朝日記事 good job

マスコミには批判的な立場になりがちですが、良い仕事をしたときには素直に評価します。今回取り上げる記事は、

この記事についての評価はNATROM様のところを引用させて頂きます。

 記事の内容は、ほぼ文句のつけようがない。7月上旬に各助産師が提訴されたことを各紙が伝えた記事では、「自然療法」とだけあって、「ホメオパシー」という言葉はなかった(後に読売新聞は7月31日の解説記事で「ホメオパシー」について言及した)。本日の朝日の記事では、記事見出しに明確に「ホメオパシー」と書かれている。「推進団体の日本ホメオパシー医学協会」と、団体名を明確にしたことも評価する。これまでの報道では、「予防接種などを否定する傾向の強い普及団体」「自然療法を提唱する民間団体」「自然療法の普及に取り組む団体」などとされ、団体名は明記されていなかった。

初期報道の段階ではホメオパシー団体への「配慮」がなぜか強力でした。ここに来て空気を読んだぐらいの嫌味も出るかもしれませんが、それでも記事の評価は変わらないでしょう。既に各所で論評されていますが、あえて二番煎じ、三番煎じをやらせて頂きます。順番に適宜引用していきますが、


ホメオパシーの科学的根拠

 「ホメオパシー」と呼ばれる代替療法助産師の間で広がり、トラブルも起きている。乳児が死亡したのは、ホメオパシーを使う助産師が適切な助産業務を怠ったからだとして、損害賠償を求める訴訟の第1回口頭弁論が4日、山口地裁であった。自然なお産ブームと呼応するように、「自然治癒力が高まる」との触れ込みで人気が高まるが、科学的根拠ははっきりしない。社団法人「日本助産師会」は実態調査に乗り出した。

まずホメオパシーの科学的根拠はプラセボ効果以上のものは現在まで立証されていません。英国下院科学技術委員会(by 忘却からの帰還様)のホメオパシーに対する報告です。

下院議員のグループによる報告書は、ホメオパシー医療はNHSによって資金援助されるべきではなく、医療効果をうたう医療は禁止すべきであると述べていた。

下院科学技術委員会は、ホメオパシー薬品にプラセボ以上の効果があるという証拠はない。すなわち砂糖玉やダミー錠剤を効くと信じて服用するのと同じだと。

先月、英国医療協会(BMA)年次総会に出席した医師たちは、この見方を支持して、ホメオパシーレメディはNHSでは禁止すべきであり、薬局で薬品として売られるべきでないと述べた。

その治療は、大言壮語のうえのナンセンスであり、患者はボトルウォーターを買う方が賢明だ。

もっとも英国ではこの報告にも関らずホメオパシーは保険適用から除去されていません。これついての英国政府見解はわかりにくいので、忘却からの帰還様の要約を引用しておきます。

通常医療と同じ規制のもとにホメオパシーを置くと、ホメオパシーは医療として存続しえないという点は保健省も認めている。ただし、通常医療と同じ規制にして医療からホメオパシーを消すと、ホメオパシーが地下にもぐってしまって、誰も安全性を保証できなくなるので、表に置いておくためにダブスタを続けるという。

それぐらい英国では蔓延しており、あえて承認を続けて政府管理下でコントロールした方がメリットがあるとの判断と考えられます。それとこの一連の動きに対し、ホメオパシー側が有効な反論を行なえなかった事も確認できます。承認が続けられたのは、ホメオパシーの有効性を医学的に立証出来たからではなく、政治的に強力な後ろ盾があったとしても良いかと思います。


レメディ

 新生児はビタミンK2が欠乏すると頭蓋(ずがい)内出血を起こす危険があり、生後1カ月までの間に3回、ビタミンK2シロップを与えるのが一般的だ。これに対し、ホメオパシーを取り入れている助産師の一部は、自然治癒力を高めるとして、シロップの代わりに、レメディーと呼ぶ特殊な砂糖玉を飲ませている。

問題になったレメディですが、よく解説に「薄めて」とありますが、「薄めて」だけなら効果が落ちるだけの印象を持ってしまいます。前にもやったのですが、レメディの薄め方をwikipediaから引用しますが、

