患者と医者をつなぐもの〜よっしぃの独り言の『生前意志』に診療報酬!?に引用されている2月10日付け毎日新聞東京朝刊より、
厚生労働省は、75歳以上で「終末期」の患者が医師らと相談し、延命治療の有無などの希望を文書などで示す「リビング・ウイル(生前の意思表示)」を作成すると、病院などに診療報酬が支払われる制度を導入する方針を決め、08年度診療報酬改定案に盛り込んだ。患者本人の希望に沿った終末期医療を実現するのが目的という。専門家らからは、意思表示や治療中止の強制につながるなど、批判の声が上がっている。【大場あい】
よっしい先生のエントリーは秀逸ですので是非御一読ください、また記事はもう少し長いのですが気が向けば御参照ください。よっしい先生は「75歳以上限定」に疑問符を投げかけられてましたが、それも含めて記事情報だけでは不正確かと思いますから、中医協の診療報酬改定案から該当部分を引用します。
まずこの項目のタイトルが「ガイドラインに沿った終末期における十分な情報提供等の評価」となっています。その上で「基本的な考え方」として、
安心できる終末期の医療の実現を目的として、患者本人による終末期の医療内容の決定のための医師等の医療従事者による適切な情報の提供と説明を評価する。
記事では「75歳以上」と年齢による限定としていますが、、診療報酬改定には一言も「75歳以上」と書いてありません。その代わり後期高齢者医療制度にのみに新設された医療報酬なので、一般的に75歳以上が制度の対象のため記事ではアバウトに「75歳以上」としています。後期高齢者医療対象者は厳密には、
- 75歳以上の方(75歳の誕生日から)
- 65歳以上75歳未満で一定程度の障害の状態にあると広域連合の認定を受けた方(認定を受けた日から)
-
適切な情報の提供と説明を評価する
-
後期高齢者終末期相談支援料 200点(1回に限る)
「具体的な内容」と言うのが次に書かれています。
医師が一般的に認められている医学的知見に基づき回復を見込むことが難しいと判断した後期高齢者について、患者の同意を得て、医師、看護師、その他関係職種が共同し、患者及びその家族等とともに、終末期における診療方針等について十分に話し合い、その内容を文書等にまとめた場合に評価する。
結構大変な作業のようです。「回復を見込むことが難しいと判断」というのはそれほど難しいものではありませんが、「患者の同意を得」と言うのがとりあえずの関門になります。つまり家族との同意ではなく患者本人との同意が必要である事が記されています。
「患者の同意を得」ないと話は始まらないのですが、ケースによるでしょうがそれなりに病状が進んで苦しくなりかけている患者に対し、
-
「もう治りませんし、近いうちに確実に死にますから、死ぬ時の治療方針の同意書を頂きます」
続いて「算定要件」です。
- 終末期における診療方針等について十分に話し合い、文書(電子媒体を含む)又は映像により記録した媒体(以下、「文書等」という。)にまとめて提供した場合に算定する
- 患者に対して、現在の病状、今後予想される病状の変化等について説明し、病状に基づく介護を含めた生活支援、病状が急変した場合の延命治療等の実施の希望、急変時の搬送の希望並びに希望する際は搬送先の医療機関の連絡先等終末期における診療方針について話し合い、文書等にとりまとめ提供する
- 入院中の患者の診療方針について、患者及び家族等と話し合いを行うことは日常の診療においても必要なことであることから、入院中の患者については、特に連続して1時間以上にわたり話し合いを行った場合に限り算定できることとする
- 患者の意思の決定に当たっては、「終末期医療の決定プロセスに関するガイドライン」(平成18年5月21日医政発第0521011号)及び「終末期医療に関するガイドライン」(日本医師会)等を参考とすること
おもしろいのは説明の審査方法です。文書はまあわかるとして「映像により記録した媒体」がなかなかユニークです。ここにはとくに映像の媒体について明記されていませんが、想定としてはデジタル画像かと思えます。デジタル画像と言うよりやはり動画と考える事もできそうです。でも動画となると大変そうです。
-
入院中の患者については、特に連続して1時間以上にわたり話し合いを行った場合に限り算定できることとする
