ツーリング日和10(第28話)小樽

 やっぱり北海道は広いよ。神威岬から小樽まで加藤さんの取材もあったとはいえ、二時間だよ。着いたのはフェリーターミナル。来てるかな。

「あれちゃうか」

 あちゃ、あんなに来なくても良いのに。なんだと思われるじゃない。加藤さんがわたしたちに頼んだのはバイクなんだよ。今夜のフェリーで帰るのだけど、出航が二三時三〇分なんだよね。

 二十二時三〇分ぐらいから乗り込みが始まるけど、その時に飲んでたらバイクに困るじゃない。飲酒運転は厳禁だからね。でもさぁ、北海道の最後の夜は飲みたいじゃない。そうなると誰かに頼んでフェリーに積み込んでもらう必要があるのよね。

 そんなことは普通は出来ないから加藤さんが頭を下げて頼んだって訳。こういう無理やりの融通はツーリングでは避けてるのだけど、避けたら酒無しの夕食になっちゃうのよね。それはそれで耐えがたいもの。

「たしかにお預かりしました。どうか小樽の夜をお楽しみください」
「無理言うて悪いな。バイクをこかさんといてな。加藤さんのはもちろんやけど、うちらのは特注品みたいなもんやから気を付けてな」

 だいじょうぶかな。これ乗りこなすのが難しいのよね。なんとか挨拶と受け渡しを終えたから小樽の夜にGOだ。そうここは小樽、小樽と言えば、

「ジンギスカンや」

 ちょっと待ってよお寿司でしょうが。

「寿司は北見で食べた」

 回るやつ。

「北海道に来とるのにジンギスカンを食べてへんのは許されへんこっちゃ」

 確かに食べてないか。

「すんまへん。どうしても絵に欲しいんですわ」

 それはわかる。内地から見ると絶対欲しい絵だものね。小樽のおすすめとかあるの。

「ちょっとディープでっけど」

 なになにおたる屋台村ってあるのか。そういうとこはツーリング動画に合いそうよね。おたる屋台村にはレンガ横丁とろまん横丁があって、

「レンガ横丁にあるジンギスカンが小樽で最高やと思うとりま」

 八席ぐらいの小さな店みたいだけどだいじょうぶかな。

「そこはなんとかします」

 なんだ旧知の店か。でも楽しみ。タクシーを拾って十分もしないうちに到着。ここはアーケードもある商店街だよね。サンモール一番街ってなってるけど、これは道も広いな。三宮センター街ぐらいはありそう。お目当てのレンガ横丁はここか。なんかの店が潰れて取り壊された跡地の有効利用に見えるな。なるほど中に屋台というより、

「現代風のバラックみたいやな」

 冬も営業するだろうから博多の屋台みたいにはいかないよね。バラックと言っても良いけど家庭用の物置の大きいやつの気もする。へぇ、ここがジンギスカンの店か。カウンターだけど、

「カトちゃん御無沙汰じゃないですか。どこで浮気してたのやら」
「浮気なんかしとらん」
「見ただけで浮気じゃないですか」

 ラムのジンギスカンだけど加藤さんが手際よくセッテイングしてくれて、

『カンパ~イ』

 サッポロビールの北海道限定なのね。いや美味しい、美味しい。

「こんなもんじゃ足りんやろ」

 まあそうだけど。次に行ったのは立ち飲みの鶏料理で良いのかな。小樽地鶏って名物なんだろうか。ここは小樽ビールだけど、こりゃ美味しいよ。胸肉なのになんて歯応え。旨味もばっちり。こっちは小樽地鶏の卵焼きも濃厚じゃない。

「次はろまん横丁や」

 こっちはビルの一階スペースを区切ったもので良さそうだ。ここは串カツ屋か。串カツだけどネタが違うよ。北海道の串カツだ。ビールがたまんない。全部揚げてね、食べ残したらもったいないじゃない。

 次はどこだ。やったぁ、小樽の寿司屋だ。小樽に来て寿司を食わないのは許されないもの。九貫セットって何の冗談なの。イカ、タコ、トビッコ、甘エビ、サーモン、ホタテ、サバ。ホッキにズワイガニにイクラにマグロ・・・ツブ貝、シャコ、海水ウニにアワビに特大ボタンエビだ。たんまり食べて、

