ツーリング日和2(第3話)ユーチューバー

 ボクの名前は笹岡勉です。東京のメディア映像専門学校を卒業して、学校で知り合った原田健吾と組んでユーチューバーをしています。そう言えば格好が良いのですが、とにかく甘い世界ではなく実態はフリーターです。

 ジャンルはモト・ブロガー。バイクが好きで、ユーチューバーをするにはこれしかないと考えていました。原田と仲良くなったのもバイク仲間、ツーリング仲間として始まっています。

「今月も厳しいな」
「バイト増やさないと」

 ユーチューバーと自称するのは誰でも出来ますが、食べれるユーチューバーになれる第一関門は、ユーチューブ・パートナー・プログラムの利用資格を得なければなりません。色々と条件がありますが、

 ・チャンネル登録者数が千人以上
 ・公開動画の総再生時間数が直近の十二か月で四千時間以上

 登録者数が千人も厳しいですが、総再生時間時間数はかなり厳しくて、

「一日十一時間だものな」

 番組時間の設定は自由ですが、だいたい十五分前後が目安になります。あまりに長いと見てくれなくなるからです。一本の動画を四人に見てもらえば一時間ですし、五十人に見てもらえば達成可能なのはそうですが、

「そうは簡単じゃないよな」

 登録者百人でも毎日見てもらえれば余裕のはずですが、登録したからと言って見てくれるものではありません。新しい番組をアップしないと見てくれないのです。これは見る方からすれば当たり前で、一度見た番組はそうは繰り返して見てくれないってことです。では新しい番組を上げ続ければ見てくれるかと言えば、

「結局は番組の質だよな」

 面白くなさそうであれば見てくれません。番組に登録する人も様々で、熱心に見てくれてコメントも入れてくれる人もいれば、とりあえず登録だけしている人も少なくないからです。

 登録はクリック一つで出来ますから、人によっては何十もの登録をしていて、目に付いた面白そうなものだけ見る人も少なくありません。さらに新番組の制作と言っても時間が必要になってきます。

 ユーチューバーの規模も様々で、事務所を構えて連日撮影しているところもあれば、ボクのところのように少人数で手作りみたいなところもあります。とにかくユーチューバーだけでは食べられないのでバイトに追われている有様です。

「週に一本で目一杯だものな」
「頑張っても二本か三本」

 一回の取材・撮影で二本撮り、三本撮りすることもあり、それで量産したりもありますが、

「とにかく番組数をあるていどストックしてからになるよな」

 ユーチューバー番組でも怪物的なヒットを飛ばすものもありますが、そういう幸運がなければ豊富なラインナップをまずそろえる事が必要になります。どこかで一本見てもらい、それで興味を持ってもらい、芋づる式に他のストック作品を見てもらい、さらにはチャンネル登録してもらうの流れです。

「理屈はそうだが、理屈通りに行かないのが世の中だ」

 まあそうで、未だにユーチューブ・パートナー・プログラムを取得できていないのが実情です。だからユーチューバーと自称しても、広告収入やアフェリエイト収入が細々とあるだけです。

「ユーチューブ・パートナー・プログラムはハードル高いよ」

 そうなのです。パートナー・プログラムを取得できているところは一割程度と言われています。有名人が始めた番組ならすぐに取得できるでしょうが、無名の一般人では果てしない努力の末にならざるを得ません。

「水商売だよな」
「人気商売ってこんなものだろうけどな」

 ユーチューバーは芸能界と似ているところがあります。人気のある所は雪だるま式に登録者数も視聴時間も伸びますが、そうでないところは見向きもされません。ユーチューブを普通に開けば、利用履歴でお勧めの番組が出て来ますが、そこに出してもらうランクになるのが遠い道になります。

「とにかく競争相手が多い」

 お手軽に始められるのがユーチューバーの特色で、それこそ一人でスマホ一つでやっているところも少なくありません。モト・ブロガーならツーリング記録は王道ですが、

「あれだけいたらな」

 有名ツーリング・コースの番組など掃いて捨てられるぐらいあります。その中からボクたちの番組を選んで見てもらわないとなりません。

「でもトップ・モト・ブロガーの作った番組は一味どころか、二味も三味も違うよな」

 参考にするために見ていますが、ボクたちでも見ただけでツーリングに出かけたくなります。もちろんせめて近いような番組を作ろうとはしていますが、

「並べられると厳しいな」
「それはわかっているが・・・」

 ボクも原田も絵の質は負けてはいないと思ってはいます。バイク動画は揺れるバイクから撮るので、初心者が撮ると揺れまくりのものになります。その辺は専門学校で学びましたし、画面の構成とか、番組の構成の編集も悪くはないはずなのですが。

