救急病院の機能分化案

厚生労働省は従来の救急病院の体制を見直す事にしたようです。従来の救急病院は設備条件だけで、小さな病院でも申告すれば取得可能な資格でした。それを機能別に再編しようと言う案です。厚生労働省の原案を引用します。

厚労省の検討案では、救急病院を、生死にかかわる重い患者を対象とする「救命救急センター」、入院が必要な急患を対象とする「入院機能がある救急医療機関」、軽い患者を診る「初期救急医療担当」に区分。3年の更新制にする。「救命救急センター」と「入院救急医療機関」は、搬送患者をすべて受け入れることとし、「年間365人以上を受け入れる能力と実績」といった数値基準を盛り込むことなどを検討している。

また救急医療に携わる医師の労働条件も厳しいため、「救命救急センター」は、夜間休日の交代勤務の導入を明記する。

最後に書かれている夜間休日の交代勤務の導入を明記するには笑ってしまいます。ここまで書いているから分かると思いますが、夜間休日の交代勤務は現状では無いと思っていただいたらよいと思います。ついでに言えば夜間休日を働いても翌日の通常勤務はごく当たり前にあるという事も、医者の世界では常識です。

それよりも検討案ですが、「救命救急センター」、「入院機能のある救急医療機関」、「初期救急医療担当」に救急病院を3分類するとの事です。べつに斬新な提案ではなく、救急の基本概念である一次救急、二次救急、三次救急を言葉を変えているだけのものです。これを従来はごちゃ混ぜであったのを、明確に病院毎に機能分類してしまおうと言う案だと思います。

趣旨は結構だとは思います。そうあるのが救急医療の理想であるからです。ただし現実はどうかというのが難しいところです。こういうものは全国一律に整備されてしかるべし物ですから、まず「救急救命センター」に相応しい施設がどれほど日本にあるかです。大都市圏ではあるでしょう。ところが地方に行けば行くほど乏しくなります。いわゆる中都市以下の市民病院クラスでもせいぜい「入院機能のある救急病院」レベルが精一杯で、これを無理やり「救急救命センター」に格上げしたら、今度は「入院機能のある救急病院」が乏しくなるのが実態です。

どうしても無いところには新設や設備拡充が必要になるのでしょうが、そのための予算措置の財布は誰が受け持ってくれるのでしょうか。言いだしっぺの厚生労働省が大々的に予算を投じて全国規模での整備に乗り出してくれるのでしょうか。そんな気が厚生労働省にあるのなら、成人の救急だけではなく、小児救急だってもっと速やかに問題は解消に向かっているはずです。厚生労働省は案だけ作って、後は各自治体に丸投げがこれまでの常套手段です。

何年かしてこの案どおりに物事が進まない時には、「厚生労働省の指示があるにもかかわらず整備が進んでいないのは問題」とかなんとか開き直るのが今までのパターンですが、今回ははたしてどうなる事やら。

成人の救急も小児救急もそうなんですが、これを整備充実することには誰もが総論では賛成です。ところが理想どおりに運用しようと思ったら莫大な予算が必要です。現行の医療制度では逆さに振っても黒字は出ないからです。また公立病院も独立採算を強く求められるのが実情ですから、赤字垂れ流し部分の拡充に熱心になれないのは当たり前です。私立病院ではなおさらです。地方自治体も黒字で予算の使い道に困るなんてところは、はたしてあるかどかも疑問で、新規の赤字垂れ流し事業に積極的に乗り出すのは出来るだけ控えたいのが本音です。

厚生労働省原案の実現のためには確実な予算措置の裏づけが必要です。救急をやれば儲かる、新設施設を作っても確実にペイできる予算措置です。その裏づけなしで、机上の理想論だけを指示しても誰も踊ってくれません。医療も一皮向けば産業であり商売です。医療と言う特性からその本音をむき出しにしにくいところがありますが、最後の最後は算盤勘定になります。建前上は反論できない理想論を振りかざせば表向きは誰も表立っては反対しませんが、そのかわり誰も動きません。

どうにもこうにも医療の弱点部分の解消には精神論しか出てこないようですね。