「〆はお茶漬け」

 へぇ、ダシ茶漬け屋さんとは珍しい。これもなかなかあっさりして行けるじゃない。食べた、飲んだ、満足した。これぞ北海道だ。

「そろそろ行こか」

 わたしは無限の時を食い続ける女。

「時間食うだけやったらエンゲル係数下がるで」

 あれっ、どっか間違ったぞ。まあイイか。まだ宵の口なのにフェリーの時間が恨めしい。せめてラーメンぐらい。あれっ、加藤さんが苦しそう。

「よく食べるんは知っとりましたが、桁違いでんな」

 なに言ってるのよ、これでも腹八分にしてるんだから。男なのに情けない。時間があれば全店制覇してやるのに。わたしは無限に食える女。

「ブラックホールか」

 コトリだって食べてるじゃない。でもおもしろいところだった。

「そやな。腰を据えて飲み食いすると言うより、ハシゴするのが楽しみのとこやな」

 食べ歩き、飲み歩きが絶対に楽しいと思うし、お店の人もそうするのを前提にしてるものね。

「そやった。隣から出前まであったもんな」

 聞くと入れ替わりも結構あるみたい。

「入れ替わるっちゅうことは、次が待っとることやんか。そういうとこはレベルが上がるで」

 だよね。美味しかったし、財布にも優しい気がする。

「ユッキーみたいにアホみたいに食わんかったらな」

 だからコトリもでしょうが。フェリーに乗り込んで。風呂だけは行っておこう。今日のツーリングの汗と垢は落としとかないとね。加藤さんはもう寝るって言ってたから、コトリと酒盛りの延長戦。

「北海道の道は大型が似合うな」

 それはわたしも思った。小型でもツーリングしてる人はいたし、それはそれでも楽しいだろうけど、

「あの風景に映えるのは大型やもんな」

 あれだけ左右が開けた道は内地で見るのは容易じゃないもの。ガードレールさえ少ないから、開放感がたまらないのよね。あの道なら大型で走ってみたいと思っちゃったもの。

「内地に戻ったらトラウマになりそうや」

 わたしもよ。北海道と較べたら内地の道なんてツイスティなワインディング・ロードばっかりだもの。あの地平線まで続く直線は夢にきっと出て来るよ。

「内地であんな道は阿蘇でも無理や」

 阿蘇は阿蘇で魅力は違うのだけど、北の聖地の魅力に中毒になりそうな気がする。実際にも多いらしいものね。

「らしいな。東京からかって北海道は遠いけど、毎年のように来るのはおるそうやもんな」

 また来ようね。

「十一泊やぞ」

 それがネックだ。それも船中二泊で、明日が舞鶴泊だもの。

「ほいでも、それだけの価値と魅力があるのはわかってもたな」

 その通り。でも大型で良いのなら、

「その手はあるけど、また考えとこ」

 さて寝るか。どうせ明日はフェリーで過ごすだけで、下りたらビジホ泊り。後は内地の道を堪能しながら神戸に帰るだけ。旅には終わりが来るのは仕方がないけど、この終わってしまうって時間は物寂しいな。

「あははは、誰でもそうや。そやけどな、旅の終りは、新たな旅の始まりとも言えるで」

 コトリにしては言うじゃない。そう言えばブラジル出張が・・・寝るなコトリ、知らん顔するな。

ツーリング日和10(第27話)道央ツーリング

 道東と道央の境目は襟裳岬。行政区画的にはサンタタウンの広尾町が道東で、えりも町に入ると道央。ちなみに道北と道東の境目は浜頓別町の次の枝幸町までが道北で、その次から道東になる。

「オロロンラインやったら厚田までは道央で、そこから北が道北ぐらいでエエやろ」

 道東と道央のもう一つの境が大雪山かな。今日は道央観光だけど中心は札幌、小樽に加えて旭川とか富良野がメジャーかな。でもそっちはさすがにパス。道東には摩周湖、屈斜路湖、阿寒湖って有名な湖があるけど、

「道央には支笏湖、洞爺湖がある」

 ツーリングで市街地走行目指したくないから、こっちを目指す。

「苫小牧から支笏湖って近いんやな」

 しょせんは関西人だからそんなものだけど、苫小牧から四十キロぐらいなんだよね。これは北海道感覚じゃなく関西人感覚でも近いはず。

「行きまっせ」

 今日も加藤さんが先導だからラクチン。

「コトリやったらシンドイんか」

 そういう意味だけど。支笏湖は周囲四十キロの日本で八番目の湖なんだけど、深さはなんと三百六十メートルもあり、田沢湖に次いで二番目。貯水量も二番目で琵琶湖の七十五%もあるんだよ。

「それだけやないで。透明度は摩周湖やバイカル湖に匹敵して、日本最北の不凍湖や」

 水質の良さは支笏ブルーと称えられるんだって。ここの取材はどうするの。

「湖畔の道を走り抜けまっさ」

 加藤さんに言わせれば日本でも屈指のレイクサイドロードらしい。というのも、普通は道路と湖の間に林があるものだけど、これが綺麗さっぱりないのよね。休憩がてらの加藤さんの写真撮影に付き合って、

「洞爺湖に向かいまっせ」

 美笛峠を越えて行くのだけど、道は良いのだけどこれまた五十キロあるんだよね。支笏湖、洞爺湖と言えば一体に思っちゃうけど、ここまでで苫小牧から百キロなんだよ。着いたのは昭和新山駐車場。

