これは新聞が補助金だってさの続報になるのですが、前回の情報を先に再引用しておきます。まず2009 VOL.35 NO.7 P74 選択「経済情報カプセル」より(手打ちです)、
新聞業界も公的支援を要求/活字離れ食い止め策など浮上
収入源に苦しむ新聞業界をテコ入れするため、政府や行政から救済・援助を取り付けようとする仰天プランが新聞業界で浮上している。しかも、日本新聞協会を挙げての構想というから驚きだ。
プランの柱は売り上げ減の一つとされる、若者の新聞離れを食い止めようとするもの。若者が新聞購読する際の費用を政府が補助するよう求める考えという。このほか、各学校で新聞を読める環境を整えたり、学習教材に新聞を活用するよう行政に強く働きかける意向だ。
こうしたテコ入れを先導するのが、新たに新聞協会会長に就任した内山斉・読売新聞グループ本社社長。就任を控えた今春には自らの発案で、「広告対策特別委員会」を設置、これが発端となり、「政府支援プラン」の検討が加速したと見られる。新体制下で今後、関係当局へのトップアプローチが本格化するとの見方がもっぱらだ。もっとも、新聞業界へのバラマキプランにはやり過ぎではないか、との声も周辺から漏れ聞こえる。また政府支援を得ることで、政策への論調に緩みが生じるとの懸念も聞こえている
この記事のキモは、
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若者が新聞購読する際の費用を政府が補助するよう求める考えという。このほか、各学校で新聞を読める環境を整えたり、学習教材に新聞を活用するよう行政に強く働きかける意向だ。
▽新聞広告を活性化 無読対策が喫緊の課題(新聞通信 5月28日付)
新聞協会広告委員会が20日、今後新聞業界として取り組むべき方策などをまとめた。「若年層・無購読者への対策」としては、(1)現読者に対するサービスの検討(2)学生割引価格や成人となる20歳向けの購読割引価格の設定など、青年層への購読促進キャンペーン(3)小・中・高校や大学を対象とした無料購読を含めた各種新聞購読キャンペーンや学校教育教材用価格、大量一括購入価格など既存の特別定価のPR(4)未来の読者を育てるための生徒・学生向けセミナーを全国的に開催?他媒体・関連媒体を使った若者・無購読者向け新聞PRキャンペーンなど。そのほか、政府への働きかけや業界全体としての広告主、広告会社との関係強化、全新聞社参加による新聞広告活用キャンペーンなどが報告されている。
こちらはある意味より具体的に、
- 現読者に対するサービスの検討
- 学生割引価格や成人となる20歳向けの購読割引価格の設定など、青年層への購読促進キャンペーン
- 小・中・高校や大学を対象とした無料購読を含めた各種新聞購読キャンペーンや学校教育教材用価格、大量一括購入価格など既存の特別定価のPR
- 未来の読者を育てるための生徒・学生向けセミナーを全国的に開催
- 他媒体・関連媒体を使った若者・無購読者向け新聞PRキャンペーンなど
しかし新聞協会内で新聞業界挙げて政府支援に取り組む方針にしているのはほぼ確実ですから、手法として「有識者の意見」として観測気球を揚げ、「それは良い意見だ」と他社も含めて付和雷同する戦術と見えなくもありません。なぜにタブロイド紙が先陣を切るのか解釈が難しいところですが、くじ引きでそうなったのか、観測気球への反応が悪いときに「どうせタブロイド紙の妄言」として片付ける算段かもしれません。
それでは実質的に新聞協会の意見を代弁していると考えられる、ジャーナリスト・原寿雄氏の部分を読んでいきます。
インターネットの普及によって、読者離れと広告離れが深刻化し、いまのままでは日本の少なくない新聞が廃刊や経営規模の縮小を迫られるのは必至だ。不動産収入や映画製作への参加など本業以外をみても、新聞を支えてきた購読料と広告料に代わる収入源は見つからない。