「それでも違うのは間違いない。結果がすべてなのがユーチューバーだ」

 原田の言う通りで、ユーチューバーとして食べれるレベルには遠いものと思わざるを得ません。

「今日は相談があるのだが・・・」

 専門学校卒業以来、ずっと東京に住んでいますが、東京で暮らしていくのが苦しくなっています。東京は日本の中心ですし、情報文化の中心なのですが、

「ユーチューバーでも東京の情報を発信する連中は東京に住み続ける意味があると思う。だが、モト・ブロガーなら逆ではないかと思う」

 原田が言うには都内でツーリングする意味は低いとしています。

「仕事ならまだしも、ツーリングって遊びだろう。遊びに行くのにわざわざ信号と渋滞に付き合いたいものか」

 都内からツーリングに出かけようと思えば都市部を抜けるだけで一苦労になります。これが行きと帰りの二回あるからウンザリさせられるのは本音です。

「スギさんやカトちゃんを見てみろ」

 スギさんとカトちゃんはトップ・モト・ブロガーを越えてカリスマとさえ呼ばれています。あの二人が住んでいるのは愛媛です。あの二人がカリスマと呼ばれるのは紹介するツーリング・コースが必ず大人気になり、バイク乗りが殺到し、聖地と呼ばれるぐらいになるからです。ボクも原田もバイク好きになったのは、あの二人の番組の影響が確実にあります。

「東京にこだわる必要はないと思う」

 そういうことか。東京は刺激的な街ですが、暮らしていくのは容易じゃありません。東京の刺激が必要な連中はしがみついてでも居るべきでしょうが、モト・ブロガーにとっては必要不可欠なものじゃありません。現実的にも食い詰めそうです。

「千葉とか茨城に引っ越すか」
「あの辺はやめておこう」

 ボクも気が乗りません。群馬とか栃木もです。バイク乗りなら信州、それとも思い切って北海道とか、

「雪に降られるのはバイク乗りにとって致命傷だ」

 たしかに。雪が降らなくても冬のツーリングは辛いところがあります。

「じゃあどこだ」
「ボクたちはしょせんは都会人だ。田舎暮らしは難しいと思う。だから関西だ」
「大阪か」

 原田は少し考えてから、

「大阪も悪くないが神戸はどうだ」

 神戸か。山と海に挟まれたオシャレな街と聞いています。聞くと原田の親戚がいて、それなりに土地勘があるようです。東京暮らしに未練はありますが、このままではどうしようもないのもわかります。迷うところはありましたが、思い切って原田の提案に乗ることにしました。

 調べると家賃は東京に較べると格段に安いのにまず驚きました。一人暮らしですから広さはそれほど必要ではありませんが、東京のアパートは狭すぎましたし、風呂さえなかったのです。そのうえ、あまりにも生活が苦しくて・・・

「だよな。ランクを下げまくって棲み処を確保していたが同じ家賃でかなり違うぞ」

 荷物をまとめて、ボクと原田は神戸までのロング・ツーリーング。そうそうボクのバイクは四〇〇CC、中古をローンでやっと手に入れたものです。もっと大きいのも欲しかったのですが予算不足です。

「それは同じだ」

 大きな荷物は運送屋に任せて、

「原田、神戸が希望の街になって欲しいな」
「いや、そうするのだ」

 東名から名神、さらに阪神高速に入り、

「あれが神戸か」

ツーリング日和2(第2話)バイクは残った

 熱狂の時代はバイクも絶滅の危機に瀕しました。ガソリン仕様車廃絶運動に直面したのもありますが、自動運転の急速な普及と、それに連動するような地域コミュニティ・カーの出現はスクーターのような買い物用も駆除しそうな勢いでした。