 昭和新山が出来たのは昭和十八年のこと。当時はあんまり話題にならなかったのは第二次大戦中だからで良いと思う。だけどまさに自然の驚異で、山があったところは東九万坪と呼ばれた畑作地帯。そこに四百メートルもの火山が突然出来上がちゃったんだよね。

「今やったら連日ワイドショーで大騒ぎや」

 昭和新山は立ち入り禁止だから、

「有珠山から見ますわ」

 有珠山もまた活火山。昭和新山も有珠山の噴火の一つになるらしい。実はって話じゃないけど、コトリもわたしも有珠山に来たことあるのよね。

「全然変わってもたけど」

 一九七七年から一九七八年の大噴火であの頃とは一変してるんだもの。そうこれから乗るロープーウェイも昔に乗ったものとは別物。でも窓が大きくて見晴らしの良いゴンドラだ。六分ほどで山頂に着き、USUテラスから眺望を。昭和新山が良く見えるけど、

「かなり木が生えたな」

 そうなのよ、わたしが覚えてる昭和新山は全部禿山だったけど、中腹以上にも森が出来てるもの。有珠山の展望台には行かないの?

「往復三時間でっからパスしまっさ」

 それならしょうがない。遊覧船は、

「洞爺湖も支笏湖もイマイチで」

 イマイチか・・・でもわたしは乗って中島まで行ったのよね。妙に楽しかった印象があるけど、子どもだったし、あの頃と同じかどうかはわからないよね。

「島やったか、そうやなかったか記憶に怪しいけど、ツブ貝食べたな。あれもサザエにしたら小さいと思とってんけど、そもそも別の貝やと知ったんはいつやったやろ」

 テラスからは羊蹄山まで見えるんだ。そこからサイロ展望台に移動。こんなところに展望台があったっけ、

「コトリも記憶にあらへんわ」

 ここからはヘリ遊覧も出来るみたいだけど、ツーリング動画には向いてないかもね。それでも洞爺湖の景色は昔と同じだったと思う。

「ミサキちゃんとシノブちゃんへのお土産に気合入れへんと」

 そうだそうだ。サイロ展望台はお土産屋さんも充実してるから、賄賂はしっかり渡さなきゃ。ここからどうするかだけど、

「お昼も取材なんで」

 三十分ほどでニセコに。羊蹄山がまじかに見えて迫力あるよ。加藤さんに連れて来られたのが・・・これって移動販売だよね。

「ピタパンサンドが話題でんねん」

 ツーリングで立ち寄って食べるのにオシャレなのか。それにしてもピタパンとは日本では珍しいのじゃない。真ん中が空洞でポケット状になってるから、そこに詰め物をするとサンドになると思うけど、ここはミートソースが基本で、

「コトリはピキニニミート」
「わたしはナチュラルチーズミート」

 オープンカフェみたいになっていて楽しいな。

「スパイシーカレーミートも」
「八丁味噌ガーリックミート食べたろ」

 デザートもあったからシフォンケーキと生ガトーショコラも頂いて、

「なんかリゾート地に来た感じせえへんか」

 つうかニセコはリゾート地だと思うよ。コトリとわたしで四種類食べたけど、

「助かりますわ。杉田が帰ってもたから、食レポどうしよかと思てましてん」

 それなら二人がかりで、

「あ~ん」

 お昼も堪能したから、

「ニセコパノラマラインを下りまっせ」

 北海道では指折りのワインディングロードの一つみたいだけど、

「内地とはワインディングロードの感覚がかなりちゃうな」

 途中のドライブインで休憩かと思えば、

「ここも取材ですわ」

 ドライブインというかレストハウスだろうな。そこから伸びる遊歩道にある神仙沼に行きたいとのこと。木道もちゃんと整備してあるところだけど、寄るほどの価値は・・・ある。

「なるほど神や仙人が住みそうなとこや」

 わたしは見るのは良いけど、住むのは嫌だよ。

「コトリもや」

 三十分ほどで見終えたら、

「積丹半島に行きます」

 岩別から一時間程で見えて来たのが神威岬だ! 岬にある駐車場から続くのがチャレンカの道。これは義経伝説に因むもので、衣川の襲撃を生き延びた義経は蝦夷地に逃れ、

「ジンギスカンになった」

 それは高木彬光でしょうが。伝説ではアイヌの首長の娘であるチャレンカと恋仲になったものの、野望を捨てきれない義経はさらに北に向かい、ついには大陸に渡ったとなってるの。

「ほらみろジンギスカンや」

 義経がモンゴル語を話せるわけないじゃないの。背格好も違うし、ジンギスカンの親兄弟だって記録ではっきりしてるんだから。たく話の腰を折りやがって。どこまで話したっけ、北に上がった義経を追っかけたチャレンカだけど、ついに義経に捨てられた事を悟り、この岬で身投げしたとなってるんだよ。この時に、

