竜王戦第四局

 将棋界の序列は対局での上座下座になりますが、最高は名人と竜王保持者になります。では名人と竜王が対局したらどうなるかですが、

  1. それ以外のタイトル保持数
  2. タイトル保持数が同じなら賞金獲得額
  3. それも同じなら棋士番号の若い方
 こうなっているそうですから藤井竜王は四冠で、渡辺名人は三冠ですから藤井竜王が上座になります。十代にして藤井竜王は棋界序列1位に就かれたことになります。そうそうタイトル戦ではタイトル保持者が上座ですから、もし藤井竜王が渡辺王将に挑戦したら下座になります。

 ここからの肩書は一昨日のものにしますが、注目の竜王戦第四局は藤井三冠が中盤から例の藤井曲線を描き始めていました。藤井曲線とはAI評価が緩やかに優位となる事ですが、藤井三冠は優位に立つとほぼ必ず優位を広げ勝ち切ってしまうところから名付けられたはずです。

 ところが終盤に至って事件が起こります。藤井三冠が8七に飛車が成ったところでAI評価が大きく動いたのです。これがAIでも評価のバラツキが大きくて、逆転としたものから、優位がかなり損ねたまでありました。

 見てる方からすればあの局面でどちらが優位なのかはAIでしかわからない訳で、なにがどうなっているのだと言うところです。そこから豊島竜王が5五の桂馬を4三に成って王手をかけ、藤井三冠は同玉と進み、豊島竜王は5五に桂馬を打ち王手をかけます。

 それを藤井三冠が角で取るになります。取らなければ豊島王座の勝ちになるそうです。優位に立った豊島竜王の次の一手が注目されたのですが、角を取り返す5五銀が有力視されていました。その前の5五桂からこの展開は予想されていた部分があり、5五銀で詰めろになり、勝ち筋に入ると見られていたからです。

 ですが豊島竜王は長考に入ります。当初は勝ちの確認とも見られましたが、これが99分の大長考になります。豊島竜王がなにを考えていたかは本人に聞かないとわかりませんが、大盤解説は大長考の間に大変なものを見つけ出したように感じました。

 大盤解説も5五銀を前提に考えていましたが、5六桂からの藤井三冠の攻撃により豊島竜王の玉が詰んでしまう可能性です。おそらく解説を担当した棋士もAI評価に引きづられている部分は大きくて、

    あれ、あれ、あれれれ・・・
 こんな反応でした。藤井三冠の攻め筋は変化も多く複雑で、どこかに抜け穴があるのではないかと探し回っていたとして良さそうです。そりゃAI評価は豊島竜王優位だからです。

 5五銀で藤井三冠には詰めろがかかっていますから、詰め切れなければ豊島竜王が勝つはずで、それをAIは読み切っているはずだの先入観がありますから、それはどこにあるのだぐらいです。

 豊島竜王の大長考も、5五銀では自玉に詰みが生じてしまったのを気づいたからのものではないかと見て良さそうです。

 翌日になりソフトをフル回転させての検証がアップされましたが、結論的には5五銀では勝てないとしているようです。そうなれば2七竜の時点で藤井三冠が勝っていたことになってしまうのですが、なぜにAIは豊島竜王優位をあそこで示したかの疑問が出て来ます。

 ある解説ではAIをもってしても5四桂からの変化を読み切れなかったからではないかとしていますが、だからAI越えと単純に結論して良いかどうかは私程度ではわかりもしません。

 わかっているのはAIも8七竜から豊島竜王の5五桂打ちまで最善手とするのは一致しているようで、その次の同角も桂馬を取らないと藤井三冠の玉は詰みます。豊島竜王も同銀では勝てないと結論して3五に桂馬を打って王手にしますが、現在の評価は敗着です。

 少しだけ引いて考えたいのですが、この一局の問題点は藤井三冠の8七竜の評価がなぜにAIであそこまで低評価だったかになりそうな気がします。以下、AI最善手で進んでも豊島竜王が勝てないのです。いや、本当は勝つ手がどこかにあったのか。