「結局、クルマはデカかったでエエかな」

 それだけではないと思いますが、バイクは生き残りました。生き残っただけでなく電動化もされませんでした。

「EB積んだバイクなんか売れるか!」

 作られはしましたが高価すぎて殆ど売れていません。そうですね、官公庁辺りがアピールのために買ったぐらいでしょうか。この辺はEBバッテリーの供給能力にも問題があり、

「安価なEB作れの要請はあったけど、無理なもんは無理や。そもそもバイク用のEB作るほどの余力もあらへんからな。クルマ用だけでもアップアップ状態やし」

 さらに言えばクルマで普及した自動運転技術のバイクへの導入も開発に着手はされましたが完全に頓挫しています。

「そんなもん出来るか。クルマとバイクは根本的にちゃうわい」

 時代に翻弄はされましたが、バイクはガソリン仕様のままで二十二世紀を迎えています。そんなバイクですが、二十一世紀の後半と言うより末ぐらいから若者を中心に注目を集め出したのです。

「若者だけちゃうで、もっと上もや」

 爆発的とは言えませんが、じわじわとファン層が増えています。これは管理され過ぎたクルマに飽き足りないぐらいと分析されています。

「回りまわって百年やろ」

 正確には百年以上ですが、二十世紀のある時期まではクルマは本当の贅沢品でした。カネ持ちのステータスまで行かなくとも若者には手が届かないものでした。しかしバイクはクルマに較べるとずっと安価です。若者でもバイトに精を出せば手が届いたと言えば良いでしょうか。

「暴走族の時代でもあったがな」

 バイクで速度を競い合った時代としても良いかもしれません。

「負の面はあったけど、自由の象徴でもあったで」

 ミサキすら見たことのない名画にイージーライダーがあります。

「ウソつけ。リアルタイムやろ」
「生まれる前です」

 一緒にしないで下さい。イージーライダーはロードサイド・ムービーの傑作とも言われていますが、今見てもわからないとも言われています。当時のアメリカの世代間の分裂とか、

「アメリカってな、今でもそういう面があるけど保守的な人間が多いんよ」

 多いと言うか、多様性の幅が広すぎる気がミサキにはします。同じことを三人に意見を求めたら、まったく方向性の違う回答が三つだったりするのは日常茶飯事だからです。

「イージーライダーのラストは、理不尽に撃ち殺されてまうんやけど、あの理不尽さを当時人間やったらすぐにわかったんよ」

 長髪にし、ジーンズを履き、バイクに乗っているだけで不良どころか社会のゴミみたいにみなされたぐらいと言われています。そういう空気が当時のアメリカに濃くあっただけでなく、それに反発する若者も多かったぐらいでしょうか。

「時代ってな、過ぎ去ってしまうとわからんようになることが多いんよ」

 クルマをあれだけ枠に嵌めようとした時代も今では理解できなくなってますからね。

「人はね、行き過ぎた管理を嫌うのよ」
「クルマじゃ、おもろないし、息苦しいてしょうがないやんか」

 若者を中心に自分で自由に走らせることが出来るバイクが再発見されたぐらいです。この辺はあれだけ熱狂されたガソリン仕様車廃絶運動が、今となっては理解できなくなっているのもあります。


 そういうバイク・ブームに便乗、いや悪乗りされてコトリ社長とユッキー副社長がバイクに凝っておられます。お二人が乗られてるオリジナルは一二五CCの原付二種ですが、科技研の狂気の天才集団による魔改造によりトンデモ・バイクになり果てています。

