丸投げは困る

昨日うちの職員が「先生、怒ったらあかんで」と笑いながら、保健所からの通達を持ってきました。イヤ〜な予感を抱きながら読んでみると、怒ると言うよりため息が出るようなご通達にウンザリさせられました。

実は今月の1歳6ヶ月検診に出務した時ですが、検診表に黄色地に赤字でアレルギーと書かれたポストイットが貼られたものが結構目に付きました。何の事だろうと思い、付いていた保健婦に聞いてみましたが彼女も「???」。検診終了後に調べてもらうと、歯へのフッ素塗布をした子供にショックが起こったことがあったらしく、それへの対策だと言う事でした。ポストイットを貼ったからと言ってショックは防げるはずがないのですが、「ふぅーん」と言ってとりあえず帰りました。

それを受けての保健所からの正式の対策が上記の通達です。長いですが引用します。

神保子 第622号
平成18年7月7日

社団法人神戸市医師会 会員各位

神戸市保健福祉局子育て支援部主幹(こども家庭支援担当)前田真一

乳幼児健診におけるフッ化b物塗布に伴うアレルギー体質児に係る相談について(ご依頼)

時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。
日頃は日頃は本市の各種公衆衛生事業にご理解・ご協力を賜り厚くお礼申し上げます。
神戸市では神戸市では各区保健福祉部において、平成8年度より1歳6ヶ月児、3歳児健康診査の際に、フッ化物塗布を実施していますが、今年度(平成18年4月)から、フッ化物塗布で使用する製品を従来の『フロアーゲル』から『フルオール・ゼリー』に変更したところです。
フッ素そのものについては、アレルギーの原因にならないといわれていますが、フルオール・ゼリーには保存料、香料などの添加物が含まれております。
今後、健診受診者への案内文に、「アレルギー体質でご心配の方は、小児科等の主治医と相談のうえ、お申し込みください。」という内容を追加させていただく予定にしております。
つきましては、保護者から相談があった場合はよろしくお願いします。
なお、『フルオール・ゼリー』成分の詳細につきましては、別添資料をご覧ください。

だからどうしろと言うのでしょうか。別添資料には添加物などの成分表や、フルオール・ゼリーの効能書きがありますが、それだけでどうやってその子供がショックを起すか起さないかの診断を下せると言うのでしょうか。こういうものは最低限の情報として、どれぐらいの頻度で起こるかとか、強いて見分けるならどんな検査法があるかとかぐらいはないと事実上なにも出来ません。

また相談、相談と気軽く書かれていますが、うっかり「大丈夫」と言って、ショックでも起されたら責任問題はどこに行くというのでしょうか。今時の事ですから、「それはご不幸なことで」ぐらいで済むとでも考えているのならお目出度い限りで、当然巨額の賠償訴訟が待ち受けています。素直に読めば責任は相談を受けた医者の責任になるとしか読みようがありません。

もし相談を受けたら「原因不明のショックが起こる可能性はあり、お子様に起こらないとは保障できません。頻度も不明ですし、検査法もありません。危険性を自己責任で負われてフッ素塗布をされるのはご自由ですが、医者としては結果にはなんの責任も負えません。強いて言えば、塗布しなければ最低限ショックは起こらないのは保障します。」ぐらいがもっとも適切な回答と言う事になります。私はそうしようと思いますし、防衛医療のそしりを受けても、情報不足で責任だけを振られても医者は神でも予言者でもありません。

そもそもこの通達を読めば、薬剤変更が原因らしいと書いているのですから、ショック回避をしたいのならまず薬品を元に戻すと言う選択を考慮しないのが不思議です。従来の製品ならば「絶対」安全なのかどうかは知りませんが、通達文中に薬品を変更して云々とあれほどしつこく書くぐらいなら、まず使用薬品の再検討を行なうのが筋でしょう。

また従来品でも他の製品でも「絶対」は保証できませんから、そうなればする事は一つです。フッ素塗布希望者全員に危険性や有用性を懇切丁寧に時間をかけて説明し、十分な理解と同意を得た上に、同意書に署名捺印をしてもらってからフッ素塗布をやるべしです。是非しっかり説明と同意をやってください。この説明と同意と言う代物は、いくら一生懸命になって行ない、署名捺印をしてもらっても、後で被害者が「よくわからなかった」と一言いえば、訴訟では非常に扱いの軽くなる代物ですから、そう言わせない様に、十分心して行なわなければならない事ぐらいはアドバイスしておきます。

それにしてもこんな通達一つで「これで保健所の責任は無くなった」と笑っている役人の顔を思い浮かべると無性に腹が立ちます。