ツーリング日和(第22話)男のキャンプ

 ユーチューバーで成功するカギは人気を集めること。当たり前だが、これが食べれるレベルとなると甘くない。番組の出来が悪くなればPVは伸びず、チャンネル登録者数も減り収入が落ちる。

 だから常に新しい企画を考えておく必要がある。もちろん人気を集めてるユーチューバーのトレンドのチェックも怠れない。これは他もやるから、ヒット企画があると一斉に飛びつく傾向がある。オレも他人のことを言えないがな。

 オレはバイクが中心で、バイクの知識とか、ライディング・テクニックとか、新車のインプレッションとかだが、ハッキリ言わなくてもライバルがザルで掬うほどいる。バイクばかりじゃ限界を感じているのはあった。

 加藤もそうで、いつもあれこれ相談しているのだが、出てくる企画はやはりありきたり。まあ、次から次に人気を集められる斬新な企画が思いついたら誰も苦労しない。斬新と言っても最低限バイクに関連する必要はあるが、

「やはりキャンプやろ」
「みんなやってるぞ」

 バイクでキャンプしながらツーリングするのは王道の企画だ。ツーリングの楽しさとキャンプの楽しさのコラボのようなものだ。

「野郎のキャンプは受けが悪いぞ」

 この辺はどうしてもな。可愛い女の子がツーリングして、キャンプする方が絵になる。オレだってどうせ見るならそっちが良い。男のキャンプだって女が見るだろうが、オレも加藤もイケメンとは言いにくい。

「一緒にせんといて」
「被り物でウケ狙うやつに言われたくない」

 だが加藤の提案はユニークだった。バイクでのキャンプとなるとゆるキャンだ。クルマのようにはいかないからな。そこを逆手にとって、バイクで可能な限り本格的なキャンプをやってみようだった。

「題して男のキャンプや」

 あれこれキャンプ・グッズを買いそろえ、まずはお試しで行ってみた。いやぁ、ドタバタも良いところだったが、実際のキャンプで必要なもの、不要なものがわかっていったぐらいだ。

 もちろんそれも番組にした。狙いはド素人が上達していく過程を見てもらうためだ。コメント欄の意見も参考にしながらキャンプ術も身についていったかな。

「そろそろ行くか」
「そやな」

 最終的には夏の北海道周遊なんてのも考えているが、その準備段階として長距離ツーリングとキャンプだ。どこに行くかだが、

「琵琶湖に行ったら絵になるで」

 調べると奥琵琶湖キャンプ場なら直火もOKで荷物が少しでも減らせることが判明。キャンプサイトも段差で区切られて、いかにも山の中なのも良さそうだ。

 ルートは松山自動車道から徳島自動車道、さらに神戸淡路鳴門自動車道から阪神高速を経て名神高速で京都東ICで降りて湖西道路をひたすら北上だ。距離こそ四百五十キロぐらいあるが、殆どが高速だから楽勝だ。

「これぐらいは走らんとインパクトないもんな」

 松山を八時に出た。走るだけなら五時間もあれば行けるが、道中の番組撮影は欠かせないからな。あれこれネタになりそうなものを撮影しながら午後三時過ぎにはキャンプ場に到着。テントの設営とかも撮影しながら食事の準備に。

「お隣さんも到着みたいや」

 お隣さんと言っても一段上で良く見えないが、どうも女性、それも若い二人組のようだ。

「後で声かけよか」
「不審者と間違えられるぞ」

 とにかく本格的と銘打ってるから、食事の準備も大変だ。そこが番組の面白さにつながるところだから二人で熱中した。見栄えに気を配りながら準備完了。食事シーンも重要で、加藤と掛け合い漫才しつつ終了。

「これで今日の撮影は終了」
「おつかれさん」

 ホッとしたところで二人で焚き火を囲んでビールで乾杯。

「エエのが撮れたはずやで」
「三部ぐらいに分けても良いかもな」

 さすがに疲れた。ツーリングとキャンプだけならまだ良いが、テンションあげまくって番組を撮らないといけないのは地味に応えるな。これが仕事と言えばそれまでだが、

「結局、謎のバイクはあれ以上わからんかったな」
「仕方ないだろう。あれだけしかヒントが無かったのだから」

 あのバイクを見つけ出すのは難しい。

「下道で会うのも難しいやろな」

 神戸に住んでいるのは間違いなさそうだが、当たり前だがツーリングで走るにしても神戸近郊が中心になるはず。オレも神戸方面にツーリングに行くことはあるが、神戸は高速で通り過ぎるだけが多い。