「まあ、そやった」
「ゆっくり流して走るのが一番苦手ってなんなのよ」

 どれだけの開発資金を投入したかと言えば、お二人のボーナスをすべて注ぎ込んでも足りないとされています。そうですね、あれだけあれば、純金のバイクが何台作れたことか。

「そんなことないよ。純金じゃ重いじゃない」
「そうやで、純金じゃフレームがもつかいな」

 そういう問題じゃない! まあ速いのは速いそうですが、

「それほどやあらへん」
「そうよ、石鎚スカイラインで現役レーサーが乗ってたスーパー・スポーツを振り切った程度よ」

 アホか! どこの世界に、レーサーが操るスーパー・スポーツを振り切る、素人が運転する原付があるものですか。もっとも、

「飛ばしたらとにかく怖いんよ」
「ゆっくり走らせるコツをつかむまでホントに大変だったんだから」

 それだけ走るのに原付なのです。

「イイじゃない。維持費も安いし」
「長く乗るには大事なこっちゃ」

 なにが維持費ですか。オイル交換するだけで、

「しゃ~ないやん、全部特注の一品物やし」
「市販品で売っていないのよ」

 とにかく原付ですから下道ツーリング専門です。

「それがツーリングの本道や」
「高速でイキがるのは子どもよ」

 子どもはお前らやろが! あんないちびったバイクを嬉しそうに乗り回しやがって。

「それより見て」
「ライダースーツを新調したで」

 ありゃ、こりゃ可愛いと言うか、オシャレと言うか、

「どこのメーカーですか?」
「そりゃ、クレイエールよ。自社製品を使わないとね」

 ちょっと待った、ちょっと待った。クレイエールはライダースーツなんて作ってません。となると、やりやがったな。

「これからは、こういう需要も増えそうじゃない」
「試作研究しとかんと乗り遅れるからな」

 まさかブーツもグローブも、

「トータル・コーディネートよ」
「セットでそろえられんと意味ないやろ」

 まあイイか。そういう需要も出てくる可能性がありそうですから。

「ということでテストが必要になったんや」
「実際に着て走らないと本当の評価が出来ないでしょ」

 どうぞ勝手にツーリングにお出かけください。ただし、

「交通費も宿泊費も経費になりません」
「それないで、仕事やん」
「そうよ、社長と副社長が自らテストするのに」

 あのなぁ、お前らどこの社長と副社長をやってると思てるねん。お前らが行くとこ、見るもの一つで世界経済に影響する仕事やってるんやぞ。もしライダー・スーツのテストを社長と副社長が自らやってるなんて知れたら、世界中のアパレル・メーカーが争って参入してくるわ。

「そないに可能性があるんなら、やるべきやろ」
「そうそうよ」

 ウルサイわい。ツーリング代ぐらい自分で払え。なんぼ給料もろてると思てんねん。独身やし、家賃も固定資産税も、光熱費も、水道代も、ガス代もいらん暮らしやってるんやろうが。

ツーリング日和2(第1話)二十二世紀のクルマ

 時代は二十二世紀に入りました。二十二世紀になると、どんな世界になっているのだろうの予想は数々ありましたが、

「その前に二十一世紀に入る時も知ってるやんか」

 まあそうですが、実際に入ってみたらさして驚くほどの変化はない気がします。もちろん細かいところは色々と変わっていますが、

「ずっと見てるとそんなものよ」

 ツッコミがうるさいな。紀元前三千年前から記憶が続いている生きる化石に言われたくありません。とにかく今回の出番はここだけになりそうなんですから邪魔しないで下さい。まったく、何かあれば口を挟もうとするのは悪いクセです。

「ミサキちゃんもそうやんか」
「そうよ、シノブなんてもっと出番が少ないんだよ」

 放っておきましょう。それでもミサキが覚えているものと大きく変わったのがクルマです。二十一世紀の前半頃から電気自動車へのシフトが始まっていましたが、その頃から時代の空気は異常になったとしたで良いでしょう。

「そやったよな」
「そこまでやってしまうって感じだったもの」

 社会全体の空気がそうなってしまったとしか言いようがないのですが、とにかくグレーを認めないどころか排除に走った時代ぐらいになります。グレーを排除したために世の中はシロとクロの二元になり、シロが絶対正義みたいな風潮です。

 クルマに関しては環境保護運動の一環で良いと思いますが、ガソリン仕様車廃絶運動が盛り上がりました。廃絶運動をせずとも電気自動車への流れが出来ていましたが、道路から排除せよみたいなものになっています。

 しかし廃絶運動とは裏腹に電気自動車への転換は足踏み状態が続くことになります。電気自動車にも弱点があったからです。電気自動車の弱点をあえて一つに集約するとバッテリーです。

 走行時間も走行能力もバッテリー容量に依存します。とくに冬季になり寒くなればバッテリーの能力が低下します。寒冷地ならなおさらです。さらに走行能力を上げるためにバッテリー容量を増やすと、バッテリーの重量、大きさがネックになり、

「電気トラックやバスは苦労しとった」

 それとバッテリーは放電すると充電する必要がありますが、充電時間も問題でした。メーカーも必死で開発には取り組んでいましたが、ガソリン給油のように短時間では到底無理で何時間も必要です。

 当時のバッテリーでは走行距離こそガソリン仕様に肩を並べるところまで来ていましたが、充電時間の差はファミリー・ユースでもビジネス・ユースでも大きな障害になったのです。

