謎のレポート(第16話)アリサの日常

 アリサの一日は夜が明ける時から始まります。夜明けはアリサが感じて起きなければなりません。目覚まし時計どころか、時計やカレンダーさえないからです。これも出来るようになるまでにマリ様に体で教え込んで頂きました。

 これもマリ様に御許可頂いたものですが、雑巾を部屋に置かせて頂いています。これで心を込めて部屋を磨き上げます。床はフローリングですから、ピカピカに光輝くまで磨き上げます。もちろんドアノブとか窓枠も同様で、曇りひとつ無いようにします。

 もちろんマリ様の厳しいチェックが行われ、マリ様の合格をもらえるまでアリサもしっかり躾けて頂きました。自分で責任をもって磨いたところですから、命じられればどこでも喜んで舐められます。便器? 言うまでもありません。

 アリサの服や寝具ですが、これは毎朝、どこからか自動的に送られてきます。どういう仕組みかはわかりませんが初めはクローゼットと思っていたのがそこで、扉を開ければボックスがあり、汚れ物もそこに入れますし、毎朝清潔な衣料を手にすることが出来ます。

 朝には服とシーツ類が届きますから、ベッドメイクも行います。これも言うまでもなく皴一つあってもなりませんし、敷き方も厳密に決めれています。たたむ時も、もちろんそうで、1ミリたりともずれるのは許されざることです。

 シーツとかは朝に送りますが、服は夜に送ります。これも汚れ物だからと言って乱雑に扱うことは許されません。決まりに従って丁寧にたたみ、ボックスに収容しなければなりません。服はメイド服一式しかありませんし、パジャマなどはありませんから、夜に服をボックスに入れれば裸で過ごすことになります。

 これも言うまでもありませんが、丁寧に扱うのは当然すぎることです。毎日着替え、取り換えはしますが、汚したりも許されませんし、破損などしようものなら、それはそれは厳しい反省が必要になります。


 アリサが掃除を終えた頃にマリ様がいらっしゃいます。そうそうこの時までに掃除はもちろんですが、マリ様が不快にならない程度に髪とかは整えておくのも決まりです。入浴後に改めてセットを行うのであくまでもそれなりですが、そうですね、ほつれ毛が絶対に許されない程度です。

 それからマリ様と一緒に浴室に向かいます。アリサは裸ですが、マリ様はメイド服を着ていらしゃいますから、これを脱衣場で脱がさせて頂くのもアリサのお仕事です。脱がせ方にも細かな決まりがあるのは言うまでもありません。

 浴室も体の洗い方、髪の洗い方のすべてに決まりがあります。マリ様の体を洗わせて頂くのですが、一点でも間違うことは許されません。浴室から出ると脱衣場でマリ様の衣服を着させて頂いて、部屋に戻ることになります。

 部屋にはいつもカギが掛けれています。それだけでなくアリサが部屋の扉に手を触れて良いのは掃除の時のみです。ですから扉の開け閉めはマリ様のみが行えます。部屋から出るのは朝の浴室だけですが、部屋から出ると言うのは特別な行事であり、部屋にいる時の数倍の注意が必要です。

 部屋を出る前の姿勢の正し方、部屋から出入りするときの手順、廊下に出ても、どちらの足から出し、どこに足を着けるかも決められています。マリ様も御一緒なのですが、マリ様との距離も重要です。

 廊下や脱衣場、浴室でアリサが見て良いものは決められています。マリ様の御着替えをさせて頂いたり、マリ様の髪や体を洗わせて頂く時に、マリ様のどこを見ても良いのかも当然です。


 浴室から部屋に戻るとマリ様の厳しいチェックの下で、メイクやセット、さらにはメイド服を身に着けます。これも手順、時間、仕上がりが厳格に決められています。アリサもセットやメイクには苦労しました。

 ヘアメイクについては、時々カットが行われます。この時も部屋で行いますが、耳栓をされ、目隠しをされます。この時には服が汚れないようにすべてを脱ぐのも決まりです。カットが終われば、アリサが部屋を掃除します。