『婦女を載せた船がここを過ぐれば覆没せん』

 こう叫んだから神威岬一帯は女人禁制になり、今でもチャレンカの道の入り口には女人禁制の札が出てるんだよ。今はそうじゃなから行けるけどね。風が強いところだけど、今まで見た岬の中で一番最果て感があるかもしれない。

「ここまで来れる岬が珍しいで」

 岬の先まで行っても、その先にはまだ岩礁が並び、

「あれが神威岩やな」

 まさに三百度の大眺望。水平線が丸く見えるもの。ここからチャレンカが身を投じたのか。

「海がシャコタンブルーや」

 綺麗なのよ。

「ここも何回も来てまっけど、これだけ天気に恵まれたのは初めてですわ」

 とにかく風が強いところで、チャレンカの道は良く通行止めになるそうなのよ。さてこれからどうするのかな。

「そんなもんジンギスカンや」

 コトリしつこいよ。神威岬からなら余市もあるけど、

「アルコールの入るところはパスにしてまっさ」

 ツーリング動画だものね。そしたら加藤さんが悪戯っぽい顔をして、

「エレギオンHDの社長、副社長にお願いがあります」

 そういうことか。コトリ良いよね。

「ミサキちゃんに頼んでみるわ」

 でも加藤さんのお願いを叶えないと、

「そや、待ち時間がどうしようもあらへんようになる」

 ちゃっかりしてるよ。

ツーリング日和10(第26話)ステディ杉田

「まずやけど杉田さんはレースに来るし、六花にはまず勝てん」

 そう言ってたけど。

「あそこまで未練タラタラやねんで、来んわけないやろ。レースやって負けたらまた一緒になれる条件を受けんはずないやろが」

 それはそうだけど、だったらわざと負けたの。

「いやレースはガチやった。杉田さんは必勝の戦術で挑んどったからな。あれこそステディ杉田の真骨頂やろ」

 そんなことコトリも言ってたのよね。わざと六花の後ろに付いて、六花のマシンを消耗させ、六花のクセを見抜いて最後に追い越す戦術だって。でも追い越せなかった。

「杉田さんが勝てるチャンスは一つだけや。それは六花がミスを起こすこと。最後までミスをせんかったから六花が勝ったんや。あれがステディ杉田の限界、レーサーと言うか勝負師としての杉田さんの限界や」

 コトリが言うには杉田さんが六花を抜くには、六花が踏み入れていたヤバイ領域のさらに上に踏み込まないと無理だって。

「そこには踏み込まんのがステディ杉田や。イチかバチかの優勝を狙うのやのうて、確実に二位のポイントをゲットするねん。シリーズ・トータルで見たら上位に来るからステディやけど、一発勝負には弱い。そやからファクトリーも伸び代があらへんと見て契約せんかってんや」

 加えて、本家のステディ・エディーに較べたらステディのレベルが低すぎるんだって。

「全日本クラスのステディが世界に通用するか! そやから殿崎が採用されたんや。ファクトリーの判断は正しいと思うわ。十勝みたいな一発勝負でも杉田さんはステディからよう踏み出せんかったからな」

 あのレースはそう見るのか。

「そやから言うたやんか。短小包茎のインポ野郎って」

 いや短小包茎とは言ってたけどインポ野郎はなかったよ。でもそこまで酷評しなくとも、

「杉田さんには根本的なとこで自信の裏付けがあらへんねん。土壇場になると半歩引いてまうねんよ。そこでの小成を良しとしてまう感じや。そやからステディ杉田の短小包茎インポ野郎や」

 でもさぁ、でもさぁ、そこで博打を打てる人の方が少ないと思うよ。

「そうや、サラリーマンとか公務員員やったらそれで十分やねん。そやけどやってるのはモトブロガーやで。ビビッて仕事しとったら、すぐに落ちぶれるわ」

 そういうことか。人気商売は人気がある者がすべて攫っていく世界。だから成功者は巨額の報酬を手にする事が出来る。逆に人気が出なければ消え去るしかなくなる。さらに大変なのは人気を維持すること。

 人気を維持するのに必要なのは攻める姿勢だよね。守りに入って人気を維持できた人なんて見たことも聞いたこともないもの。

「それだけやない。人気商売は、その座を狙う新規参入が無尽蔵にあるねんよ。そういう連中は上の連中を叩き落とすためにガンガン攻めて来るわ。捨て身の特攻ぐらい平気でやらかしよる」

 ビジネスでも攻める姿勢は必要だけど、場合によっては守りに回ることもある。だけど人気商売に守りはなく、常に攻撃は最大の防御で突っ走り続けるしかないのか。言われてみればそうだけど、大変な商売だ。

「そやけど、そやけどや。杉田さんはモトブロガーの厳しい世界を勝ち抜いて来とるやないか。それもトップやのうてカリスマやで。それに慢心してへんのはエエとしても、なんであないに自信があらへんのや」

