社の編集者や、有名評論家とかに原稿を持ち込んだりもあったそう。でも現在はほぼシャット・アウト状態らしい。そうなると、

「そうねぇ、昔ながらの同人誌を発行したりもあるけど、投稿サイトの利用も多いかな」

 なるほど。

「後は新人対象の懸賞もあるよ」

 だけどとにかく応募される作品が多いそう。そこを勝ち抜く実力がすべてと言えばそれまでだけど、

「懸賞取ってもなかなかなのよね」

 同人誌にしろ、投稿サイトにしろ、懸賞にしろ、お母ちゃんに言わせると目的は一つで出版社の編集者の目に止めてもらうためだそう。

「他にないじゃない。本を作って売るのは出版社よ。そこに採用されないと何も始まらない」

 本が出版されて売れるためには、

「一に宣伝、二に宣伝、三四がなくて五に広告」

 紙ベースの本がわかりやすいけど、まずは本屋の本棚に並ばないと売れるわけがない。だけど本屋の本棚に無名の新人の作品を並べてもらうには、出版社の後押しがないとまず無理だそう。

「並べられたって売れないの。売れるように並べてもらうところに行かないと返品されて終わりになる」

 たしかに。ユリだって本屋で手に取るのは店頭に平積みで並べてあるとかだものね。本棚の隅っこの無名作家の本なんて手にも取らないし、それ以前に視界にも入らない。そこまで出版社が本気になって、やっと売れる可能性が出てくるぐらいだって。

 でもさぁ、本屋は物理的なスペースの問題が出て来るけど、電子出版なら無尽蔵に品ぞろえ出来るじゃない。

「本屋と一緒だよ。考えようによっては本屋より厳しいところもあるぐらい。だってだよ、一目で見れるのはトップサイトだけじゃない。スマホならなおさらに狭くなる。その他の本をわざわざ探し出す酔狂な人間は少ないよ」

 題名とか、作者まで絞り込んでるならまだしも、たとえば恋愛ってジャンルだけなら、それこそゴマンと出てくる。そこの上位にいないとまず見つけられもしないよな。

「とくにエロ小説となると懸賞なんてないし、投稿サイトも十八禁指定とか、R指定がうるさくて、濡れ場を挟む程度なら良いけど、モロのエロになると使いにくいのよ」

 言うまでもなく完全にイロモノ扱いだものな。

「全国高等学校文芸コンクールなんて門前払いだもの」

 当たり前だ。誰がエロ小説甲子園なんて作るものか。でもそのハードルを乗り越えてお母ちゃんはエロ小説家デビューを果たしてる。クレカに関係するなら自費出版だとか、

「そんなもので売れるわけないでしょ。本屋の本棚にさえたどり着けないわよ」

 自費出版がヒットするなんてあり得ないとしてた。あれはあくまでも書いた人の趣味のもので、友人知人に配って自己満足するために存在してるだとか。だったら、どうやって、

「ユリもエンジェル・ナイト文庫を知ってるでしょ」

 そりゃ、知ってるよ。お母ちゃんの作品の多くがここから出版されてるもの。エロ小説界の大手みたいなところだ。そこに採用されたのはわかるけど、まさか枕営業をやったとか。

「やってないよ。やりたくとも、カールで体が精いっぱいで、時間なんてありゃしない」

 あのな、倫理的な問題を考えたのじゃなくて、やりまくりで時間がなかったって言うのかよ。

「捻って考えなくとも、出版社に作品を売り出してもらえるようにしただけよ」

 枕営業じゃないとしたら、うんと、うんと、そうか賄賂か。

「だから捻って考えないの。カールはね、エンジェル・ナイト文庫の株を二割ぐらい買ってくれたんだ」

 二割って・・・株の世界も良く知らないけど、すっごく多いのじゃない。

「今でも個人なら筆頭株主だよ。大株主様の本だから、そりゃ、力を入れて売ってくれたよ」

 そりゃ捻った売り出し方法じゃなくて、捻り過ぎて真っすぐになった方法だろ。

「エロ小説のマーケットは大きいのよ。エロ漫画とかエロ動画とかの競合は厳しいけど、テキスト・エロはモロの漫画とか動画と棲み分けられてる部分もあるからね」

 その話はそれぐらいにしてくれ。

「とくに中高生なら、モロの動画はかえって引くのも多いよ。まだまだ夢を持ってるからね。生々しいアソコの出し入れとか、喘ぎ声とかは夢を壊してしまう部分もあるぐらいかな」

 良く言うよ。テキストから絶叫が聞こえるとまで言われてるのがお母ちゃんの作品だよ。アレの描写の細やかさは漫画や動画以上とされてるじゃない。

「当たり前よ。そこで張り合えるから生き残ってるの。甘い世界じゃないんだから。常にギリギリの世界で戦い抜く世界だからね」

 これだけは感心するのだけど、カールに捨てられてから、殆どやっていないとしか思えないのよ。少なくともユリの知っている限り男の影さえない。

「まあね。時効だから言うけど、ゼロじゃない。ユリを産んだのは大学を卒業してからだけど、まだ若かったからね。でもね、ポークビッツじゃつまらないし、一発やったら続かないし」

 カールは本当に馬並みで、それは大きいだけじゃなく、回数も・・・まだユリは処女だぞ。こんなもの聞かせるな。

「なんだ、まだなの。いつまでチンタラやってるのよ」

 ほっとけ。そりゃ、ユリだって待ってる部分はあるけど、

「コウさんはインポなの」

 違う。そういう疑惑をユリも持った時期があったけど、たぶん違う。コウは健全なる男子だ。

「じゃあ童貞だとか」

 なはずないだろ。結婚を真剣に考えて家への紹介まで行っていた彼女がいたんだから。たくこいつに純愛ロマン小説なんて絶対書けるものか。

「あら、純愛ロマンだって、結婚すればやりまくるじゃない」

 夢を壊すな。でもお母ちゃんに作品にあったものな。その後のシンデレラとか、白雪姫だとか。どうしてシンデレラが色情狂になったり、白雪姫がSMに走るのよ。

「読んでるじゃない」

 く、悔しい。読んでしまってた。

「ユリもやればわかるよ。何が幸せかって」

 お母ちゃんみたいにだけはなってなるものか。