 メイクやッセットが終わると朝食になります。マリ様が部屋に来られた時にワゴンを持ってこられていますから、アリサがテーブルにセットをしていきます。食事のための準備もすべて決まり通りに行わねばなりません。

 マリ様の合格を頂くと食事になります。テーブルマナーは極めて厳しく、些細な違反も許されません。食事が終わるとアリサが後片付けをします。

 そこから今は教養の時間になります。テキストとかはワゴンにあり、マリ様から様々な教養を授けて頂きます。ただしノートを取ることは禁じられています。すべて聞いた瞬間に覚え込むのが決まりです。

 前日に御教授頂いたことは翌日に必ずテストをされます。翌日以降でもマリ様は定期的にテストをされます。テストはすべて口頭試問であり、答えられないのは論外ですが、少しでも言い澱んだり、曖昧なところがあるとすべて反省になります。

 これでも言い足りません。マリ様の御質問に対し許される回答はただ一つで、考えるまでもない即答です。回答を考えること自体が、マリ様の教えに対して非礼極まることになるからです。

 ノートを取ることは許されませんがペン習字は教えられました。この時だけはペンと紙を与えられます。これ自体は嬉しいことでしたが、一方でアリサにとって辛い課題でした。お恥ずかしいことにアリサはかなりの悪筆だったのです。マリ様にご満足頂くまでに、どれほどの反省を重ねたか数えきれないぐらいです。

 ペン習字で習うのは自分の名前の書き方です。これは本名であるアリサとカタカナで書くだけではなく、アルファベットやさらに筆記体での練習も行われました。マリ様は書く時の姿勢は言うまでもありませんが、表情や仕草も厳しく躾けて頂きました。マリ様は、

「自分の名前を正しいところに書く時は、アリサの一生に一度の晴れ舞台になり、永遠に残されます」

 そんな晴れ舞台がアリサにいつの日か訪れるのですから、その日のために厳しい修行中です。マリ様の合格点を頂くには、まだまだかかりそうです。

 ペン習字だけでなく授業態度もすべて決められています。授業態度だけではなく、部屋での歩き方、どこを歩いたら良いかもすべて決められています。表情も決められていて、どういう時には、どういう表情を取るかの躾けも厳しく行われ、それを守ることは絶対のものになっています。


 教養は午前に三時間、昼食を挟んで午後に五時間、ビッチリと行われます。こここまで時間が必要なのはアリサがバカだからです。そんなアリサを教えて頂くマリ様には尊敬と感謝しかありません。

 反省の時間は夕食後に持たれます。朝から夕食までのアリサの振る舞いのすべてに指摘が入ります。どんな小さなミスでも必ずマリ様は見つけ出されます。そのすべては、アリサにとっても心からの納得の行くものばかりです。そこから、

「脱ぎなさい」

 アリサはすべてを脱ぎボックスに服をたたんで入れます。この時も反省が追加されることは良くあります。そこから革製の腕輪、足輪を装着させて頂き、壁に反省の姿勢を取った後に、

『ビシッ』

 今日の反省分のムチが入ります。ムチは痛いものです。それでも言い足りません、あれは激痛です。ですがアリサはその一打、一打にその日の反省を込め、さらに反省をさせて頂くマリ様に感謝を捧げ続けます。

 痛みに耐えながら感謝の念を高めるには長い時間が必要でしたが、マリがそれが出来るところまでマリ様に導いて頂きました。ですから鋭すぎる痛みを受けるたびに、すぐさまに感謝の気持ちが湧きおこるだけでなく幸せや喜びを感じています。

 マリ様のムチの一つ一つがアリサを変えてくれるからです。至らぬアリサを幸せなアリサにしてくれるのがマリ様の愛のムチなのです。これだけ厳しくしてくれるマリ様がいなければ、アリサは到底ここまで来ることは出来ませんでした。