ホメオパシーに用いるレメディー(「療剤」とも)は、地上におけるさまざまな物質から成分を取り出して、水やアルコールで10倍ないし100倍の希釈を行い、それを震盪(よく振ること)して作られる。原料となる物質は、鉱物、植物、動物などであるが、特に初期に開発された物には、伝統的な薬草が多い。この希釈・震盪を6回から1万回繰り返して、最後にこれを小さな砂糖粒に染み込ませて作成する。たとえば10倍希釈・震盪を9回繰り返して作ったレメディーは9X(Xは10倍希釈を意味する)、100倍希釈・震盪を30回繰り返したレメディーは30C(Cは100倍希釈を意味する)と呼ばれる。もっともよく使われるのは30Cであり、ほかに200C、1,000C(1Mと呼ぶ)、10,000C(10M)、6Xなどが用いられる。

希釈のため、原成分はレメディーの中には極めてわずかしか(後述のように、多くの場合事実上全く)含まれない。しかし、より希釈・震盪したものの方が、より効果が高く、また人間の精神面などより中心的な部分に作用すると考えられている。これは、希釈・震盪によって、希釈液が原液の治癒エネルギーに出会うことにより、希釈液のエネルギーに変化が生じて治癒エネルギーを持つようになるため、というように説明される。従って、レメディーの中に原成分が含まれる必要はないのだという。

「30C」なる表記が薄め方の一つの単位のようですが、これは100倍希釈を30回行なったものを指します。つまり10のマイナス60乗の希釈です。ビタミンKシロップの代わりに服用させたと言われるレメディは日本ホメオパシー医学協会の会員向けの雑誌に「出産現場におけるホメオパシーの課題」として紹介されているようで、

Vit-K30Cには現物質はなく、パターンしか含まれておらず、血管壁を壊すことはありえないこと、(逆にK2シロップの過剰投与は血管壁をもろくする可能性あり)、今回の原因推定としては、様々な問題が考えられること、また、両親のミネラル不足やマヤズム的問題、医原病が胎児に受け継ぐ事などもあること。

やはり30Cのレメディである事がわかります。30Cつまり10のマイナス60乗がどれほどの希釈度になるかですが、アボガドロ定数を考えてみればよくわかります。アボガドロ定数とは物質1モルの構成要素(分子、原子、イオンなど)の総数を表します。この数が

    6.02 × 10の23乗
当然ですがこれを10の23乗希釈すれば構成要素は6個しか残りません。レメディはそこからさらに10の37乗希釈します。また単位の接頭語でナノと言う言葉が使われますが、あれで10のマイナス9乗で、ピコで10のマイナス12乗です。単なるwikipediaの知識なんですが、もっとも小さいもので10のマイナス24乗があり、これを「ヨクト」と言うそうです。

面白かったのはヨクトの日本式の数え方もあり、「涅槃寂静」と言うそうです。そうなるとレメディ30Cとは、涅槃寂静の10のマイナス36乗の希釈度になります。10進数で表記すれば、

    0.000000000000000000000000000000000000000000000000000000000001
合ってると思うのですが、ちょっと自信がありません。こういう「薄めた」物質を砂糖玉に染み込ませたのがレメディです。レメディの希釈単位に1000Cてなものもあるようですが、これなら10のマイナス2000乗になり、30Cでも涅槃をブッチ切りで越えているのに、もう何をかいわんやです。

至極簡単にはレメディに染み込ませている物質はたんなる水です。そして水を何回振っても水です。振ることに意義があるのなら、クルマのラジエーター水や、波に揺られる海水の方が遥かに効果があることになります。水道水だって蛇口に届くまでにどれほどの振動が加えられたかを考えれば、立派に効果があることになります。

英国下院科学技術委員会が例えに出したボトルウォーターも採取されてからボトルに詰められ、トラックなりで運ばれる間にタップリ振動が加えられますから、振動に意味があるのなら、これを砂糖粒に染み込ませれば自然治癒力はあがる理屈になります。

そう言えば日本にも輸入物のボトルウォーターが販売されていますが、欧州なりから船便で送られていたら、相当長期間「振動」が行なわれている事になります。そうなればあれを飲めば、自然治癒力がビシバシあがるはずです。ワインやウィスキーの類も準じそうですが、何か違いがあるのでしょうか。


助産師会とホメオパシーの親和度

 約8500人の助産師が加入する日本助産師会の地方支部では、東京、神奈川、大阪、兵庫、和歌山、広島など各地で、この療法を好意的に取り上げる講演会を企画。2008年の日本助産学会学術集会のランチョンセミナーでも、推進団体の日本ホメオパシー医学協会の会長が講演をした。同協会のホームページでは、提携先として11の助産院が紹介されている。

ランチョンセミナーや講演会を行なう場合、時に袋叩きにするための場合もないとは言えませんが、助産師会の場合は「好意的」すなわち助産師に助産師会から「お勧めです」として取り入れるのを推奨していた事になります。簡単に言えば助産師会がホメオパシーにお墨付を与えていたと言う事です。この話は前から聞いていましたが、