 最高峰の現代将棋の奥深さを見させて頂いたような一局でした。

ワクチンパスポート

 ワクチンの効果についてあれこれ議論はありますが、ワクチンパスポートの話(国内向けも含めて)は出ています。これも今後のコロナの流行に左右されるのですが、先々を考えると持てない時のデメリットが懸念されるところです。

 このパスポートですがマイナカードの連携が方針のようです。これもどうなるかは不透明な部分が大きくて話だけで終わるかもしれませんが、マイナカードの普及も狙っているならゴリゴリやる可能性は残ります。

 マイナカードについても、あれこれ考えるところもありますが、取得しておくだけならさしてデメリットもないだろうと判断して取りに行きました。

 役所のHPを読むとコロナでの密を避けるために予約云々が書いてありましたが、とりあえず行ってみると待ち時間ゼロで受け付けてくれました。ちなみに私が手続している間も一人訪れただけでした。

 手続きは、とにかく住所と名前と電話番号ひたすら書類に書かされました。まあハンコが不要になった分だけマシになったのかもしれません。もちろん持って行きましたけどね。とにかくお役所相手の手続きですから。

 手続きと書類の作成が終わると、一式を封筒に入れてくれて、自分で投函してくれでした。それに何の意味があるのだろうと思いましたが、そういう手続きになっているとしか言いようがありませんから、ポストまで行って投函です。

 次に気になるのはマイナカードが届く時期ですが、おおよそ1か月半程度と説明されました。運転免許の即日交付と較べるのは良くないかもしれませんが、時間がかかるものだと感じた次第です。

 ですが目的はワクチンパスポート取得です。このシステムが本当に動き出すにはそれぐらいはかかりそうですから、なんとか間に合うんじゃないかと皮算用しています。

 たいした話ではないのですが、もしマイナカードをまだ持っておらず、ワクチンパスポートを取得しないとあれこれ不便が生じそうと考える人の参考になればと思います。たとえば12月ぐらいにワクチンパスポートが実用化されて、あわててマイナカードを取りに行っても、年内には手に入れるのが難しい可能性があるぐらいです。

 後から思ったのですが、マイナカードとワクチンパスポートを一体化させるのは良いとしても、これを利用するにはカードリーダーの普及が必要な訳です。でもって、これを購入するのは店舗なりになるかと考えられます。国が配布してくれるとは思えないからです。

 わざわざ購入するからには、購入費用を上回るメリットがあるところに限定される訳で、カードの普及以上にネックの気もしています。ワクチン接種の証明だけなら接種記録書の画像だけでも良い気もしています。

 そりゃ、偽造の可能性を完全排除したいと考えればマイナカード利用は良いでしょうが、国内の利用のためだけならそれぐらいは目を瞑れる問題と思ったりもしています。まあ、GoToなんたらの利用資格ぐらいには使われるのかもしれません。

 どうなるかはわかりませんが、マイナカードは申請してもすぐには手に入らないのを経験したお話でした。

選挙観測報道雑感

 その前の自民党総裁選報道も合わせてのものです。選挙情勢なんて個人では周囲の人に聞く以外は、かつてはマスコミ報道しかありませんでした。つうか周囲の人もマスコミ報道の多大な影響を受けていました。ところが現在はネット情報もあります。

 ネット情報は御存じの通り、それはもうの玉石混交の代物で、その全体像を把握するのは不可能です。たとえばSNSにしても、自分好みの意見に引っ張られるのは誰しもあるからです。

 マスコミ報道にはシナリオ、それも下手すると全社統一シナリオみたいなものがまるでありそうと感じておられる方が多いのではないでしょうか。私もその一人です。総裁選の時のシナリオは河野氏が勝つで良いと感じました。

 一方でネットでは河野氏の政治姿勢の曖昧さに疑問を投げかけるものが多くありました。マスコミがまるで決定打のように報じた小石河連合についてもそうです。ついでに言えば高市氏への支持の強さです。