「あの時代やからEBバッテリーに飛びついてくれたんやが」
「今なら無理だと思います」

 EBバッテリーは従来のバッテリーの欠点を帳消しにする高性能バッテリーです。驚くほどの軽量小型化が出来るだけでなく、従来型の十倍以上の蓄電量とガソリン給油並みの短時間充電を実現しています。

「その代わりにベラボウに高い」

 エラン技術導入製品の宿痾ですが、とにかく製造するのが難しいのです。世界最高の品質管理と製造技術を投入しても、とにかく製品の歩留まりが悪すぎます。製造の難度の高さは、なんでもすぐにコピー製品を作る国でさえサジを投げてしまっているぐらいです。

「今の地球の技術で作るのに無理がありすぎるからな」

 背伸びどころか棒高跳びでもやっと指の先が触れるか触れないかぐらいの代物で、そうですね、江戸時代ぐらいの技術水準でジェット機を作っているようなものだと良く評されます。

「それでも導入してもたもんな」
「おかげでうちは儲かったけど」

 EBバッテリーの導入により性能面ではクリアした電気自動車でしたが、次に直面したのがコストです。そりゃバッテリーだけで当時ならクルマより高かったですから、今はそれなりの量産化で少しはコストダウンしていますが、

「今でも安ないで」

 そうなのです。規格にもよりますがすぐに百万円単位で必要です。ガソリン仕様車廃絶運動は過激なぐらいでしたが、一方で高いクルマは買わないの本音と建前がモロに出たぐらいです。

「あれもあっちに暴走するとは・・・」

 ガソリン仕様車を廃絶し、クルマの値段をガソリン仕様車並みにする要求が国民的な運動になってしまったぐらいです。そのために政府とメーカーが一体となってコストダウンに走った末に、

「単一車種になってもた」

 シャーシからパーツ、ネジまで全部全社共通になってしまったのです。今から思えば信じられませんが、そうさせるための異常な熱気は怖いほどでした。

「クルマは運転しないものになっていったものな」

 電気自動車が登場していた頃から開発が進んでいたのが自動運転技術です。これの推進が異常なほどな熱気で押し進められ、通信による制御でトータル・コントロールが行われるようになりました。

 自動運転義務ゾーンも高速道路や自動車専用道路から始まり、有料道路、さらに主要幹線と広がって行きました。今では整備の良い地方道もかなりそうなっていますし、東京あたりになると八割ぐらいそうなっています。

「住んでるとこと、行き先によるけどドライブ言うても行き先を入力するだけやもんな」

 コントロール・センターがルートを選びクルマを走らせます。渋滞情報も加味していますから、最短ルートでなく最短時間ルートを常に選んで走ります。

「バッテリーに充電が必要になったら自動で充電スタンドに行って自動で充電するし、目的地の駐車場にも自動で駐車するから、寝とっても着くぐらいや」

 このクルマのトータル・コントロールは非自動運転道路にも広がっています。車間距離保持装置、車線保持装置、衝突安全装置、速度制御装置・・・数々の安全装置が標準装備されており、人は許された範囲のみのハンドル操作を行うだけのところも多くなっています。

「昔よりクルマの運転は下手になってるのは間違いないわ」
「運転させないように進んじゃったもの」

 安全運転の観点から言えば悪くないのかもしれませんが、

「やり過ぎた時代はあったよね」
「何事も過ぎたるは及ばざるが如しや」

 当たり前ですが自動運転は交通ルールを遵守します。それは良いのですが遵守しすぎた面があります。速度制限や一旦停止、信号遵守、追い越し禁止を守るぐらいは良かったのですが、

「駐車禁止徹底主義者の意見を取り入れたもんやから、クルマは駐車場から駐車場に移動する乗り物になってもたもんな」

 目的地に着くまでクルマは停まらなくなってしまったのです。これは急に尿意を催しても、乗り物酔いを起こしても無視されます。そう観光に出かけて、景色が良いので少し停めて見るのも出来なくなったのです。

「そっちも問題やったが、ビジネス面ではもっと深刻やった」

 やり過ぎた反動で今はそこまでの事は無くなっていますが、クルマは運転を楽しむものから単なる移動手段に認識は完全に変わっています。

「完全やないで、今でも生き残っとるのはおる」

 ガソリン仕様車の生産は中止されましたが、ガソリン仕様車の使用は認められています。さらにガソリン仕様車には各種自動運転装置の装着も義務化されていません。これは反動の時代にガソリン仕様車保護運動が高まり、文化財保護法的なものが制定されたからです。

