記者会見考

8/6付スポニチより

異例の弁護士同席 通達にテレビ関係者困惑、使用料も徴収

安藤美姫 出産告白後初会見

 異例で異様な会見だ。冒頭、安藤の代理人という今田瞳弁護士がテレビに向け、「会見の映像使用はスポーツニュース協会の認定番組に限定」、「使用期間は会見終了後24時間以内」など一方的に通達。テレビ関係者は「こんなことは今までに聞いたことがないですね…」と困惑の表情を浮かべた。

 安藤が会見を行ったホテルの宴会場の使用料15万円は、取材に来た21社から7142円ずつ徴収。「(報道陣から)要請があった会見でも、場所代が発生したのは見たことがない」と話す関係者もいた。また、尖閣諸島問題で揺れていた昨年11月の中国杯で、日本代表選手の警備にあたったSPが、この日は安藤について回った。

これで全文です。記事内容は安藤選手の記者会見についての記事ですが、読めばわかる通り、記者会見の具体的内容と言うか、安藤選手の出産に関しては一切と言って良いぐらい触れていません。記事のテーマとして問題視しているのは、

    記者会見の形式
これを記事として全国に発信するのに相応しいと判断されている事になります。記事が問題視している個所は幾つかありますが、一番驚いたのは、
    場所代が発生したのは見たことがない
こういう事は異例であり問題視して記事にするのに相応しいと御判断されたのが確認できます。いやぁ、知らんかった。業界には業界の常識とか慣例がありますが、マスコミ業界ではこういう対応は異例で許し難いとしているだけでなく、公然と記事にしても「そうだ、そうだ」と同意してくれる「はずだ」に微塵の疑いも抱いていないのが非常によくわかります。


記者会見はあちこちで良く行われますが、自社なりで自前の記者会見場を持っているところはともかく、そうでない時は用意しないと開けません。それなりの人数が押し寄せる事が予想される時には、それなりの広さの会見場の用意が必要になり、借りるとなれば料金が発生します。今回の安藤選手が借りたホテルの宴会場は15万円もしたと記事に明記されています。記者会見だからと言ってタダで貸してくれる訳でもないのも確認できます。その発生した料金はすべて「取材される側の負担」とするのがマスコミ業界の常識であるようです。記者会見と言っても形態は様々で、あえて分けると、

  • 広告型記者会見
  • 罵倒型記者会見
中間とかその他もあるでしょうがこの二つの類型はありそうに思っています。広告型記者会見とは企業が新車の発表会とか、新製品の発表会とかの類です。そういう時には伝聞ではありますが、記者に対しアゴアシ付きプラスアルファの接待もセットになるとも聞いた事があります。こういう類はイコールで広告その物ですから、広告料として会見費用を取材される側が負担するのはアリかもしれません。そりゃ記者会見の利害関係は、
    マスコミが記事にする事 <<<< 企業がマスコミに記事してもらう事
マスコミ記事にしてもらうメリットは記者会見場の費用ぐらい鼻息で吹っ飛ばすと見ます。これはもう記者会見と言うより接待による提灯記事依頼みたいなものですから、慣例として被取材者側がすべてお膳立てするになっているとしても、それほど不思議とは言えないと思います。厳格には最近定着してきた「利益相反」への抵触はどうかと思わない事もありませんが、たいした事ではないのでしょう。広告もマスコミの主要事業ですし。


一方で罵倒型記者会見とは文字通り罵声や怒号の嵐が飛び交う記者会見です。記者会見と言うのは世にも不思議なマスコミ常識がありまして、

    マスコミ側:怒号や罵声は取材テクニックとして容認免責される
    被取材者側:怒声や罵声に耐えかねて思わず声でも荒げようものなら、非常識として全国に非難報道される
な〜んか、警察の容疑者の取調べみたいな状況ですが、警察の取調べでさえ最近は問題視され「可視化」による対策の必要性が唱えられています。容疑者として警察で尋問を受ける段階の人であっても、そういう配慮が必要の考え方が出ているのですが、容疑者以前、いや犯罪とは程遠い人に対して罵声や怒号が平然と容認される記者会見とは摩訶不思議なものと素直に感じます。これに「さらに」がありまして、今回明らかになった事として、その記者会見場の手配・費用等はすべて被取材者側が負担されている事です。つまり罵倒型記者会見でも被取材者側は、
  1. 記者会見場の手配・費用、さらにはマスコミへの通知も被取材者側の負担で行われる
  2. 記者会見場ではマスコミ側は怒号・罵声はフリーで、被取材者側は何を言われても懇切丁寧に質問に答えなければならない
わざわざ怒号や罵倒が降り注ぐところに臨まされるだけではなく、その費用まで被取材者側の負担がマスコミの疑う余地さえない常識であると言う事です。こういう罵倒型記者会見では、
    マスコミが記事にする事 >>>> マスコミに記事にされる事
どう考えても被取材者側に広告型記者会見のような計算できる大きなメリットがありません。こういう状態でも被取材者側が記者会見費用を支払って当然の理屈を社会常識・社会儀礼でどう考えれば良いだろうかです。とりあえず思い浮かんだのは主客関係です。この主客の関係も本来は客も招かれるに相応しい振る舞いをするのが礼のはずです。主は客に対し礼を尽くしますが、これに相応しい礼を客が返してこその主客関係です。この関係を広告型記者会見ならともかく罵倒型記者会見に当てはめるのは無理があります。う〜ん、難しいなぁ。そうなると主客関係でも、罵倒型記者会見では
    マスコミは招かざる客
こういう位置付けで考えたらなんとか当てはまりそうな気がします。社会では招くに相応しからぬ客でも、招待し接待せざるを得ない時がしばしばあります。本音では来て欲しくはないが、来ると言うからには、もてなさざるを得ない状況と言うか関係です。さらに、そういう時に面倒なのは客の方が「招かざる客」の意識が無い事です。本当に困った関係ですが、そういう客は訪れてやったら相手方は喜んで歓迎して当然であると疑いも無く信じ込まれております。それだけでなく主(ホスト)側に些細な落ち度があれば、居丈高に情容赦なくその落ち度を指摘し罵倒した上で、
    これは客として当然の振舞いであり、折角訪れてやってるのに落ち度を見せるとは無礼も度が過ぎる
もちろん自分の落ち度や振る舞いについては、自分が客であるので歓迎してる主側が受け止めるのが礼儀であり、その事を云々するような奴は非常識極まりないてなところです。うん、これなら綺麗に当てはまります。当てはまるのですが、こういう位置付けの客は現在では「モンスター○○」とされるものです。昔から
    憎まれっ子世を憚る
こう言いますが、体現しすぎておられる気がしました。そういう不思議な状態を是正しようとするのはマスコミ用語で言う「市民感覚」に沿った対応と素直に感じるのですが、そういうところの感覚は鈍いどころか麻痺しきっておられる気がしています。