ツーリング日和2(第20話)マウント娘

「ここなの」
「そうや」

 見た目はともかく安かった。それとやけど、

「これイイね。バイク用の屋根付き駐輪場もあるじゃない」

 これじゃわかりにくいよな。屋根付き言うても、駅とかにある屋根が付いてますレベルやないんよ。ちゃんと壁もある車庫になってるんや。もちろん照明もあるし、荷物を置ける棚まで作ってある。

 これはバイク乗りにはありがたいんよ。晴れとったら外でもかまへんねんけど、雨でも降られたら難儀するのがバイクやねん。朝から雨やったらカッパ着るんやけど、いくらカッパ着てもシートはちゃんと拭いとかへんかったら染みて来るんよな。

 そやけど雨が強かったら拭いても拭いても状態になったりする。なんちゅうか屋根の下で準備できて出られるのはありがたいなんてもんやない。クルマ乗っとるやつにはわからへんと思うけど、

「盗難防止にもなるしね」

 もっともコトリとユッキーの場合は天気は実はあんまり関係ない。二人が出かければ、

「そういつもツーリング日和だよ」

 部屋は値段なりや。風呂は気持ちよかったけどこんなもんかな。

「御飯は美味しいよ」

 さすがの海鮮や。酒は、

「香住鶴に決まってるじゃない」
「文太郎ってのもあるで」

 四国の時の山の幸三昧も良かったけど、日本海の海の幸もエエよな。コトリもユッキーも豪華な宿かって嫌いやあらへんけど、こういう鄙びた宿も好きなんよ。設備は値段なりになるのは当たり前やけど、

「雨露を凌げれば十分だし、ご飯は負けてないと思うよ」

 凝った料理は出えへんけど、そのぶん素材勝負みたいになるし、ホンマの意味の地元料理が楽しめたりしてオモロイねん。

「エビの陶板焼きの食べ比べってオモロイな」
「へえぇ、これは鬼海老って言うみたい」
「がらエビって初めてちゃうか」

 こっちは甘えびの刺身やけど、

「もさエビもなかなかじゃない」

 なになに幻のエビで地元でしか食べられへんのか。これはエビ好きにはたまらんやろな。こっちの岩ガキもプリプリやんか。


 朝風呂入って朝飯食べて、今日は三瓶山目指すで。基本は但馬漁火ラインやけど、やっぱり出来るだけシーサイドにしたいやん。釜屋海岸の方を走って漁火ラインに戻り、居組で但馬漁火ラインは終わるんやけど、ここから、

「七坂八峠って名前見ただけで峠道ね」
「峠を見たら走りたくなるのが」
「走り屋ね」

 走り屋やないっちゅうねん。ワインデイング・ロードを楽しんで東浜展望所に。展望所言うても歩道にベンチが六個ぐらい置いてあるだけで、その前にバイクやクルマが停められるぐらいや。

 たまたまかもしれんけど、広くもない展望所が賑おうとってん。ここから歩きやけど陸上岬展望台に行けるから、そのためかもしれん。そこまで行く気はあらへんかったけど、景色を楽しみながらちょっと一服や。そんな時やった、

「どっから来たん」

 見上げたら若い姉ちゃんや。

「神戸からや。あんたは」
「大阪からや」

 ソロかって聞いたら、

「一緒に行こ言うとったんが都合悪なってしもて・・・」

 そこから話が弾んで、

「一緒に行ってもかまへん?」

 ユッキーも反対やなかったし、人懐こそうな子やったからOKにしたわ。女一人のソロは心細いとこもあったんやと思うで。

「マイって呼んでな」
「おうコトリや」
「ユッキーよ」

 そしたら、また声がかかった。

「どこから来たんや」

 腹出たおっさんやってんけど適当に話しとったら、

「何CC乗ってるんや」

 あちゃ、ナンシーおっさんかよ。マウントおっさんと似とるけど、一番の違いはバイクには乗っとらへん事やろな。自慢したいのは排気量で同じやけど、若いころに大型に乗っとった自慢話をしたいやっちゃ。鬱陶しいと思いながら、

「一二五CCやけど」
「原付か」

 そうやねんけど、

「そんなんじゃ・・・」

 ナンシーおっさんも鬱陶しいけど、こいつは排気量マウントおっさんやんか。タラタラと排気量が大きい事の自慢をやらかし始めたんよ。なんでこんなんに絡まれんとアカンねん。コトリらみたいなか弱い美少女が大型乗れへんぐらい見たらわかるやんか。

 それを見越して絡んでるんやろうが、こんなとこで大型小型論争するのもメンドクサイ。それも適当に付き合うとったら、エンドレスになりそうや。たく朝から気分悪いで。どないしょと思てたらマイが、

「おっさん、排気量が大きい方がそんなにエライんか。そんだけ自慢するんやったら何CCやねん」
「あれや。一二五〇CCや」

 腹出たマウントおっさんは嬉しそうに答えよった、ほぅ、あのBMWか、ツアラー・タイプやな。

「はぁ、それやったらうちの方がエラいな」
「あんたのは何CCやねん」
「うちのバイクはあれや」

 マイの指さすバイクを見て腰抜かしそうになったわ。展望所に入った時から気になっとってんけど、あれはトライアンフのロケットやんか。まさかマイが乗ってたやなんて、

「うちのは二五〇〇CCや。ちっこいバイクのおっさん、あっち行ってくれるか。うるさいし、邪魔やねん。それともうちの二五〇〇CC自慢を聞かされたいんか」

 腹出たマウントおっさんは気まずそうに引き下がりよった。まさか自分のBMWの二倍の排気量のバイクが出て来るとは思わんかったんやろ。マイは吐き捨てるように、

「排気量しか自慢できへんやつはアホやで」

 その通りや。こういうおっさんは普段もそうやと思うで。それぐらいしか他人に自慢できるもんがあらへん寂しい人間や。大型なんか免許とカネがあったら乗れるからな。そりゃ、バイク乗りならいつかは大型の夢持ってるやつは多いけど、乗っとるからエライわけやあらへんからな。

 それはともかく、トライアンフのロケットは化物バイクや。排気量かって仰天ものの二五〇〇CCやけど、全長に至っては二五〇〇ミリでコトリたちのバイクより一メートルぐらい長い。

「ホイールベースだけで負けてるよ」

 タイヤかってリアは二四〇の五〇やで。これじゃわからんか、タイヤの幅が二十四センチもあって扁平率が五十パーセントや。クルマかって、ここまで太いタイヤ履いてるのは珍しいで。コトリたちのバイクのタイヤは・・・較べるのもアホらしいわ。

「わたしたちの二倍だものね」

 エンジンかって直列三気筒ってなんやねんそれ。縦にシリンダー三つ並べてるんやで。あのシリンダー一本だけで八〇〇CC以上あるもんな。

「ようあんなん持っとるな」
「あれは爺さんのバイクをもろてんや」

 しっかし華奢な体でよう乗っ取るわ。足届くんかいな。車重かって三百キロ越えるからな。

「マイ、聞いとったと思うけど、コトリたちのバイクは原付やから高速走られへんで」
「かまへん。下道走ってこそのツーリングや」

 ほう、言うやんか。それからコトリたちの今日のツーリングの予定を話したら、

「その温泉にマイも一緒に泊まる」

 二人が三人になっても泊れるはずやが、マイの今日の予約はどうするんよ。

「一緒にしてえな、旅は道連れやんか」

 マイがそういうならエエか。男やったら部屋分けなあかんけど、

「あら、男でも一緒でもイイじゃない」

 そやった。