それと入院中は1時間以上の時間規定ですが、患者が個室であればまあ良いとして、大部屋ならどうするのでしょうか。患者が別室に移動できる状態であれば問題はありませんが、ベッドから動かすのが困難な場合もあります。酸素だけでも施設によるでしょうが、別室まで酸素配管が必ずあると言えません。ボンベを抱えての移動になるかもしれません。
ここまで読んできて誤解があることに気がつきました。算定できるのは医師又は歯科医師だけだと思っていましたが、そうではありませんでした。薬剤師でも看護師でも診療報酬として受け取る事が可能です。それも薬剤師なら医師と同額、看護師なら解釈によりますが同額ないし倍額です。
まず薬局薬剤師です。
後期高齢者終末期相談支援料 200点(1回に限る)
(算定要件)
在宅患者について、患者の同意を得て、保険医及び看護師と共同し患者及びその家族等とともに、終末期における診療方針等について十分に話し合い、その内容を文書等により提供した場合に算定する
但し書きがないので言い切れ無いのですが、薬剤師も医師と同様に200点もらえるようです。これもよく分からないのですが、医師が行なう請求と薬局が行なう請求は医療機関として別建てなので、医師とは別個の文書ないし「映像により記録した媒体」が必要になりそうです。病院なら病室まで出張するのでしょうか。
看護師の方は、
・後期高齢者終末期相談支援療養費 2,000円(1回に限る)(訪問看護療養費)
・後期高齢者終末期相談支援加算 200点(1回に限る)(在宅患者訪問看護・指導料)(算定要件)
利用者の同意を得て、保険医と共同し、利用者及びその家族等とともに、終末期における診療方針等について十分に話し合い、その内容を文書等により提供した場合に算定する
これを読む限り入院中に病院看護師が一緒に居ただけでは算定は難しそうです。対象は訪問看護センターの看護師と考えたらよさそうです。そうでないと診療報酬請求がややこしくなります。それと「後期高齢者終末期相談支援療養費」と「後期高齢者終末期相談支援加算」の関係はどうなっているのでしょうか。重複して算定されるものなのか、それとも施設の性格により分けられるものなのでしょうか。
気になる表現は「後期高齢者終末期相談支援療養費」なるもので、これは点数表現で書かれておりません。そうなると保険医療で無い可能性も出てくるのですが、そのあたりの診療報酬制度に詳しくないので良く分からないとしておきます。
医師、薬剤師、看護師の3者がこの診療報酬を算定できるのですが、これは想定として医師は病院ないし診療所、薬剤師は薬局、看護師は訪問看護センターなどの別の組織に属し、そのため各々が保険請求が行なう状況かと考えます。病院内で、医師、院内薬剤師、院内看護婦が行なっても算定できるのは病院のみと考えます。
問題はどういう説明形態が認められるかです。普通に考えれば医師、薬剤師、看護師が同席の上、合同で説明すれば各々が請求できると考えます。ただし文書や「映像により記録した媒体」は各個が提出しなければならないので、文書なら3通、映像ならカメラが3台まわることになります。
ここで簡潔に算定条件が記載されているので分からないのですが、医師条件は時間指定も含めて細かく規定されているのですが、
- 薬剤師:保険医及び看護師と共同
- 看護師:保険医と共同
別個の時に請求が可能な3者が説明を行なえば少々困った問題が考えられます。説明した日が変われば、患者の気が変わっている可能性が生じます。終末時の患者の心理状態が揺れ動いてもおかしくありませんから、日が変われば他と違う条件で合意する事も十分ありえます。
患者の気が変わると言う問題は、3者がそろって合同説明会を行なっても起こる可能性があります。患者の気が変われば当然合意は御破算になります。これは患者を責めているわけでなく、私も当事者になればやりかねません。類似例をあげれば遺言状みたいなもので、あれは後からいくらでも書き直しが可能で、最後に書かれたものが有効とされます。自分の死の際の条件ですから、それぐらいの自由裁量権は当然認められます。
考え方を変えれば、患者の気が変わるという問題も含めて、その対応すべてを含んで200点と解釈すべきなのかもしれません。もちろん終末時の医療の確認作業は重要な事ですから、診療報酬が無くとも行われる事ですし、今まで無料だったのが200点でも報酬が与えられるのは前向きに考えてよいとは思います。
ただ人間心理として不思議なもので、生前意志の確認行為が200点と定義され価値付けられると、その程度の評価しか無い行為と感じてしまいます。これは私だけかもしれませんが・・・。