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「佐竹次長、結崎本部長からお電話です」
ボクはシノブと香坂君に連絡を取り、昼休みにマルコの部屋で落ち合うことにしました。本来ならシノブの部屋と言いたいところですが、本部長にもなっているのに他の部員と机を並べて仕事がするのが好きで、未だに部長室とか、本部長室を持っていないからです。
小島本部長と偽カエサルの関係は、小島本部長が籠絡されてしまう公算が高いと読んでいましたが、無断欠勤となると籠絡されなかった公算が高くなります。籠絡されずに出勤であれば良かったのですが、無断欠勤となると監禁されているというのがボクの読みです。それだけでなく、偽カエサル側は小島本部長を監禁したとなると次の行動が連動して早くなるはずです。
次の行動とは本来のターゲットであるマルコ氏を誘拐し、道連れとして香坂君とシノブも誘拐して国外逃亡することになります。さて、これにどう対応するかを早く考えないといけません。さすがに社内にいるうちは偽カエサル側も動きようもありませんから、動くとしたら帰宅時か帰宅後を襲うことになるはずです。問題は守るか、攻めるかです。
偽カエサルは小島本部長を監禁したからには、一刻も早く日本から脱出したいはずです。守るだけなら、しばらくの間、どこかに逃げて身を隠すと言うのはあります。これのネックは、偽カエサルの目的がマルコ氏にある点です。数日で国外に逃げてくれれば良いですが、見つかるまで小島本部長の監禁を続ける可能性があります。それとこれでは小島本部長を見殺しにしてしまいます。小島本部長もボク等の仲間なので救出しなければなりません。
警察は現時点では頼れません。仮に頼れたところで、すぐに偽カエサル一味が逮捕されて小島本部長が救出されれば良いですが、そうならない時には小島本部長を見殺しにしてしまいます。つまりは身を隠して守る作戦と同じ結果しか得られません。
そうなると攻めるになりますが、襲ってきたところを逆襲して偽カエサル一味を捕まえるのは現実的に難しいところです。ボクも元ラガーメンですから、それなりに体に自信はありますが、ラグビーは格闘術ではありませんし、相手が複数となると限界があります。マルコ氏が加わってもその点は変わらないと思います。さらに、相手は拳銃を持っている可能性もありえます。
やはり対応として、警察をいかに上手に巻き込むかになってきます。それも警官が一人や二人駆けつけた程度では偽カエサル側に撃退されてしまう可能性が十分にありますから、大きな規模の動きにする必要があります。そのための具体的な策を立てないといけません。もう、仕事なんか手に着きようがありません。昼休みにマルコ氏の部屋に四人は集まりましたが、誰も緊張感を隠せません。ボクは午前中に考えていたことをまず話し、
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「もし偽カエサル側動くとしたら、今晩か明日。今晩の公算が高いと見てる。彼らはマルコ氏を襲いアジトに拉致すると考えてる」
「そうですね、アジトからさらに国外脱出用の船に移動する手はずだとわたしも思います」
「そこでなんだが、うちとマルコ氏が分散しているのは、良くないと思う」
「どういうことですか?」
誘拐阻止作戦の要は、ボクが元気で動けて警察への通報役にならないといけません。ボクが動けなくなってしまうと偽カエサルは悠々と国外に逃亡してしまいます。そうなるとこれを追いかけるのは非常に困難になります。どうしてもリスクの高い作戦しか思いつかないのが悔しいですが、
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「息子は実家に預けて、シノブは今夜はマルコ氏の家に泊ってもらう。ボクもマルコ氏の家に泊りに行くとするが、ボクは途中で家から出る」
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「籠城するなら、マンションの方が守りやすいんじゃないですか」
「籠城が目的じゃないんだ」
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「サタ〜ケ、無断で悪いと思ったが、ドクター・ヤマモトにある程度、事情を話したら協力してくれると言ってくれた。ドクター・ヤマモトもコト〜リの友達で、なんとか救出に手を貸したいとのことだ」
「それは危険・・・」
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「申し訳ないが、協力してもらおう。山本先生に連絡を取って作戦の打ち合わせをしておく。それと既にボクらは敵の監視下にあると見た方が良い。会社を出れば尾行ぐらいは付いてると思った方が良い」
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『臨時休診』
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「佐竹さん。コトリちゃんをそんな目に遭わす奴は許さない。今日は本気で行くから」
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「ちょっとリスク高いなぁ。敵が踏み込んだ瞬間に乗り込んで、二人で叩きのめしたら早いんちゃうか」
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「懸念はわかるけど、こういうものにノー・リスクはないんやで。どうも佐竹さんの作戦は芸が細かすぎると思うけど、とりあえず従っとく。船頭は一人の方がエエからな」
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「佐竹さん。さっきはあんなこと言うて悪かった。こういう時には自分の読みを信じるんや。それとあんまり考えすぎるのもエエことあらへん。あんまり考えすぎると、想定外のことが起った時に動けんようになってしまうものや。ドンと来いの気分で待った方がエエよ」
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『ガッシャーン』
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「佐竹さんの読みが当たったみたいや。あれだけの人数がいると二人で殴りこんでも、しんどかったかもしれん。とりあえず証拠写真だけは撮っといた」
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「佐竹さん、この発信機のポイントやけど、マルコさんの家とワゴン車の両方にあるのはどういうことや」
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「よう考えたな」
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「こうしとき。佐竹さんは今日の仕事が遅くなった。たまたま帰宅した時に襲撃を見たから、現在追跡中って」
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「佐竹さん、どこに向かいそうや」
「どうもポーアイみたいです」
「それやったら道変えよ」
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「どっちに向かってる」
「神戸大橋から東に向かっています」
「警察に続報いれとき。それとこれはヤバイかも」
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「三台も多すぎると思たんや。コトリちゃんもワゴン車の中にいると思うわ」
「そうなると・・・」
「アジトに立ち寄らずにそのまま船に乗る気や。その辺はライナーバースのはずやから、荷物の積み下ろしを終えた船を待機させとると思う。乗り込んだら即出航の感じや」
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「警察はまだみたいやな。なんとか警察が来るまで足止めしとかんとアカン。佐竹さんはここで連絡役で待っといて。ボクがちょっと行ってくる」
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『パァーン、パァーン』
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『ドッカーン』