 日本助産師会は「問題がないか、実態を把握する必要がある」として、47支部を対象に、会員のホメオパシー実施状況やビタミンK2使用の有無をアンケートして、8月中に結果をまとめるという。

 また、通常の医療の否定につながらないよう、年内にも「助産師業務ガイドライン」を改定し、ビタミンK2の投与と予防接種の必要性について記載する考えだ。日本ホメオパシー医学協会にも、通常の医療を否定しないよう申し入れた。

 助産師会の岡本喜代子専務理事は「ホメオパシーを全面的には否定しないが、ビタミンK2の使用や予防接種を否定するなどの行為は問題があり、対応に苦慮している」と話している。

ここではっきりわかるのは、VitKや予防接種の必要性は今まで明記していなかっただけでなく、「対応に苦慮」するほど否定派の助産師が多い事です。さらに笑うのは民間療法団体に過ぎない日本ホメオパシー医学協会に「お願い」するような立場に助産師会があると言う事です。言い換えればホメオパシー団体にお伺いを立てなければ助産師会は動けないと解釈します。

もう一歩進めて言えば、岡本喜代子専務理事のお言葉がそのままで、ホメオパシーを今後も取り入れる方針は助産師会として堅持すると明言されています。ズブズブの関係である事が明確に示されています。


神谷整子氏

 テレビ番組で取り上げられたこともある有名助産師で、昨年5月から日本助産師会理事を務める神谷整子氏も、K2シロップの代わりとして、乳児にレメディーを使ってきた。

 取材に応じた神谷理事は「山口の問題で、K2のレメディーを使うのは、自重せざるを得ない」と語る。この問題を助産師会が把握した昨年秋ごろまでは、レメディーを使っていた。K2シロップを与えないことの危険性は妊産婦に説明していたというが、大半がレメディーを選んだという。

 一方で、便秘に悩む人や静脈瘤(りゅう)の妊産婦には、今もレメディーを使っているという。

日本助産師会理事も問題を起こした助産師と同様に、大半の新生児にVitK投与を行なっていないと明言されています。山口の助産師と神谷整子氏の差は1700分の1に当たるか当たらなかったの違いでしょうか。神谷整子氏は

    K2シロップを与えないことの危険性は妊産婦に説明
どんな説明か聞いてみたいものです。1/1700で我が子が死亡するかしないかをキチンと説明されていたのでしょうか。またVitKを投与すればほぼ100%の予防が可能であり、レメディは単なる砂糖粒に過ぎないこともキチンと説明されたのでしょうか。説明に必要なのはその2点で、これが抜けていたらそれは説明とは呼びません。

それと神谷整子氏は便秘と静脈瘤に砂糖粒を使った治療を行なっているとしています。あくまでも英国のお話ですが、「疝痛、腹痛あるいは吐気、慢性でない下痢あるいは便秘」にはホメオパシーは適用されていますが、静脈瘤はちと微妙です。英国政府がホメオパシー治療を規制している疾患として、

    Bone diseases (骨の疾患)
    Cardiovascular diseases (心血管疾患)
    Chronic insomnia (慢性の不眠症
    Diabetes and other metabolic diseases (糖尿病やその他代謝系の疾患)
    Diseases of the liver, biliary system and pancreas(肝臓や胆管系や膵臓の疾患)
    Endocrine diseases(内分泌疾患)
    Genetic disorders(遺伝的疾患)
    Joint, rheumatic and collagen diseases(関節やリューマチ膠原病
    Malignant diseases(悪性疾患 [癌など] )
    Psychiatric conditions(精神疾患
    Serious disorders of the eye and ear(眼および耳の重度の疾患)
    Serious gastrointestinal diseases(重度の消化器疾患)
    Serious infectious diseases including HIV-related diseases and tuberculosis(HIV関連疾患や結核を含む重度の感染症
    Serious neurological and muscular diseases including epilepsy(癲癇を含む重度の神経疾患および筋疾患)
    Serious renal diseases(重度の腎疾患)
    Serious respiratory diseases(重度の呼吸器疾患)
    Serious skin disorders(重度の皮膚疾患)
    Sexually transmitted diseases(性感染症
    Treatment and Prevention of malaria(マラリアの治療および予防)

もっともこれは英国の話であり、日本では悪性腫瘍に投与してもとくに罰則はありませんから、神谷整子氏が違法行為を行なっていると指摘する意図はありません。その点は誤解無い様にお願いします。