 これは神戸に限らずだが、大都市ではバイクでも気軽に止めにくいのはある。それにあの信号の山。クルマだってそうだろうが、走りを楽しむにはノン・ストップが望ましい。止まるのは自分が止まりたくなった時だ。

 それはともかく、神戸方面への下道ツーリングなんかそうは行かない。住んでる場所が離れているからこれは仕方がない。

「高速じゃ会えんもんな」

 大型をぶっちぎる能力はあるが、あれは原付だ。よく尾道まで来たものだと思う。それに下道であっても追いかけるのは難しい時がある。そりゃ、すれ違っても、その場で即座にUターン出来ない時も多いからな。その間にクルマが入ってしまうと追いつくのは容易じゃない。


 翌朝は朝食の準備と後片付け。これがまた厄介なもので、キチンとテントも折りたたまないとバイクに載ってくれないのだ。番組のためだから、かなり無理してるからな。

「こっちは終わったぞ」
「おう、こっちもなんとかだ」

 お隣さんのエンジン音が聞こえたのだが、

「杉田、あの音はまさか」

 昨日は設営準備で忙しく気にもしていなかったが、たしかにそんな気がする。上の段から降りて来たバイクは、黄色と赤、それにカラーリングされたリア・ボックスにオイル・クーラーだ。

「加藤、追いかけるぞ」

 急いでメットを被って発進だ。すぐに追いつき、海津大崎を回り高島バイパスに入り南下していたが、

「おい右に曲がるぞ」
「小浜に行くつもりか」

 山越えの道を走り抜けるとやがて小浜市内に、

「ガソリンスタンドに入るみたいや。声をかけてみるか」
「オレたちの給油量じゃ不自然だぞ」

 昨日、キャンプ場に入る前に高島で満タンにしたばかりだ。少し前に進んで待つことにした。それがなかなか出てこない。

「まさか引き返したとか」

 加藤が見に行ってくれたが、

「まだいた。やはりエンジンが熱ダレ起こしたとか」

 三十分ほどするとようやく前を通過。追いかけて行ったが、

「左に曲がるぞ」
「南丹ってどこだ」

 再び山道。ナビで確認すると、

「これは神戸に帰る気かもしれないぞ」

 するとあの二台がペースアップ。

「つけてるのがバレたか」
「そりゃ、バレるやろ」

 オレも加藤も必死になって追いかけたが、

「遅れるな」
「なんちゅうスピードや。振り切る気みたいや」

 結構なワインディングだがモノともせずに走り抜けていく。

「杉田、無理や」

 加藤はバイク好きだがレースをやっている訳ではない。このペースで走り続けると事故の危険性が高くなる。オレだってこのテンコモリの荷物でフーフー言ってるぐらいだからな。バイクを停めて、

「あれが謎のバイクか。異常やな」
「石鎚の時もそうだった」

 スタンドの時に声をかけるべきだった。あの時に躊躇ったばっかりに千載一遇のチャンスを・・・

「そやないと思うで、オレらが付けてたんは丸わかりやんか。あの子らのんびり流しとったのに追い越さへんかったからな」

 男二人組の大型バイクに付けられたら気分が良くないか。たしかにストーカーに見られそうだ。

「高島からバイパス入ってもそうやったから誰でも気づくわ」

 どうするかを話してたのか。

「小浜までの道はそこそこクルマもおったやんか。だからスタンドでやり過ごそうとしたんやろ」

 もしあの時に続けてスタンドに入っていたら、

「そのままスタンド出たんちゃうか。それでも追いかけたらストーカー確定や」

 わざわざ三十分も時間を潰したのに待ち構えていたものだから、

「これでストーカー確定や。振り切ることにしたんやろ」

 見つけて追いかけた時点でノー・チャンスだったのか。

「キャンプ場の時に挨拶すれば良かったな」
「それしかチャンスなかったと思うわ」

 改めて思ったが、謎のバイクの潜在能力はタダ者じゃない。本気を出されたら追いつけるものじゃない。

「余裕あったもんな」

 加藤にもそう見えたか。オレもそうだ。無理して飛ばしてる感じじゃなかったからな。

「実際に見させてもうて思てんけど、あの二人の走り方やけど、ホンマに普通やな」

 そうだよな。追いかけるのに、こっちは大汗かいて、ハングオンもどきまでやってクタクタだ。