 これは答え合わせが出来るものなので結果を待っていました。私が見ているネット情報が正しいのか、マスコミ情報が正しいのかです。

 結果はご存じの通り第1回投票で過半数は無理でも1位は鉄板だと見られていた河野氏は、接戦であったとは言え2位になり決選投票で敗れ去っています。


 今度は総選挙です。これは立民が勝つです。小選挙区制の特徴で政権交代も夢でないぐらいでしょうか。ここでも立共連合の成立をまるで決定打のように報じていました。総選挙前の立民は109議席でしたが、130議席程度になるのは最低ラインみたいな観測があったとか、なかったとか。

 一方でネットは立共連合に冷淡でした。とはいえ与党への支持が熱かったわけでもありません。私が受けた印象では、立共連合への野合批判が中心だったと見ています。

 これも結果が注目されたのですが、自民党はやはり議席を減らしています。前回が勝ち過ぎたのもあるでしょうが、コロナ禍、さらにコロナ下の五輪と誰が担当していても批判しか起こらない難題に直面していましたから増えたら仰天ものです。

 ですが17議席を減らしたとはいえ261議席です。この議席数の意味は、17ある常任委員会の委員長をすべて独占し、なおかつ委員数でも過半数を占めるものになり、

    絶対安定多数
 こう呼ばれる議席数になります。これって、議席数だけで言えば現与党の政治を国民は肯定している結果としても良いはずです。

 一方の立共連合ですが、立民が13議席減の96議席、共産が2議席減の10議席。立共連合の成果で言えば121議席あったのが106議席になり、総選挙前の立民より小さくなっています。

 自民の17議席減より絶対数では下回りますが、与党を自公連合としてみれば14議席減です。立民だけで130議席の夢に踊っておられましたから、素直に負けたで良いかと存じます。

 まあ昭和の時代から左翼を標榜する政党の議席数は100~150議席だったかと記憶しています。それを考えても、今回は底に落ち込むほどの大惨敗としても過言ではないと考えております。


 マスコミへの様々な批判がありますが、個人的にはマスコミの大きな武器であった世論調査の信用度にヒビが入ったと考えています。ネット前は世論がどうなっているかはマスコミ調査しかありませんでしたから、

    ああこうなっているのか
 これを参考に世論に従うか逆らうかの立ち位置を考えていました。これは世論調査ぐらいはそれなりに真面目にやっているだろうの暗黙の了解があったからです。その信用の裏付けの一つが選挙での出口調査です。

 自民党総裁選はコップの中の争いでしたからまだしも、総選挙の出口調査の結果とのあれだけの乖離は無残過ぎるでしょう。ここにさらにが付きます。これまでの出口調査の精度は高かったのがあります。あれだけ高かったのに、今回の総選挙はなぜにあれほど凋落したかです。

 私の意見としては、こういう調査にまでシナリオを持ち込んだ結果ではないかと見ています。シナリオは選挙特番にまで及んでおり、おそらく立共連合大勝で書かれていたはずです。それに相応しいMCを呼び与党の凋落を囃したてるです。

 ところが蓋を開けてみると立共連合が惨敗です。シナリオが狂ったのでスタジオはお通夜状態になり、狂乱の醜態をさらしたMCまで出る始末です。

 結果から私はそう見ています。そして出口調査にまでシナリオを持ち込んで失った信用の回復は難しいのじゃないかと予測しています。

ツーリング日和 あとがき

 今回は旅もの。旅ものを書くのもラクになりました。前に旅ものを書いた時には、ブログとか宿のHPを読み漁り、そこの画像からひたすらイメージを膨らませていました。行ったことないところにしてましたからね。

 今回は書くずっと前から、ユーチューブのツーリング記録を見てました。どうしてかですが、通勤用のスクーターを買い替えてみたいと思ったからです。そう思ったのは欲しいバイクが出てきたからです。

 それがコトリやユッキーを乗せたバイクになります。時代設定を二一〇〇年頃としてる関係で名前は出しませんでしたが、モンキー一二五です。結局買ってないですけどね。ですからバイクのツーリングの旅ものになっています。