オーストラリアの例

豪州では、重い皮膚病の娘をレメディーのみの治療で死なせたとして親が有罪となった例や、大腸がんの女性が標準的な治療を拒否して亡くなった例などが報道されている。

大腸がんの女性の話と思われるケースが忘却からの帰還様がまとめられています。

紹介したのはヤマヤマですが、長くなるのでリンク先を御参照下さい。ここで紹介しておきたいのは、皮膚病の娘と大腸がんの女性の件での豪州ホメオパシー協会の弁明です。これもまた忘却からの帰還様のScrayenは Australian Homeopathic Associationに登録されたホメオパスからです。チト長いですが全文引用します。

豪州ホメオパシー協会(Australian Homeopathic Association)は、ホメオパスThomas Samによる医療ネグレクト(娘をホメオパシーで治療し、通常医療にゆだねずに死亡させた)事件判決について次のように言っていた。

  • Thomasは豪州ホメオパシー協会の会員ではなく、豪州ホメオパス名簿にも登録されていない。
  • 豪州ホメオパシー協会の会員はすべて豪州ホメオパス名簿に登録されており、豪州ホメオパシー協会と豪州ホメオパス名簿の行動規範と、治療責任についての推奨事項やガイドラインに従わなければならない。これには、治療の進捗がおもわしくない場合に、患者にたしてい他の治療者や通常医に紹介することも含まれる。応急処置あるいは緊急事態をのぞき、自分の家族を治療せず、迅速に他の治療者に送ることが適切だと定めている。
  • NSW未登録の医療専門家はすべてNSW保健省行動規範に従わなければならない。この規範は豪州ホメオパシー協会および豪州ホメオパス名簿の行動規範と同様のものである

Thomas Samは豪州ホメオパシー協会員ではなく、会員なら行動規範にじたがうので問題ないと他人事のように言う豪州ホメオパシー協会である。

そして、ホメオパスScrayenの助言のもと、通常医療を拒否して、ぎりぎりで緊急手術を受けたものの手遅れとなり、2年後に死亡したPenelope Dingleの件でも、豪州ホメオパシー名簿(AROH)に登録されているホメオパスなら問題なしという声明を出していた。

ホメオパシーは補完医療です。主流医療やその他の方法と組み合わせて使用できます。ホメオパシーが癌を治癒・治療可能だと言うことは、ホメオパス行動規範に反しています。しかし、ホメオパシー医療は癌患者の症状を緩和するのを助けるために使えます。深刻な病状に対して、統合医療アプローチが最も適切です。

ホメオパシー治療を受ける場合は、治療者が豪州ホメオパシー名簿(AROH)に登録されていることを確認してください。豪州ホメオパシー名簿には、政府承認資格に合致し、行動規範を遵守する治療者が登録されています。これらの規範では、治療者は治療しても症状が改善されない場合にセカンドオピニオンを参照するか、セカンドオピニオンを求めることを必要としています。

で、問題のホメオパスFrancine Scrayenだが

豪州ホメオパシー協会の全豪会長Michelle Hookhamは「Scrayenは豪州ホメオパシー協会に登録されている。我々には行動規範があり、我々は継続的に協会員を更新し、協会員に法的面から助言を行っている。」と述べた。

ホメオパスScrayenは豪州ホメオパシー協会員だそうである。

豪州ホメオパシー協会に登録されていることも、行動規範があることも、特にホメオパスの安全性を保証するものではないようだ。

現代医療に従事するものとして、あまりお付き合いしたい方々ではありません。ましてや途中で放り投げられるのはもっと堪忍して欲しいタイプの方々です。前にも書きましたが、ホメオパシーが宗教であるならまだお付き合いできます。もちろん喜んでではありませんが、信教の自由はあり、水を振ったら霊験があらたかになると信じられるのを止める権利は誰にもありません。

しかし医療であるとして土足で現代医療の体系の中に踏み込まれると話は変わります。医療は科学であり、体系の違う科学は弾きあいます。そして科学の価値評価は科学的な根拠でのみ行なわれます。英国を見ればわかるように、ホメオパシーもカイロプラクテックも存亡の危機に立たされても、何ひとつ科学的な有効な反論が出来ていません。

どこのブログのコメントだったか忘れてしまいましたが、ホメオパシーの支持者と見られる方が「良く効いた」の経験談からホメオパシーの有効性を力説されたコメントの後に、

    それは違います。
    私は1日3度、日本国民の病気が治る様に祈っています。
    あなたが治ったのはそのためです。

どちらが効果があったかを科学的に証明できないのがホメオパシーであると言う事です。