 コトリの言う自信って、

「カリスマ・モトブロガーとしての自信や。四耐プロジェクトを見てみいや。杉田さんが声かけただけで、あんだけのスタッフが集まってるんやで。どれだけの人気やと思うとるねんよ」

 昨日のパーティのスタッフの反応に驚かされたもの。杉田さんが四耐企画を中断しても脱落者はゼロだし、再び六花が加わり、鈴鹿の本番に再スタートすると聞いて泣いて喜んでたもの。それこそ抱き合って号泣してたのもいたものね。

「あれが杉田さんの人気や。人も羨むカリスマ・モトブロガーの真価や。なんでそう思わへんのや」

 それって、

「どっちが上やと思う?」

 えっと、えっと、こんなもの次元が違い過ぎて比べられないよ。

「意見が分かれるぐらいの地位やんか。それも差なんてあらへんぐらいのもんや。誰に恥じる必要があるねん。好きな女がおったら奪いに行かんかい。それが堂々と出来るのがカリスマやろが」

 なるほど。モトブロガーどころかユーチューバー界でもトップグループにいるのだから、杉田さんでも及ばないとなると誰も六花に手を出せなくなくなるのか。

「杉田さんはレーサーや。レーサーやから、六花の走りのメッセージの意味がわかるはずや。六花は杉田さんに認めてもらうために、捨て身の走りを見せつけたんや」

 そこまでして勝って、杉田さんの心をつかむためか。でもどうなんだろう。

「あの走りのメッセージがわからん短小包茎インポ野郎やったらゴミ箱に捨てたらエエ。コトリも旅の仲間とは思わん。勝手に小そうなって暮らしとけ」

 コトリは杉田さんを信じてるよ。信じてるからこそ帯広の豚丼屋からエレギオンHDの月夜野うさぎ社長になったんだよ。わたしもそういうところがあるけど、コトリも人の短すぎる一生に深く関わりたくない部分はあるのよね。

 いくら関わってもすぐに死んでいなくなるもの。それを繰り返し過ぎたものね。でもね、どこかで関わりたい思いも残ってる。残ってるから三十階の仲間だとか、ツーリングで出来た旅の仲間は大切にするのよ。