現状分析としては正しいのですが、なぜネット情報に新聞が太刀打ちできなくなったかの説明が欲しいところです。
米国ではより深刻で、1紙しか残らない地域も増えているようだ。インターネットは、オピニオンを飛躍的に発展させたが、その基礎となる「事実」は、自分の仕事や趣味の情報にとどまるというパーソナルメディアとしての限界がある。一方、新聞ジャーナリズムは、公器として権力の監視や社会正義の追求をはじめ公共的な情報をいち早く豊富に安価で提供してきた。恒常的で組織的な取材、調査・分析力。そして、特定の利害に左右されない道義性の高さを肩代わりできる媒体は、当面ほかに見当たらない。
前半部は頷ける意見です。ネットの強みはオピニオンであると言うのは正しい見方であると思います。またネットの発信者は自分の得意とするテリトリーの情報発信に留まるところがあります。ただし、ネットの強みはそういう分野ごとの発信者が無数にある点でもあります。1ヶ所ですべてを担う事は不可能でも、数で勝負が本質です。
バラバラの情報発信になっているネット情報を総合的にまとめていく進化がこれからの課題であり、その方向へ確実に進んでいると思うのですが、その点の見解については、
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パーソナルメディアとしての限界がある
それと誰もがツッコミたいところで、私も我慢できないのですが、
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特定の利害に左右されない道義性の高さを肩代わりできる媒体は、当面ほかに見当たらない
廃刊相次ぐ米国では公権力を監視する力が弱まりかねないという声が広がっている。連邦議会では、新聞の再編を容易にするための独占禁止法の緩和やNPO化による税制上の優遇措置などが論議され始めた。欧州では新聞の公共意識が強い。言論の独占を避け、多様性を重視する観点から、スウェーデンでは弱小新聞への助成策があり、仏では税制上の優遇に加え新成人への新聞の1年間の無料配布も打ち出した。
アメリカはドライですね。あくまでも私企業としての新聞のサバイバルを考えているのがわかります。記事のままの情報しか確認していませんが、アメリカの対応は、
- 新聞の再編
- 新聞社のNPO化
フランスでもクオリティ・ペーパーの部数減少が問題になっていると聞きます。その原因はネットの影響もあるでしょうが、フリーペーパーが大きく勢力を伸ばしているのも大きいとされます。そこでフリーペーパーだけではなく、クオリティ・ペーパーも若年層に読んで欲しいが本当の狙いであると聞いた事があります。クオリティ・ペーパーが存在しない日本じゃ関係ないお話ですけどね。
民主主義社会ではジャーナリズムが不可欠だ。日本では社会文化政策として新聞ジャーナリズムの公的な支援論議はほとんどされてこなかったが、いまこそ始める時ではないか。再販制度や特殊指定制度は、新聞事業を維持するために、その意義が一層強まった。
え〜と、
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再販制度や特殊指定制度
欧米の政策を参考にした税制上の優遇や、教育文化政策の一環として、ジャーナリズムの社会的な重要性を学ぶためのカリキュラムを強化したり、義務教育が修了する15歳を機に新聞の1年間無料配布を検討してもいい。年500億円で足りよう。
新聞業界が求める支援額は、
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500億円
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財源は?