 ガソリン仕様車は高速でも運転手の意思でハンドルを操作し速度をコントロールできます。ミサキにしたら当たり前ですが、それが出来るガソリン仕様の旧車に人気が集まり、売買や整備のマーケットが確立しています。

「もっとも金持ちの道楽で若いやつでは手が出えへん」

 旧車と言っても半世紀以上前のものになり、ガソリン仕様車廃絶運動の時にかなり壊されています。そんな骨董品みたいな旧車を購入し整備して走らせれる人はどうしても限られます。

「変な時代やったもんな」

 本当にそう思います。あれだけ極端に意見が振れて熱気が渦巻いてしまった理由は、今となっては理解が本当に難しくなっています。とにかく社会がある方向に流れ出すと誰も止められなくなった時代としか言いようがありません。

次回作の紹介

 紹介文は、

 歴女のコトリ、温泉小娘のユッキーの二人の趣味を満たしながらのツーリングは、四国に、さらに山陰へ。旅先で出会った人との心温まる交流を描くツーリング日和第2弾です。

 今回は、前半の祖谷温泉から四国カルストを走るツーリングと後半の山陰ツーリングの実質二本立てです。

 ツーリング日和シリーズの基本構成は、寄り道ツーリングを行う観光部分を背景にしながら、そこで知り合った人々との交流と言うか起こった事件が本線になります。

 小説に登場させる人物はキャラを立てる必要があり、上手くキャラが立てられた人物ほど話を広げやすく、書く方も楽しく筆が進みます。

 今回なら後半の山陰ツーリングの方が書く方としては楽しめました。だからではありませんが、表紙絵は後半のヒロインと愛車のトライアンフ・ロケットを使っています。

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オプションの話

 新車を買うとなればオプションをどうするかはあります。まずモデルチェンジしてから目に付いたのがグリップヒーター。とにかく冬のバイクは辛いですから飛びつきました。サードパーティ品もありますが、電装は小型ほど負担が大きいので純正にしてみました。

 それとリアボックス。とにかく主要用途は通勤ですから、収納場所は必須です。格好もヘッタクレもありません。あれも排気量によって適正サイズがあれこれ論じられていますが、現在の物より可能な限り大きなものを頼みました。スクーターと違ってメットボックスなんかありませんんからね。

 これはクルマとバイクの根本的な差で、とにかくバイクには収納場所がありません。だからリアボックスを付けている人がおられるのですが、スクーターならともかく、他のバイクなら格好の問題で忌避される人もおられます。

 それも良くわかります。それに付けるとバイクを跨るのにも邪魔になります。ですが、安定した収納場所の確保の利便性は、一度付けると病みつきになるとさえ言われています。それぐらいあるとないとでは、日常ユースで大きな差があります。

 このオプションなのですが、これだってモデルチェンジから半年ぐらいは待ちたいのが本音でした。誰かが付けての製品評価です。まあ、そんな優雅な事を言ってられないのが現在の納車状況ですから、ハズレがないことを祈っておきます。

 それ以外は相談というより雑談になったのですが、メーカー純正ならイモビライザーもあります。付けないより付けた方が良いのは確かですが、あれはあれで厄介なところがあるので、保留にしました。安くもないですからね。

 後は追加の計器類をどうしようかです。とにかくタコも、シフトインジケーターも、時計もありません。シフトインジケーターはどうでも良かったのですが、タコは悩んでいます。MTですからタコは欲しいですし、タコに時計を組み込んだものもあります。

 それとこれは勝手な趣味ですが、作中のバイクに近付けたいはあります。全部は無理ですが、オイルクーラーは見栄えとして検討しても良いかもぐらいです。

 ただ問題はありまして、予算も当然ですが、モデルチェンジをしている点です。ほぼ似たような大きさ、形ですが、旧型のオプションパーツが新型にどれだけ適応しているか不明な点です。ああいうものは微妙にサイズが変われば付かないことがありますからね。

 そういう情報を集めるために発売されてから少なくとも半年、出来れば1年ぐらい待ちたかったのですが、自然に納車までの期間がそれぐらい出来てしまったのが皮肉です。ですから納車されてから考える事にします。