 コトリがこれだけ手間ヒマかけたのだから、必ず上手く行くはず。コトリが無駄な投資をするのなんか見たことないもの。

「当たり前や。とにかく死なへんねんから、食うための商売は重要や」

 食うための商売を維持するのが、神であるわたしたちの仕事みたいなもの。それはともかく杉田さんは四耐を走ってくれるよね。

「加藤さんが言う通り、杉田さんはスプリント・レースよりエンデュランスが合うてるわ。耐久レースは長いから攻める部分と守る部分は必要やんか」

 攻めっぱなしの走りを続けたらマシンが持たないよねぇ。

「そういうこっちゃ。二人でガンガン攻めまくったらタイヤがもたん。勝負に出る時と、力を溜める時期が必要なんが耐久レースや」

 そうみれば杉田さんと六花は良いコンビ。

「ああ、マシントラブルがあらへんかったら、エエとこ行きそうな気がするわ」

 だけどこればっかりは水物なのがレースなんだよね。とにかく初参加だから経験の蓄積がないもの。

「経験はこれから積めるやんか。サポートは今年だけやないで」

 あははは、言葉が間違ってるよ。宣伝は今年限りじゃないってことでしょ。

「そういうこっちゃ。こんな美味しい宣伝材料を手放すもんか」

 でもさぁ、でもさぁ、本業はこれぐらいにしようよ。

「いや、これぐらい商売しとかんとミサキちゃんが怖いやんか」

 それはある。ミサキちゃんもシノブちゃんも、笑って休みを認めてくれたけど、コトリと二人そろっての休みとなると負担は大きいものね。

「それもあるけど、ツーリングに行くたびにトラブル起こるし、その処理費用もバカにならん」

 トラブルと言うか出会いは楽しみだけど、費用かかるし、

「処理するのはミサキちゃんやもんな」

 だから頭が上がらなくなる。ガッチリ儲けさせてもらおう。

ツーリング日和10(第25話)苫小牧で焼肉

 ビジホから十五分ぐらい歩いて着いたのが焼肉屋。焼肉は嫌いじゃないけど、わざわざ北海道で食べなくとも、

「悪い悪い。昼は平取のステーキハウスにする予定やってんけど、食い損ねたから肉の気分が残ってもてん」

 コトリの策略か。でも美味しいよ。話題はどうしたって杉田さんの話に、

「杉田は運命を後ろ向きにとらえるとこがありまんねん」

 杉田さんのお父さんは町工場の工員だったそう。ただ下請けどころか孫請けでお給料は良くなく生活は厳しかったそう。

「杉田の親っさんは高校中退の中卒でんねん」

 中卒であるのを恥じる必要はないけど、中卒であるが故のハンデはこの世に確実にある。大卒だって学歴でマウント取ろうとするのはいくらでいるけど、

「まあな。高校は義務教育やないけど、行かへん奴のほうが珍しいからな」

 だから中卒で終わっていると言うのは、余程の理由があると思われちゃうのよね。それもかなりどころでないネガティブな理由しか考えないもの。

「それだけやない。中卒、高卒、大卒で出世や昇給で明らかにハンデはある」

 社会人は実力勝負だけど、現実として存在してるのは否定できないもの。それでも、杉田さんのお父さんが中卒なのは、ヤンチャしまくったのはあるで良さそう。

「あれは血でしゃっろ。暴走族の特攻隊長やったって話ですわ」

 だけど社会に出てみると学歴の大きさを痛感したんだろうな。学歴はすべてじゃないけど、社会人のスタートで、ある方が絶対に有利なのは嫌でも見えるもの。だからなのか、

「境遇から私立中学受験は無理やってんけど、授業料免除の上に給付型の奨学金がある四葉学院に進学したんですわ」

 四葉学院での内部カーストは六花の話で合っていると思う。そんな二人の馴れ初めは、

「一目逢ったその日から、恋が花咲くこともある、ガッチガチの両想いや」

 ありゃ、身も蓋もない。でもそれぐらい魅かれ合わないと、カップルになれなさそうな高校時代の二人の関係なのはわかる。綺麗に言えばロミオとジュリエットかな。でもお父さんの事故死からイジメがあって二人は別れたんだよね。

「直接の原因がそれやったんは間違いないんでっけど、それがなくとも杉田は別れる気やったみたいでんねん」

 どういうこと。高校時代の恋が結婚までゴールインすることは多いとは言えない。ポピュラーなのは進路が違って会えなくなりフェードアウトするパターン。大学で新しい恋人を作ってしまうのも良くある話だよ。

 でもさぁ、高校卒業までは続くだろうし、大学に進学しても続けようとはするはずじゃない。もっとも杉田さんと六花は高校時代に別れてるけど。

「とにかく杉田は真面目過ぎるんですわ」

 交際が深まった先に結婚があるぐらいは誰でも思い浮かぶけど、まだ高校生だよ。四葉学院ならほぼ百パーセント進学だから、結婚するにも早くて大学卒業後になるよ。つまりはゴールが結婚と意識しても、まだまだ先の話しか感じないはず。それなのに杉田さんは六花との結婚を真剣に考え過ぎていたのか。

「杉田が悩んでいたのは釣り合いです」

 やぱりそこか。杉田さんの家は父親の急死で片親。さらに家は貧しい。それに対して六花は白兎住建のお嬢様。この組み合わせはすんなりとは行きにくいだろうな。愛があってもすべてを乗り越えるにはハードルがかなり高いとしか言い様がない。

「まあそうですわ。悩みまくった挙句に・・・」

 なんだって。あのイジメ事件で六花が加担していたのは事実だけど、

「半分出来レースですわ。六花ちゃんが杉田のイジメに加担しないと、六花ちゃんがイジメられるのは杉田もよう知っとったんですわ・・・」

 安心して六花が杉田さんのイジメに加わったら、

「それを理由に別れよった」

 なんなのよそれ。裏切られたのは杉田さんじゃなくて六花じゃないの。杉田さんは六花との恋を不毛として縁を切ったと言うの。

「そう言うとりました。そやけど・・・」

 高校卒業後に有名大学から一流企業のエリートコースに杉田さんは進むのだけど、

「そうやって成り上がるために四葉学院に進学したと言えばそれまででっけど・・・」

 六花を迎えるに相応しい男になろうとしたのか。だけど杉田さんはドロップアウトしちゃったのよね。

「わてが初めて会うたのはモトブロガーをやり始めてからでっけど・・・」

 モトブロガーとしての杉田さんは、苦労もあったみたいだけどまずは順調として良いと思う。今はカリスマだけど、阿蘇で会った時でも余裕で有名モトブロガーだったもの。

「わてもそう思いま。そやけど杉田は、モトブロガーであるのに強烈なコンプレックスがあるんですわ」

 それって、

「そうやと思いま。しがないモトブロガーでは六花ちゃんの相手に相応しくないでっしゃろ。それはそれで構いまへんねん。六花ちゃんがアカンかったら他の相手を探せば良いだけでんがな」

 好きな相手との恋は実を結ばない事の方が多いものね。一番多いのはこっちが好きでも、相手がそうでないケース。交際まで行っても性格が合わないのはあるし、性格が合わないのは結婚してからもある。

