高齢者医療

小児科医にとってもっとも関係も関心も無い医療分野なんですが、今日はどう探してもネタが無いのでこれで。

この問題の出発点は、そもそもかつて無料にしたのが良くなかった気がします。安いのは良いですが無料はまずかったんじゃないでしょうか。無料になったおかげで患者さんは何の気兼ねも無く受診できる代わりに、日課のように病院に通う「暇つぶし」の場ともなった時期があります。落語の枕に「今日はあの人は風邪だから病院に来ない」なんてのが受けた時代でさえありました。

一方で医療者は無料であるがために「医は算術」に勤しむ事になります。どんな検査や治療をしても患者さんは無料なので、過剰検査や過剰治療をしてもどこからも苦情は出ません。かつてはそういうものをすればするほど利益が上がったのですから、まるで錬金術のように収益を上げることが可能でした。文字通り「濡れ手に粟」状態です。

どれほどの収益だったかは手許に資料はありませんが、亡父の言葉が記憶に残っています。亡父も私と同様に小児科医であり、また内科を診察するのに不熱心だった開業医ですが、さすがに晩年は少子化と近所の住人の高齢化のため内科もやってました。やった感想がありまして、「小児科の1/3も診察すれば十分収益が上がる」です。

つまり神業のように子供を1日150人診察するのと、成人をゆっくり40〜50人診察するのなら、内科の方が儲かると言うものです。その経験からか私の医学部在学中は「小児科はするな、内科の方が良い」とかなり言われた記憶があります。両方やった亡父の実感だったのでしょう。

私が医者になってからも高齢化は加速をつけて進んでいます。少子化で対象患者数が年々先細りになる小児科とは対照的に高齢者医療分野は肥大を続けています。その肥大振りにかつての大盤振舞のツケが確実に回ってきているようです。もう10年以上どころでないぐらい高齢者医療に対する削減策は続いています。まだ十分ではないとの意見からさらに今回は厳しい抑制削減策が施されようとしています。

これを小児科サイドから見れば「それでも小児科よりラクだよ」との声があります。甘く言ってやっと内科も小児科並みの収益に収まってきたぐらいにしか見えません。小児科も近年の少子化対策の流れから幾分収益が改善していますが、改善した小児科と削減されて悲鳴が上がっている内科が、やっと同じぐらいに近づいていると言う点から亡父の時代の小児科の収益性の低さがわかります。

美味しい時代をたらふく経験した内科の先生には厳冬の時代であるかもしれませんが、氷河期しか知らない小児科医にとっては「やっと並に近づいたのかもしれない」と感じる程度の変化です。それでも医療費大幅削減の時代は当分続くでしょうから、また氷河期に戻るのも時間の問題かもしれません。

亡父の忠告にそむいた不肖の息子への報いなのかもしれませんね。それにしても損得勘定ではどこまでも美味しくないのが小児科だと痛感しています。