 バイクでキャンプもユーチューブで見たものです。当初構想はコトリとユッキーがツーリングやバイク・キャンプをしながら、様々な出会いをするぐらいの話にするつもりでした。

 が、そうは上手くは話が作れなかったので、特製バイクとその謎を追う話としています。特製バイクを作るのも一苦労で、たかがモンキーでスーパー・スポーツをぶっちぎる性能を与えるのは無理がありありでした。

 加速力を上げるには軽量化とエンジンのパワーアップですが、まずエンジンのパワーアップに困ります。少々ボア・アップしたところでしれていますし、ツーリングですから特殊燃料で逃げられません。

 大型エンジンへの換装はモンキーでは無理ですし、今度は軽量化の問題が出てきます。もともと無理があるのですが、ひねくり出したのがロータリー・エンジンです。現実にも、一二五CCの超小型ロータリーエンジンが発電用に開発されているのを知って使ってみました。

 後は極端な軽量化とハイ・パワーで走るかどうかです。どう考えてもリアが空回りしそうですし、下手にトラクションがかかればウイリーです。この辺については、今の技術でもかなり制御する技術が開発されつつあるので、未来と言う事で進化系で可能にして逃げています。

 話を戻しますが、ユーチューバーの充実は旅ものを書くのに本当に参考になります。どこの観光地でも訪問記録があり、ツーリング・ルートも車載カメラで解説付きでばっちりです。フェリーの乗船記録もロイヤル・クラスから二等までずらっと並んでいます。

 ホントは自分でバイクに乗って経験したかったですが、実際にやれば体力的に一二五CCでは厳しすぎるとしか言えないので、頭の中で楽しむのが精いっぱいです。やはり歳は取りたくないものです。

ツーリング日和(第35話)エピローグ

「なんか思い出さない」
「大神殿が出来た頃やな」

 大神殿建設計画はアングマール戦の前からあってんけど、ユッキーは大城壁を作る方を選んだんよな。山ほど反対はあったけど、あれが無かったら、エレギオンは滅んどったし、コトリもユッキーも魔王のエロ処刑の餌食になっとった。

 アングマール戦後の復興もなんとか軌道に乗ったとこで、大神殿の建設を始めたんや。それが出来上がってからは第二の黄金期みたいな時代は来た、

「あれこれ問題はあったけどね」

 その頃にユッキーと二人で遊びに出かけた事があったんよ。馬にキャンプ道具積んで、適当に走ってキャンプや。

「三座の女神が後で怒ってたよね」
「無断外出やったからな」

 当時のキャンプやから今と比べ物にならんけど、

「バイクはあの頃の馬代わりか」
「かもね。でも、旅館はなかったけどね」

 とにかく公式の女神やっとったから、政治も祭祀も大忙しやってんよね。ユッキーは鬼のように祭祀に熱心やったけど、ああやってコトリと息抜きに出かけとってんよ。

「アングマール戦の途中からかな。祭祀を頑張る意味に疑問を持っちゃって」
「だったら、あんだけ鬼のようにやらんでも良かったやんか」

 アングマール戦の最中は祭祀は簡略化になっとってんよ。そりゃ、忙しくてやっとるヒマなかったからな。結局、祭祀を熱心にやってもアングマールは攻めて来たし、祭祀の手を抜いても勝つには勝った。