「そこから浮気に走るケースなんか数えきれんぐらいあるで」

 離婚までは置いとくとして、恋に破れたら、そのうち次の相手を探すものよ。そりゃ、熱中している間は、

『この人しかいない』

 こう思い込むけど、失恋して醒めたら次の恋に目が向くのが人間だもの。でも杉田さんは、

「六花ちゃん以外はホンマに受け付けまへんねん」

 もう十年以上前に別れた相手なのに、

「あそこまで行けば未練やおまへんやろ。あんなん初めて見ましたわ」

 だったら、だったら、

「篠原アオイとして六花ちゃんが現れた時の杉田の顔が見ものでしたわ。開いた口が塞がらんって良く言いますけど、まさのそのままでしたわ」

 その時に杉田さんはアオイが六花と気づいていたんだよね。

「そこら辺が微妙というか、杉田のアホンダラが・・・」

 加藤さんの見るところ、杉田さんはアオイが六花であることに気づきながら、六花でなくアオイと思いこもうとしていたって言うのよね。だから、

「わてもああなるとは思いもしまへんでした」

 六花が現れてから四耐参戦のスタンスがガラッと変わり、変わったがために必要資金がウナギ登りに増えて行ったのは事実。それを知った六花が篠原アオイしてではなく佐野六花として、いや白兎住建の関係者としてスポンサーを買って出たのか。

「杉田がスポンサーとのコラボを嫌うのは知ってましたけど、六花ちゃんからでんがな。すんなり杉田は受けるとしか思いまへんやんか。そやのに、そやのに・・・」

 アオイが六花だと名乗った瞬間に、杉田さんは激怒して六花をチームから追い出したのか。なんでだろ、

「自分へのコンプレックスが噴き出したんやと思うてま。レーサーとしての篠原アオイのままなら受け入れられても、白兎建設の佐野六花になると拒否してもたんでっしゃろ」

 コトリはいつの間にこの話を知ったのよ・・・聞くだけ野暮ね。コトリなら納沙布岬の時点で気づいて情報を集めだしていたはず。そうでなくっちゃ、十勝であのレースをするのは不可能だもの。でもあのレースの意味は、

「ユッキー、ちいとは真面目にやってや」

ツーリング日和10(第24話)優駿ロード

 浦河町のかつめし屋から北に上がって道道一〇二五号を東に。いきなりあったよお馬さんがいる牧場。日本の競走馬は年間七千五百頭ぐらい生まれるのだけど、そのうち八割が日高地方だから六千頭。その六千頭の内の千八百頭が浦河町だって。

「あのシンザンが生まれたとこや」

 シンザンは日本で二頭目の三冠馬で、さらに天皇賞、有馬記念も勝ったから史上初の五冠馬なんだ。とにかく取れるだけの重賞はすべて取った名馬で、

「名馬を越えて神馬とも呼ばれとる」

 十九戦で十五勝だけど、負けたレースもすべて二位で、この十九連続連対は今でもレコードで、生涯の全レースが連対なのは驚異的な記録になる。

「二位がビワハヤヒデの十五連続やからな」

 競馬はやったことないけど、それでもシンザンの名前は聞いたことがあるぐらい。

「競走馬としての成績もずば抜けてるけど、種牡馬としても優秀で、内国産の競走馬の育成の扉を開いたとまで言われとる」

 競走馬の育成でも日本は後れを取っていて、輸入馬頼りのとこがあったんよね。それがシンザンの子が活躍してくれて、日本で生まれた牡馬の子どもでも通用する始まりになったぐらいらしい。

 とにかく凄まじいレース成績を残したから、その後の競馬界はシンザンを越える馬を産み出すのに懸命になったのは事実なんだよ。これについてはシンボリルドルフが登場してシンザンを越えたともされてるけど、

「越えたと思うけど、すでに神格化されとるから永遠に越える馬は出んやろ。千代の富士と白鵬の優劣を語るようなもんや」

 浦河町のお隣が新ひだか町。町名を見ただけでわかる合併自治体。もうちょっと味わいのあるネーミングが出来ないのかな。ここも名馬が産出されてる。

「一番有名なのは帝王シンボリルドルフで、次がオグリキャップになるやろうけど、コトリが一番印象深いのはトウショウボーイや」

 トウショウボーイはわたしでも知っている。あの悲劇の名馬テンポイントの永遠のライバルだ。トウショウボーイも天馬とまで言われた名馬で、

「最後の有馬記念のマッチレースを越えるのは未だにあらへん」

 最初から最後までトウショウボーイとテンポイントがトップを競り合い、ここまでずっとトウショウボーイの後塵を拝させられていたテンポイントが、ついに勝った伝説のレースだよ。

「そして日経新春杯の悲劇」

 宿敵トウショウボーイに勝ったテンポイントは海外遠征を予定していたのだけど、壮行レースとされた日経新春杯で骨折し殺処分になっちゃったのよね。だからテンポイントの子孫はいないことになる。

