ツーリング日和24(第30話)遥かなる大阪府

「おお、待ったか?」

 待ったなんてものじゃないぞ。かれこれ五分も待たされた。レディである千草を待たせるなんて死刑に値すると思え。

「反則金ぐらいにしといてくれ」

 罰金にすらしない気か。まあ、許してやろう。まずは新神戸トンネルか。

「六甲山トンネルはなんとなくパスや」

 気持ちはわかるのよね。モンキーでも越えれるけど、うんとこドッコイ気分にさせるもの。と言いながらだぞ、箕谷から岩谷峠を越えるのか。

「空いてるし、ここかってライダーの聖地みたいなものやんか」

 休日ともなれば集まって来るのよね。この辺も良し悪しで、あんまり集まり過ぎると、

「ああ、六甲山みたいに休日二輪通行禁止にしてまう」

 今はどうなんだろ。あんな指定がされたのはそれだけバイクが多かったのも原因のはずだもの。これだけバイク人口が減ってたら、

「それはあるあもしれん。バイク族かって平穏やったら客やからな」

 だから若桜の道の駅にオートバイ神社が出来たはずだもの。そう言えば、

「若桜には若桜鉄道があるやんか」

 若桜の道の駅の裏にも車両が停まってたのは見た。

「あの路線には隼駅ってのがあって、そこは大型バイクの聖地として売り出してるそうや」

 それってスズキのHAYABUSAに因んでか。モンキーには関係なさそうなバイクの聖地だけど、あの辺ならバイク客が集まるのを歓迎になってるのだろうな。さて岩谷峠を越えたら直進だ。ここを走って行ったら吉川ICになるけど、

「この信号を右折するで」

 ここを曲がるって? こっちは初めただ。ここもカントリーロードで気持ち良いよ。しばらく走ると突き当りだけど左か。さらに走って行くと、ここって市之瀬の交差点じゃない。なるほど、こんな感じに繋がってるのか。これは良さそうだからまた使わせてもらおう。

 市之瀬から走って行くと三田のフラワータウンに入って行く。ニュータウンの道だから良く整備はされてるけど、

「出来たら迂回したい道や」

 クルマは多いし、信号も多いのよね。もっと言えば仇敵の市街地の道だもの。

「市街地が仇敵なんはわかるけど天敵とはちゃうのか」

 違うに決まってるでしょ。バイク乗りの天敵は気候だ。もっと言えば雨だ。

「なるほど天からの敵ならそっちやな」

 コータローがフラワータウンの道をわざわざ選んだのは北摂里山街道に入るためか。だったらそうするしかないな。有馬富士公園の丘を越えたところで、

「左や」

 あれっ、直進して道の駅いながわに行かないのか。そっか、そっか、そっちに言ったら大阪府と言っても、

「池田とかそれこそ箕面になってまうやんか」

 そう言えばさ、川西も兵庫県じゃない。

「千草もそうやったんか。地元からやったら実感ない市やもんな」

 小学校で兵庫県の市町村を社会で習ったけど、宝塚までは兵庫県って感覚なのだけど、川西と言われたって全然ピンと来なかったのよ。

「川西の人に悪いけど、そうやった。あそこも多田神社もあるけど行かんかったもんな」

 そう言えば戦前の飛行機メーカーに川西航空機ってあったじゃない。

「千草にしたらよう知っとるな。二式大艇とか紫電改で有名や」

 二式大艇は知らないけど紫電改は鶉野飛行場跡にツーリングで行った時に見たんだ。

「今は新明和工業になって、飛行艇のUS2を作ってるで」

 そうなんだ。アレって川西市が発祥なの?

「ちゃうと思うで。社長が川崎竜三やったからや」

 そうだったんだ。それはそうと志手原の交差点を曲がらなかったな。あそこを曲がると花山院、永澤寺の前を通って篠山に行けるけど、今日は篠山が目的じゃないものね。とはいえこの道だって、

「あそこに木器亭って看板があるやろ。あそこを右に入るで」

 こんなところを走るって言うの。これまたカントリーロードだけど、

「この辺はこんな道ばっかりやんか」

 それもそうだ。山が迫って来て峠道になったぞ。

「大坂峠って言うらしいで」

 大阪に関係は・・・しないだろうな。どう考えたって大阪から遠すぎるもの。そもそもだけど、この峠を越えたってまだ兵庫県だ。峠道を越えたらまたカントリーロードになったけど、おいおいまた峠道かよ。さっきより険しい気もするけど、なんていう峠だ。

「知らんわ」

 コータローは千草のガイド役で人間ナビだろうが。それぐらい調べておくのがレディに対するマナーだぞ。やっとこさ峠道が終わってくれた。橋を渡って突き当りになってるけど、

「左や。これは猪名川渓谷ラインってナビにはなってたわ」

 なるほど渡った川は猪名川か。この道ってたしか、

「もうすぐのはずや」

 あの信号を左に曲がれば大野アルプスランドに行けるんだ。

「千草も登ったことがあったんか」

 荒れてるわ細いわで大変な道だったけどね。

「また行こうや」

 ご遠慮したいけど、

「天文台のところに一緒に行きたないか」

 おい、あそこに二人で行くって意味ぐらい知ってるだろ。それはともかく信号を右折したらまた峠道だ。大きな変電所があるな。そこを通り過ぎたら杉林になんか雰囲気があって良い感じがする。道が登りだけど直線だから杉並木って感じがするのよね。

 杉並木を抜けたら平坦になって来たから峠の頂上ぐらいかな。駐車場があるけど、なんか施設でもあるのかな。

「ここで停まるで」

はぁ? と思ったけど、

「見てみい」

 大阪府、能勢町ってなってるじゃない。ついに大阪府にやって来たんだ。それにしても遠かったな。けどもうちょっと南になれば箕面とか池田になるのよね。せっかくだから記念写真を撮っておこう。これで地続きの隣接四府県のすべてを制覇したぞ。

「制覇は言い過ぎやが、轍を刻めるな」

 アスファルトだから轍を本当に刻んでるわけじゃないけど、歩く時も足跡を残すって言うからノープロブレムだ。