第17回医療経済実態調査

平成21年6月実施の報告書です。とりあえず儲け過ぎ批判で袋叩きに会った診療所の項目を今日はチェックしてみます。集計は損益差額としてまとめられていますが、これは、

    損益差額 =(医業収益 + 介護収益)− 医業介護費用
こういう計算式となっています。今回の調査では「収支差」と言う表現を変更したのかもしれません。もう少し詳しく紹介しておきますと、
  1. 医業収益
    • 保険診療収益
    • 公害等診療収益
    • その他の診療収益
    • その他の医業収益
  2. 介護収益
    • 施設サービス収益
    • 居宅サービス収益
    • その他の介護収益
  3. 医業・介護費用
    • 給与費
    • 医薬品費
    • 材料費
    • 委託費
    • 減価償却
    • その他の医業・介護費用
こういう内訳になっています。一般診療所の分類は、
  • 個人、医療法人、その他
  • 診療科
  • 有床診療所か無床診療所か
こういう風になっています。サンプル抽出率は1/25となっていますが、2378施設にアンケートを行ない有効回答率は44.0%(1047施設)となっています。サンプル数は、

診療科 個人 医療法人
有床 無床 有床 無床
内科 4 240 27 229
小児科 0 40 2 36
精神科 0 15 1 8
外科 1 21 8 32
整形外科 2 40 7 30
産婦人科 5 17 13 8
眼科 3 41 5 28
耳鼻咽喉科 0 32 1 29
皮膚科 0 34 1 29
その他 3 12 3 14
全体 18 492 69 443


ここまで前置きしておいてデータを紹介してみます。まず個人経営の一般診療所(有床、無床の合計)です。

内科 小児科 精神科 外科 整形外科 産婦人科
医業収益 674.2万 451.9万 459..8万 661.5万 1085.9万 1061.4万
介護収益 1.1万 0.2万 0.0万 0.1万 19.7万 0.0万
医業介護費用 487.3万 307.3万 294.5万 507.1万 756.5万 855.5万
損益差額 188.0万 144.6万 165.3万 154.5万 350.1万 236.9万
眼科 耳鼻咽喉科 皮膚科 その他 全体
医業収益 687.7万 467.3万 610.5万 873.8万 690.4万
介護収益 0.0万 0.0万 0.0万 0.0万 2.1万
医業介護費用 425.3万 320.8万 377.1万 637.3万 487.7万
損益差額 262.4万 146.5万 233.3万 236.5万 204.8万


ありゃ小児科診療所が最下位です。では医療法人ならどうかですが、

内科 小児科 精神科 外科 整形外科 産婦人科
医業収益 1321.5万 799.0万 688.2万 1828.2万 1234.6万 1562.2万
介護収益 54.0万 0.0万 0.0万 18.7万 22.9万 0.5万
医業介護費用 1335.1万 879.5万 678.0万 1742.5万 1140.8万 1881.6万
損益差額 40.5万 80.5万 10.3万 104.4万 116.7万 246.0万
眼科 耳鼻咽喉科 皮膚科 その他 全体
医業収益 1562.2万 805.8万 876.8万 1717.3万 1310.8万
介護収益 1.0万 0.0万 1.3万 12.3万 30.7万
医業介護費用 1407.6万 808.4万 765.4万 1692.7万 1282.4万
損益差額 155.6万 2.6万 112.8万 36.9万 59.2万


一般的に売り上げが伸びてから医療法人に移行する事が診療所では多いのですが、個人診療所に較べてエライ医業収入に差があります。小児科外来で6月に保険診療収益660万円を叩き出そうとすれば、それこそ100人外来が「年間平均」でなければ難しいように思うのですが、これがなんと医療法人の小児科全体の平均とは畏れ入ります。それ以上に驚くのは、会計処理の関係があるかもしれませんが、それでも小児科診療所は赤字である事です。

