今日はマリちゃんが家に遊びに来ました。とにかく子どもが小さいので、独身時代みたいに気軽に飲みに行くってことが出来ないからです。マルコは家事に協力的と言うより積極的なんですが、掃除以外はやらせただけミサキの負担が増えるので、安心して家が空けられないのも実情です。
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「香坂副本部長、お招きに預りありがとうございます。ご迷惑かと思いましたが、押しかけさせて頂きました」
「やめてよマリちゃん、とにかく上がって」
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「立派な家ねぇ」
「マルコが招聘された時に会社が用意してくれた家だけどね」
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「それにしても小島専務がお変わりないのに驚かされるの」
「そうよねぇ、マリちゃんと一緒に入社式で初めてお会いしてから、全然変わってないもんね」
「そうなのよ、マリより若く見えるもの。だからだけど、小島専務のことを魔女って呼ぶ人もいるぐらい」
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「それって失礼じゃない」
「マリもそう思うけど、あれだけ歳を取らないのは不思議でしょうがないもの。クレイエールの三魔女はホントに歳を取らないもの」
「三魔女って、もう一人は結崎常務で良いと思うけど、三人目は誰?」
「お子様をお二人もお生みになられても、入社時からまったく変わらないジュエリー事業副本部長よ」
「ミサキなんて・・・」
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『シノブが歳を取らないのは本当に嬉しいのだけど、今じゃ幼な妻みたいに思われるのだけがネック』
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「ところでマリちゃん、彼氏は」
「うふふふ、ついに出来たの」
「今度は本気?」
「もちのろんよ、今度は逃がしたりしないから」
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「国産だけどお気に入りよ」
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「式とかは」
「なんとか年内にしたいんだけど・・・その時は来てね。ちゃんと来賓席用意しとくから」
「え〜、友人席で堪忍してよ」
「そうはいかないよ。たとえ財務部長が出席してもミサキちゃんの方が上になっちゃうんだもの。課長じゃ論外だし」
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「そういえば天使ブランドのジュエリーに社員割引って適用されないかな」
「う〜ん、無理だと思う」
その次が天使工房の作品。ここはマルコの工房の弟子で、エレギオンの金銀細工師にはなれないとあきらめた職人の受け皿です。実はここの選別が一番重要で、出来の良いものはマルコの工房の弟子の作品に近いものがあり、一級から五級ぐらいまでクラス分けします。とにかくマルコの工房の出身なので五級でもハイ・レベルで、お値段もハイ・レベル。それとマルコの工房を辞めても、必ずしも全員が天使工房に入ってくれる訳ではなく、商品量は常に不足気味。コトリ専務に
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『もう少し生産量を上げたら・・・』
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『ブランド価値はこうやって高めるもの。量より質よ』
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『幻のブランド』
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「買う方は無理だけど、レンタル代だったら社員割引の適用だったんじゃない」
「でもさぁ、せっかく社員なんだからエレギオンの一個ぐらい欲しいじゃない」
「でもクレイエール社員でも持ってるのは・・・」
「そうなのよね。たぶんミサキちゃんと小島専務ぐらいだものね。社長でも天使ブランドの一級さえ無理でしょうし」
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「ミサキちゃんからマルコさんにこっそり頼んでくれない」
「無理無理、マルコは陽気なイタリア男だけど、そういう点は厳しいの。瞬間湯沸かし器が爆発しかねないよ」
「でしょうねぇ。マリなんて工房の怖いマルコさんしか知らないから、ああやって子どもと遊んでるマルコさんを見ているだけでビックリしちゃうもの」
「天使ブランドの方だって、小島専務が目を光らせてるから、ちょろまかすなんて不可能なの」
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『もう一個ピアスがあるはず』
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「ゴメンね、マリちゃん。力になれなくて」
「イイのよ、気にしないで。言ってみただけだから、小島専務の管轄しているところに手を出したりしたら大変なのは良く知ってるから」