 アリサが目指すのはマリ様が導いてくれる真のアリサになることです。これはマリ様も時折触れられます。ですが真のアリサとは何なのかは教えて頂けません。真のアリサとは教えてもらうものではなく、そこに到達するものなのです。

 マリ様とは会話することは基本的に許されていません。ただマリ様の言葉を頂き、その言葉通りに従うことがすべてです。アリサが言葉に出来るのは、マリ様の質問の範囲にのみ許されます。マリ様がワゴンの入れ替えで部屋におられない時も同様で沈黙が決まりです。

 反省のムチの時の悲鳴も許されません。これも辛い決まりでした。この決まりが守れるようになったのは、マリ様の言葉通りに痛みに感謝し、喜びにすることが出来たからです。そうして頂いたマリ様こそアリサの憧れであり、最も尊敬する人になります。


 反省の時間が終われば腕輪や足輪が外され、アリサは改めてマリ様に今日一日の感謝の念を心から申し上げます。この言葉を口にするときには、アリサがその日に感じたことを自由に話すのを許されます。

 この時に膝を床に付け、頭も床までつけるのは言うまでもありません。これはマリ様が部屋を出られてからも続けます。これは決まりではありませんが、そうしたくなる気持ちが自然に湧きおこります。出来れば翌朝にマリ様が訪れるまで、そうしておきたいぐらいです。

 ここからはアリサの自慢なのですが、ついにマリ様からメイク落とし一式を洗面所に置くお許しを頂きました。この許しを頂いた時にどれだけ嬉しかったかわかって頂けるかと思います。

 それが並んでいるのを見るたびにアリサは誇らしい気分になりますし、許しを頂いたマリ様に感謝と尊敬の念が止まらなくなります。これはアリサの宝物です。ですからマリ様に教えられた通りの手順でメイクを落とし、もしどんな些細なミスがあっても必ず報告し反省させて頂きます。

 そこから朝まではアリサは部屋で一人になります。自由時間と思われるかもしれませんが、決して勝手気ままに過ごして良い時間ではありません。当たり前の話ですが部屋で夜を過ごすのも決まりがあります。

 まずは沈黙を守ることです。歌を歌うなんて論外も良いところで、独り言も許されません。動いて良い範囲は、椅子とベッドと御手洗への往復のみです。好き勝手に部屋を歩くなどトンデモないことになります。

 それより、なによりマリ様が部屋から出られてしばらくすると照明は消されます。その間にメイクを落とさせて頂くのです。スイッチはどこにあるかはわかりません。月がある夜はまだ良いのですが、新月の時には御手洗も手探りになります。

 夜にアリサに与えられた最も大事な決まりは寝る事です。十分な睡眠を取り、疲労を取り去り、翌日のマリ様の教えを少しでも覚えやすくするようにしなければなりません。言うまでもありませんが、テレビやラジオはもちろんのこと、本もありません。本どころか紙きれ一枚部屋にはありません。


 ベッドに着いたアリサは、その日に教えられたことをひたすら思い返し、翌日に備えます。マリ様が望む真のアリサに少しでも早く近づくためです。こんな喜びに満ち溢れた生活を与えて頂いたマリ様に深い深い、これ以上はない感謝の念を捧げて眠りに着くのです。

 最近では真のアリサはどんなアリサか考える事も多くなりました。真のアリサになれた時に、真のアリサに相応しい使命が与えれるのじゃないかです。今のアリサでは及びも付きませんが、誇らしい使命を授かるはずです。

 使命を果たせるのは真のアリサにのみに許され、その使命を果たしていくことがアリサの生きるすべてになるはずです。そうなれた時にどれほど嬉しいか、幸せなのかは今のアリサでは想像すら出来ません。

 ですがそこにいつか到達できるのだけは間違いありません。マリ様が必ず連れて行って下さいます。そうなんです、アリサはこの世で考えられる最高の環境を与えられ、いつの日か真のアリサになり与えられた使命を果たせるのです。そこまで考えた時点でアリサの悩みは消え去り深い眠りに落ちます。