「あれを勝ったと言うのならね」
「そやな生き残っただけやもんな」

 なんとか復興させたエレギオンも寿命が尽きるように滅び、

「シラクサに移住したエレギオン人も最後は何人いたんだろう」
「火炙りの前でエレギオン語を話せるのは、もうおらんかったもんな」

 始まりから終わりまで全部見てもたからな。古代エレギオンを滅ぼしよったローマ帝国もや。

「それを言ったら江戸幕府もよ」

 どんだけまだ見んとあかんのかな。

「コトリ、思うんだけど。民族にも寿命があるよね」
「ああ、そうや。時代に応じた民族性ぐらいで説明してるのもおるけど、なんかちゃうよな」

 なんちゅうかな、活力が落ちて行くんよね。古代エレギオンもそうやったから、ユッキーとなんとか盛り上げようとしたけど、落ちる時って何してもアカンかった。

「だから声かけたんでしょ」
「そうや。やっぱり、若いもんが突き上げてこそ活力は生まれるからな」

 石鎚スカイラインでレースしたんもそうや。ああいう連中は一つ間違うとヤクザとかあぶれ者になってまうけど、それを抑え込んだだけやったらアカンねよ。あのパワーを導いたらなアカンねんよ。

 ユーチューバーか。あれはエエで。下から声を上げられるんが活力や。上の者はどうしても抑えたがる。押さえつけて型に嵌めて、固めるのが大好きや。

「それだけじゃないよ。型に嵌らないのは切り捨てちゃうんだよ」
「やっとったもんな」
「そうしたくなるのよね」

 バイク一つもそうや。実用性だけ考えたらカブとスクーターで十分や。クルマがそうなってもたけど、バイクもそうなってもたらアカンねん。全体から見たら小さそうな事やけど、そこを軽く見たらアカンねん。

 若者は夢持たなあかん。夢持つためには心が自由やのうたらあかんねん。年寄りから見たらアホらしい事に情熱を燃やすのが必要や。時代は変わるし、変わればそれに対応できるのはそういう若者だけや。

「バイクも心を自由にするツールだよ」
「そうやと思う」

 あいつらわかってくれたかな。コトリとユッキーが作ったバイクはアホみたいなもんや。走りにくいし、非常識どころやないカネ注ぎこんどる。これを金持ちの道楽ととらえるかもしれんが、そうやないんよ。非常識な事に熱中して楽しめる心がわかって欲しかったんよ。

 そりゃ、ゼニ持ってるから出来る遊びやけど、そこやないんよ。どうやって遊び心に情熱を傾けられるかやねん。ゼニがないから出来へんやのうて、ゼニが無かったらどう工夫するかを見つけていくのがキモやねん。

「伝わったはずよ」
「そやったら嬉しいけどな」

 もっとも今さら政治に関わる気は毛頭あらへん。社会運動なんかする気もあらへん。単なる気まぐれやけどな。

「それがイイんじゃない。そうできる時代がやっと来たんじゃない」
「そやな。指導者で旗振ってもアカン時はアカンし」

 ユッキーもコトリもテンコモリの経験こそあるけど、元は普通の娘や。別に国の命運を背負う運命もあらへんかったし、その気もあらへんかった。そやけど、やらなしゃ~ない運命に放り込まれてもたんよ。

「よく頑張ったと思うよ」
「まあな」

 そろそろ本来の人生に戻りたいけど、五千年は長すぎるわ。そのうえ女神やんか。

「それを受け止めて生きるのも人生じゃない。そこでどうやって生きて、どうやって楽しむかを試されてるのよ」
「どっちにしても生きてくからな」

 ところでやけど、今回は女神の仕事がなかったな。

「あったじゃない」
「ユッキーが睨んだだけやないか」

 あれだけか。まあエエか。女神の能力なんか使わん方が平和や。

「ところでコトリはなに乗ってたの」
「わかるか」
「わかるわよ」

 コトリもバイク女子やった時代もあったんよ。暴走族やないで、ローリング族や。

「Z2に乗ってたの」
「乗せてもうただけや」

 あの頃の大型バイクと言えば七五〇CCでナナハン言うとったけど、あれも事情があって排気量の上限規制があったんよな。Z1は九〇〇CCで北米輸出モデルやってんけど、Z2は国内向けに七五〇CCにスケールダウンしたもんや。