「トウショウボーイの産駒が、日本で三頭目の三冠馬のミスターシービーや」

 さて新冠町だけど、ここの産駒と言えば、

「怪物ハイセイコーが忘れられん。もちろん三冠馬トウカイテイオー、ミホノブルボンも忘れたらあかんけどな」

 ハイセイコーは当時の人間なら子どもさえ名前を知っているアイドル・ホース的な存在。残した成績はパッとしないけど、競馬界に残した功績は計り知れないとまでされてるぐらい。

 競馬は公営であってもギャンブルで。日本語で言うと博打になってイメージは良くないのよね。イギリスみたいに王室の持ち馬が出場したり、上流社会人の交際場みたいなものはなかったとしても良いぐらい。

 だけど爆発的な人気を博したハイセイコーの活躍により、競馬が市民権を獲得したとしても良いと思う。後の競馬界の隆成はハイセイコーの活躍なくして語れないもの。

「ちなみにハイセイコーの天敵のタケホープは浦河町で生まれとる」

 今走っている道の左右に広がる牧場で、日本の代表的な競走馬が生まれたんだよね。

「ああ、こうやって見えてる馬の中に次の時代のスターがおるはずや」

 優駿の記憶も世代で変わる。どの馬が一番かの議論はいつでもあるけど、どの馬だってその時代を象徴した名馬で較べられるものじゃない。

「一番比較しやすいのは重賞の獲得数で、それやったら七冠のシンボリルドルフになるけど、これかってシンザンの時代は五冠しかあらへんかったもんな」

 加えて競馬界に限らず一番盛り上がるのは無敵の帝王が君臨する時代よりも、ライバルが鎬を削る時代なのよ。だけどそういう時代の名馬は通算成績で見劣りすることになる。だってライバルとは勝ったり負けたりするもの。

「ライバル時代は滅多なことで成立せん。相撲かって栃若時代と輪湖時代ぐらいしかあらへん。柏鵬を時代とするには無理がテンコモリや」

 時代を制する才能が複数出現する事は難しいのよね。最初のうちはライバルとされても、すぐに優劣がはっきりしてくる。つまりライバルに勝てなくなり二番手以下に甘んじるしかなくなっちゃうのよ。

「将棋なんかすぐにそうなるもんな」

 それとライバル対決とドングリの背比べは違うのよ。競馬界では戦国時代とされる年の方がむしろ多い気がする。どの馬が勝つかわからないから馬券的には面白いだろうけど、記録はもちろんだけど記憶にさえ薄い年になってしまうのよね。

「そやから曲がりなりにも三強を形成したTTG時代を最高とするのが今でもいるんよな」

 TTGとはトウショウーボーイ、テンポイントに加えてグリーングラスを加えて三強としたもの。でもあの時代は、

「そやから曲りなりって言うてるやろ。ホンマはトウショーボーイの時代やった。最後の有馬記念に勝っとったら間違いなくそうやった。それでも勝ったのがテンポイントやから伝説になったんや」

 グリーングラスも強かったのよ。

「そりゃ、緑の刺客や。トウショーボーイやテンポイントがおらへんかったらグリーングラスの時代になっとってもおかしくあらへん」

 主役になれたかどうかはわからないけど、史上最強の名脇役かもしれない。

「ちいとだけTTG時代の解説付けといたら、前後の年が結果として不作やったんもある。怪我もあったからな」

 前後にもスターホースはいたのよ。テスコガビーとかカブラヤオーとかね。

「マルゼンスキーが出とったら様相がまったく変わってたはずや」

 でも出られなかった。神は時にこういう悪戯をすると思うぐらいよ。加藤さんが目指した桜舞馬公園は、名馬たちのメモリアルパークとして良いと思う。

「テスコボーイの銅像があるやんか」

 テスコボーイはイギリスの競走馬。引退後はアイルランドの種牡馬となり、さらに日本に輸入されている。どうして銅像まで建てられているかというと、その産駒の成績が優秀だったから、

「ランドプリンス、キタノカチドキ、テスコガビー、トウショウボーイ、サクラユタカオー・・・」

 種付け料が安価で産駒が高価で取引されたから牧場としては救世主みたいな存在だったで良さそう。

「さすがに全部は知らんが・・・」

 ずらっと並ぶ名馬のお墓があるのよ。熱心なファンは供養に訪れるんだって。気持ちはわかるな。馬はね、わたしも好きだけど、コトリはもっと好きなんだ。好きというより、

「その話はやめとこ」

 そうだね。苦すぎる思い出だもの。道の駅サラブレッドロード新冠でハイセイコーの銅像を見て苫小牧に。新冠から苫小牧まで地図で見ると近い感じなのだけど、

「北海道の縮尺はやっぱり慣れんな」

 まだ八十キロぐらいあるのよ。八十キロなんか神戸で考えたら日帰りツーリングの片道ぐらいなのよね。

「加藤さん、付き合わせて悪いな」
「なにを仰いますやら」

 高速を使えば一時間かからないぐらいだものね。今日の宿は苫小牧駅の南側のビジホ。シャワーを浴びてすっきりしたら夕食だ。