今日はしっかり根拠が明らかなお話をします。
報道でなされた部分だけですが、弁護団が第1回の法廷で主張したことを拾ってみます。
6/26付NHK奈良ニュース
この問題が明らかになった後、大淀病院はことし3月一杯で産科を休診しましたが、これについて被告側の弁護士は、「今回の件でバッシングを受けた結果だ。原告らの誤った主張は医療界をあげて断固正していく」と批判しました。
6/26付読売新聞
被告側は「子供の命も重大な危機に直面したが、何の障害も残さずに助かっており、医師の処置の正しさを証明している。県医師会なども『医師に責任がない』との見解を表明した」と反論した。
6/25付朝日新聞
被告側は意見陳述で「産科診療体制の問題を特定の医師や医療機関の責任に転嫁している」と述べ、全面的に争う姿勢を示した。
被告の同病院産婦人科(現・婦人科)の男性医師(60)側は、医師は早く搬送先が見つかるよう努めた▽早く転院できても助かった可能性はない――などと主張。「社会的制裁を受け、病院は産科医療からの撤退を余儀なくされた」とした。
6/25付共同通信
町側代理人は「診療体制の問題点を特定の医師、医療機関に責任転嫁しようとしており、到底許容できない」と主張。提訴を「正当な批判を超えたバッシング」と批判し「結果として病院は周産期医療から撤退、県南部は産科医療の崩壊に至っている」と述べた。
記事の構成がややこしく、原告側の主張が法廷内での意見陳述として行なわれた部分と、閉廷後に原告に行なわれたインタビューが混在しているのですが、どうやら被告側の主張は法廷内の意見陳述から引用されているようです。各社で取り上げ方が微妙に違うのですが、法廷内の発言であるならそんなに曲げる訳にはいかないでしょうから、報道された内容がすべて含まれる主張であったと考えます。
被告側の主張をピックアップしてみると、
- 診療体制の問題点を特定の医師、医療機関に責任転嫁しようとしており、到底許容できない。
- 医師は早く搬送先が見つかるよう努めた、早く転院できても助かった可能性はない。
- 子供の命も重大な危機に直面したが、何の障害も残さずに助かっており、医師の処置の正しさを証明している。
- 県医師会なども『医師に責任がない』との見解を表明した。
- 社会的制裁(バッシング)を受けて病院が産科医療からの撤退を余儀なくされ、奈良県南部の産科医療が崩壊した。
- 原告らの誤った主張は医療界をあげて断固正していく。
もっとも原告側の主張も負けず劣らず多いのですが、被告側の反論が具体的であるのに対して、非常に感傷的な主張ばかりが書かれています。原告側が法廷でどのような主張をしたのかが殆んどかかれていないのでわからないのですが、記事にあるのは閉廷後のインタビューの内容が中心のようで、「・・・と感じられなかった」、「・・・は悔しい」、「・・・して欲しかった」、「・・・は逃げた」等々となっています。
これはあくまでも推測ですが、訴訟を傍聴した記者の印象として、原告側の医師の過失の主張よりも、被告側の反論の方がよほど印象が強かったのではないかと考えます。だから記事の構成として、法廷部分は被告側の反論が中心となってしまったと。ところが我に返るとマスコミの正義は「可哀そうな医療被害者の擁護」であるので、原告の夫のインタビュー記事を大きく引用せざるを得なくなったのではないかと考えます。
少し憶測を加えると法廷を直接取材した記者の記事では被告側に有利すぎるので、想定する読者の期待に応えるべく、編集段階で原告の主張を大きく割り込ませて構成した可能性を考えています。もちろん真相はわかりません。ただ医療訴訟記事でよく見られる、「被告は悪」一辺倒の記事になっていないのだけは確かと感じます。
とくにNHKニュースにある被告側の主張に注目しています。
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原告らの誤った主張は医療界をあげて断固正していく
被告にさせられている産科医はネットを見られます。あの事件直後にネット医師が敏感に反応して産科医の診療行為を隅々まで検証して、「産科に罪なし」、「産科医は最善を尽くした」の結論を導き出し、当初の報道の流れを大きく変えた事を良く知っています。またm3へのカルテ流出報道でも、それこそ「あっ」と言う間に、マスコミが非常に早期の段階からカルテを入手していた動かぬ事実を立証しています。この事も良く知っています。
さらに言えば産科医も知っていますが、被告側代理人もよく知っています。被告側代理人の言う「医療界」にはネット医師世論も含まれています。どうしてもネットの熱気は一過性になってしまう傾向がありますが、我々ネット医師の努力は少しぐらいは訴訟に影響を及ぼしていると考えて良いと思います。ネット医師はネットに棲む者ではありますが、元は医師です。医師の特徴は執念深くいつまでも忘れないです。どれだけ執念深く忘れないかは福島事件への怒りが一向に衰えない事でも立証されていますし、奈良事件でも同様である事が一昨日に立証されています。
産科医は訴訟の場に立たされ、彼の命運はその弁護団に委ねられています。我々は弁護団に委ねるだけでなく、折々に触れて産科医を支持していく必要があります。次回の法廷は、8月29日13:30から大阪地裁1006号法廷であります。この日もまた忘れずにいたいと思います。