 とにかくコトリには重たくて、センスタかけるのも大仕事やった。走りは直線こそすごかったけど、コーナーはホンマに曲がらんかった。だから買わんかった。

「理由はそれだけじゃないよね」
「限定解除は難関なんてものやなかったからな」

 今の大型二輪が当時の限定解除やが、暴走族抑制対策のために、一発試験しかなかったんよね。あっちも通す気がないから、合格率は二%も無かったんちゃうかな。コトリの体格やったら、引き起こしとか、八の字引き回しでアウトやわ。

「そうだったものね。大型バイクに乗る若者はイコールで暴走族にされてた」

 それでも中型は教習所で取れた。今の普通二輪免許と同じで四〇〇CCが乗れる免許や。

「だったら四百」
「クォーターにした」

 四〇〇CCでもまだ重かったし、車検があるのもメンドウやった。

「NSR?」
「いやガンマや」

 あれも今から思たら化物みたいなバイクや。ガチガチのレーサーレプリカで、二五〇CCやのに四十五馬力もあった。上はなんぼでも伸びるけど、低速トルクはガタガタや。とにかくパワーバンドに入ると飛んでいくけど、外れたらヨタヨタやった。

「タコ・メーターも変わってたらしいね」

 ああそうや。三千回転から始まるタコ・メーターなんて市販車でガンマだけちゃうか。

「おもしろかった?」
「オモロかったけど、バイクはあれでやめた」

 峠をガンガン攻めとってんけど、ある峠でウサギとカメやって、ウサギのコトリがブラインドを度胸一発飛び込んだら、対向車が来やがった。そのまま谷に一直線や。

「よく死ななかったね」
「幸い怪我は骨折った程度やったけど、バイクはオシャカになった」

 そやから今はツーリングやし、カーブも安全運転や。

「ユッキーは?」
「ラッタッタ」

 ロードパルとは懐かしい。あれこそバイクの原型に近いと思うで。始動もおもろかった。

「よく覚えてるね。ゼンマイ巻いてブルルだったものね」
「なんで素直にキックにせえへんかってんやろ」

 たぶんロードパルしか採用されてないと思うわ。

「あれは、あれで怖かったのよ」

 ロードパルでも五十キロぐらいは出たそうやけど、道路にちょっとでもギャップがあったりしたら、

「バイクごと吹っ飛びそうだった。だって婦人用自転車で五十キロ出しているようなものじゃない」

 そりゃ怖いで。スクーターに負けてもたんはわかるな。それでもオモロイ時代やった。

「あの頃の空気は、あの二人には永遠にわからないと思うけど、今なら今の熱気を作り出してくれたらイイね」

 そやな。あんなムチャしたら命がナンボあっても足りんけど、ムチャする活気が欲しいんよな。全員がムチャしたら、社会がムチャクチャになるけんど、ムチャするやつの中から次の時代を創るやつが出てくるんのもよう知っとる。

「ところでさ、もしOKしたら、どっちだった」
「ユッキーはどっちやってんん」

 あんだけ酔うとったら無理やろけど、

「やるならタッグマッチやな」
「女神の力もフル回転。死ぬまで忘れられない夜にしてあげた」

 あははは、女神の仕事をしそこねたか。ほいでも、経験せんほうが良かったかもしれん。下手に知ってまうと人相手が味けのうなるかもしれんからな。

「明日は?」
「丹後半島をこのままグルっと回って・・・」

 ユッキーがおってホンマに良かった。喧嘩も山ほどしたけど、ユッキーおらんかったら気が狂てたかもしれん。

「わたしもよ」

 生きるのは厭てるけど、ユッキーがおるんやったら生きててもエエと思とる。バイクも谷に落ちてから気が乗らんとこもあったけど、ユッキーがやりたいのなら付き合ったようなもんや。乗ったらオモロかったけど。

「遊びはずっとコトリに教えてもらったようなものね」
「ほいでも大神官家時代はコトリが教えてもうたで」
「あれだけじゃない」

 どっちにしてもユッキーとまだまだ一緒や。色んな世の中見て行かなアカン。ま、それも楽しみか。

「ところでさ」
「それだけはNGや」

 これで迫られんかったら言う事とないんやけど。なんでコトリだけターゲットにするねん。