「その他」の集計は省略(内科しかありません)しますが、すべての診療所の集計データもでています。

内科 小児科 精神科 外科 整形外科 産婦人科
医業収益 1025.2万 621.0万 545.5万 1414.2万 1156.1万 1068.9万
介護収益 28.9万 0.0万 0.0万 12.1万 21.2万 0.4万
医業介護費用 947.7万 586.1万 438.3万 1304.1万 936.4万 853.5万
損益差額 106.4万 34.9万 107.2万 122.2万 240.8万 215.8万
眼科 耳鼻咽喉科 皮膚科 その他 全体
医業収益 1068.9万 631.1万 735.3万 1321.9万 1011.1万
介護収益 0.4万 0.0万 0.6万 6.6万 17.1万
医業介護費用 853.5万 556.7万 559.1万 1198.0万 899.9万
損益差額 215.8万 74.3万 176.8万 130.5万 128.3万


小児科だけ抽出してみます。小児科は「その他」はありませんから、

個人 医療法人 合計
医業収益 451.9万 799.0万 621.0万
介護収益 0.2万 0.0万 0.0万
医業介護費用 307.3万 879.5万 586.1万
損益差額 144.6万 80.5万 34.9万

あくまでも因みにですが、第15回の小児科の調査に「介護保険事業に係る収入のない医療機関の集計(A集計)」なるものがあり、今回の調査と対象がややずれる部分もあると思いますが、

    医業収入:707万8857円
    医業費用:508万4236円
    収支差:199万4621円
収入減の支出増で経営が傾いているようにも見えるのですが、集計法が少し異なっているようにも思えますから、そんな感じがするぐらいにしておきます。それにしても数字がどうも実感を伴いません。私が実感出来る範囲は小児科だけですが、他の診療科の方の意見を聞かせて頂くと幸いです。あえて言うと実感に一番近いのは個人診療所の数字ですが、医療法人になると「ほんまにそうかいな」と感じる部分はあります。

医療法人では医師も法人からの給与になりますから、その辺の差があるのかとも思ったのですが、留意事項に、

個人立の病院・一般診療所・歯科診療所・保険薬局においては、開設者の報酬に相当する部分は、「医業・介護費用(又は費用)」の「給与費」には含まれていない。

どうもそう考えた方が良さそうです。つまり

  • 個人:損益差額の中から医師個人の給与が支払われる
  • 法人:医業費用の給与費に医師個人の給与が含まれる
では診療所の収益のバラツキはどうなっているかです。今回の集計は損益率で表示されています。損益率とは、
    損益率 = 損益差額 /(医業収益 + 介護収益)
収入に対する利益の割合ぐらいに解釈したら良さそうで、これまでの絶対額の表示をやめられて相対額に変更されたようです。まず個人診療所のグラフです。
個人診療所全体の平均損益差額は医療法人より格段に良いのですが、それでも10.0%は赤字である事が確認できます。個人診療所では上述したように損益差額の中から医師の給与が支払われますから、赤字のところはもちろんですが、黒字のところも医師の生活費を差し引けば実質赤字のところが拡大するはずです。またこれまでの調査では開業資金の返済も医業費用に含まれていませんから、これも赤字分として圧し掛かります。

ただどれぐらいかはこの損益率階級からでは不明です。損益率が10%未満であっても収入が大きければ絶対額は増えますから、正確なところはわからない事になります。


次は医療法人です。

こちらの赤字はなんと45.6%に達します。個人と法人では会計処理が若干違いますが、医療経営ではビックリするほどの差にはなりません。大きく違うのは税務処理ですが、収入と支出の差はそんなには変わらない気がしないでもありません。これも法人の従業員の正職員数・率(保険や年金にかかってきます)でかなり差があるのですが、実勢としてはこちらのグラフのほうが実態にやや近いとも考えられます。

また開業資金の返済問題が絡むと実質赤字の診療所はもう少し増えて50%を越えても不思議無さそうですが、これもまたこのグラフからは何とも言えません。いずれにしても恒例の通り、どういうサンプリングをすればこうなるのか、また従来に較べてもサンプルの実態がどうなっているのか解析しにくい調査になっているように感じます。


最後にお気づきになった方もおられると思いますが、今回は17回調査ですが、私が比較に出したのは15回調査です。15回が2007年ですから16回が2009年にあったはずです。「はず」と言うより「あった」のですが、見るのを忘れていました。誠に申し訳ありません。17回調査もそうですが、16回調査の時も、それ以前の14回や15回の時と違って報道機関が見向きもしなかったので忘れていました。本当に申し訳ありません。