それと新聞通信記事にあった取り組みのうち政府支援に頼る部分が推測できます。
原寿雄氏の主張 | 新聞通信の内容 |
欧米の政策を参考にした税制上の優遇 |
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教育文化政策の一環として、ジャーナリズムの社会的な重要性を学ぶためのカリキュラムを強化 |
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義務教育が修了する15歳を機に新聞の1年間無料配布 |
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「現読者に対するサービスの検討」や「学生割引価格や成人となる20歳向けの購読割引価格の設定など、青年層への購読促進キャンペーン」も500億円のうちかもしれませんが、あえて税制優遇に分類してみました。さすがに「販促キャンペイン」まで政府支援を求めるのはどうかと思ったからです。もちろんやるなら税制優遇により生み出される利益によって行なわれる事になりますが、逆に言えばそこまでの税制優遇を要求していると取る事が出来ます。もちろん税制優遇は500億円とは別に要求しているものであると考えます。
残りはモロで、500億円で「子供に新聞を買って読め」との教育を全国展開するために、政府の補助金を使うと宣言されている様に読めます。ここも笑いどころで、若年層の新聞離れは今年になって突然始まったものではありません。こんなキャンペインで若年層が新聞を買う様になるのなら、「なぜ怠っていたか」の質問が出てきます。
なんと言っても全国から情報をかき集めて、分析して発信するのがお仕事ですから、手遅れになるまで「気が付かなかった」と胸を張って言えるのが素晴らしいところです。その程度の情報分析能力しかないメディアであると自ら言っているようなものです。
新政権をはじめ各党は、社会政策としてメディアのあり方を考える担当を設けたらどうか。新聞界も、経営合理化の徹底や紙資源の保護を含む販売面の刷新、調査報道の充実、取材報道倫理の向上など、新聞が民主主義社会に不可欠な存在であることを証明する努力がもっと必要だ。
指摘するのも疲れますが「経営の合理化」って、どういう単位で話されているのか不明です。既存の全社が生き残る前提でお話されているのでしょうか。斜陽産業の保護であっても、業界内の合理化が大前提かと思います。護送船団方式を散々批判したのが新聞業界ですから、全社が政府保護の下に生き残る主張であればかなり笑います。
それと
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紙資源の保護
それと紙媒体の欠点は情報量に制限があることです。フォントをデカくするのに新聞業界は熱心ですが、引き換えとして紙媒体の情報量が大幅に減っています。情報量の減少が新聞に対しての不満となっている点にお気づきないようです。「文字が大きくなって、情報も充実」はあり得ないと言う事です。文字量の減少は情報量の低下に直結し、これを補うにはページ数の増加しかあり得ないと言う単純な事です。
今、「事実」を提供するメディアに求められるのは、豊富な情報です。紙媒体のやせ細った情報量ではなく、ネットで制限の無い情報を提供する事が方向性と私は考えますが、そうは考えずにあくまでも紙媒体で制限される情報提供を行なう意向であるのがわかります。
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新聞が民主主義社会に不可欠な存在であることを証明する努力がもっと必要だ
画期的な技術革新は従来の技術を過去の遺物にしばしばします。歳がばれますが、子供の頃の音楽媒体といえばレコードとカセットでした。これが他の媒体に置き換わるなんて夢にも思わなかったですが、CDはレコードやカセットを過去の遺物とし、さらにネットからのDLはCDすら過去の遺物にしかねない勢いです。ビデオテープを例にしても良いかも知れません。
情報産業もそうで、ネットの普及と言う革命的な技術革新は旧来の技術を過去の遺物にする部分が出てきます。新聞業界の人間は「不可欠」と信じたいでしょうが、情報の買い手からすれば必ずしも「不可欠」と考えていません。情報技術が進歩すれば、それに適合したメディアから情報を買います。これを政府の保護によって押し留めようとする政策が成功した験しはありませんし、その事を痛烈に批判していたのも新聞です。
それでも新聞業界は現時点では大きな影響力を持っていますから、政府から500億円を引き出すかもしれません。その時の監督官庁は是非文化庁にお願いしたいと思います。文化庁管轄ならまだしも補助金の意味はあります。世界で滅び行く新聞文化の動態保存のためです。東京の新聞社の本社をそのまま保存施設とし、かつて情報発信の担い手であった新聞なるものを子供に見学・教育させるというものです。
そこには実際に勤務する人間が新聞なるものを作り、その過程を入場者が眺めるというもので、まあ、常設展示館みたいなものと考えてもらえれば良いでしょうか。おみやげ物売り場で新聞を売れば、記念品として売れるでしょうし、昔を懐かしんで買う人もいるかと思います。補助金2年分で1000億円もあれば立派な施設が出来あがると思います。