神の話術

医療でもインフォームド・コンセント(IC)ってな言葉が定着して久しいですが、これに関連するトラブルは数多くあります。ステレオ・タイプのものなら、

  • そんな事は聞いていない
  • そういう風に理解していない
  • そもそも何を言っているのか理解できなかった
さらに言えば
    それでも実は不満だった!
こんなのもあります。実際に損害賠償訴訟で責任を認定されたり、責任は認められなくとも長い訴訟に付き合わされたりする訳ですから、どうやったら良いICが出来るかは頭痛のタネとなっています。なんと言っても、言葉とは別に患者の本音がどうなっているかを「タチドコロ」に見抜く能力は多くの医師には無いからです。これは医師だからと言うより、多くの人間がそうだと思っています。某所である弁護士が
    ICとは詳しい説明ではなく、患者が必要とする情報を伝え、患者が納得する事が要点である(ちょっとニュアンスが違うかもしれません)
理はわからないでもありませんが、現実には多種多様な考え方を持つ患者がおられるわけで、さらに説明する時間だってそうそうは取れないわけであり、同じ疾患の同じ治療には同じパターンのICをするのが精一杯です。同じパターンののなかで、経験と共に細かなバージョンアップを付け加えて行くぐらいでしょうか。とてもとても相手に合わせてのオーダーメイドまで手が回らないってなところです。


ただなんですが、そういう魔術のようなICを行える人がいるのも現実です。「某妙にマスコミ受けする産科医院」なんかもそうで、あれだけ分娩トラブルを頻発させても「訴訟傷一つなく御健在」であるのは有名です。並みの産科医なら10や20の訴訟になっていても何の不思議もない状態ですし、訴訟にまで至らなくとも悪評が烈火の様に渦巻いても不思議ないのに、体験者からの悪評は皆無に等しいように受け取っています。この手腕だけは他の医師が舌を巻いています。

こんな物凄いのは1人だけかと思えばそうでもないようです。10/17付東京新聞より、

これなんか腰が抜けそうに感じます。せっかく早期に見つかった標準治療で治癒する可能性の非常に高い乳がんを、「わざわざ」治療しないように説得されまず同意を得ています。当たり前ですが確実に癌は進行します。そうなってからボチボチとヌルい治療を始めても効果は薄いのは言うまでもありませんが、そういう経過に心から患者を満足させ切っています。その満足感も美談として映画にまでなっていますから、まさに
    神の話術
もちろん患者本人が自らの意志でそういう治療を納得選択された事に異論はありませんが、そういう選択を最後まで後悔させなかったICと言うか説明を行なわれた事にひたすら驚くしかありません。その人物は東京新聞記事によると

主治医は「患者よ、がんと闘うな」(文芸春秋)著者で、慶応大病院の近藤誠医師

乳がん関係のICにまつわるトラブルでは徳島乳房温存術訴訟を知っていますが、判決文の隅から隅まで読んでも、一体ICのどこに手落ちがあるのか探し出すのに苦労したのと較べると天と地ほどの差があります。まさに「某妙にマスコミ受けする産科医院」医師に匹敵する話術の達人とさせて頂いて差し支えないかと存じます。

ただ奇妙な事なのですが、共通するのは話術だけではなく医学的能力でも非常に共通性が高いのが興味深いところです。やはり天はなかなか二物を与えないと言うか、進む道を「そもそも」お間違えになった気がしてなりません。